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Entry 2023/07/25
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映画『プレジデント』カミラ・ニールセン監督インタビュー|ジンバブエ国民の“立ち上がる力”とアートの“人々を動かし世界を動かす力”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『プレジデント』は2023年7月28日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかで全国順次公開!

2017年の軍事クーデターにより、37年間にわたる独裁政権を築いたロバート・ムガベ大統領が失脚し、エメルソン・ムナンガグワが暫定大統領に選ばれたジンバブエ共和国。

映画『プレジデント』はクーデター後初となるジンバブエ大統領選の行方を、現職のムナンガグワに挑戦する野党MDC連合の党首ネルソン・チャミサの姿を通して記録したドキュメンタリーです。


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

このたびの日本での劇場公開を記念し、本作を手がけたカミラ・ニールセン監督にインタビュー

同じくジンバブエ民主化の動向を追った前作『Democrats』を含む映画の制作経緯、2010年以来撮影を続けてきた中で感じたジンバブエ国民への想い、そしてアートが持つ力など、貴重なお話を伺うことができました。

ジンバブエの“今後”を新たに記録するために


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

──ニールセン監督はジンバブエの新憲法制定とともに勃発した権力闘争を題材にした前作『Democrats』に続いて、本作でもジンバブエの政治状況をドキュメンタリーという手法で描いています。そもそもニールセン監督がジンバブエという国家と出会われた経緯は何でしょうか。

カミラ・ニールセン監督(以下、ニールセン):2010年のジンバブエでの新憲法制定の動きは、大統領の権限縮小を含んだ民主的な憲法を作るという目的から起こったものでしたが、「憲法を作る際に様々な妨害や工作が行われるのではないか」という疑いがあったため、その客観的な証人役として自分が招かれたわけです。

私が暮らすデンマークや他の国々でも、憲法が作られる実際の過程を詳細に残した映像記録はなく、それをリアルタイムで記録できるということは大変興味深い機会だと思いました。そうして前作『Democrats』の制作に至ったのです。

私が『Democrats』のために3年間撮影を行った中で、ジンバブエの野党陣は非常に戦略的に憲法作成を進め、結果として大変民主的な素晴らしい憲法を完成させました。しかしながら、当時のムガベ元大統領は法案書類にサインはしたものの、法として有効にすることはしませんでした。


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

ニールセン:2013年に行われた大統領選でも不正が行われ、ムガベ大統領はそのまま権力を握り続けることになりました。『Democrats』ではそうした現実も全て映し出したのですが、その結果検閲によりジンバブエ国内での上映を禁止され、憲法作成に携わっていた法律家たちは「民主的憲法を作る過程を描いた映画が上映できないのは、あまりに非民主的だ」と2年半に渡り裁判で戦いました。

やがてムガベ元大統領は2017年のクーデターで権力を失ったのですが、それに伴い『Democrats』も国内上映が可能となりました。今となっては、それも暫定大統領に選ばれたムナンガグワが「自身の政権がムガベ政権時代に比べてより民主的である」とアピールするために過ぎなかったのかもしれませんが、その裁判のために改めてジンバブエへ訪れました。

そして映画に出演してくださった法律家の方たちに「ぜひ映画の続編を作ってほしい」「ジンバブエの今後を新たに記録してほしい」「そして『自由で民主的な選挙』が次の大統領選で行われるかの証人になってほしい」と頼まれて作り上げたのが、今回の『プレジデント』なのです。

“変化”を切望する人々が持つ“立ち上がる力”


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

──前作『Democrats』、そして『プレジデント』を通じてジンバブエという国を撮影し続けてきた中で、ニールセン監督はジンバブエ、そしてそこに生きる人々に対してどのような想いを抱かれたのでしょうか。

ニールセン:私は2010年以来、ジンバブエ国内を撮影してきましたが、現地で育んできたコミュニティやネットワークをとても大事にしています。

また『プレジデント』のエンドクレジットでは、20名ほどのジンバブエ国民の方々を紹介しているのですが、その方々は映画を作る上で大変重要な協力者であり、名前を出すことは生命の危険につながることから個々人の名前はいずれも伏せています。しかしながら、そうした危険が生じ得る状況の中でもその方々は映画制作に協力してくれました。


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

ニールセン:ジンバブエという国は、ムガベ政権による独裁以前からもイギリスの植民地支配によって多くの抑圧や差別を長い間受けてきた国であり、常に「変化」を求め続けてきた国です。だからこそクーデターが起こった時、ジンバブエに生きる人々は「真の民主化」という変化を切望したのです。

ジンバブエでは政府側の人間にのみ利権が集中し、それ以外の大勢の国民は非常に貧しい状況にあります。ですが、基本的人権を侵害されるような生活を送っているのにも関わらず、それでもジンバブエの人々は毎日起き上がって、自身の仕事に向かうのです。

その「立ち上がる力」ともいうべき忍耐力、生きることに希望を持ち続けられる力を私は最も尊敬していますし、どんな暴力を受けようとも平和的手段によって人権のために闘い続ける人々の原動力は、そこにあるのだと思います。

人々の心に語りかけ、世界を変化させ得るアート


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

──ニールセン監督が映画を作り続ける理由とは何でしょうか。

ニールセン:私自身は、映画を作るという自分の仕事は「ジャーナリスト」ではなく「アーティスト」としての仕事だと思っています。そしてアートは、政治やその他のもの以上に、世界を変える可能性があるものだと感じています。

私は『プレジデント』でも、ジャーナリズムに基づいて一つの事実に対する両者の意見を中立公正に描いてはいませんし、あくまで現実に起こっている出来事を「自分自身の眼」という主観で追い続け、切り取った現実を物語として構成しているだけに過ぎません。ですが、そうした過程で作られることにアートの重要性はあるのだと思います。


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

ニールセン:私は人々の脳にではなく、その心に語りかける映画を作ることを目指しています。そうすることで人々の心は動かされ、人々が生きる世界もまた動かすことができるのだと信じています。

そしてアートが人々を、世界を変え得る力を持つと権力者が知っているからこそ「アートなどの文化事業に対する助成金が世界レベルで削られ続け、第二次世界大戦以降で最も世界各国の軍備費が増大している」という昨今の状況が生まれたのでしょうし、私はその状況を非常に危惧しています。

またジャーナリズムは「私たちが、お互いにどう違うのか」に焦点を当てることが多いのですが、映画を含むアートは、古代の古典文学がいまだに読まれ愛され続けている通り「私たちが、いかに同じ『人間』なのか」を人々に伝えられるものだと感じています。

どんな時代、どんな場所、どんな人間であっても「『人間』とは何か」を描くことができる。それがアートの根幹なのだと思っています。

インタビュー/河合のび

カミラ・ニールセン監督プロフィール

1997年から2000年まで、フルブライト奨学生としてニューヨーク大学ティッシュ芸術学部と同大学人類学部でドキュメンタリー映画制作と映像人類学を学ぶ。

卒業後は、子どもの権利をテーマにしたドキュメンタリー短編三部作『Good Morning Afghanista』(2003)『Durga』(2004)『The Children of Darfur』(2005)、「Cities on Speed」シリーズの『Mumbai Disconnected』(2009)などを監督。

2007年以降は『We Will Be Strong in Our Weakness』(2011:ベルリン国際映画祭、2011:ヴェネツィア・ビエンナーレ)、『Demonstrators』(2011)、「Re:Constructed Landscapes」展(デンマーク国立美術館/コペンハーゲン国立美術館)などで評価される。

前作にあたるドキュメンタリー映画『Democrats』(2014)は80以上の映画祭で上映され、トライベッカ映画祭2015で最優秀ドキュメンタリー賞、ノルディックパノラマ2015で最優秀ドキュメンタリー賞を含む20の賞とノミネートを獲得している。

映画『プレジデント』の作品情報

【日本公開】
2023年(デンマーク・ノルウェー・アメリカ・イギリス合作映画)

【監督】
カミラ・ニールセン

【製作】
シーネ・ビュレ・ソーレンセン、ジョスリン・バーンズ

【製作総指揮】
ファンディウェ・ニュートン、ダニー・グラバー

【撮影監督】
ヘンリック・ボーン・イプセン 

【編集】
イェッペ・ボッドスコフ

【出演】
ネルソン・チャミサ、エマソン・ダンブゾ・ムナンガグワ、ロバート・ガブリエル・ムガベ、ジャスティス・プリシラ・チグンバ、モーガン・ツァンギライ

【作品概要】
本作を手がけたのは、デンマーク出身の女性監督カミラ・ニールセン。ジンバブエの新憲法制定に向けた権力闘争を追った前作『Democrats』(2014)はトライベッカ国際映画祭で最高賞を受賞するなど高評価を受けた。

『Democrats』の続編とも位置付けられる本作は、ジンバブエの民主化を求める国民と与党の激しい対立を臨場感とともに映し出し、サンダンス国際映画祭ではワールドシネマ・ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞した。

映画『プレジデント』のあらすじ


2021(C)Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

1980年の独立以来、37年間にわたりジンバブエ共和国の政権を支配していたムガベ大統領がクーデターにより失脚。

後継者として同国第3代大統領に就任した与党、ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF党)の代表ムナンガグワは翌2018年に行われる大統領選において「平和で信用できる公正な選挙を行う」と口では公言する。

対する野党、民主変革運動(MDC連合)はモーガン・ツァンギライ党首のもと選挙に備えるが、大統領選の4ヶ月前にツァンギライ党首がガンで死去、MDC連合の新党首として若きカリスマと呼ばれるネルソン・チャミサが任命される。

変わらぬ支配を目論む与党と、長年の腐敗に疲弊し、国内政治体制の変革を求める民衆に後押しされる野党。多くの国内外のマスコミや国民が注目するなか、国の未来を決める投票が始まるが……。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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