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【松本優作監督インタビュー】映画『ぜんぶ、ボクのせい』逃げずに受け止め、考えなくては本当の意味での“未来”はない

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『ぜんぶ、ボクのせい』は2022年8月11日(木・祝)より新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー!

どこにも自分の居場所を見つけられない少年が、心の傷を抱えた孤独な人々と出会い成長する。

映画『ぜんぶ、ボクのせい』は、絶望の果てに希望を見出そうとする少年の葛藤を描き、少年の最後の一言とその表情は映画を観る者の心に深く響きます。


(C)Cinemarche

監督は2008年に起こった秋葉原無差別殺傷事件をベースにした監督作『Noise ノイズ』で劇場デビューを果たした松本優作。脚本から手がけ、自分の力で生きていくことを学び始めた少年の成長を詩情豊かに描き出しました。

このたびの劇場公開を記念し、松本監督にインタビュー取材を敢行。本作の物語の着想やキャスティング、タイトルに込められたご自身の思いについて語っていただきました。

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現代社会を子どもの視線によって捉える


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──商業デビュー作となった本作は、松本監督によるオリジナル脚本作品でもあります。本作の物語はどのような着想によって生まれたのでしょうか。

松本優作監督(以下、松本):今の社会全体を、子どもの視線によって捉えて映画を作りたいとずっと思っていました。また、本作は前作『Noise ノイズ』とも根底で繋がっているテーマだと思います。プロデューサーの甲斐真樹さんとお会いしたことがきっかけで、企画が動き出しました。
甲斐さんと一緒に、一年ほど脚本とガッツリ向き合いました。不条理を抱えた人たちの物語にしたいと思っていたんです。

オダギリジョーとともに目指した完成像


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──本作のキャスティングはどのように進められていったのでしょうか。

松本:脚本を一旦書き上げた上でオファーをさせていただくのですが、決まったキャストさんに合わせて役の人物像を書き換えたり、キャストさんとの対話を通じてアイディアをいただいたりする中で、物語が変化していくこともありました。そのため脚本の執筆作業とキャスティングは並行して進めていきました。オダギリさんにご出演していただくことが決まったときは、とてもうれしかったです。

──オダギリさんから何か提案はありましたか。

松本:オダギリさんからは、坂本の人物像についてたくさんご提案いただきました。オダギリさんも僕も『ペーパームーン』(1973)や『パーフェクト・ワールド』(1993)のような大人と子どもの関係性を描いた映画が好きだったので、そうした作品をイメージし、疑似親子的なことを意識しながら作り上げていきました。

坂本は最初、もう少し違う形のキャラクターだったのですが、オダギリさんに演じていただけることになってから、いろいろお話をし、今の坂本になりました。

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「目つき」が決め手だった白鳥晴都


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──主人公・優太を演じられた白鳥晴都さんは、瀬々敬久監督の『とんび』(2021)でスクリーン・デビューを果たし、2作目の映画出演作となる本作では主演を務められました。

松本:映画の終盤にはアップで優太を映し出す場面があるため、オーディションではその画でのお芝居をやり遂げられる男の子を探していました。お芝居の経験のある方も大勢オーディションには集まってくれましたが、晴都くんの目にドキッとさせられたのです。お芝居の巧さよりも表情、特に目つきが決め手でした。

現場でもお芝居そのものを教えるのではなく、晴都くんと信頼関係を築き、彼が安心してお芝居ができる環境作りを心がけました。そのためにも、彼とは積極的にコミュニケーションをとりました。晴都くんは1人で泊まり込みますから、思ったことを何でも言い合える関係性じゃないと長い撮影期間を乗り越えられないのではと思ったのです。


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──晴都さんの現場でのお芝居はいかがでしたか。

松本:優太は晴都くん自身と正反対の役であったため、役に入り込むことがすぐにはできなかったようです。しかし、逆に「白鳥晴都の幸せな生活を、松下優太は知らない」と考え、正反対の役だからこそ、彼の気持ちが少しずつ理解できてきたように見えました。

また現場ではその日の撮影が終わると、キャスト・スタッフが一緒に食事をしたりします。晴都くんが演じる優太とオダギリさんが演じる坂本は、最初はそれほど親しい関係ではなかったけれど、一緒に暮らしていくことでその関係性が深まっていく。晴都くん自身も、撮影が進むにつれてオダギリさんと仲良くなっていき、撮影以外の部分でも映画の物語と同じような関係性になっていったような気がしました。芝居のことも含めいろんな話をしていましたから、本作を通じて晴都くんがオダギリさんから受けた影響は多くあったと思います。

作中で映し出される優太と坂本の立ち位置も、「斜め」になっている場面がいくつかあります。親子なら並んでいるだろうけれど、この二人は違う。真横に立つのは気が引けるのか、少し後ろや、少し斜めに立つ。オダギリさんと晴都くんが、坂本と優太の心の距離感を感じながらお芝居してくれたことで、自然とそういう立ち位置になったのではと思います。

ひどく怖いけれど、ひどく温かいもの


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──川島鈴遥さんが演じられた詩織は、中学生の優太が憧れを抱くお姉さん的存在をして記憶に残りました。詩織の役作りはどのようにされましたか。

松本:詩織は作中で歌う場面があるので、オーディションの際にもその歌を歌っていただきました。中でも川島さんは、イメージにぴったりハマる感覚がありました。

詩織を演じてもらうに辺り、詩織の状況説明や僕の思いを伝えました。しかし基本的には川島さんご自身が脚本を読んでいく中で感じたことが詩織という役になっていったと思います。

──作中、詩織は火がもたらす「不安」と「安心」について言及しています。本作では他にも様々な形で「火」が描かれていますが、松本監督にとって「火」とは何なのでしょうか。

松本:僕は4年前、登山家・栗城史多さんのドキュメンタリー作品を撮るためにエベレストに行きました。その時に撮影対象者である栗城さんが滑落事故で亡くなられました。

その後、Bagmati River(バグマティ・リバー)という川にある火葬場を訪れたのですが、そこはネパール版ガンジス川のような場所で、亡くなった人のご遺体を燃やして、灰を川に流すのです。その光景を見た時、何とも説明し難い炎に対する特別な感覚を経験しました。ネパールでは故人が新しい人生を歩むことができると信じられているので、死は決して悲しいものではないのだそうです。ネパールの方々の死生観に僕自身が触れた時、少し気持ちが楽になったような気がしました。炎は人を生かすこともできるし、人を殺すこともできる。ひどく怖いけれど、ひどく温かくもあり、生と死を象徴している。人には敵わない自然の大きさを、身に刻まれたのです。

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答えが出ないものと「未来」について


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

──作中では、松本監督ご自身の死生観を強く感じさせられる場面も描かれています。

松本:僕の周りには何人か、自死を選んだ方がいます。そして彼らとの生前の交流を振り返る中で、「人間に平等に与えられている権利は、死くらいしかない」と感じさせられました。ただ「それならば、自由に死んでもいいのか」といったら、決してそうではありません。

詩織は優太より経済的には恵まれていて、なに不自由なく暮らしています。しかし父親が望むような人間になれず、わざと悪い友だちと付き合ったり、悪いバイトをしたりする中で、自分を傷つけないと生きていけない。なに不自由ないはずなのに、心がひどく不自由なのです。

道徳や倫理として自死を選んではいけないという答えがある一方で、尊厳死という答えが法律として許されている国もある。自分の中に答えがある映画を作るのではなく、答えが出ないものを映画で描きたいという思いがあったのかもしれません。

──『ぜんぶ、ボクのせい』というタイトルも強烈ですね。

松本:現在の社会は理不尽な目にあったりすると、それを何かのせいにして、怒りをぶつけないと生き難い世界だなと思っています。その結果、自殺や無差別殺傷事件が起きている。しかし未来を考えた時、それでいいのだろうか。

「何か」や「誰か」のせいにするのは簡単です。しかし「自分には関係ないこと」と目を逸らさず、自分なりにちゃんと受け止めないと、本当の意味での未来はないと思います。だからこそ本作は、このタイトルにしました。

子どもである優太が「ぜんぶ、ボクのせい」と自分自身で受け止めることが、果たして正しいのか。自分にも、よくわかりません。それを含めて、脚本を書いていた時に僕自身が感じたことを答えの一つとして作中に盛り込んでいますが、僕自身が出した答えを押しつけるのはまた違います。

映画をご覧になった方は、どう判断するのか。それぞれが未来のために考えるきっかけになる作品として受け取ってもらえたら、本作は映画として世の中に存在する意味があるのではないかと思います。

インタビュー/ほりきみき

松本優作プロフィール

1992年生まれ、兵庫県出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪に入学し映画制作をはじめる。

2017年自主映画『Noise ノイズ』がレインダンス映画祭をはじめ、多数の海外映画祭で上映され、海外メディア「Psycho-cinematography」では日本映画ランキング第1位、「Asian Film Vault」ではアジア映画ランキング第4位に選出され高い評価を得る。またニューヨーク、サンフランシスコでも劇場公開される。

2018年、ネパール×日本の合作短編映画『Bagmati River』が、Moon Cinema Projectにて企画グランプリを獲得。2019年に公開された短編映画『日本製造/メイド・イン・ジャパン』でも国内外の映画祭に出品、30分の短編としては異例の単独公開を成功させる。

また映画作品のほか、BMW、三井住友カードなどの広告作品や「乃木坂シネマズ~STORY of 46~」(2020/FOD)、「湘南純愛組!」(2020/Amazon)、「神様のえこひいき」(2022/Hulu)、「雪女と蟹を食う」(2022/テレ東)などのドラマ作品も手がける。

映画『ぜんぶ、ボクのせい』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本】
松本優作

【キャスト】
白鳥晴都、川島鈴遥、松本まりか、若葉竜也、仲野太賀、片岡礼子、木竜麻生、駿河太朗/オダギリジョー

【作品概要】
監督・脚本を手がけたのは、秋葉原無差別殺傷事件をモチーフにした『Noise ノイズ』(2019)が国内外の映画祭で話題を呼んだ松本優作。主人公の優太を演じるのは、オーディションで抜擢された白鳥晴都。演技未経験ながら瀬々敬久監督の映画『とんび』(2022)でスクリーン・デビューを果たし、2作目にして主演の座を射止めた。

一方、飄々としながら心に深い傷を持つホームレスの男・坂本をオダギリジョー、誰にも言えない苦しみを抱えながら優太に優しく接する詩織を川島鈴遥が演じた。川島鈴遥はオダギリジョー監督作『ある船頭の話』(2019)で主役を演じて第34回高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞している。その他、松本まりか、若葉竜也、仲野太賀、木竜麻生など多彩なキャストが参加。

映画のエンディングは大滝詠一が作詞作曲をした名曲「夢で逢えたら」。様々なシンガーに歌われてきたスタンダードナンバーだが、本作で使用されたのは大滝が亡くなった後、2014年に初公開された大滝本人が歌ったヴァージョン。

映画『ぜんぶ、ボクのせい』のあらすじ


(C)2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

児童養護施設で暮らす13歳の中学生・優太(白鳥晴都)は、施設でも学校でもいじめられ、いつも一人ぼっち。自分を理解してくれる大人もいない。母・梨花(松本まりか)が迎えに来てくれることだけを心の支えに毎日を過ごしているが、一向に現れず不安を募らせていく。

そんなある日、偶然母の居場所を知った優太は、会いたい一心で施設を抜け出し、地方に住む母のアパートを訪ねる。ようやく再会するも、同居する男に依存し自堕落な生活を送る母は、優太に施設へ戻ってほしいと頼むのだった。

絶望した優太は、施設の職員の追手を逃れ、当てもなく辿り着いた海辺で、軽トラで暮らすホームレスの男・坂本(オダギリジョー)に出会う。何も聞かず自分を受け入れてくれる坂本。二人でわずかな金銭を稼ぎながら寝食をともに過ごす。

ある日、坂本の元を訪れる少女・詩織(川島鈴遥)とも顔見知りになる。詩織は、近くの高級住宅地に住み裕福な家庭に育つも、誰にも言えない苦しみを抱え、空虚感を埋めるかのように援助交際をしていた。優太は自分と同じ寂しさを抱えながらも心優しい詩織に惹かれていく。

孤独を抱えた二人と過ごしていく中で、優太は自由気ままに生きる坂本をいつしか会ったことのない父親の姿と重ね合わせるようになる。そして優太は、軽トラの修理が終わったら坂本と一緒に名古屋に行くことを約束する。

しかし、そんな穏やかな日々もある事件によって終わりを告げる……。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




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