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『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』感想と評価。画家の知られざる人生とは|映画と美流百科14

  • Writer :
  • 篠原愛

連載コラム「映画と美流百科」第14回

こんにちは、篠原です。

毎回、新作映画を取り上げ、その映画で扱われているカルチャーも紹介している本コラムですが、第1回目で取り上げたのが芸術家の人生と作品を約90分にまとめた「アート・オン・スクリーン」の映画でした。

今回は「アート・オン・スクリーン」シリーズ第3段となる『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』をご紹介します。

本作は、没後130年近くが経過した現在でも世界中の人々を魅了し、刺激しつづける画家フィンセント・ファン・ゴッホの人生を追体験できるアート・ドキュメンタリー映画です。

東京・東劇で公開初日に行われたトークショーの様子や、ゴッホ作品を楽しめる美術館情報などもまじえ、画家ゴッホに迫ります。

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映画『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』の鑑賞ポイント

本作は、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853年3月30日-1890年7月29日)の人物と作品を掘り下げ、ゴッホの人生に焦点を当てた映画です。

オランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館の学芸員やゴッホの親族など、世界で最もゴッホに詳しい人たちへのインタビューを通して、ゴッホが語られています。

またゴッホが弟テオへ宛てた手紙を朗読する声が、ゴッホとよく似た俳優による再現シーンに重ねられ、その心情の変化やきらめき、苦悩を観客に伝えます。

ゴッホの自画像や≪ひまわり≫などの絵、アルルでのゴーギャンとの共同生活、耳切り事件、拳銃による自殺などは、よく知られたエピソードです。

本作ではそれ以外の今まで前面に出てこなかった彼の生活や日々の想い、絵画技法のことなども描かれています。

映画『炎の人ゴッホ』との比較

『炎の人ゴッホ』とは

参考映像:『炎の人ゴッホ』

画家をモチーフにした映画は数多くありますが、ゴッホほど取り上げられてきた画家はいません。

そして、ゴッホ映画の中でも特に知られているのが、ヴィンセント・ミネリ監督の『炎の人ゴッホ』(1956)です。

この作品は、アーヴィング・ストーンの小説『炎の生涯 ファン・ゴッホ物語』(1934)が原作の伝記映画で、ゴッホを演じたカーク・ダグラスはゴールデングローブ賞の主演男優賞を、ゴーギャンを演じたアンソニー・クインはアカデミー賞の助演男優賞を獲得しています。

『炎の人ゴッホ』との相違点と、本作の見どころ

『炎の人ゴッホ』では、ゴッホが貧しい炭鉱町で伝道活動を始めるところから物語がスタートし、その人生を時系列で描きます。

対して本作『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』は、伝道師になる前のことも描かれており、ゴッホの人生だけでなく絵画そのものにも注目し、技法的なことにも言及しています。

本作で度々朗読される弟テオとの手紙のやり取りは、ゴッホが画家を志す前から始まっていました。

そのため伝道活動を始める前の画商時代に絵画にふれたのがきっかけで絵に興味を持ったことや、画家になる決心を固めるまでの心情の変化などが、ゴッホの独白として紹介されています。

ゴッホの父親は牧師であり、ゴッホ自身は伝道師として活動しましたが、本作の中ではプロテスタントであることが画家としての姿勢にどう影響したのかも考察されています。

また「アート・オン・スクリーン」の醍醐味は、普段は遠目にしか見られない絵画の細かい部分を劇場の大画面で見ることができる所ですが、本作ではゴッホ特有の厚塗りでボコボコとしたマチエールがよくわかりますので、その点にも注目してみてください。

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公開初日トークショーとゴッホ関連の美術館


フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)≪ひまわり≫1889年 アルル (C)ファン・ゴッホ美術館

本作の公開初日には、東京・東劇での初回上映前にトークショーが行われました。

まず登壇したのは、アートテラー・とに~さん。

元吉本興業のお笑い芸人だったので自分で前座をすると自己紹介した後、「人は疲れているとゴッホを受け付けません」「激しい色彩にご注意ください」と笑わせます。

観客の心を掴んだ所で、浮世絵専門の美術館である太田記念美術館の主任学芸員・渡邉晃さんをステージへと招きました。

とに~さんに映画の感想を求められた渡邉晃さんは、「ゴッホ役の俳優がとても似ていた」「学芸員がいっぱい出てくるが、当美術館のメンバーならどう語るのか考えながら観た」など、予想外の感想で笑わせ場を和ませました。

そして、ゴッホや印象派の絵画技法に影響を与えたり、その絵画の中に描き込まれたりした浮世絵について、画像を使いながら説明しました。

その内容は、浮世絵がヨーロッパに伝わり広まっていった流れや、歌川広重や葛飾北斎などの作品がヨーロッパ絵画にどのように取り入れられ影響したのか、また浮世絵が西洋絵画の影響をどのように受けていたのかなど。

また客席には、ゴッホの≪ひまわり≫を所蔵する美術館で有名な東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の主任学芸員・中島啓子さんが偶然にもいらっしゃるということで、急遽ステージに招かれ、所属美術館の紹介をする一幕もありました。

まとめ


(C)Seventh Art Productions & Annelies van der Vegt-42

本作『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』は、世界で初めてオランダのゴッホ美術館の協力のもとに、イギリスで2015年に制作されたドキュメンタリー映画です。

日本では今年2018年10月6日(土)より公開され、東京・東劇、愛知・ミッドランドスクエアシネマ、大阪・なんばパークスシネマ、兵庫・神戸国際松竹にて絶賛上映中です。

世界で最も知られる画家と言っても過言ではないゴッホですが、彼がどんな視点を発見したのか? 彼をどんな視点でとらえた映画なのか? など、「新たなる視点」に込められた意味を考えながら観てみるのもよいのではないでしょうか。

また、ゴッホの作品世界を広げてくれる太田記念美術館や東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にも、ぜひ足をお運びください。

次回の『映画と美流百科』は…

次回は、茶道の世界を描いた『日日是好日』をご紹介します。

お楽しみに!

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