Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ラブストーリー映画

『こいびとのみつけかた』 あらすじ感想と評価解説。前田弘二監督と脚本家高田亮が贈る‟世間になじめない2人のメロドラマ”

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

『こいびとのみつけかた』は2023年10月27日(金)新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー

雑誌の切り抜きを持ち歩いて気になる時事ネタの話をするトワは、コンビニで働く園子に恋をします。

何とかして園子と話したいトワは園子の働くコンビニの前から木の葉を並べ始め、園子が来るのを公園で待ちます。

するとそこに園子が現れ、2人は似たもの同士であることが分かります。

世間になじめない園子とトワと周りの人々が降りますシュールなドラマを『まともじゃないのは君も一緒』(2021)の前田弘二監督と脚本を手がけた高田亮が再タッグを組み描き出します。

夏、至るころ』(2020)の倉悠貴がトワを演じ、『ソワレ』(2020)の芋生悠が園子を演じ、『まともじゃないのは君も一緒』(2021)に引き続き、成田凌や川瀬陽太らが出演しました。

映画『こいびとのみつけかた』の作品情報


(C)JOKER FILMS INC.

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
前田弘二

【脚本】
高田亮

【音楽】
モリコネン

【出演】
倉悠貴、芋生悠、成田凌、宇野祥平、川瀬陽太、奥野瑛太、高田里穂、松井愛莉

【作品概要】
まともじゃないのは君も一緒』(2021)で、数学一筋でコミュニケーションが苦手な予備校教師と、生徒のおかしな掛け合いを描いた前田弘二監督と脚本家の高田亮が再タッグを組みました。

トワ役を演じたのは、『夏、至るころ』(2020)で映画デビューを果たした倉悠貴。

園子役は、『ソワレ』(2020)や『ひらいて』(2021)、『牛首村』(2022)などに出演する気鋭の若手女優・芋生悠が演じました。

映画『こいびとのみつけかた』のあらすじ


(C)JOKER FILMS INC.

コンビニで働く園子に想いを寄せているトワは、毎日植木屋で働きながらいろいろな妄想をしては同僚に話しています。

同僚は「話しかければいい」と言いますが、トワは「恋人が欲しいわけじゃない、いろいろ考えることがある」と答えます。

雑誌の記事の切り抜きを持ち歩き、EUの離脱問題やミツバチが死んだら人類が滅びるのではないか、などいろいろなことを考えては同僚に話すトワは周りから理解されず、風変わりだと思われています。

それでも園子のことで頭がいっぱいなトワは考え、園子のバイト先から木の葉を並べ、公園で園子を待ちます。するとそこに園子が現れます。

「よく店に来るよね?」

とうとう園子と話すことに成功したトワ。そして、園子もトワ同様周りから風変わりだと思われていました。2人は意気投合し、様々な話をするようになります。

しかし、園子にはトワになかなか言えずにいる秘密があったのです……。

映画『こいびとのみつけかた』の感想と評価


(C)JOKER FILMS INC.

まともじゃないのは君も一緒』(2021)の前田弘二監督と脚本・高田亮でおくる、世間になじめないトワと園子の恋物語を描いたメロドラマ。

予備校教師の大野の教え子の香住の噛み合わない会話がポンポン展開され、その中で“普通とは何か”、普通にとらわれなくてもいいありのままの良さを描き出します。その姿勢は本作においても引き継がれていると言えます。

『まともじゃないのは君も一緒』は、大野と香住の会話の掛け合いや、ややこしい人間模様をコミカルに描いたラブコメでしたが、本作は冒頭に説明される通りメロドラマであり、コミカルさを引き継ぎながらもどこかファンタジックさもある恋愛映画になっています。

雑誌の切り抜きを持ち歩き、園子との妄想話や、ニュースの話を矢継ぎ早に話すトワは、周りに全く馴染めずにいました。

そんなトワの話を園子は真剣に聞き、誰もが何言っているか分からないというトワの会話を園子は分かると言い、皆の方がおかしいと言います。

園子とトワは似たもの同士だったのです。そして、園子はトワにとって初めてできた好きな人でした。ただ一緒に話していたいと思っていた園子と話し、仲良くなるうちにトワはその先も夢見ていますが、園子にはトワに言えないでいる秘密があったのです。

『まともじゃないのは君も一緒』では、大野が“普通”になるために計画を立てていたはずの香住が、自分の好きな人を婚約者から引き離すことに利用してしまった上に自分が大野に想いを寄せていることを知ってしまう…というドタバタ劇が展開されていますが、本作においても一筋縄ではいかない捻った関係性が出てきます。

香住は想いを寄せている人に対し、自分こそがその人に対して理想の相手だと思い込んでいますが、そうでなかったことを知っていきます。

一方、トワにとって園子はある意味妄想の通り、自分と似たモノ同士で運命的な相手だと思うような存在でした。園子にとってもトワは理解者で大切な人であったと思います。

しかし、理解し合える存在が恋人になるかというとそれはまた少し違うこともあります。『まともじゃないのは君も一緒』とは少し違ったほろ苦さが本作には描かれています。

それでも2作とも共通して、理解されなくてもありのままでいること、自分を変えなくていいという世間の“普通”に対する疑問は描かれていると言えます。

そのような視点が他の恋愛映画とは違う魅力であり、どこか疎外感を抱いている人を包み込むような温かさを感じられます。

まとめ


(C)JOKER FILMS INC.

まともじゃないのは君も一緒』(2021)でみせた成田凌と清原果耶が絶妙な掛け合いは、クスッと笑ってしまうようなところもあり、2人の微笑ましさも感じられるものでした。

本作においても、風変わりな2人が出会い、一方的に話すしかなかったトワに初めて理解者ができた瞬間は見ている観客も心が躍るような幸福感にあふれています。

更に周りには理解されないなか、2人が共感しあっている様子は2人だけのファンタジックな世界で、成田凌と清原果耶とはまた違った微笑ましさを、倉悠貴と芋生悠が醸し出します。

園子は廃工場で暮らし、オブジェを作っていたり、まだ自分だけの曲が見つかっていないけれど自分はアーティストだと言います。そんな彼女がトワのために作った歌には、園子が感じている生きづらさ、苦しさが込められています。

トワ自身も雑誌の切り抜きを持ち歩くようになった理由や、同僚に耐えられないから黙ってくれと言われても、「黙るかどうかは自分が決めることだ」と強く言いながらも世間と自分の間に生じているものに悩んでいる姿が描かれています。

そのような生きづらさを描くことで、2人が互いにどれほど必要としていた存在だったのか、その切実さに胸を打たれます。

しかし、トワと園子の話を理解しているわけではないけれど、2人にはそれぞれ気にかけてくれる存在もいます。様々な人がいて、皆を受け入れてくれる場所があることもきちんと描いているのです。



関連記事

ラブストーリー映画

映画『日の名残り』ネタバレあらすじ考察と結末の感想評価。カズオ・イシグロ原作の“大人のラブストーリー”をジェームズ・アイボリー監督が描く

カズオ・イシグロ原作の老執事の半生を映画化した『日の名残り』 イギリスの貴族に人生を捧げてきた老執事が自らの過去を回想するカズオ・イシグロのベストセラー小説『日の名残り』。 『眺めのいい部屋』(198 …

ラブストーリー映画

カンヌ映画祭2017『光』永瀬正敏の演技と河瀬直美監督への評価

永瀬正敏は河瀬直美監督の前作『あん』に引き続き『光』でも主演を果たして、2017年のカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを踏みました。 彼は日本人初の3年連続のカンヌ入りをした俳優。また、俳優人生では4 …

ラブストーリー映画

映画『あなたの名前を呼べたなら』ネタバレ感想とレビュー評価。インドの女性監督がカースト制度でのラブストーリーを描く

インドの差別社会に一石を投じる作品。 自分らしく生きるとは? インドのムンバイを舞台に、メイドのラトナと主人のアシュヴィンの、身分違いの恋を描いたラブストーリー『あなたの名前を呼べたなら』。 監督は、 …

ラブストーリー映画

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』ネタバレ解説と結末の内容考察。コミック実写版で描いた大倉忠義×成田凌共演の“男性同士の恋愛”

追い詰められて行き場を失ったネズミ君。 さぁ、本気の恋をしよう。 セクシャリティを超え、恋愛の喜びと切なさを描き出した、水城せとなの人気漫画『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』を、行定勲 …

ラブストーリー映画

『桜のような僕の恋人』映画原作ネタバレ感想と結末あらすじの考察。泣ける恋愛小説ランキング常連作がNetflixに登場!

小説『桜のような僕の恋人』がNetflixで全世界同時配信。 2017年に発売され、泣ける恋愛小説として瞬く間にベストセラー化した宇山佳佑の『桜のような僕の恋人』が、Netflix映画として、2022 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学