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Entry 2022/04/19
Update

【門田宗大インタビュー】映画『3つのとりこ』の一編「それは、ただの終わり」で経験できた役と生身の自己の“隙間”が生む芝居

  • Writer :
  • タキザワレオ

オムニバス映画『3つのとりこ』は2022年4月23日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショー!

映画『3つのとりこ』は、何かに囚われ、心奪われる人々を描いた小川貴之監督による3つの短編『それは、ただの終わり』『ASTRO AGE』『つれない男』で構成されたオムニバス作品です。


photo by 助川祐樹

このたび劇場公開を記念して、『それは、ただの終わり』にて失踪した大学生・臣(おみ)のサークル仲間・和田役を演じられた門田宗大さんにインタビュー

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のスコーピウス・ マルフォイ役に抜擢されるなど、映像・舞台と幅広く活躍される門田さん。他人との距離感から見えてくる自己とその役作り、本作を通じて経験することができた「隙間」がもたらす芝居など、大いに語って下さいました。

「役を広げていく」という役作り


photo by 助川祐樹

──オムニバス映画『3つのとりこ』の一編『それは、ただの終わり』にて、門田さんはどのように役作りを進められていったのでしょうか。

門田宗大(以下、門田):クランクイン前の段階で小川監督は和田のキャラクター設定を送ってくださったので、『それは、ただの終わり』ではそれを参考にしながら役作りを進めていきました。

役作りは、脚本をいただいた段階からはじまっているのだと僕自身は感じています。だからこそオーディションの際から小川監督の対応や言葉を決して逃さず、「役」と「自己」との距離感を図っていくことを心がけていました。

今回は小川監督から和田役に関する設定メモをいただけたので、和田という人物の人格を掘り下げるための参考にもなり、非常にありがたかったです。そうして監督からいただいた資料を基にしながら、自分のなかで役を広げていけたことは、俳優に不可欠な役作りを今後も続けていく上で良い経験となりました。

──劇中にて真剣な話をする際にも「茶化し」を入れる和田の人物像は、失踪した臣の人物像とも重なる部分があります。

門田:和田と臣とは友人ですが、「親友」まではいかない関係性。そのため頻繁に連絡をとる間柄ではないと、小川監督からは聞かされていました。また作中ではそこまで言及されていませんが、和田は臣と同学年ですが浪人生であるため、実は臣よりも一歳歳上という設定があるんです。

「同学年だけれど、臣のことをどこか舐めている」という和田の設定から、自分なりに「他人の不幸を楽しむ性格」という人物像へと膨らませていきました。そして「臣と和田には、友人としてどこか共通点があるはず」と意識する中で次第に重要視していったのは、臣と和田の「差」でした。

考え方が違うことによって、同じ一個の謎の現象に巻き込まれたはずの人たちが、瞬間的に意思疎通できなくなってしまうジレンマ。それこそが本作にとって重要なポイントだと考えていたので、臣はもちろん、衣舞やみどりの考え方にも一切乗ってはいけないんだと感じました。

他人は他人、自分は自分と線引きを設けることによって、衣舞たちの奔走するさまを対岸の火事的に見る役どころ。それが和田なんです。

道化になり切れない男に感じた「共鳴」


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

──劇中の登場人物において、他者と自己の線引きを最も強く意識している和田は、ある意味では一番他者と自己の関係性に執着し、悩んでいるのかもしれません。

門田:現場で役を演じていた時にはあまり気づけなかったんですが、完成した映画を観て客観視ができたことで「和田って、思ったより可愛げがある」と感じました。

和田は「人との距離に悩んでいる」というよりは、悩んでいる自分や人との距離を掴めていないような自分、空気の読めない自分が好きなヤツなんです。空気の読めなさを他人から指摘されてしまう自分のことも好きな部分が、和田には少なからずある。もちろんそれは、対人関係にも弊害が及んでしまうはずです。

「お前自身がそうあることを選んでるくせに、人とは仲良くしたいんだよな」という、しょうがないところが和田の可愛げに見えたんです。例えば、みどりの背中に触れようとするも拒まれてしまう場面など。演じている最中は「コイツ、好きになれないなぁ」と思っていたけれど、意外にも印象が変わりましたね。

他者との距離の取り方も、一種の選択です。道化であろうとするけれど、結局は道化になり切れないからこそ、和田はああいった態度をとってしまう。「逃げていたんだ」と後になって気づく和田の姿には、僕自身共鳴してしまうところもありました。

不安の象徴を通じて表れる「差」


photo by 助川祐樹

──和田を演じられた門田さんご自身は、劇中に登場する謎の物体「バルーン」を和田はどのように捉えていると感じられましたか。

門田:和田自身はバルーンそのものは怖がっているものの、身の周りに影響が出てないからそこまで気にしていません。ただその一方で、バルーン自体のSF的要素には興味を持っています。

気象観測用だ何だと言われている中、和田はバルーンを政府が出した予測よりも神秘的な方向で捉えていて、陰謀論めいたその趣味・嗜好性に惹かれています。だからこそ臣の好奇心も肯定していて、一緒にバルーンの撮影も試みたんです。

ただ何にでも距離を置いて接する和田は、必ずどこかで自制が働きます。他人の価値観を一定以上侵食させない、自分で線を引けるタイプなのでしょう。それは自分の趣味に対する態度でも一貫していて、ある程度まで行ったらそれ以上は駄目と遮断する。許容できる器用さとも言えます。

危険な綱渡りをしながらも彼が正気を保っていられるのは、そういう側面があるからなのでしょう。臣と和田の一番の「差」はそれでしょうし、僕も和田とは異なり、距離を詰め過ぎて傷つくことがあるタイプです。そこが「門田宗大=和田」ではないとおっしゃっていた小川監督も感じられていた、和田と自分との違いなのかもしれません。

現場での一挙手一投足から学ぶ


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

──主演の黒沢あすかさんとは、本作が初共演とお聞きしました。

門田:撮影現場で初めてお会いした時の印象はプラスの存在感を、色で言うと「赤」のようなイメージを感じ取りました。

ところがカメラが回った途端、もの凄い青色のイメージを持ったマイナスの存在感へとガラッと変化しました。そして和田として衣舞を演じている黒沢さんを見つめた時、目を潤ませた佇まいがとても弱々しくて、その豹変ぶりには驚いてしまいました。

また衣舞を演じた黒沢さんも、臣の恋人のみどりを演じた山口まゆさんも現場ではとても落ち着いてらっしゃって、本当に「場慣れ」されているんだと感じられました。

俳優としてはまだまだ学びの途中、学んでばかりの日々です。自分の現場での振る舞いに落ち込んだりもしましたが、黒沢さん・山口さんが見せてくださった俳優の先輩としての現場での一挙手一投足を見習い、僕もこれから役者として実践ができればと思います。

「役」と「生身の自己」の隙間が生む芝居

門田宗大さんと小川貴之監督


photo by 助川祐樹

──今回、『それは、ただの終わり』にて和田という役を演じられた中で発見されたこと、気づかされたことを改めてお教えいただけますか。

門田:現場での芝居において、「手応え」ほどあてにならないものはありません。現場での演技が、実際に映像として映し出された時には全く異なるものに感じられることは多々ありますし自分が出演した映像作品を観ると常に反省点を考えていました。

ただ今回の『それは、ただの終わり』での芝居を第三者の目線で観た時、「面白い芝居ができている」と思えたんです。

「こういう芝居をしたい」という役へのアプローチと、生身の自分自身との間に生じる、隙間。その微妙な隙間感がもたらす芝居が、和田の人間としての癖や渋みという形で完成した映画では立ち現れていました。

その芝居は、自分一人でゼロから役作りをしていたら方向性を間違えていたはずですし、共演者である黒沢さんや山口さん、現場のスタッフの皆さん、そして小川監督が自分の芝居を見つめてくださったからこそ、完成した映画に映ることができたんだと思います。

『それは、ただの終わり』を通じて、本当に得難い経験をさせてもらえたんだと感じています。そしてその経験を学びとして、今後の仕事にも生かしていきたいです。

インタビュー/タキザワレオ
撮影/助川祐樹

門田宗大プロフィール


photo by 助川祐樹

1994年、東京都出身。映像・舞台問わず幅広く活動し、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(2022年7月〜上演)にスコーピウス・マルフォイ役で出演が決定。

主な出演映画は、『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『歩けない僕らは』(2019)など。2021年は舞台エリア51『カモメ』で主演を務めた。

映画『3つのとりこ』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
小川貴之

【キャスト】
『それは、ただの終わり』:黒沢あすか、山口まゆ、門田宗大、大熊花名実
『ASTRO AGE』:小西桜子、椎名泰三、島侑子、石井凛太朗、安住啓太郎、信江勇、奥村アキラ
『つれない男』:荒谷清水、串山麻衣、尾倉ケント

【作品概要】
何かに心奪われ虜になる人々を描き、独特の世界観で作品発表してきた小川貴之監督の3つの短編によるオムニバス作品。今回初公開となる『それは、ただの終わり』では、上空に正体不明のバルーンが出現した東京を舞台に、失踪した大学生の息子・臣を探す母と臣の恋人の対話をサスペンスフルに描く。

臣の母親・衣舞(えま)役を『六月の蛇』(2002)『楽園』(2019)の黒沢あすか、臣の恋人・みどり役を『樹海村』(2021)『真夜中乙女戦争』(2022)の山口まゆが演じる。

また『ASTRO AGE』の主演を『猿楽町で会いましょう』『真・鮫島事件』(2021)の小西桜子が、『つれない男』の主演を荒谷清水が務め、個性的かつ実力派の俳優が各作品を彩る。

映画『3つのとりこ』のあらすじ


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

映画『それは、ただの終わり』のあらすじ

有害物質を放っているとされる正体不明のバルーンが浮遊する東京で、ある日忽然と姿を消した大学生の臣。手がかりを求めて上京した臣の母・衣舞は、息子の恋人・みどりとともにその消息を探っていく。

話がすれ違う2人だったが、やがて臣は生死に関わる危険にさらされているのではないかという疑念が浮かび上がる。

映画『ASTRO AGE』のあらすじ


(C) 六本企画 『ASTRO AGE』

若手サイエンスライターのみさきは、有人小惑星探査を成功させて地球に帰還した宇宙飛行士へのインタビューを任される。

夢のようなオファーに張り切っていると、やがて思いもよらない宇宙観に遭遇する……。

映画『つれない男』のあらすじ


(C) 六本企画 『つれない男』

男は毎朝スーツに身を包み、妻に見送られて家を出る。しかし向かうのは会社ではなく、いつもの川。

素人の釣り人をあざ笑い、ただひたすら釣るのだったが……。

その夜、帰宅した男は自分のしくじりに呆然とする。

タキザワレオのプロフィール

2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。

好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。




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