ベトナム戦争の是非を問う党大会で起きた反対デモによる惨事の原因に迫る
2020年はアメリカ大統領選の年。ニュースを見るとアメリカ国内では、共和党や民主党の“党大会”という言葉をよく耳にします。
今回は1968年のアメリカのイリノイ州シカゴの民主党全国大会で、民間団体による“ベトナム戦争反対のデモンストレーション”から端を発した“流血の惨事”に関する裁判の映画『シカゴ7裁判』についてご紹介します。
本作は2007年にスティーブン・スピルバーグを監督に据え、制作発表がされましたが、ハリウッドでおきたストライキが原因で、制作が延期されます。
2018年10月に脚本を手掛けていたアーロン・ソーキンが監督に決定。2020年10月に一部の劇場にて先行公開され、10月16日よりNetflixにて配信が開始されました。
アーロン監督は、Appleの創業者スティーブ・ジョブズを描いた映画、『スティーブ・ジョブズ』の脚本で、第73回ゴールデングローブ賞の脚本賞を受賞しています。
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映画『シカゴ7裁判』の作品情報
Netflix『シカゴ7裁判』
【配信】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Trial of the Chicago 7
【監督・脚本】
アーロン・ソーキン
【キャスト】
サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マイケル・キートン、マーク・ライランス、アレックス・シャプ、ジェレミー・ストロング、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、ジョン・キャロル・リンチ、フランク・ランジェラ
【作品概要】
本作は1969年3月~1970年2月に行われた、「シカゴセブン」と呼ばれた政治活動家の暴動事件を扱った大陪審裁判の物語です。
アビー・ホフマン役には、第64回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した、サシャ・バロン・コーエンが好演。
トム・ヘイドン役は『リリーのすべて』で第88回アカデミー賞・主演男優賞ノミネートされ、注目を集め『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』で人気を高めた、エディー・レッドメインが務めます。
裁判を拗らせ長期化させたジュリアス判事役には、4度のトニー賞、2度のオビー賞を受賞した、フランク・ランジェラ。熟練の演技でリアリティを増しています。
映画『シカゴ7裁判』のあらすじとネタバレ
Netflix『シカゴ7裁判』
1961年にジョン・F・ケネディーが大統領に就任すると、アメリカ合衆国は、ベトナム戦争への介入を本格化させていました。
ケネディ大統領が政権を握っていた2年の間で、アメリカ軍への派兵は16,263人に昇り、1963年11月にケネディ大統領が暗殺されます。
その後、リンドン・ジョンソンが大統領に就任しますが、1968年の大統領選挙では反体制組織による、民主党へのベトナム戦争反対の機運が高まり、激化していました。
1968年8月下旬に行われる、シカゴでの全国民主党大会では、候補者によるベトナム戦争に対する議論がされると予想した反戦運動家たちが、反戦デモの計画をします。
会場近くのグランド・パークには、複数の反戦活動家グループや一般市民が集結し、15000人を超える数となり、デモ行進などが行われます。
しかし、警官隊や兵士によるパークの占拠によって、大混乱が巻き起こり暴徒化してしまい、その結果、数100人の負傷者が出てしまいました。
1968年の大統領選挙は結局、共和党が勝利しました。政権交代にともない、司法の人事も交代となります。
ジョン・N・ミッチェル司法長官は、彼が任命される1ヶ月前まで、前司法長官のラムゼイ・クラークが長官席に居座っていたことを、快く思っていません。
ミッチェル長官はクラークが提訴しなかった、シカゴの民主党大会での暴動を持ち出し、過去に前例のない連邦法を無理矢理こじつけ、扇動した中心者を提訴し、最高懲役に貶めようと画策したのです。
1969年9月26日、イリノイ州北部地区法廷にて、アビー・ホフマン、ジェリー・ルービン、トム・ヘイドン、レニー・デイビス、デイビット・デリンジャー、リー・ウィンナー、ジョン・フローイネスそして、ボビー・シールの計8名が起訴され、共謀罪による裁判が開廷されました。
イリノイ州連邦裁判所の前には、「世界が見ている!」とシュプレヒコールを上げる民衆たちが集まり、法廷の行方を見守っていました。
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映画『シカゴ7裁判』の感想と解説
Netflixオリジナル映画『シカゴ7裁判』
作中で印象的だったのは、アビーが証言台で語った「この国では4年ごとに、政府を解散させ、転覆させている」と、いう言葉です。
アメリカが採用している大統領制に関して羨ましく感じるのは、アビーが言った通り、時の政権に異議申し立てをする機会が、4年に一度、国民に与えられているからです。
ただし、この映画『シカゴ7裁判』に関しては、不起訴となっている暴動事件が、政権交代の狭間で、前政権下の高官に対する“あてつけ”として、始まったことが不幸でした。
訴えられた活動家は、思想や目指す正義は違えど、純粋に“ベトナム戦争”への抗議運動が目的でした。
彼らは終結させるべき戦争に対して、「時期政権はどういう対処をするのか」を知りたいだけであり、反戦を訴えただけなのです。
トム・ヘイデンの“自分の志を実現させるためには有罪で10年も投獄されている場合でない”という気持ちも理解でき、アビーのように投獄されることで、世間に政治の矛盾を訴えようとする、なかば革命と捉える人もいるのです。
シカゴ7の相関図
多くの人物や団体名が登場します。また、アメリカの政権が入れ替わろうとする時期と重なり、思想や政治的理論など複雑に絡んだ内容になっています。
より理解を深めるために、相関図などを整理しておくとよいでしょう。
裁判の主要な被告人は以下の5人です。
・アビー・ホフマン、ジェリー・ルービン(青年国際党)
・トム・ヘイドン、レニー・デイビス(民主社会学生同盟)
・デイビット・デリンジャー(ベトナム戦争終結運動)
他にリー・ウィンナー、ジョン・フローイネスの2名と、ブラックパンサー党のボビー・シールの計8名が、提訴されました。
途中で裁判から除外された、ボビー・シール以外のシカゴ7には、国選弁護人のウィリアム・クンスラーとレナード・ワイングラスの2人が付きます。
担当裁判官はジュリアス・ホフマン、検察官はリチャード・シュルツとトム・フォランです。
登場人物のその後と経歴
アビー・ホフマンは、何冊かの本を出版し、「Steal This Book(この本を盗め)」はベストセラーになり、映画化もされました。
トム・ヘイデンは、カリフォルニア州議会議員として、6期務めました。
ウィリアム・クンスラーを一躍有名にしたのは、この『シカゴ7裁判』でしたが、弁護を担当した人物には、キング牧師やマルコムXもいます。
まとめ
Netflix『シカゴ7裁判』
その時の政権リーダーの政治判断によって、国民は脅かされたり生活が振り回され、時には最悪な事態に巻き込まれてしまいます。
この『シカゴ7裁判』も、時の政権下によって人生が、大きく変わるかもしれないできごとでした。むしろ、多くの時間を割かれ苦痛を強いられたのです。
しかも、陪審員への買収、盗聴や権威権力の乱用によって、汚点も多く残す裁判となりました。
奇しくも、2020年はアメリカ大統領選の年でもあります。新型コロナウィルスへの対応対策も、争点のひとつであり、他にも多くの課題があるといえます。
アメリカ人が次に選ぶリーダーは誰なのか? それも含め興味をそそる映画です。