連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第119回
今回ご紹介するNetflix映画『グッド・ナース』は、2013 年に出版された、チャールズ ・グレイバー著書のノンフィクション本が原作で、実際に起きた事件に基づくサスペンススリラーです。
『ある戦争』(2016)のトビアス・リンホルムが監督を勤め、『1917 命をかけた伝令』(2020)のクリスティ・ウィルソン=ケアンズが脚本を手がけました。
ニュージャージー州のとある病院で、入院患者の不審死が度重なって起きます。保険局の指示で警察に通報したことで、実態があきらかになっていきます。
重い心臓病を抱えながら看護師として、過度な労働をするシングルマザーのエイミーの元に、新しい看護師チャーリーが配属されます。
彼はエイミーの病気を案じサポートをしてくれる、心優しい看護師でしたが、不審死の調査が進むうちに、彼の仕業ではないかと疑念を抱き、真実の解明に動き出しますが・・・。
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CONTENTS
映画『グッド・ナース』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Good Nurse
【監督】
トビアス・リンホルム
【原作】
チャールズ・グレーバー
【脚本】
クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
【キャスト】
ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン、ナムディ・アサマア、キム・ディケンズ、マリク・ヨバ、 アリックス・ウェスト・レフラー、ノア・エメリッヒ
【作品概要】
『グッド・ナース』は2022年9月トロント国際映画祭にて初公開され、2022年10月19日より一部の映画館で公開されました。
主人公のエイミー役には『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(2011)で、アカデミー助演女優賞、『タミー・フェイの瞳』(2021)で、第94回アカデミー主演女優賞を受賞した、ジェシカ・チャステインが務めます。
殺人鬼看護師チャーリーを演じたのは『博士と彼女のセオリー』(2014)、「ファンタスティック・ビースト」シリーズ、『シカゴ7』(2020)のエディ・レッドメインです。
共演は『ゴーンガール』(2014)のキム・ディケンズ、『無実の投獄』(2017)のナムディ・アサマア、『トゥルーマン・ショー』(1998)のノア・エメリッヒなどです。
映画『グッド・ナース』のあらすじとネタバレ
1996年、ペンシルバニア州の聖アロイシウス病院でナースコールが鳴り響き、看護師が患者の容体を確認しますが、容態急変の緊急事態となります。
心肺蘇生やアドレナリン投与など、賢明な処置を試みますが、駆けつけた看護師が静かにみつめる中、患者は息を吹き返すことなく死亡しました。
2003年、ニュージャージー州パークフィールド記念病院は、慢性的な看護師不足で業務は過酷を強いられています。
そんな中、患者に寄り添いながら看護をするエイミーが働いていました。
彼女が担当している310号室のアナ・マルティネスは、夫に処方された薬を投与して副作用を起こし搬送されていました。
高齢の夫が付き添いますが、病院の規則で宿泊看護はできません。それでもエイミーは深夜になっていたと嘘をついて、アナの夫を泊まらせてあげます。
もう1人、311号室のホリーは意識不明状態で寝たきりで、時々身体の向きを変えなければなりませんが、それがエイミーには重労働でした。
やっとの思いで体をおこし向きをかえますが、エイミーの体調に異変が起こります。2人の娘がいる、シングルマザーの彼女は夜勤専門で働いていました。
彼女には心臓に重い疾患があり、状態は悪く治療に専念しなければ、不整脈の発作で命に危険があるため、手術者リストに入れると主治医に告げられます。
そして、医師は異変が起きた時に備え、子供達に症状の説明をしておくように言います。
その晩、新しい看護師チャーリー・カイルが加わります。エイミーはパソコンや薬品庫の管理システム“ピクシス”の操作方法を教え、彼女が担当している患者の紹介をします。
彼は過去にエイミーの同僚だったロリ(ルーカス)と同じ病院でも働き、経験豊富で人当たりが良く親切な対応の看護師で、チャーリーにも別れた妻との間に2人の娘がいました。
次の夜勤の日、エイミーはホリーの身体の向きを変えていて、再び心臓に変調をきたします。休憩室のベッドで呼吸を整えていると、チャーリーが心配して様子を見に来ます。
彼女は彼に心筋症だと話しますが、失業したくないため、病院側には内緒にしてほしいと訴えます。そして、就業して間もないため保険を取得できないと言います。
彼女が保険に加入するには、あと4カ月働かなくてはなりませんでした。チャーリーはそんなエイミーをサポートするといい、彼女の良き理解者になっていきます。
しかし、翌日エイミーが出勤すると、アナの容体が急変し死亡したと告げられます。快方に向かっていたのにと不審に感じたエイミーですが、アナの部屋に向かいます。
蘇生処置のあと放置された状態のアナを見たエイミーは嘆きます。チャーリーは子供の頃に母を亡くしていました。
その時、遺体は消息不明になり、しばらくして発見されますが、アナと同じように乱雑に扱われていたと話します。
チャーリーにとってその光景がトラウマとなり、亡くなった患者の身支度を整えることは、“人間の尊厳”につながると大切に行っていました。
映画『グッド・ナース』の感想と評価
チャーリー・カレンの被害者は最終的に400人以上に上ると推定されています。もし、事実であれば、カレンは史上最悪の殺人を犯したシリアルキラーとなります。
しかし、その殺害動機に関しては明確ではありません。ある供述では蘇生させるための救命措置を見て、見るに堪えない行為だったからと、安楽死をほのめかすことを語ります。
しかし、実際は余命幾ばくも無い患者ばかりを狙った犯行ではなく、大半が回復の途上にある患者が犠牲になっていました。
カレンは無差別に大勢の人を殺しておきながら、死刑を免れるために司法取引し、覚えている限りの犯行に関して、素直に罪を認め取り調べに応じました。
本作はシリアルキラーのチャーリー・カレンをエディ・レッドメインが、重い心臓病を患っている看護師エイミー・ローレンをジェシカ・チャステインが迫真の演技で勤め、2022年アカデミー賞有力候補作品として、大注目されています。
チャールズ・カレンの素顔に迫る
カレンはニュージャージー州で18回の終身刑を宣告され、2403年まで仮釈放は認められていません。
判決の審問を大統領判事ウィリアム・H・プラットから受けた際、カレンは「裁判長!あなたは辞任するべきだ」と30分に渡り繰り返して叫んだと言われています。
作中でブラウン刑事に動機を話すよう促され「できない」と連呼し続けたシーンは、このエピソードから脚色されたのでしょう。
シリアルキラーの一般的な要因として言われているのが、不安定な家庭で育ち、家族による虐待や社会でいじめに遭った経験などがあげられます。
また、その反動として動物虐待に向った者、のちに精神的な病を患ってしまったなども要因としてありました。
カレンは8人兄弟の末っ子で生後間もなくして父を亡くし、貧しい家庭で育ち惨めな生活だったと振り返っています。
幼い頃は学校ではいじめに遭い、姉やそのボーイフレンドから虐待もされ、9歳で自殺願望がありました。
母はカレンが高校生の多感な時に交通事故で失い、この時に彼の精神は打ちのめされたと語っています。
作中では遺体が一時的に行方不明となっていましたが、実際には遺体が自宅に戻されることなく、火葬されたため激しく憤ったということでした。
アナ・マルティネスが火葬され、死因の特定ができなかったというシーンは、亡くなった母に対面できなかったカレンの無念を象徴しているようでした。
実際のカレンは海軍に在籍していた経験があります。ところが彼は軍の制服ではなく、医療用のマスクや手袋、手術用ガウンを着て、ミサイル制御席に座るなど奇異な行動が目撃され、軍の精神病院に入院したこともありました。
しばらくして彼は除隊し看護学校で学び卒業すると、16年間看護師として従事します。
カレンが看護師として働くようになったころ、結婚し女児を儲けますが、飼い犬を虐待するなど、異常な行動で不安になった妻の意向で離婚にいたりました。
作中のカレンは不法侵入犯として通報されるも不起訴になりますが、実際には通報され1年間の保護観察受けこの時、自殺未遂もおこしていました。
このようにチャールズ・カレンが、シリアルキラーになる要因は揃っていました。そして、実際に犯行に及んでいました。
しかし、なぜそのような人物が長期にわたり、人の命を救い守る医療機関で働き続けられたのでしょうか?
シリアルキラー看護師が野放しになった理由
世界規模で医療従事者の不足は問題になっていますが、看護師として適任であるか否かよりも、人手として常に需要があり、カレンが職にありつくのに問題はありませんでした。
また、医療従事者に疑わしい行動が見られたとしても、それを報告する義務もなく、病院側に対する法的な保護もなかったため、カレンは容易に転職することが可能でした。
2003年、この事件を発端にニュージャージー州で、彼が逮捕起訴されたことで法整備がすすみ、ました。
そして、ニュージャージー州の他36州は、医療従事者の職務に関して適切な評価を行うことで、法的保護を与える新しい法律を確立しました。
さらに2004年に“患者安全法”が整備され、「深刻かつ予防可能な有害事象」が発生した場合、報告する義務を病院に課せました。
カレンが逮捕されるきっかけになったのは、ニュージャージーの病院の同僚、エイミー・ローレンです。
実際はエイミーがカレンの薬品庫への不正アクセス記録に気づき、患者の死亡に関わりがあるのでは?と不信感を抱いたことがきっかけです。
彼女が警察に警告し捜査が開始されたのがきっかけで、その後もエイミーの捜査協力により逮捕に至りました。
まとめ
映画『グッド・ナース』は、人の命を預かる医療従事者の適性が無視され、野放しにした結果、多くの患者が犠牲になってしまった、犯罪史上最悪の殺人事件になった実話が基になった映画でした。
その多くの犠牲の上で、医療機関に厳正な秩序と法の整備がされました。人の命は地球より重いものという基本理念がある中、実際にはその命はお金によって守られ、お金によっておざなりにもなる、そんな実態を知らしめたのが本作といえるでしょう。
日本でも記憶に新しい酷似した事件が発生しています。犯行に及んだ看護師は表向きにはそんな残虐性を感じず、そのことが犯行に至った心の闇を深さを浮き彫りにしていました。
同じ悲劇を生まない方法があるとすれば、犯人の心に迫り、命に対する向き合い方、真意を探る必要があると強く実感させられる映画でした。
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