Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

清原惟映画『網目をとおる すんでいる』あらすじと感想レビュー。短編作品ならではのフレキシブルな源泉|ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り7

  • Writer :
  • Cinemarche編集部
  • 加賀谷健

第10回ちば映画祭「清原惟監督特集」

東京藝術大学大学院の修了制作として手がけた初長編作品『わたしたちの家』が2018年に渋谷ユーロスペースで公開され、鮮烈な映像感覚が大きな注目を集めている清原惟(きよはらゆい)監督。


©︎Cinemarche

2018年の目覚ましい活躍から引き続き、ちば映画祭2019では特集上映が組まれました。

今回は、その中から清原監督の最新短編映画『網目をとおる すんでいる』を取りあげます。

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

映画『網目をとおる すんでいる』の作品情報

【公開】
2018年

【監督】
清原惟

【キャスト】
坂藤加菜、よだまりえ

【作品概要】
東京藝術大学大学院の修了制作である『わたしたちの家』が2018年に渋谷ユーロスペースで公開され、大きな注目を集めた清原惟監督の最新短編作品。

2人の少女たちの間で交わされる何気ない会話から立ち上がってくる不思議な“清原ワールド”の虜になってしまいます。

清原惟監督プロフィール


©︎Cinemarche

1992年生まれ。東京都出身。

武蔵野美術大学映像学科卒業、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。黒沢清監督、諏訪敦彦監督に師事。

東京藝術大学大学院の修了制作として手がけた初長編作品『わたしたちの家』が、ぴあフィルムフェスティバル2017でグランプリを受賞し、2018年には渋谷ユーロスペース他、全国各地で上映されました。

今、最も注目を集めるインディーズ作家の1人です。

映画『網目をとおる すんでいる』のあらすじ

幼馴染みの少女2人は、いつも一緒で、自分たちが好きなものについて語り合っています。

お互いが相手を思いやり、それはいつしか特別な感情になっていました。

そんな2人が河原で見つけるビニールハウス。

彼女たちはそこにきっと誰かが住んでいると想像を膨らませていきます。

映画『網目をとおる すんでいる』の感想と評価

まず驚いてしまったのは、本作が清原惟監督の最新短編作であるということです。

あれだけ重々しく構造的な『わたしたちの家』(2017)を撮り終えた後に、このような瑞々しい短編を軽々と取りあげてしまうバイタリティとイマジネーションの源泉は一体どこにあるのでしょうか。

参考映像:『わたしたちの家』(2017)予告編

この短編作品で清原監督が取りあげているのは、女の子が女の子に恋愛感情抜きで特別な想いを寄せてしまう気持ちです。

近年、女の子同士で相手のことが「好き」だという感情を描いた作品は多く見受けられ、自分ではない誰かと身も心も溶け合いたいという切なる想いの最も純粋な現代的例かもしれません。

しかしそうしたピュアな気持ちは彼女たちにとっては自明のものでありながら、なかなか言語化しずらいものです。

これは敢えて意味を説明しないことで映画自体に奥行きを持たせる清原監督らしい着眼でした。

今まで誰かがやっていそうで、誰もやっていなかったことでしたが、少女たちの淡い想いを実際に網の目を使って具象化していく発想力と表現力は秀逸です。

さらに本作はちょっとした「LGBTQ」映画としてもみることが出来ます。

河原にあるビニールハウスに住んでいるらしい“誰か”を少女たちが興味深い言い方で形容するのです。化粧をした男の人……。

不思議な人だけれども、とっても綺麗で興味を引かれるという彼女たちの会話を聞いていてまた驚かされるのが、セクシャルマイノリティーについてこれだけ議論がなされている時代に、あえてゲイやトランスジェンダーといった言葉を使わないことの潔さです。

柔らかい表現を使いながらも的を得てしまう言葉の翻訳術には妙な説得力があります。

ともするとマイノリティの人たちを傷つけてしまいかねない表現なのに、監督の人間への深い理解と興味が感じられる心優しい言葉の不思議。

あるいはここで仮にLGBTQ関連の言葉を直接選択していたら、物語全体のイデオロギー化は免れなかったでしょう。

何を主張するでもない、何気ない少女たちの会話の中で戯れるようにして包まれた言葉だからこそ、“現実的な響き”を奏でられたのです。

まとめ

蔵野美術大学映像学科の卒業制作として手がけた『ひとつのバガテル』(2015)の断片的な躍動感があり、それがさらに奥行きをもって構造的な物語世界を構築している『わたしたちの家』の多元宇宙のサスペンスフルな緊張があり、そしてさらに本作『網目をとおる すんでいる』の柔軟な発想力というように、清原惟監督のイマジネーションはまるで止まるところを知りません。

彼女が世界への関心を抱き続ける限り、その想像力の源泉は尽きることなく、さらなる表現の豊かさを目指して躍進していきます。

次は、一体どのような作品を世に繰り出してくるのか。もう怖くて怖くてたまりません。

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

ホラー映画『人面魚』ネタバレあらすじと感想。 最新やばいTHE DEVIL FISHに魅入られたのはビビアン・スー!?|未体験ゾーンの映画たち2020見破録19

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第19回 世界各国の様々な映画を集めた、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて …

連載コラム

映画『葵ちゃんはやらせてくれない』感想評価と解説。松嵜翔平×小槙まこで描いたタイムループな大人のラブストーリー|銀幕の月光遊戯 76

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第76回 『れいこいるか』『こえをきかせて』など、幅広いジャンルの映画作品で知られるいまおかしんじが監督を務めた映画『葵ちゃんはやらせてくれない』は、大人の男女に向けた刺激 …

連載コラム

『サバイバー2024』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。SFサバイバルアクション映画おすすめ“人類の希望は1人の男に託された!”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー77

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第77回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

高校球児にこそ観てほしい野球映画。そこで知る再起の姿勢とは|映画道シカミミ見聞録8

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第8回 (C)Disney こんにちは、森田です。 夏の甲子園がはじまり、全国の若き高校球児たちが頂点を目指して白球を追いかけています。 その姿は野球に縁のない人々の …

連載コラム

どんでん返し映画『無明長夜の首無しの怪獣』感想考察。ウルトラセブンや怪奇大作戦などの往年の名作特撮ドラマを彷彿|邦画特撮大全68

連載コラム「邦画特撮大全」第68章 若手コント芸人「そんたくズ」のコンビ結成3周年記念コントライブが、2020年5月16日19時よりYou Tube内の「そんたくズコントチャンネル」にて生配信されます …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学