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Entry 2021/01/12
Update

【小池和洋インタビュー】映画『戦車闘争』神奈川県相模原で起きた“時代”への闘いを日本の若き世代に伝承したい

  • Writer :
  • 咲田真菜

映画『戦車闘争』が、2021年1月15日(金)よりシネ・リーブル梅田、京都みなみ会館にて、また元町映画館にて順次公開予定!

『戦車闘争』はこれまでほとんど語られてこなかった、神奈川県相模原市で1972年に起きたおよそ100日間におよぶベトナム戦争への抗議活動を描くドキュメンタリー映画。

監督は社会派ドキュメンタリー番組などのディレクターを務め、本作が初の劇場公開作となる辻豊史、プロデューサーは『休暇』(08)『ホペイロの憂鬱』(18)といった劇映画を手がけ、今回インタビュアーも務める小池和洋、またミュージシャンや俳優として長きにわたり先鋭的な活動を続ける泉谷しげるがナレーションを担当しています。


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト:映画作中の小池和洋さん(写真右)

今回は『戦車闘争』の企画・プロデューサーを務め、本作の制作に際し総勢54人へのインタビューも敢行した小池和洋さんにお話を伺いました。なぜ令和の時代に『戦車闘争』を手がけたのか、その想いを熱く語ってくださいました。

総勢54人の想いが交錯する


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

──戦車闘争という反戦市民運動を最初に知ったきっかけとは何でしょうか?

小池和洋(以下、小池):私は神奈川県相模原市に25年住んでいて、少し前に相模原市を舞台にした映画を作もりました。その時に相模原市史を読む機会があり、ほんの少しだけ戦車闘争にふれる記述を見かけたのです。それで興味を覚え、当事者たちの手記『戦車の前に座り込め』を古本屋で入手して読み、ぜひドキュメンタリー映画として作りたいと思ったわけです。

──総勢54名にインタビューをするのは大変だったと思います。どのような順番で行ったのか、そして期間はどのぐらいかかったのかを教えてください。

小池:2019年4月中旬に一人目のインタビューを行い、全員終わったのが2019年12月中旬ですから、9カ月かかりました。

最初の構想では「戦車闘争の顛末を概要として描けたら」に思っていたので、当事者に話を聞ければいいと考えていました。『戦車の前に座り込め』における二大登場人物は梅林宏道さんと山口幸夫さんであり、このお二人は「ただの市民が戦車を止める会」というグループの中心人物でもあります。ですから、この方たちから、最初に話を聞きたいと思いました。ようするに「戦車を止める側」から取材を開始したわけです。


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

小池:すると次から次へと横のつながりで紹介していただけて、さまざまな人にお話を伺ううちに、だんだんこだわりや欲が出てきました。また抗議活動を行った人たちを取り締まった機動隊員など、「反対の立場にある人」はどのように探し出すために、神奈川県のタウン誌に「情報を求む」という宣伝記事を出してもらったところ、当時を知る元機動隊の方から連絡をいただくことができました。ただ、本当は米軍の人にも話が聞きたかったし、当時の政治家陣にも話を聞きたかったですね。

映画『戦車闘争』は「青春映画」であり「アクション映画」


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

──インタビューを通じて立場の違う方々のお話をそれぞれ伺う中で、小池さんの中での戦車闘争に対する意見や想いが揺らぐことはありましたか?

小池:そもそも自分は、市民運動の力というのに懐疑的でした。デモや署名活動、座り込みをするということに関して、何の意味があるのかなと。「そういうことをやっても意味がないだろう」と半ば諦めの気持ちがありました。だから戦車闘争という運動を知った時も、いったい何をしようとしたんだろうという想いがありました。

しかし調べていくうちにだんだんと、「この人たちがやったことの意味は大きい」と思い「そういう意味では、映画『戦車闘争』は青春映画なのかもしれない」と感じるようになりました。私自身も、この映画を通じていろいろな気付きがありました。

また私は、この映画を「青春映画」であると同時に「アクション映画」であるとも考えています。反対の意見を持つ者同士がぶつからなければ、お互いの中に葛藤は生まれない。インタビューをしながら「本当にいろいろな意見があるんだな」と思いましたが、あえてこちらから「この人はこういうことをしゃべるだろうから、こういう構成にしよう」とは考えませんでした。それぞれの人が言ったことを大事にしようと思いましたし、それは狙いどおりにいきました。

緩い音楽でコメディータッチに描く場面も


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

──映画『戦車闘争』は2021年の現在にこそ議論されるべき課題も提示している一方で、作中では映像や音楽におけるコメディータッチな演出も垣間見えました。特に緩い音楽をバックに、丹治栄三さんが娘さんの語る言葉をジッと聞いている姿を映し出した映像は面白かったです。

小池:あれは辻豊史監督のセンスですね。辻監督は「人間ドラマをやりたいので、証言をする人たちの記憶だけではなく、全員の表情を丹念に拾いたい」と言っていました。それこそ丹治さんの場面は、監督が目指していたものが一番色濃く出ていた箇所ではないかと思っています。

丹治さんがご自身の体験談を話されたあとに、娘さんが「母親に苦労させて好きなことをやってたじゃない」と語った時にみせた表情は、何を物語っているんだろうと誰もが感じるはずです。実は本作のバリアフリー上映版には、「映像上の人物がどんな表情をしているのか?」も音声ガイドで解説されるんですが、制作当初はあの場面に「悔しそうな顔をしている丹治栄三」という解説が入るようにしていました。

でも、それは違うだろうと。91歳の男性がそんな反応をするわけがない。たとえ娘さんに本当のことを言われても、今さら腹を立てるとは到底思えず、あくまで丹治さんは「照れ」で受け流しているのだと考えました。だからこそあの場面において、本作に出演してくださった丹治さんに対して「お疲れ様でした」という意味を込めて緩い音楽を流し、丹治さんの顔を何秒か映すという構成にする辻監督の演出に、私は賛成したのです。

──丹治さんの他にも、インタビューを続けていく中で印象に残った方はいらっしゃいますか?

小池:すべての方のお話が深く記憶に刻まれていますが、40年以上補給廠を監視し続けている相模補給廠監視団の沢田政司さんがおっしゃった「楽しくなければ、反戦運動はできないです」という言葉は特に印象的でした。

戦車闘争に参加した人々の中には、たまたま一杯飲みに出かけたことがきっかけになった方も多かったと聞きます。「勉強していない人は、デモ活動に参加できない」というガチガチの考えがないハードルの低さが、多くの人々を呼んだ要因だったという話は「なるほど」と思いました。

映画『戦車闘争』に込めた「伝承」の使命


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

──改めて、小池さんは『戦車闘争』という映画をどのような作品だとお考えなのでしょうか?

小池:実利的な面で言えば、戦車闘争は米軍のベトナム戦争の計画そのものを狂わせています。100日間も日本から戦車を運び出せなかったということで、アメリカの公文書にも記されているのですが、実際に米軍は困ったらしいんですよ。闘争から30年ほど経ったのち、ベトナムの人々から「戦車を止めてくれてありがとう」と感謝されたというお話もあります。事実、戦車闘争が終わってすぐにベトナム戦争は停戦していますからね。

日本に置き換えてみると、昭和20年(1945年)の8月14日・15日には小田原や熊谷が空襲されているのですが、その時に犠牲になった人々の無念を思うと、「あと1日早く、戦争を止めることができたら……」と常々考えてしまいます。そう考えると「100日間も戦車を止めた」という行動は、とても意味のあることだと思います。

また戦車闘争に参加した人々に影響を与えた小田実さんという作家は、「いわゆる市民運動に直接効果を求めるのは愚である」と語っています。それは、市民運動は長い積み重ねの上に何らかの効果が表れるものであって、今自分自身がデモに参加し署名運動をしたとしても、即何かに変換されるわけではないということを意味しています。

市民運動というのはそれぐらい長い時間がかかるものだし、日々の営みの中でコツコツと積み上げていくものです。そうやって人は、平和やより良い幸福な生活をつかんでいくものですから、すぐに諦めてはいけないという気付きがありました。

──本作をどんな方に観ていただきたいですか?

小池:私は『戦車闘争』ということが実際にあったのだということを伝承していきたいので、特に若い世代の方たちにはぜひ観ていただきたいです。

実は少し前に、NHKの若いディレクターがこの映画を取材してくれました。若い人でも興味があるんだと思ったのですが、よくよく聞いてみるとその方は長崎県出身で、おばあさんが被ばく体験をしていることで、かろうじて戦争という影を伝承していました。

ですがその「伝承」も途切れてしまった時、いわゆる「戦争」は報道されなくなってしまいます。だからぜひ、平和のために100日間戦車を止めた普通の人々がいたということを若い世代の方たちに知ってもらいたいです。

また今回描くことができませんでしたが、かつて実際に『戦車闘争』を取材した何人かのジャーナリストの方々にもお話を聞く機会がありましたから、いつかそうしたジャーナリストの方たちの視線から描く『戦車闘争パート2』を作りたいですね。

インタビュー/咲田真菜

小池和洋プロフィール

1974年生まれ、山梨県出身。書籍編集者としてサラリーマン生活を送っていたが、2005年に退職し映画製作を開始。プロデューサーとして多数の映画・TVドラマの企画や制作に携わる。

主な参加作品は2007年の『棚の隅』(監督:門井肇、主演:大杉漣)、2008年の『休暇』(監督:門井肇、主演:小林薫)、2013年の『ナイトピープル』(監督:門井肇、主演:佐藤江梨子)、2014年の『いのちのコール~ミセス インガを知っていますか~』(監督:蛯原やすゆき、主演:安田美沙子)、2018年の『ホペイロの憂鬱』(監督:加治屋彰人、主演:白石隼也)など。またテレビドラマでは、2011年の『事故専務』(監督:高橋雄弥、主演:大杉漣)、2014年の『カミナリ☆ワイナリー』(監督:蛯原やすゆき、主演:桑野信義)などがある。

映画『戦車闘争』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
辻豊史

【企画・プロデューサー・インタビュアー】
小池和洋

【出演者(登場順)】
吉岡忍、檜鼻達実、山田広美、賴和太郎山本章子、小俣恭志、今井晴司、渋谷正子、栗田尚弥、上田忠男、西村綾子、石川巌、沢田政司、内田清、丸利一、菅沼幹夫、早川幸男、新原昭治、野崎泰志、本憲昭、宮原昭夫、和田春樹、佐伯昌平、山口幸夫、沼野充義、梅林宏道、尾中正樹、片岡利男、松山正一、豊嶋康男、田辺一男(仮名)、新倉裕史、浦上裕史、出島久子、志村英昭、溝淵誠之、小川祐司、小川満、林貞三、岡田理、田中将治、宮本皐、郡山ルリ子、丹治栄三、羽田博昭、春名幹男、リラン・バクレー、ライアン・ホームバーグ、福永文夫、森田一、明田川融、金子豊貴男、伊勢﨑賢治、末浪靖司

【作品概要】
これまでほとんど語られてこなかった、ベトナム戦争終盤の1972年に神奈川県の米軍施設付近で発生した反戦市民運動「戦車闘争」を題材とした作品。

当時座り込みに参加していた者から運動を「排除」する側に立った者に至るまで、あらゆる当事者や専門家など総勢54人の証言によって、日本現代史上希に見る政治闘争の顛末を明らかにする白熱のドキュメンタリー映画です。

映画『戦車闘争』のあらすじ


(C)2020 戦車闘争の映画をつくる会/フィルム・クラフト

ベトナム戦争終盤を迎えていた1972年、アメリカ軍は破損した戦車を神奈川県相模原市の相模総合補給廠で修理し、再び戦地に送るべく横浜ノースドックへ輸送していました。

その事実を知り憤った市民は、ノースドック手前で座り込みを敢行。戦車の輸送は断念されましたが、この事件をきっかけに相模総合補給廠の前にはテントが立ち並び、およそ100日間におよぶ抗議活動が始まります。

機動隊との激しい攻防。各政党、過激派、学生運動家や市民運動家入り乱れての団結と混乱。輸送を請け負った業者や地元住民の葛藤。そしてアメリカと国民との板挟みになった市長や政府の対応。

膨大な資料を元に様々な視点から、政治に青春を賭けた時代の熱気を余すところなく伝えるとともに、現在の日本とアメリカの関係や憲法の抱える問題点を浮き彫りにしています。

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