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Entry 2019/05/18
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【チェン・ホンイー(陳宏一)監督インタビュー】台湾の恋愛映画『台北セブンラブ』の日本公開に寄せて

  • Writer :
  • 西川ちょり

”この映画は他の映画とは少し違う台湾映画です”

陳宏一(チェン・ホンイー)監督の長編第三作目にあたる映画『台北セブンラブ』(2014/原題:相愛的七種設計)が5月25日(土)からアップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場で公開されます。

企業コマーシャルやミュージッククリップなどの監督としても知られる、チェン・ホンイー監督の長編劇映画は本作が日本初公開。クラウドファンディングで上映が決まったことでも話題になりました。

2019年4月20日(土)から5月10日(金)まで開催された、東京・新宿のK’s cinema での特集上映“台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~”の一本として先行上映され、3回の上映が全て満員御礼の大ヒット。

建築ラッシュに沸く台北のデザイン事務所を舞台に、個性的な男女7人のデザインに対する熱い想いとそれぞれの恋愛模様が斬新なタッチで生き生きと描かれています。

現在チェン・ホンイー監督は台湾で新作を準備中。お忙しい中、インタビューに答えていただきました。

映画監督を志したきっかけ


(C)Red Society Films

──陳宏一監督の作品は、この『台北セブンラブ』が日本初上映ということで、まず監督ご自身のことをお聞かせください。映画監督を志したきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

チェン・ホンイー監督(以下、ホンイー):映画鑑賞が好きで、初めは試しに実験映画を撮影していました。

その後はMVやCM広告を制作するようになりましたが、結果的に映画が一番大きな挑戦であり、最も楽しい表現と気付きました。

気付いたら5編の長編映画を撮っていましたね。(笑)

──影響を受けた作品や監督を教えていただけますか。

ホンイー:私がずっと影響を受けてきた監督は、フランスのヌーヴェルヴァーグ映画の監督、ジャン=リュック・ゴダールです。

映画の舞台になった都市「台北」


(C)Red Society Films

──『台北セブンラブ』は、「台北三部作」の最終章ということですが、台北という都市にどのような想いをもっておられますか?

ホンイー:台北で生活して三十数年、台北に対しては、愛憎の念が入り混じっています。

いつでも台北は私に違ったインスピレーションを与えてくれます。それらのことから映画を制作していくことで、自分が考えることの整理をすることが出来ます。

──台北という都市が実に魅惑的に撮られていますが、特別な機材を使用するなど、特別な工夫をされた部分はありますか?

ホンイー:全て一般的な機材です。きっと鑑賞方法や角度の違いだと思いますよ。

参考映像:監督作品『消失打看 Honey PuPu』(2011)

──デザイナーを主役にし、“デザイン”をテーマにしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

ホンイー:前作『消失打看 HONEY PUPU(原題)』(2011)で、台北の消失を描き、この都市では多くのものが失われ、多くの新しいものが模倣により作られていることを痛感しました。

この頃、台湾では、創作やデザインに対する熱気が非常に高まっていました。自分自身でも関心が高い“デザイン”をテーマに映画を作ってみたいと思いました。

7人のユニークなキャラクター


(C)Red Society Films

──登場するデザイナーたちはそれぞれデザインに理想を持っており、デザインを信じていますが、商業主義との折り合いに悩んでいます。これは監督が映画を撮る際にも感じられることでしょうか?

ホンイー:私もまた、同じような悩みを感じたからこそ、この映画を撮ろうと触発されたのです。

──キャラクターが皆、とても生き生きしていて実に魅力的に描かれていますが、7人もの人物を描こうとした理由はありますか?

ホンイー:もし7人の違う観点がなければ、私の表したいデザインの後ろにあるそれぞれの考え方を、映画で討論するのは難しかっただろうと思います。

──『目撃者 闇の中の瞳』(2017)のアン・シュー(許瑋甯)、『台北に舞う雪』(2009)のモー・ズーイー(莫子儀)ら、日本でも馴染みのある俳優が多くキャスティングされています。キャスティングにあたって特に気をつけたことはありますか?

ホンイー:俳優との仕事は時に縁です…、お互い合うか合わないかが最も重要なことですね。

恋愛映画を演出することについて


(C)Red Society Films

──恋愛を描くことの面白さ、難しさについてお聞かせください。

ホンイー:面白いのは、愛の喜びも苦しみもどちらも美しくできること。難しいのは、どうやって新しいラブストーリーを新しい方法で語るかを考え出すこと。そのように考えています。

──冒頭に台本が出てきたり、物語の中盤にオフショットのようなやり取りが出てきたりというユニークな構成になっていますが、どこまでが演技でどこまでが俳優の素なのか戸惑いながらも不思議と違和感なく観ることができました。これも映画の“デザイン”ということでしょうか。

ホンイー:その通りです!(笑)

──登場人物に寄り添うような音楽が印象に残ります。音楽を担当された 張午午さんについて教えてください。

ホンイー:ご一緒するのは長編映画で2回目ですが、音楽をお願いすることは、特に精神上の共鳴に近いので、このことを言葉で表すのは、とても難しいですね。

日本の観客へのメッセージ

──最後に日本で『台北セブンラブ』を見る観客たちにメッセージをいただけますか。

ホンイー:この映画は他の映画とは少し違う台湾映画です。普通とは少し違うコメディ映画であり、恋愛映画です。

もしあなたが他人と少し違うことが好きならば、是非ご覧下さい!

陳宏一(チェン・ホンイー)監督のプロフィール

1967年2月14日生まれの台灣高雄出身。

高雄市立高雄高級中學、国立台湾大学哲学科卒業。500本以上のテレビCMと300本以上のMVを手掛けるディレクター・映画監督。

【長編映画】
花吃了那女孩 Candy Rain(原題)』 (2008)
第45回金馬奨 最優秀スタイリスト賞受賞
第23回イタリア・レバンテ映画祭 最優秀撮影賞、最優秀編集賞受賞

消失打看 Honey PuPu(原題)』(2011)
第25回スイス・フリブール映画祭(FIFF) 審査員特別推薦賞受賞
第13回台北映画祭 最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、最優秀撮影賞、最優秀音楽賞受賞

台北セブンラブ』(2014)
第48回ヒューストン国際映画祭 最優秀作品賞受賞
第51回金馬奨 最優秀新人賞、最優秀視覚効果賞ノミネート

自畫像 The Last Painting(原題)』(2017)
第10回スペイン・グラナダ国際映画祭 最優秀作品賞受賞
第2回ロサンゼルス華語映画祭 インディペンデント・スピリット賞受賞

映画『台北セブンラブ』のあらすじ

2014年、台北市が<2016 年世界デザイン首都>に選ばれ、デザイン業界は沸き立っていました。

エマは提出したアイデアがクライアントから全否定されておかんむり。

そんな彼女を同じデザイン事務所のバーズは女王と呼びますが、新しい女性デザイナーが入所すると聞き、エマに対抗心が生まれます。

新しくやってきたデザイナーはドロシーという美しい女性でした。

実は彼女はバーズが上海の事務所で働いていたときの同僚で元恋人。今回、バーズに誘われ、台北にやってきたのです。

バーズはドロシーにまだ未練たらたらで、彼女が事務所に現れた途端、口説き始めます。彼はドロシーとやり直したくてたまらないのですが、ドロシーは全くその気がありません。

若手デザイナーの阿強(アーチャン)と棋子(チーズ)は恋愛のようなそうでないような曖昧な関係を続けていました。

そんな彼らを統括しているのが、事務所の所長アンドリューで、バーズは彼の大学時代の後輩にあたります。

彼らは、バーズがとってきたデザインホテルのリノベーションプロジェクトに知恵をしぼります。

ホテルのデザインテーマは“愛”に決まりますが、ホテルの代表であるマークもドロシーに夢中になっていました。

果たして無事に“愛”はデザインできるのでしょうか。そして彼らの愛の行方は?

まとめ

映画『台北セブンラブ』は、5月25日(土)からアップリンク吉祥寺と大阪・第七藝術劇場で公開される他、6月1日(土)からは京都シネマでの公開も決まっています。

この機会を是非お見逃しなく!

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