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Entry 2019/12/11
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映画『シライサン』あらすじと感想評価。乙一が安達寛高として描く新感覚和製ホラー|SF恐怖映画という名の観覧車80

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile080

1996年、僅か17歳にして『夏と花火と私の死体』で華々しく作家デビューを果たした小説家の乙一。

2002年には『GOTH リストカット事件』が本格ミステリ大賞を受賞し本郷奏多主演で映像化されるなど、「ミステリ小説」や「ホラー小説」と言うジャンルで活躍する作家として有名な人物です。

しかし、実は彼はペンネームを使い分け様々なジャンルに挑戦し、高い評価を受けています。

今回は作家の乙一が自身の本名「安達寛高」を使い製作した長編ホラー映画『シライサン』(2019)の魅力をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『シライサン』の作品情報


(C)2020松竹株式会社

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
安達寛高

【キャスト】
飯豊まりえ、稲葉友、忍成修吾、谷村美月、仁村紗和、江野沢愛美、染谷将太

映画『シライサン』のあらすじ


(C)2020松竹株式会社

電話中に何かに怯え、直後に心臓まひで命を落とした弟の怪死の謎を追う春男(稲葉友)は、食事中に友人を目の前で失った女子大生の瑞紀(飯豊まりえ)と出会います。

死亡した2人が友人同士であるだけでなく、死亡時に「眼球が破裂していた」ことや「何かに怯えていた」と言う接点を持つことに気が付いた春男と瑞紀は、2人の友人である詠子(仁村紗和)の家を訪ねますが…。

王道と流行を混ぜ合わせた「令和」時代の和製ホラー


(C)2020松竹株式会社

和製ホラーの鉄板であるホラー映画における「ミステリ」要素。

呪いの「起源」や発生原因、そして解除方法を呪いに襲われながらも必死に探し回る「ミステリ」部分は、呪いの正体が分かるにつれ感じる「物悲しさ」が恐怖の中に存在することで、「呪い」の真の意味が分かる構成が作品の魅力を膨らませてくれる大事な要素です。

本作の物語はこの「王道」かつ「鉄板」であるミステリ要素を多分に含んでおり、呪いの解除方法を探るために、「眼球破裂」や「怪談話」という要素から「呪い」の正体と対応策、そして傾向を登場人物全員で絞って行く展開が「王道」としての和製ホラー好きに間違いなく刺さる内容。

しかし、本作は「ミステリ」と言う和製ホラーの鉄板ジャンルに、海外ホラーを中心に流行した「〇〇してはいけない」というジャンルを加えることで、緊張感を引き出すことに成功していました。

「〇〇してはいけない」が醸し出す緊張感


(C)2020松竹株式会社

息を吸う音ですら殺人鬼に感知されるホラー映画『ドント・ブリーズ』(2016)の大ヒットによって国内で大流行することになった「〇〇してはいけない」系ホラー映画。

「音をたててはいけない」『クワイエット・プレイス』(2018)や「見てはいけない」『バード・ボックス』(2018)など独特の緊張感が話題となり大ヒットを記録してきました。

和製ホラーの最新作である『シライサン』はこの流行を取り入れ、近づいてくる「シライサン」から「目を逸らしてはいけない」という縛りを負荷しており、このことが直接的な恐怖だけでなく、和製ホラー独特の緊張感をさらに引き上げることに成功しています。

「〇〇してはいけない」映画における緊張感の正体は「最善手を尽くせば生き延びられる」という部分にあります。

ですが、人は緊急時にいつも出来ていたことが出来ない生物。

あの手この手を使い、目を逸らす行動を促してくる「シライサン」との攻防は「令和」時代の新たな和製ホラーの形を見せつけてくれます。

全編BGM無しのリアルな演出


(C)2020松竹株式会社

安達寛高監督が撮影した過去の作品において、BGMを多用しすぎてしまった反動から本作にはワンシーンを除きBGMが利用されていません。

そのワンシーンも劇中においてしっかりと「音楽」が流れる描写がなされているため、映像における「BGM」とはまた違った意味を持っています。

現実世界において緊迫した場面にBGMが流れないように、本作では無音の中にシライサンの特徴である「鈴の音」が響くことが何よりも怖く、いつ現るか分からない恐怖をリアルに表現。

超常現象系のホラー作品はファンタジー的な内容にどのように現実味を持たせ恐怖心を煽るかが重要な部分。

本作は「BGMを使わない」シンプルな手法で、作品にリアルさを持たせることに成功していました。

出演作豊富なベテラン揃いの俳優陣


(C)2020松竹株式会社

2010年前後からモデルとして活躍し、2010年代には俳優としても尽力し主演映画となる『暗黒女子』(2017)が公開されるなどステップアップの止まらない女優、飯豊まりえ。

一方で、W主演となるヒーロー側を演じる稲葉友も「HiGH&LOW」シリーズにレギュラー出演するなど、着実に俳優としての活躍の幅が広がっている大注目の俳優。

このように主演俳優にもしっかりと地盤を固めてきた俳優を起用しただけでなく、共演陣も見事な選出である本作。

特に『リリイ・シュシュのすべて』(2001)でのブレイク以降、長年に渡り日本のドラマや映画を支えてきた忍成修吾の演技は「流石」と言えるものであり、根は「善良な人間」の心の揺れ動きが繊細に演じられています。

その他にも染谷将太や谷村美月など説明する必要がないほどのベテランも出演する本作は、まさしく和製ホラー映画の意欲作と言える作品です。

まとめ


(C)2020松竹株式会社

「名前を聞いただけで感染する」という「怪談話」をより一層恐怖に陥れる「シライサン」の呪い。

『リング』(1998)や『呪怨』(2003)に続く新たな和製ホラーとして乙一(安達寛高)が挑む恐怖の連鎖は和製ホラー好きには必見の内容となっています。

「令和」時代の新感覚和製ホラー『シライサン』は2020年1月10日(金)より全国でロードショー。

「無音」が作り出す恐怖の演出をぜひ劇場で体験してみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile081では、莫大な予算を投じて製作された中国産SF映画『上海要塞』(2019)をネタバレあらすじを交えてご紹介させていただきます。

12月18日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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