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Entry 2022/09/07
Update

【川瀬陽太インタビュー】『激怒』高橋ヨシキ監督と“全く違う映画の見方”の人々と作ったから完成できたもの

  • Writer :
  • 河合のび

映画『激怒』は2022年8月26日(金)より全国順次公開中!

アートディレクター・映画ライターとして活躍する高橋ヨシキが企画・脚本・監督を務め、自身初の長編監督デビュー作となった映画『激怒』。

激怒と暴力に飲み込まれた果てに不祥事を起こし、治療により「怒り」の感情を封印された刑事が、「安心・安全なまち」へと変わり果てた町で孤独な戦いに身を投じるハード・バイオレンス作品です。


(C)Cinemarche

このたびの劇場公開を記念し、本作の主演にして主人公の刑事・深間役を務め、「近年の日本映画で最も多数の映画に出演している」と評される川瀬陽太さんにインタビュー。

高橋ヨシキ監督と本作を制作するにあたっての「ある提案」、自身が俳優ひいては映画作りの世界へ進むことになったきっかけなど、貴重なお話を伺いました。

「混成」のチームを作るために


(C)映画「激怒」製作委員会

──旧知の仲である高橋ヨシキ監督に本作の企画を相談された後、川瀬さんは映画作りにあたって「ある提案」をされたとお聞きしました。

川瀬陽太(以下、川瀬):今回、僕がヨシキと一緒に映画を作る上で一番懸念していたのは、ヨシキと映画の趣味や好みが合う人だけが集まって、内向きになって映画を作ってしまうリスクでした。

映画作りがディティール追求という方向性に偏ってしまい、監督であるヨシキにとっても望んでいない形へと映画が固まってしまう。「それは嫌だな」と僕は思ったし、ヨシキ自身もそれは望んでいなかった。そこで本作を制作するにあたって、企画を国映さんに持ち込んだんです。

滝田洋二郎さんや瀬々敬久さんを輩出しているピンク映画の老舗プロダクションで、僕が商業映画の世界へ行くきっかけを作ってくれた会社です。そこにはヨシキをはじめ、自分たちと映画への思考が異なる人たちがたくさんいる。僕はそれに、この映画を完成させられる勝算があると感じられた。

企画を練っていた初期、打合せを終えた後にラインプロデューサーの坂本礼さん、プロデューサーの森田一人さんたち、そしてヨシキと一緒に飲みに行くこともありましたが、その席ではお互いに全く異なる映画や監督の話題が出てくる。ヨシキと映画の見方が全く違うからこそ、「いつもの映画の話」にも大きな変化が生まれたわけです。

ヨシキと映画の見方が全く違う人が集まり、「混成」のチームができあがること。それが僕の望んでいたことであり、そうすれば面白い映画ができあがるかもしれないと思ったんです。

面白いから、続けられる


(C)映画「激怒」製作委員会

──川瀬さんの目から見た、本作の撮影現場の空気をお教えいただけますでしょうか。

川瀬:今回の現場には、ピンク映画や低予算映画を一緒に作り続けてきた人たち、映画作りの世界を10年・20年を走ってきた人たちがスタッフが大勢いました。いずれも地に足のついた百戦錬磨の人たちだったからこそ、阿吽の呼吸といえるほどに撮影をスムーズに進められましたし、「俳優部を含め、全員が演出する」という空気が現場にはありました。

ただ何より、今回の映画を面白がってくれたから、現場に参加してくれたという人が多かった。それは単純に、ヨシキや僕たちが企画を練り続けたからこそ「あの人たちが面白いものを作ろうとがんばっているから、何か協力できないかな」と感じとってくれたからだと考えています。本当に感謝しかありません。

──インディーズ・メジャー問わず様々な作品に出演され続ける川瀬さんも、出演を考えられる際の重要な指標の一つに「面白さ」を据えられているのでしょうか。

川瀬:それがないと、できないですからね。「なんで、こんなにつらいことを続けるのか」という問いがある一方で、面白いからこそ続けられる。

僕は今年で53歳になりますが、ありがたいことに色々なお仕事をいただけています。また今回の『激怒』が劇場で公開される様子を実際に目にしたことで、「自分は望まれている」という感覚を少なからず持てましたし、これまでの自分がやってきたことが報われたように思えました。

世界への入り口が開かれた瞬間


(C)Cinemarche

──俳優として活動を始められる以前は助監督として映画作りに携わっていた川瀬さんですが、映画作りの世界に入られたそもそものきっかけは一体何だったのでしょうか。

川瀬:元々、僕は美術系の学校を目指していたんですが、受験当時は第二次ベビーブームの影響もあって倍率がかなり高く、結局浪人してしまったんです。

その後、美術系の予備校である代々木ゼミナール造形学校に通い始めたんですが、そこへ一緒に通っていたパンクスの女友だちに「映画、好きなんでしょ」「この間、私知り合いに頼まれてフライヤーを作ったの」と一枚のチラシを渡された。それが、福居ショウジンさんが当時作ろうとしていた映画『ピノキオ√964』(1991)のスタッフ募集チラシだったんです。

以降にも何かしらのきっかけが生じた可能性自体はありますが、やっぱりそのチラシをもらっていなかったら、僕は映画作りの世界に入っていなかった。彼女とは全然会っていないですが、今でも感謝しています。

東京近郊の生まれで映画を観るのに恵まれた環境で、8ミリカメラで映像を撮ったりもしていたけれど、映画のプロになるとは微塵も思っていなかった。彼女にチラシをもらったあの瞬間、映画作りの世界への入り口が開かれたんです。

出会いが、全て


(C)Cinemarche

──映画の観られ方と同時に俳優の観られ方も変化していく中で、川瀬さんご自身が「俳優」というお仕事に対する認識に変化を感じられたことはありますか。

川瀬:正直、僕個人としてはないですね。ただ、元々映画が好きで入った世界ではありますが、そこで生き続ける中で「夢」は「仕事」になっていったのは確かです。

また僕は、割と他力本願なんです。友だちからチラシをもらったことで映画作りの世界に入ったり、「ちょっとやってみない」と言われて俳優の仕事を始めたりなど、周りの人々のおかげで今の仕事がある。出会うことのできたものや人々が、自分自身のライトスタッフ(正しい資質)と合っていたのも大きかったのかもしれません。

出会いが、全てなんだと思います。

『激怒』も、ヨシキほどの人であればメジャーから企画に声をかけられることもあったかもしれない。ただ、これまで出会ってきた僕らとともに作ったからこそ、現在の形へと完成したんだと思います。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識
場面写真スチール/ノーマン・イングランド

川瀬陽太プロフィール

1969年生まれ、神奈川県出身。1995年、助監督で参加をしていた福居ショウジン監督の自主映画『RUBBER‘SLOVER』で主演デビュー。その後、瀬々敬久監督作品をはじめとする無数のピンク映画で活躍。現在も自主映画から大作までボーダーレスに活動している。

近年の主な映画出演作に『まんが島』『シン・ゴジラ』『バンコクナイツ』(ともに2016)、『月夜釜合戦』『PとJK』『blank13』『羊の木』『海辺の生と死』『息衝く』(ともに2017)、『体操しようよ』『高崎グラフィティ。』『菊とギロチン』『億男』(ともに2018)、『おっさんのケーフェイ』『天然☆生活』『ゴーストマスター』『JKエレジー』『たわわな気持ち』(ともに2019)、『子どもたちをよろしく』『横須賀綺譚』『テイクオーバーゾーン』『とんかつDJアゲ太郎』『ファンファーレが鳴り響く』(ともに2020)、『農家の嫁は、取り扱い注意!』『由宇子の天秤』(ともに2021)、『マニアック・ドライバー』『この日々が凪いだら』『夜を走る』『遠くへ、もっと遠くへ』『ミューズは溺れない』『やまぶき』(ともに2022)など。

主なテレビ・配信ドラマに『anone』(2018)、『ひとりキャンプで食って寝る』『監察医朝顔』(ともに2019)、『深夜食堂 第五部』『竜の道』(ともに2020)、『ッドアイズ監視捜査班』『SUPERRICH』(ともに2021)、『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』(2022)などがある。

冨永昌敬監督の『ローリング』、山内大輔監督『犯る男』などでみせた確かな演技により、2015年度第25回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞した(染谷将太と同時受賞)。

映画『激怒』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本・企画】
高橋ヨシキ

【キャスト】
川瀬陽太、小林竜樹、奥野瑛太、彩木あや、水澤紳吾、⽊村知貴、安藤ヒロキオ、渋川清彦、井浦新

【作品概要】
アートディレクター・映画ライターの高橋ヨシキの長編デビュー作となるバイオレンス映画。『ローリング』(2015)など数多くの映画に出演してきた川瀬陽太が主演を務める。

『横須賀綺譚』(2020)の小林竜樹、『太陽の子』(2021)の奥野瑛太ら、邦画界で活躍する注目の若手が共演するほか、本作で映画デビューを飾る彩木あやがヒロインのアンナを演じる。

さらに『キングダム』(2019)の藤原カクセイが特殊メイク・特殊造形を担当するなど、ユニークなスタッフ陣が多数参加している。

映画『激怒』のあらすじ


(C)映画「激怒」製作委員会

中年の刑事・深間は、いったん激怒すると見境なく暴力を振るってしまうという悪癖があった。

かつてはその強引な手法により街から暴力団を一掃した功労者と讃えられた深間だったが、度重なる不祥事に加え、大立ち回りで死者まで出してしまったことの責任を問われ、治療のため海外の医療機関へと送られることになる。

数年後、治療半ばにして日本に呼び戻された深間は、見知った街の雰囲気が一変してしまったことに気づく。行きつけだった猥雑な店はなくなり、親しい飲み仲間や、面倒をみていた不良たちの姿もない。さらに、町内会のメンバーで結成された自警団が高圧的な「パトロール」を繰り返しているのだ。

一体、この街に何が起きているのか? 

「安全・安心なまち」の裏に隠された真実に気づいた時、深間の中に久しく忘れていた怒りの炎がゆらめき始める……。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介





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