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Entry 2019/07/23
Update

【ジョーナカムラ×こんどうようぢインタビュー】LGBT映画『アスリート』を観客がどのように感じてくれるか⁈ふたりの思いとは

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』が、2019年7月26日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー!

LGBTQへの関心が高まる中、ヘテロやゲイに関係なく、自身のセクシュアリティに悩む男性たちの切実な葛藤が描かれる感動の純愛物語が公開。


©︎Cinemarche

日本セクシュアルマイノリティ協会の協力のもと製作された本作『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』は、全国ロードショーを前に、第28回レインボ・ーリール東京(東京レズビアン&ゲイ映画祭)でも上映され話題になりました。

今回は、日本国内に留まらず、台湾や香港などで国際派俳優として活躍するジョーナカムラさんと、ジェンダーレス男子モデルとしてカリスマ的人気を誇るこんどうようぢさんにインタビューを行ないました。

セクシュアリティに揺れる男性同士の関係性や体当たりで挑んだラブシーンなど、撮影でのエピソードを交えた貴重な秘話を伺ってきました。

演じる役柄へのアプローチ

(C)2019 映画「アスリート 俺が彼に溺れた日々」製作委員会

──初めて脚本を読んだ時の印象はいかがでしたか?

ジョーナカムラ(以下、ジョー):脚本の最終稿をみた時に、アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(2005)を匂わせるような雰囲気をまず覚えました。私が演じた役どころは、ストレートから入ってゲイの世界に行くという段階を踏みますが、この部分をどうしようかとすごく悩みました。

──役のイメージはすぐに出来ましたか?

私は新宿2丁目の観光バーで働いていたこともあるので、そこで出会った色んなお客さんを思い出しながら、どの人のキャラクターが一番近いかなと想像しながら役作りしていきました。

──こんどうさんはいかがですか?

こんどうようぢ(以下、こんどう):とても重たい話だなと思いました。自分が親にカミングアウトしたり、相手の幸せのために身を引いたりと、人生の局面として盛りだくさんな脚本でした。

──ゲイの男性を演じてみた感想はいかがですか?

こんどう:僕は、今回、ストレートの人が自分を一目みて好きになるという役柄だったので、人に好きになられるためにはどうしたらいいのだろうと考えました。相手を誘惑するために、誘うような目の遣い方を工夫するのが難しかったです。

──お二人が役作りの上で参考にした映画作品はありますか?

ジョー:私が最初に印象として抱いた『ブロークバック・マウンテン』を一番参考にしています。

実は12、3年前に香港に行った時に、男女問わずみんなこの作品をみていて、あの映画がよかったと言われていたのに、ずっとみていなかったんです。今回、自分の役をどう演じたらいいのかと思って、ひとまずあのヒット作を参考にみてみました。

こんどう:僕は、LGBTQ系の映画を一通りみて勉強しました。一番素敵だなと思った作品がNetflixの『謝罪の贈りもの』(2015)です。男性同士の関係性が素敵なお話だったので、役を考えていく上でとても参考になりました。

主人公たちの絆から滲むもの


©︎Cinemarche

──ナカムラさんが演じられた主人公は、ヘテロから徐々にセクシュアリティが変わっていくという男性でしたが、そのあたりの葛藤は演じていていかがでしたか?

ジョー:結局、人を愛するとか、好きになる感覚は、異性愛者でも同性愛者でも変わりません。ただ、それが男なのか女なのかといいう表面的な違いだけです。もちろん私も恋愛をしたことがあるので、その時に感じてきた気持ちをストレートにキャラクターに乗せてみました。

分かり合える、分かり合えないという関係性は、ヘテロであってもたくさんあります。しかし男性同士で難しいのは、私が演じた役のようの片方に奥さんがいたり、両方がゲイであるということを隠して結婚して子どもを生むという枠組みに入ったはいいけれど、やっぱりほんとうに愛し合うのはここだという切実な思いを、主人公二人のやり取りから感じました。

LGBTQの人たちは、そういう葛藤との闘いで生きているのかなというのを考えさせられましたね。

──こんどうさんは、主人公たちの特別な関係性をどのように感じましたか?

こんどう:周りにゲイの友人がいて、2丁目にもたまに飲みにいくことがありました。映画を撮る前は、2丁目の方たちってテンションが高くて楽しそうに生きてるな、悩みがなさそうだなと思っていたんですが、実際自分が演じてみると、親へのカミングアウトだったり、異性愛者の人への特別な気持ちを想像すると、考えが変わっていきました。

世間で普通とされている人たちの中で、悩んでいて、それを隠すためにテンションを高くしているのかなと。重たく考えてはほしくないんですが。

体当たりで挑んだ撮影での秘話

(C)2019 映画「アスリート 俺が彼に溺れた日々」製作委員会

──男性同士のラブシーンはいかがでしたか?

ジョー:男性同士のラブシーンはみる機会がないので、とにかく様々なLGBTQ映画を参考にして男同士ってどうやるのかなと研究を重ねました。結果、男女と行なう過程はほとんど変わらないんだなと思いました。

──実際の撮影は大変ではありませんでしたか?

ジョー:こんどう君が、そういうことをあまり知らないというので、私がマネージメントしました(笑)。

こんどう:僕がうぶなものですから、上に行くことも下に行くことも身体の使い方が分からなかったんです。恥ずかしくて自分のシーンをみられていなくて、スムースにいったかは実感としてわかりませんが、そのあたりはジョーさんがしっかり教えてくださって(笑)。

──監督からは具体的な指示があったのですか?

ジョー:ありのままを出してもらえたらそれでいいと仰っていました。ただ、脚本が何度も改訂されたんですが、段々ラブシーンが増えていくんです。

海辺のシーンでは監督が自分が脱ぐと言って、自分で砂をがさがさされていて、実演したかったのでしょうか(笑)。

こんどう:怒濤の4日間の撮影だったので、そんなに恥ずかしがってもいられませんでしたね。

自分ではない誰かになる職業


©︎Cinemarche

──こんどうさんは、ジェンダーレス男子としてご活躍されていますが、今回の役柄と重ね合わせる部分はありましたか?

こんどう:そのような意識はあまりありませんでした。これまでジェンダーレス男子という枠組みでモデルをやってきましたが、この作品が映画初主演となりました。

本格的に俳優をやるということで、自分とは全く違う誰かを演じることがよい経験になりました。何より刺激的でした。

──俳優はずっと目指していたんですか?

こんどう:好きな映画やドラマをみていてやってみたいなとずっと思っていました。僕は、あまり感情を表に出すタイプではないので、自分と違う人になったらより豊かな気持ちになると想像していました。

人生は一回しかないので、来た仕事は全部やるようにしています。今年は俳優活動に重きを置いて、色々な役柄に挑戦していきたいなと思っています。

俳優としての原体験


©︎Cinemarche

──ナカムラさんも俳優を志すようになったエピソードがあれば教えてください。

ジョー:私が俳優になりたいなと思ったのは、ジャッキー・チェンの影響がすごく強いです。

毎回のアクションしかり、その後のジョーク、コメディなタッチも入れながら、最後は綺麗に完結するという分かり易い映画ばかりですが、本人がスタントマンを使わずにアクションをやっているというところに感動してしまいました。

その感動を自分がもらった時に、私も同じように感動を与えられる人になりたいなと思い、俳優が浮かびました。器用貧乏なところがあって、どんな仕事に就いてもそれなりにきっちりこなせるとなると、弁護士、医者、犯罪者、警察、すべてを叶えられる仕事って俳優しかないなと。

──ジャッキー・チェンの映画が原体験としてあって、香港でモデル活動をされて、さらに一昨年にはジョン・ウー監督の作品に出演されています。

ジョー:正直、ジョン・ウー監督の映画が決まる前に今年で俳優を辞めようと思っていたんです。

しかし『マンハント』(2018)のオーディションに行って、実際にジョン・ウー監督に会った時に、『男たちの挽歌』(1986)やジャン=クロード・ヴァン・ダム系のハリウッド作品など監督作は全部みているので、もう夢が叶ってしまったなと思いました。あの時は監督にお会い出来ただけで嬉しかったです。そこに出演させてもらえるなんてほんとうに光栄で。

『マンハント』で演じた弁護士の青木役では、アクションは自分でやらせてくださいと言って、スタントを断りました。まさにジャッキー・チェンのように。それで俳優業の期間がまた延びて、さらに邁進していこうと思いました。

観客へのメッセージ


©︎Cinemarche

──最後に観客に、ここだけはみてほしいという見どころをお願いいたします。

ジョー:私が好きなのは、ベランダのシーンです。最初は二人で煙草を吸う、次は彼から電話が来なくてさみしく待っている、それから髪の毛を切ってもらうといくつかあります。それぞれのその時の心境に合わせて変化する場所の描き分けがお気に入りです。観客のみなさんがどう感じるのか、とても気になります。

こんどう:僕は、夜の場面です。ライティングが綺麗で、レインボーカラーの照明を使っていて、外から色んな色の照明が当たり、幻想的な映像になっています。全編の美しさに注目してみていただけたらなと思います。

ジョーナカムラ・プロフィール

1974年、兵庫県生まれ。

幅広いモデル活動を経て、29歳の時に香港に渡り、アジア圏で「中村祖」の名で脚光を浴びます。

多くの雑誌の表紙を飾り、ドラマやCM出演など国際的なモデルとして活躍。

2007年には、上海で開催されたThe First Adkungfu Awardで「2007年度未来之星奖 堤名奖」を受賞しています。

ジョン・ウー監督『マンハント』(2018)に弁護士の青木役として出演。

本作『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』では、ヘテロセクシュアルでありながら、ゲイの青年との出逢いによって、葛藤に揺れる男性を熱演しています。

こんどうようぢ・プロフィール

1992年、大阪府生まれ。

2011年に上京し、WEGOモデルとして活動を開始。

その後、読者モデルで構成されたユニット「読モBOYS&GIRLS」のメンバーとなります。

SNSでの精力的な発信を続け、「原宿系」のカリスマ人気男性読者モデルとして活動を本格化。

同じく読者モデルのりゅうちぇるやとまん、ゆうたろうらとともに、中性的な雰囲気を醸し出す「ジェンダーレス男子」としても注目されるようになり、女子中高生を中心に人気を集めています。

また、ブランド「DING」をプロデュースし、デザイナーも務めています。

本作が映画初主演となり、同性愛者として自身のセクシュアリティに悩む主人公を体当たりで演じています。

映画『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』の作品情報

【日本公開】
2019年(日本映画)

【監督】
大江崇允

【脚本】
村川康敏

【主題歌】
GOW「ねぇ、だって…」

【キャスト】
ジョーナカムラ、こんどうようぢ、田崎礼奈(notall)、中村文彦、みなもとらい、 いちる(Vipera)、美羽フローラ、海崎遥斗、橋本彩花、梅垣義明

【作品概要】
航平役を演じるのは、映画『マンハント』(2017)など、国内に留まらず、台湾や香港、シンガポールなどで国際派俳優として活躍するジョーナカムラ。

また悠嵩役には、原宿系モデルのジェンダーレス男子・こんどうようぢが体当たりで挑み、演技の才能を見事に開花させました。

他にも、悩み疲れ切った人たちの憩いの場となっている新宿二丁目のバーのママ・プリシラ役にWAHAHA本舗の梅垣義明が扮し、存在感ある輝きを放っています。

脚本は『湾岸ミッドナイト THE MOVIE』(2009)などの村川康敏によるオリジナルで、監督は私立恵比寿中学主演の青春恋愛SFドラマ『君は放課後、宙を飛ぶ』(2018)などの大江崇允です。

映画『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』のあらすじ

(C)2019 映画「アスリート 俺が彼に溺れた日々」製作委員会

元競泳選手の海堂航平は、共働きの妻と高校生の娘と平凡な日常を過ごしていましたが、ある日、突然妻に離婚届けを突きつけられます。

酒に溺れて新宿二丁目にたどり着いた航平の前に訪れる、美少年の悠嵩と運命的な出会い。

悠嵩は、チャットボーイをする傍らアニメ作家を目指していますが、病に倒れた父親に「ゲイだ」と告白できずに思い詰めていました。

二人は、戸惑いながらも、いつしか性の垣根を超えて惹かれ合い、やがて肉体を交えるように。

航平と悠嵩は、時に愛し合い、時に傷つけ合いながら、互いの関係を深めてゆきます。

二人の憩いの場は、ニューハーフのプリシラがママを務める『ラパス・カフェ』。

航平は、この店に集う様々な背景をもつ人たちと触れ合いながら、自分の“性”への価値観に葛藤し、「愛とは何か」について、思い悩み始めました。

一方、悠嵩は初恋の相手のアツシと再会し、元来ストレートの航平とは、相容れないことに気付きます。

その折、航平の大切な相談相手であるプリシラが倒れてしまい……。

映画『アスリート~俺が彼に溺れた日々~』は、2019年7月26日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー!

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