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【シルヴィオ・ソルディーニ監督】映画『エマの瞳』独占インタビュー。イタリア人気質の名匠が作品に託した魅力

  • Writer :
  • 加賀谷健

2019年3月23日(土)より公開されたイタリア映画『エマの瞳』

ヴェネツィア国際映画祭で世界初公開され、日本でも「イタリア映画祭2018」で『Emma 彼女の見た風景』の日本語タイトルで公開され、好評を博した作品です。

今回は2019年3月より公開された『エマの瞳』の監督を務めた、イタリアの名匠シルヴィオ・ソルディーニ監督に独占インタビューを行いました。

本作品『エマの瞳』に描かれた内容や、制作過程での工夫について貴重なお話を伺いました

視覚障がい者の映画にこだわる理由

──視覚障がい者を主人公にした映画はたくさんありますが、本作『エマの瞳』のようにその日常を美化せずにリアルに描いた作品はこれまでありませんでした。前作『多様な目』も実際に視覚障がい者を追ったドキュメンタリー映画でしたが、このような題材に興味をもたれたきっかけをお聞かせください。

シルヴィオ・ソルディーニ(以下、ソルディーニ):約6年前、ある映画をきっかけとして、今までに全く会ったことも近づいたこともなかった盲目の方が働いている整骨院に行く事がありました。

初めての出逢いはとても興味深いものでした。色々な話を聞きました。映画を観に行ったりすることもあるというのです。私の監督した映画を「観た」という動詞がとても印象的でした。

そこで初めて盲目の人の世界と出逢いました。我々がいかに、自分の周囲で起きていることに無頓着なのか気付きました。自分の幼少時の経験から作られた考え方や、誰かに伝えられた事で先入観ができていることも同時に。ドキュメンタリーを作るのが好きです。自分の知らない世界や現実を描写できるから。

友人のジョージオ・ガリーニと協力して盲目の人を探しました。障がい者は私たちの先入観によって作られたものであり、みんなが考える人とは違うことを示したかったのです。

参考映像:ドキュメンタリー映画『多様な目』(2013)

キャラクターの心情に合わせた“呼吸”

シルヴィオ・ソルディーニ監督(左)とエマ役の女優バレリア・ゴリノ(右)

──物語のプロットで主人公たちの心情の変化に呼応して、カメラの画角が3度変わりますが、この発想は撮影時に思いつかれたのか、それとも編集段階で決められたものなのでしょうか。

ソルディーニ:映画は途中でスクリーンサイズが3度変更されるが、これを明らかにしたくなかったのです。

映画は目で見るものだけれども、盲目の人が映画に出ているからこそ、表現の幅を音楽や写真のように見せたかった。

そこで、レンズを変えたら効果があるのかもと考えました。動物を撮るような幅の広いスクリーンに合わせたレンズを使い、キャラクターの心情に合わせて、スクリーンが呼吸をしているようにできないかトライしました。

──再び画角が狭くなり、テオに裏切られ、タクシーの窓から顔を出すエマの髪が風に靡く瞬間には思わずハッとさせられました。エマを演じたヴァレリア・ゴリノとの仕事はいかがでしたか。

ソルディーニ:ヴァレリア・ゴリノと働くことはとても楽しかった。今までは彼女に合う役柄がみつからなかったけれど、今回はちょうどいいタイミングだったと思います。

彼女はまさに(俳優として、役柄として)盲目になっていました。盲目の人にたくさん出会い、学校に行きました。そこでは盲目の人に白い杖の使い方を教えていました。家から会社に行く際の電車や地下鉄の乗り方を教えたりもしていました。彼女はキャラクターに没頭するためにそれを全部学んだのです。

ヴァレリアには特殊な才能があり、彼女が窓を開けて風を感じるシーンでは、盲目の人が触角で感じたり、風を読み取ることができることを表現しました。皮膚で感じることができるものは、今回の場合は“風”でした。

ジャンルイージ・カルローネの音楽

──この映画の主調音をなし、キャラクターの複雑で繊細な心境を見事に浮かび上がらせた主題音楽が印象的でした。音楽を担当したジャンルイージ・カルローネさんはどのような作曲家なのでしょうか。

ソルディーニ:ジャンルイージ・カルロ―ネ。彼はとてもシンプルな男です。音楽が本当に好きで、映画が求めている音楽を追求するため、夜遅くまで常に働いていて時間があまりないのです。

僕は彼と食事をしたり、一緒に働くのが好きなのに、皮肉なことに彼はとても忙しかったのです。(笑)

イタリア人気質の映画作り

──艶笑的な雰囲気のラストが秀逸です。ソルディーニ監督はネオリアリズモの巨匠ルキーノ・ヴィスコンティと同じミラノのご出身ですが、ドイツ気質の硬いミラネーゼの作風という印象はあまり受けません。得意とされるのはやはりコメディでしょうか。

ソルディーニ:僕はイタリアン・コメディが好きです。でも、クラッシックは時に大げさなのであまり好きではありません。

エンディングはセンチメンタルだけど、ほかのコメディのエンディングとは異なり、終わりがないのです。テオは最後にとても深い暗闇の中へ彼女を追いかけて行きます。でも、ドラマティックに終わらせたくなかったので、コメディの要素も入っています。

映画の中のドラマティックな人生ではなく、実在の人生を見せたかった。なぜなら実際に盲目の人たちはそのように生活しているからね。

──イタリア映画には常に一定のレベルを保ち続けるブランド力があります。現在のイタリア映画にはどうような運動や流れがあるのでしょうか。また、本作の位置づけについてもお聞かせください。

ソルディーニ:イタリア映画のトレンドについて話すのは難しいことです。監督ひとりひとりが独特な世界観を持っています。

僕も次の作品で自分の世界観を表そうとしていて、今回の『エマの瞳』と全く関係がありません。余談ですが、映画のタイトルはイタリア語で、”Il colore nascosto delle cose”(事物の隠れた色)ですよ。

小津映画とソルディーニ監督

──小津安二郎監督を敬愛されているということですが、影響を受けた監督についてもお聞かせください。

ソルディーニ:小津安二郎を尊敬、そして敬愛しています。日本に行った時、彼のお墓参りに行きました。

彼は世界の映画界に多大な影響を与えたと思います。僕も彼の影響を受けたひとりですが、どう受けたかは解りません。

強いて言えば、フレーム一枚一枚の細部のディテール、そしてそれがフレームの中の人間に与える影響が興味深いと考えています。

まとめ

シルヴィオ・ソルディーニ監督は、イタリア人らしいエレガントな語り口がたいへん魅力的な人物でした。映画にもそれが活かされています。

気っ風のよいイタリア人の映画は、ファッションや食文化とともに日本人の恰好の憧れです。

世界各国の映画の中で常に高いレベルを保ってきたことは、これまでの映画史が雄弁に物語っています。

現在のイタリア映画界の状況についてインタビューで、「トレンド」がないと指摘していたことは興味深いものでした。

それらのブランド力を支えているのは、各監督たちがそれぞれ自由に個性を発揮していくという意味での“散逸性”にあったわけで、だからこそイタリア映画はコンスタントに良作を生み出し続けているのです。

全体をみてみると、それがイタリア映画の豊かさとして日本人の目には魅力的に映るのでしょう。

次回作ではさらに「自分の世界観」を提示していくと語ってくれたソルディーニ監督の“イタリア気質”を、再びスクリーンで感じる日が待ち遠しくなってきました。

インタビュー/加賀谷健
編集構成/出町光識

映画『エマの瞳』の作品情報

【公開】
2017年(イタリア・スイス合作映画)

【原題】
『Il colore nascosto delle cose(原題直訳:事物の隠れた色)』

【監督】
シルヴィオ・ソルディーニ

【キャスト】
ヴァレリア・ゴリノ、アドリアーノ・ジャンニーニ、アリアンナ・スコンメーニャ、ラウラ・アドリアーニ、アンナ・フェルツェッティ、アンドレア・ペンナッキ

【作品概要】
『ベニスで恋して』『日々と雲行き』などで知られるイタリアの名匠シルビオ・ソルディーニ監督の作品。

目が不自由でも自立して生きる障がいを持った女性と、プレイボーイの恋の行方を描くラブストーリー。

エマ役を『レインマン』のバレリア・ゴリノが演じ、テオ役をを『スウェプト・アウェイ』のアドリアーノ・ジャンニーニが務めました。

日本で初めて上映されたイタリア映画祭2018では、『Emma 彼女の見た風景』のタイトルで上映。

『エマの瞳』のあらすじ

舞台はイタリア、ローマ。

広告代理店に勤めるテオは、仕事に恋愛と多忙な日々を送っています。

どんな人とでもすぐに打ち解ける性格ですが、家族だろうと恋人だろうと必ず距離を置くことを忘れません。

そんな彼がある日出逢ったのは、全盲の女性エマでした。

早速エマに興味をもったテオは、彼女が施術するオステオパシーに通うようになります。

そこから彼女との関係が急速に深まっていきます。

しかし、関係が曖昧にされたままでいた恋人のグレタとスーパーマーケットで偶然鉢合わせ、うまく対処できなかったテオはエマを傷つけてしまいますが…。

シルヴィオ・ソルディーニ監督プロフィール

1958年、イタリア・ミラノ生まれ。

1990年に初の長編映画『L’ARIA SERENA DELL’OVEST』が、ロカルノ国際映画祭で上映され、高い評価を得ます。

1997年の『アクロバットの女たち』でヴァレリア・ゴリノと初めてタッグを組み、世界各国の映画祭に出品されます。

そして2000年のロマンティック・コメディ『ベニスで恋して』が、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主要9部門を総なめにし、その名を世界に知らしめることとなりました。

その後もコンスタントに作品を発表し続け、人間の心の機微を繊細に描いた『風の痛み』(2002),『日々と雲行き』(2007)は日本でも劇場公開されています。

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