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Entry 2020/06/06
Update

【渡辺いっけいインタビュー】映画『いつくしみふかき』役者として演じる喜びは“闇鍋のような危険な美味しさ”

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『いつくしみふかき』は2020年6月19日(金)よりテアトル新宿にて、その後もテアトル梅田ほか全国順次ロードショー予定

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019にて観客賞である「ゆうばりファンタランド大賞」の作品賞を受賞し、カナダのファンタジア国際映画祭・コンペティション部門にも正式出品され、現在までに11の賞を受賞している映画『いつくしみふかき』

本作は、「劇団チキンハート」を主宰する俳優・遠山雄の知人とその父親をめぐる実話をもとに生まれた異色のヒューマンドラマ。監督は劇団チキンハートにて演出を担当する大山晃一郎、そして主人公の進一を遠山雄が務めます。


(C)Cinemarche

今回は進一の父親・広志役として遠山さんとともに主演を務めた渡辺いっけいさんにインタビューを行いました。

映画『いつくしみふかき』の作品が持つ魅力の根源、役者として今までにない新鮮な喜びを得た本作での体験など、多岐に渡りお話を伺いました。

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面白い「役者」「監督」とともに

──本作に出演されたきっかけは?

渡辺いっけい(以下、渡辺):主演の遠山雄くんとはテレビの連続ドラマで一緒になったことがあって、彼はチンピラの役を演じていたのですが、「面白い人がいるな」「気になる役者だな」というのが第一印象です。

また、そのドラマには助監督として本作の大山晃一郎監督も参加していて、遠山くんの印象を伝えたら目を輝かせて「彼は一緒に劇団をやっている仲間なんです。今度、芝居を観に来てください」と、めちゃくちゃ嬉しそうに言われたんです。

それから「劇団チキンハート」の公演を観に行くようになり、何度か観に行くうちに大山監督から本作への出演依頼をいただきました。当時は僕も役者としての展開を変えたいと考えていた時期でタイミングも良かったため、迷うことなく出演を決めました。

──ちなみに出演依頼を受けられたのは、まだ脚本が出来上がっていなかった段階でしょうか?

渡辺:そうですね。僕にとって、内容は正直どうでも良かった。大山晃一郎という面白い監督、遠山雄という面白い役者と絡めるのなら、それだけで充分でした。

何よりも、彼らは身も心もこの映画に賭けて、真剣に自身の仕事をしていた。主役の遠山くんは、企画者として、モデルとなる親子が住んでいた長野県の飯田に住み込んで、地元の人を巻き込み、応援団を作った。大山監督は、これほどまでに人の心に引っかかるような作品をしっかり撮り、とにかく映画を埋もれさせたくない一心で、色んな映画祭に本作を出品してどんどん箔をつけていった。熱を持って一生懸命にやっている姿をみて、僕も出来る限りお手伝いしたいと心動かされました。

──撮影現場はいかがでしたか?

渡辺:僕自身は10日間、撮影本隊は3週間という密度の濃い期間の中、長野県の飯田へ訪れて撮影しました。ボランティアの地元の人達が毎日作ってくれるまかない弁当を食べながら、色んなロケ地へ行きました。限られた時間ではありましたが、各シーンを丁寧に撮っていきました。それも遠山くんと大山監督の頑張りで、町の人達の協力があったからこそ、じっくり撮ることが出来たわけです。

そして、役者・遠山雄はやはり面白かったですね。ガチガチに自分で固めてくるタイプではなく、現場の空気を受け取った上で感覚で演じる役者なので楽しんでやることができました。シーンによっては沢山テイクを重ねたシーンもあったんですが、それも含めて非常に面白い経験でした。また牧師役の金田明夫さんとのシーンについても、彼の持つ空気感は人間として面白いため、ジャズのように、敢えて決めることもせずにただただ楽しんでやれました。ですから「楽しかった」というとベタではありますが、本当に心地良かったです。

「今までにない自分」を引き出された喜び

──本作での役作りはどのように取り組まれたのでしょうか?

渡辺:それをやってくれたのは大山監督ですね。僕は、このわけが分からないヤクザの詐欺師の役を演じるにあたって「どう演じたらいいの?」「少し自信がないんだけれど」と伝えたんですが、大山監督は「いや、大丈夫です」「任せてください、ちゃんと撮りますよ」と答え、自信を持っているのだと感じられました。テレビドラマの仕事で何度か一緒にしていたので、僕がどういう役者かをずっと見ていたようで、とにかくテレビドラマでは出せないものを要求されました。僕の中では未知数なところもありましたが、出来上がった作品を観て自分でも新鮮に感じるところがたくさんありました。今まで自分だけでは出せていなかった「何か」が、大山監督に引き出されていると強く感じています。

──今まで出せてなかった「何か」とは何でしょう?

渡辺:動かなくて済むシーンに多いのですが、大山監督からの指示に意表を突かれることが多かったんです。自分だけで台本を読んで演じるだけだったら、絶対自分の中からは出てこない表情を求められることがあり、「そういうアプローチもあるのか」と驚かされることが結構ありました。

大山監督は人間を見る目がとても豊かで、演者以上に演者の魅力を引き出してくれるんです。僕自身が戸惑うようなことも、監督は本当に「大丈夫だ」と思って演出してくれていた。それは僕にとって非常に幸せなことでした。

──渡辺さんが仰るように、映画からは「役者・渡辺いっけい」が揺れ動いている印象を受けました。

渡辺:だからこそ、観ていて本当に面白かったです。自分が思いもしない効果が映画の中に表れていて、とても新鮮に見えるんです。それは良かったなと思います。

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「苦しんでつくる」という面白さへ


(C)Cinemarche

──先ほど、本作の撮影時期は渡辺さんにとっての「転換期」だったと仰っていましたが、具体的にはどのような時期だったのでしょう?

渡辺:テレビドラマにおいて「一発本番」のインスタントとしてカットごとに演じる面白さも理解してはいたんですが、当時は「ちょっと待てよ」とじっくり考え、詰め将棋のような仕事もしてみたくなっていた時期でした。

地上波のテレビドラマは不特定多数の方に観られるものなので、本当にわけが分からないものは映せない。ストーリーも含め、基本的には不特定多数の方が分かるように作る必要があります。若い頃は舞台役者からテレビ役者に移行したばかりの時期で、当初はテレビドラマで演じることにやり甲斐を感じられなかったものの、実際に演ってみたら非常に難しく、その難しさが「面白い」と思えていました。

自分はマイノリティな役者だったけれど、「分かり易くする」というテレビドラマの作り方を通じて、あえて自分自身を分かり易くするということに努めていました。そして、最大にスピードを求められるギリギリのサイクルの中で、人と違う何かをアプローチしていくというテレビドラマの仕事に、面白さを感じていたんです。

それが段々と面白くなくなってきて、もう少し難しい役を舞台でじっくり演れないものかなと考えるようになった。舞台はお金を払って劇場に観に来る人達を相手とするので、分かり易さを追求しなくてもいいし、コアなものでも成立する。むしろ、それを楽しみに来ている人達もいる。それでも好き嫌いは分かれるし、色んな種類の舞台がある。以前出演したケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出の舞台も、好き嫌いがハッキリ分かれるものでした。「わけ分からない」とサジを投げる方もいるし、凄く楽しみにされている方もいる。そういう場所で演る場合は、分かり易さなんて全く考えずにひたすら役に入っていける。ただそれを抜きにしても、結局お客さんに分かるような提示を表現するのは難しく、とにかく苦労をすることになる。

そんな風に、苦しんで何かをつくっていく作業をもっと増やさないといけないと考えていた時期に、本作のオファーをいただいた。ですから、凄くタイミングが良かったんです。「演じて欲しい」と言われた役が、今まで振られたことがないような役だった。でも大山監督は「勝算はある」「大丈夫」と言ってくれている。それは僕にとって、まさに「しんどいかもしれないけど、演る意味があるもの」でした。

「自分」を思い知らされる瞬間

──なぜそのような「苦しみ」を求めるのでしょうか?

渡辺:舞台がやはり好きなのが理由としてあります。舞台は失敗したり、上手くいかなかったりすると如実に空気で分かる。稽古で「これは難しいな」「通じないかな」「でも、なんとかしたいな」と思って喘ぎながら演るけれど、結局はお客さんの前でも通じない。そして悔しいと思いながらも続けていく。そんな自分の力が見えるというか、思い知らされる瞬間を肌で感じなきゃいけない厳しさや苦しさが好きなんです。

その中で本番を重ねていくうちに「こうしたらいいんじゃないかな」と演ってみて、そこがちょっとでも上手くいったりすると、それはもう本当に何ものにも変え難い喜びになって自分に返ってくるんです。

──「渡辺いっけい」という役者にとって、「役者」とはいったい何ですか?

渡辺:体力的にも終わりへ向かっていく年齢を迎えながらも何年かやってきて、その中で先達がこの世を去っていくのを見送ってきた今思うのは、「お芝居には『生き様』が出る」「だからこそ、役者さんはちゃんと生きていないといけないですよね」ということです。そのため芝居の上手い下手ではなく、ちゃんと生きていくことが大事なんだと。

役者の仕事は行き着けば、結局は自分のためにやっているけれど、誰かのためにやることもあっていいのではないか。そう考えてみると、本当の意味で誰かのためにやったことはまだないため、もしかしたらそういう仕事をやってみてもいいかもしれないと思っています。

──最後に、本作の魅力とは何でしょうか?

渡辺:自分が出演してきた作品の中で、こんなに手作り感があって、その上でエネルギーが満ちているものはなかなか珍しいです。説明はしづらいですが、試写会でも「もう一度観たい」という声が多く評判が良いので、魅力ある映画になっているとは感じてます。

また心にかかる「フック」が観る方によって違うようで、僕は闇鍋のような映画だと感じています。何を食べさせられているかわからないけれど、「美味い」と感じる何かにも当たるというドキドキと危険を同時に孕んでいる。そんな映画ですね。

インタビュー・撮影/大窪晶
ヘアメイク/宮本真奈美
スタイリスト/深野明美
ジャケット・シャツ/Hush Puppies
ネクタイ/ozie

渡辺いっけいプロフィール


(C)Cinemarche

1962年生まれ、愛知県豊川市出身。

ドラマ・映画・舞台などに数多く出演。近年の出演作は、ドラマ『蝶の力学』『悪党』『大富豪同心』『刑事ゼロ』、映画『二宮金次郎』『ゆらり』『母~小林多喜二の母の物語』、舞台『カノン』『ドクター・ホフマンのサナトリウム』『北斎漫画』など。また人気アニメーション『おしりたんてい』では吹き替え・ナレーションも務めています。

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映画『いつくしみふかき』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
大山晃一郎

【キャスト】
渡辺いっけい、遠山雄、平栗あつみ、榎本桜、小林英樹、こいけけいこ、のーでぃ、黒田勇樹、三浦浩一、眞島秀和、塚本高史、金田明夫

【作品概要】
劇団チキンハートを主宰する遠山雄の知人とその父親をめぐる実話をもとに生み出された作品。実際に知人が住んでいた長野県飯田市を舞台に物語が展開する。

中田秀夫、若松節郎等の助監督として数多くの映画に携わってきた大山晃一郎の長編映画監督デビュー作。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」で、観客賞である「ゆうばりファンタ部門作品賞」を受賞し、カナダの「ファンタジア国際映画祭2019」ではファーストフューチャーコンペティションに入選を果たすなど、国内外の映画祭で高い評価を得た。

映画『いつくしみふかき』のあらすじ

30年前。母・加代子(平栗あつみ)が進一(遠山雄)を出産中に、あろうことか母の実家に盗みに入った父・広志(渡辺いっけい)。「最初から騙すつもりだったんだろ?」と銃を構える叔父を、牧師・源一郎(金田明夫)が止め、父・広志は“悪魔”として村から追い出されます。進一は、自分が母が知らないものを持っているだけで、母が「取ったの?この悪い血が!」と狂うのを見て、父親は“触れてはいけない存在”として育ちます。

30年後、進一は、自分を甘やかす母親が見つけてくる仕事も続かない、一人では何もできない男になっていました。その頃父・広志は、舎弟を連れて、人を騙してはお金を巻き上げていました。

ある日、村で連続空き巣事件が発生し、進一は母を始めとする村人たちに、「悪魔の子である進一の犯行にちがいない。警察に突き出す前に出ていけ」と言われ、牧師のいる離れた教会に駆け込見ます。「そっちに行く」という母親に「来たら進一は変わらない」と諭す牧師。

一方、父・広志は、また事件を起こし、「俺にかっこつけさせてください」という舎弟・浩二 (榎本桜)に、「待っているからな」と言っても、実際には会いに行かない相変わらずの男で、ある日、牧師に金を借りに来ます。「しばらくうちに来たらどうだ?」と提案する牧師。牧師は進一のことを「金持ちの息子」だと嘘を吹き込み、進一と広志は、お互い実の親子だとは知らないまま、二人の共同生活が始まり……。


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