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Entry 2022/07/07
Update

【石井杏奈インタビュー】映画『破戒』間宮祥太朗に感じた“ドキドキ”×自分の意思と“ありのまま”で勝負する大切さ

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『破戒』は2022年7月8日(金)より丸の内 TOEIほかにて全国公開!

島崎藤村の不朽の名作小説『破戒』。1948年には木下恵介監督が池部良主演で、1962年には市川崑監督が市川雷蔵主演で映画化された小説が、間宮祥太朗主演にて60年ぶりの映画化を果たしました。

主人公・瀬川丑松は下宿する寺の娘・志保に恋心を寄せますが、身分の差により告白できずに葛藤します。その志保を演じたのが、テレビドラマや映画出演が続く石井杏奈。本作が初めての時代劇出演となります。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、石井杏奈さんにインタビュー。

ご自身が演じられた志保に対する想い、前田和男監督の“恋”を描くための細やかで丁寧な演出などについて、貴重なお話を伺いました。

誰もが知る作品で、自分には何ができるか?


photo by 田中舘裕介

──本作へのご出演が決まった際のお気持ち、そして脚本を読まれた際のご感想をお聞かせいただけますでしょうか。

石井杏奈(以下、石井):私はこれまでに時代劇を経験したことがなかったので、お話をいただいた時には「だからこそ挑戦したい」という思いに至りました。そして、『破戒』という誰もが知る作品を自分が演じるにあたり何ができるのか、いろいろと考えました。

いただいた脚本には、共感できる部分がたくさんありました。また志保は控えめでおとなしい性格にもかかわらず、根底には強い芯が確かにあり、とても素敵な女性でした。それを演じる上でもしっかり表現したいと思いました。

──本作にて時代劇に初挑戦された石井さんですが、和装での所作は難しかったでしょうか。

石井:志保は蓮華寺の娘です。襖を開ける、お茶を出すといった所作が多かったので、現場には早く入った上でひとつひとつ丁寧に教えていただきました。

正座から立ち上がる時は、つま先から立つ。そうした基本的な所作も今回初めて知りました。普段、長時間正座をすることがないので足が痺れたり、次の日は足が筋肉痛になったりして本当に大変でしたが、いい経験をさせていただいたと感じています。

「二人は“恋”をしている」と感じた前田和男監督の演出


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

──志保の役作りはどのように進められていったのでしょうか。

石井:前田和男監督との顔合わせのタイミングで、監督の志保像と私の志保像をすり合わせていきました。

前田監督からは「志保は控えめでおとなしい性格ですが、強い意志を持っていて、同じ匂いがする丑松さんに魅かれます」「なかなか顔を合わせないのですが、目が合った瞬間、恋に落ちる。そこで桜の花びらが舞う演出をする予定です」と話していただいたので、とてもわかりやすく、ロマンチックで素敵だなと思いました。それは現代を生きる人にとってもキュンキュンするような描写だと思いますし、桜の花びらを想像しながら志保を作りました。

──石井さんの眼から見た前田監督の演出について、より詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

石井:特に記憶に残っているのは、志保が丑松さんと一緒に与謝野晶子さんの新作の詩を読む場面です。一緒にページをめくるために、少しずつ距離が近づいていく演出は良い意味で現代らしくなく、演じていてもとてもドキドキした記憶があります。

劇中で志保と丑松さんが「一緒に何かをする」というのはその場面が初めてだったこともあり、「二人は一緒に“恋”をしているんだ」と感じられました。その場面を通じて、前田監督の演出のすごさを改めて実感しました。

最初から丑松そのものだった間宮祥太朗


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

──主人公・丑松を演じられた間宮祥太朗さんとは、本作が初共演となったとお聞きしました。

石井:間宮さんとは衣装合わせの時に初めてお会いしたのですが、当日のタイムスケジュールのタイミングもあり、お話はあまりできず、その際にはご挨拶をするのがやっとでした。

次にお目にかかったのは撮影現場だったのですが、間宮さんはすでに着物を着ていらしたので、私の中で間宮さんは最初から丑松さんそのものでした。隣に座り、撮影が始まるのを待っていても、あえて丑松さんと志保のように黙っていたので、出会いの場面の撮影で改めて間宮さんと目が合った時は、志保と同じくらいドキドキしてしまいました。


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

──ポスタービジュアルに使用されている場面も、仕草と表情だけで丑松と志保の“恋”の想いが伝わってきました。

石井:あの場面は撮影現場で、前田監督から「丑松が自分の手を志保の手に添えて、触れ合うという演出で撮影をしたい」と説明を受けました。

それまでは心の距離だけが近づいていたのが、あの場面でようやくお互いに見つめ合い、微笑み、直接触れ合う。未来に向かっていくという場面にふさわしい演出に感じられました。この時もお芝居はゆっくり進んでいき、その中でもドキドキを感じられたので、そうした雰囲気も全て、スクリーン越しに伝わって欲しいと思っていました。

ありのままで勝負する大切さ


photo by 田中舘裕介

──志保はつらいことがあっても、へこたれない強さを持っている女性として映画では描かれています。その姿は、彼女を演じられた石井さんご自身ともどこか重なります。

石井:人は大きな壁や高いハードルを乗り越えることで強くなりますし、試練がたくさんあるからこそ、乗り越えた先に幸せが待っていると感じています。

志保にとってつらいことがたくさんあっても、周りには丑松さんやお寺のお母さん、大切な弟がいる。みんなが懸命に生きている姿に勇気をもらって自分も進もうとする。

私自身も人生において悩んだり、悲しい出来事があったりしても、その中に自分の生きがいややりがいを見つけて前に進みたいと思ってきました。志保の生き方は自分の人生に対する考え方とも重なり、共感できました。

──石井さんにとって、『破戒』はどのような映画となったと感じられましたか。

石井:この作品は、周りの人の目をいい意味で気にしません。何より、自分の意思を貫く強さが伝わる作品だと感じています。

だからこそ若い世代の方に今、観てほしい。SNSなど、良くも悪くも匿名で様々な主張・意見を伝えられる今、ありのままで勝負する大切さをこの作品を通してお伝えできたらと思っています。

インタビュー/ほりきみき
撮影/田中舘裕介

石井杏奈プロフィール


photo by 田中舘裕介

1998年生まれ、東京都出身。『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(201、5監督:成島出)と『ガールズ・ステップ』(2015、監督:川村泰祐)の2作でブルーリボン賞新人賞を受賞。

テレビドラマ『仰げば尊し』(2016)では、コンフィデンスアワード・ドラマ賞新人賞を受賞。その他『東京ラブストーリー』(2020)、『シェフは名探偵』(2021)、『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』(2022)に出演。映画の出演作では『心が叫びたがってるんだ。』(2017、監督:熊澤尚人)、『ブルーハーツが聴こえる』の一編「1001のバイオリン」(2017、監督:李相日)、『記憶の技法』(2020、監督:池田千尋)、『ホムンクルス』(2021、監督:清水崇)などある。

近作では『砕け散るところを見せてあげる』(2021、監督:SABU)で主演を務める。そして2022年8月には東宝×NHKミュージカル『みんなのうた』でミュージカルに初挑戦する。

映画『破戒』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
島崎藤村

【監督】
前田和男

【脚本】
加藤正人、木田紀生

【キャスト】
間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、小林綾子、七瀬公、ウーイェイよしたか(スマイル)、大東駿介、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、眞島秀和

【作品概要】
島崎藤村の同名小説を、1962年の市川崑監督版から60年ぶりに映画化。主演を務めるのは近年、映画『東京リベンジャーズ』やテレビドラマ『ファイトソング』『ナンバMG5』に出演するなど、活躍が目覚ましい間宮祥太朗。自らの出自に苦悩しつつも、最後にはある告白を決意する主人公・丑松という難役に挑戦した。

相手役・志保を演じるのは石井杏奈。丑松に恋心を寄せつつも、なかなか思いを告げられない女性を演じる。また葛藤する丑松を支える親友・銀之助役には矢本悠馬。その他にも眞島秀和、高橋和也、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、大東駿介、小林綾子などが顔を揃えた。

脚本は『クライマーズ・ハイ』『孤高のメス』『ふしぎな岬の物語』で日本アカデミー賞優秀脚本賞ほか数々の受賞歴を誇る加藤正人と、『バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌』で第58回毎日映画コンクール脚本賞を受賞した木田紀生。

そして監督を、椎名桔平主演映画『発熱天使』(高崎映画祭招待作品)やキネマ旬報「文化映画部門」ベストテン7位の『みみをすます』(教育映画祭最優秀賞・文部科学大臣賞)を手がけた前田和男が務める。

映画『破戒』のあらすじ


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自分が被差別部落出身ということを隠して地元を離れ、ある小学校の教員として奉職する。彼はその出自を隠し通すよう、亡くなった父からの強い戒めを受けていた。

彼は生徒に慕われる良い教師だったが、出自を隠していることに悩み、また差別の現状を体験することで心を乱しつつも、下宿先の士族出身の女性・志保(石井杏奈)との恋に心を焦がしていた。

友人の同僚教師・銀之助(矢本悠馬)の支えはあったが、学校では丑松の出自についての疑念も抱かれ始め、丑松の立場は危ういものになっていく。苦しみの中で丑松は、被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)に傾倒していく。

猪子宛に手紙を書いたところ、思いがけず猪子と対面する機会を得るが、丑松は猪子にすら自分の出自を告白することができなかった。そんな中、猪子の演説会が開かれる。

丑松は、「人間はみな等しく尊厳をもつものだ」という猪子の言葉に強い感動を覚えるが、猪子は演説後、政敵の放った暴漢に襲われる。この事件がきっかけとなり、丑松はある決意を胸に、教え子たちが待つ最後の教壇へ立とうとする。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




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