連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第62回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第62回は、『スレイヤー 7日目の煉獄』(2020)のご紹介です。
世界では悪魔に憑依される事案が多くなり、緊急的に悪魔祓い(エクソシスト)の数が必要とされていました。神学校で悪魔祓いを学び、成績トップで修めた新米神父のダニエルは、凄腕のエクソシストとして名高い、ピーター神父の元へ派遣されます。
ピーターは神父でありながら破天荒で型破りな方法で、ダニエルを実地訓練か実力を試すように、悪魔と対峙させようと仕向けます。そしてピーターが過去に出会った「最強の悪魔」との戦いに、新米神父のダニエルも巻き込まれます。
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CONTENTS
映画『スレイヤー 7日目の煉獄』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Seventh Day
【監督/脚本】
ジャスティン・P・ラング
【キャスト】
ガイ・ピアース、ヴァディール・デルベス、スティーヴン・ラング、キース・デイヴィッド、クリス・ガルスト、ロビン・バートレット、ブレイディ・ジェネス、トリスタン・リッグス、ハンナ・カルウェル、ヒース・フリーマン、アコリエ・ホワイト
【作品概要】
監督を務めるのは『不死身の少女と盲目の少年』(2019)のジャスティン・P・ラング。
ピーター神父役を『メメント』(2000)、『トゥー・ブラザーズ』で主演を務め、『英国王のスピーチ』(2010)、『プロメテウス』(2012)など多くの注目作に出演している、ガイ・ピアースが演じます。
映画『スレイヤー 7日目の煉獄』のあらすじとネタバレ
1995年10月、アメリカ合衆国がローマ教皇の来訪で熱狂しているころ、ある屋敷の一室には悪魔に憑依された少年がベッドに拘束され、悪魔祓いが行われようとしています。
ルイス神父は新米で助手のピーター神父と共に、悪魔に挑もうとしますが、ピーターは少年の姿を見ると、祈りの言葉も出ないほど途方に暮れてしまいます。
ルイスはピーターに祈りを続けるよう咤すると、少年は苦しみ身体はのけぞります。ルイスが首にかけたストラで少年の胸を押さえ、悪魔に出て行くよう命じます。
しかし、少年はそのまま呼吸をしなくなり、やがて少年の口を介して話し始めます。それは迷い戸惑うピーターに向けられました。「新たな羊飼いをみつけ、新たな力と可能性を享受し、かつてないほど“笑う”のだ」
少年の母親が首にさげた十字架が浮かび、チェーンが食い込み始めます。ピーターは外そうと試みますが、十字架だけがチェーンから外れて、ルイスの頸動脈に刺さります。
少年の体は内側から焼けるように、腕が火傷でただれはじめます。ルイスはピーターに悪魔祓いを続けるよう告げ絶命し、少年の両親もピーターに哀願しますが、ピーターは自信がなく不安げにストラをみつめます。
そして現在、ルイジアナ州ニューオリンズの大司教区教会に、神学校を卒業したばかりのダニエル神父が呼ばれていました。
大司教はダニエルにピーター・コステロ神父を紹介します。その風貌は神父にそぐわない態度と服装ですが、彼はエクソシストとして名高い人物であり、首にはかつてルイス神父を刺殺した、十字架がかけられていました。
大司教は、悪魔に憑依される人が急激に増え事態は緊急性を要しているが、“エクソシスト”として活動できる人員は現在わずかで、その人員の育成・増員は不可欠だと話します。
ピーターはさっそくダニエルを訓練すると席を立ち部屋を出ます。大司教はダニエルに、神学校では教えていない事実として、バチカンが悪魔祓いに対して否定的になっていると言います。
悪魔祓いがきっかけで、擁護できない事案が公になったこと。それを危惧したバチカンがエクソシストの継承をやめ、ピーターの師匠ルイスを含むわずかなエクソシストだけが、後継者の育成に取り組んだことを語る大司教。
そのルイスの意志を継いだのがピーターであり、彼から多くのことを学ぶだろうと、大司教はダニエルを期待を込めながらも見送りました。
ダニエルの神学校での成績はトップで、2週間の悪魔祓いの修行を経てきました。しかし、ピーターはそんな彼を茶化します。
そしてダニエルの「何でも答えられる」という言葉に、ピーターは「ここで何している?」と志願した動機を聞きます。
ダニエルは「悪魔祓いの養成」に呼ばれたことが「予想外」と明かします。そしてエクソシストになることに不安があると本音を漏らします。
ピーターは大司教から何を聞かされたか訊ねます。ダニエルはピーターが最高のエクソシストであること、そしてルイス神父の弟子だったことを聞いたと答えます。
ピーターはルイスの死後、1人で少年を助けようと試みたが、体内から出る炎に包まれ、目の前で焼け死んでしまったと話しました。
悪魔祓いに失敗したピーターは、その後少年が焼かれていく光景にさいなまれ、その時に遭遇した悪魔にリベンジするべく世界中の悪魔を祓ってきたことで、今「ここにいる」と語ります。その上で、再度ダニエルにここにいる理由を聞きます。
ダニエルが答えられずに戸惑っていると、ピーターは彼に「神父」と一見わからない服へと着替えるよう言います。
そして車で移動しながら、ダニエルがエクソシストを続けるか、平凡な神父になるかは自分次第だと、ホームレスが集まる区域に連れて行き、実力を証明してみせろと言います。
そこにいる人たちの中から、憑依されている人を見破れというピーター。ダニエルは困惑しますが、悪魔を見つけ出せずにどうやって祓うつもりなのかとピーターは迫ります。
ホームレス支援者に呼び止められますが、ピーターは知り合いを探していると言い、ダニエルはお構いなくと先に進んでいきます。
突き当りにたどり着くと、若いホームレスの青年が焚火の前に座り、何やらブツブツつぶやきながら、うつろな目をして落ちつきなく手を震わせています。
ダニエルが青年の前に歩み寄り名乗ると、彼はダニエルを支援者だと思い、「いつもの支援者(ヘレン)はどうしたか」と聞きます。
ダニエルは青年に唐突に聞きたいことがあるというと、彼は不審に思って激しく拒絶し、ピーターと共に立ち去るよう怒鳴ります。
「ダニエルに任せる」というピーターに対し「道具」がないと答えるダニエル。ピーターが自分の十字架を貸すと、ダニエルは祈祷を始めます。
青年が困惑していると、支援者のヘレンがやってきて、出て行くよう叫びます。ピーターは何かが書かれたメモをダニエルに渡し、読むよう促します。
「オビズート」とダニエルがつぶやくと、ヘレンが突然豹変し爆風をおこします。彼女はガラスの破片を口にほおばり「よくも私の名前を呼んだな」と襲いかかります。
ピーターはヘレンをダニエルから引き離すと祈祷を始め、ヘレンに取り憑いていた「オビズート」を祓いました。
ダニエルは支援をしている見かけだけで、ヘレンに悪魔が憑依していることを見抜けませんでした。ピーターはエクソシストには、道具や祈りの言葉以上に「危険を承知で立ち向かう強い信仰心」が必要不可欠だと諭します。
悪魔は「利口」で動きも予想できず、存在も誇示しない。そして、最も予想外な場所に潜むと力説するピーター。教えを乞うには覚悟がいると言いかけた彼に、ダニエルは「やります!」と力強く志願しました。
映画『スレイヤー 7日目の煉獄』の感想と評価
「神父が悪魔に憑依されてしまう」……という展開のエクソシストの映画はありますが、まさか神父の身体を器にして活動をする、そんな展開があるとは!
自分を誇示しない、神父と見破られないような格好、自分では悪魔祓いはしない……ピーターの行動一つ一つが、まさに“悪魔”でした。
ダニエルばかりにフォーカスされるカメラワークへの違和感、その違和感の理由が最後にわかるという展開には驚きです。
原題“7日目”と邦題“Slayer”から読み取る
旧約聖書では「世界は神が7日間で世界を造った」という、天地創造の逸話があります。その7日目が“安息日”なのですが、「いわゆる日曜日?」と思ったら、実は7日目は“土曜日”ということを知って驚きました。
6日目に“人”を創ると、神は7日目に休んだといわれています。この解釈は諸説あるようですが、「天地が安定するまで7日が繰り返されていったことが、1週間になった」という説はよく聞かれます。
この映画の原題がなぜ「The Seventh Day」なのかを紐解こうといろいろ調べていたら、そういえば仏教にも“初七日”という言葉がありました。
“初七日”とは人が亡くなり、天国行きか地獄行きかを審判する閻魔大王のところに行くために、三途の川のほとりへとたどり着くまでの時期のことです。遺族はその7日目に、故人の冥福を祈るわけです。
そうなると邦題の“7日目の煉獄”の意味がつながります。
キリスト教において“煉獄”とはまさに、天国と地獄の間を指します。生前小さな過ちを犯した人が、天国に行けるよう“火”によって浄化される場所であり、悪魔に憑依された少年の身体が、内側から焼かれていくことを“煉獄”と例えたのでしょう。
しかし、悪魔による仕業は生きている者にその苦しみを与え、神の使者である神父の身体に取り憑くことで、悪魔は世界を征服しようと目論んでいました。
そして“Slayer(スレイヤー)”には「退治する」「殺す」といった意味を持ちますが、スラングとして用いられる「笑い転げさせる」「成功する」といった意味もあります。
本作でいえばエクソシストとして悪魔を退治するか、悪魔が世界を征服し笑い転げるか……2つの意味が含まれていました。悪魔が「笑え」「笑うんだ」とささやいていた意味から取ったのでしょう。
題名だけをみると、エクソシストと悪魔との戦いの中で「“7日目”に何か起きるのか!?」と勘違いしてしまいますが、「堕天使ルシファーが再び軍を率い、神の真似をして“7日間”で自分の世界を築こうとしたのでは?」と想像することも可能です。
なぜ“斧”が凶器に登場したのか?
“斧”はホラー映画にはよく登場するため、一見ありきたりな印象を抱いてしまいますし、どうしても『シャイニング』を思い出してしまいます。しかも「街中の豪邸」にある凶器なら、拳銃やライフルの方が自然な気もします。なぜ、“斧”だったのでしょう?
実は本作の舞台となったルイジアナ州ニューオリンズでは、1918年に“斧男(アックスマン)”と呼ばれる殺人鬼がいました。しかし、その“斧男”は捕まらないまま、現在は死亡説だけが残っています。
ニューオリンズといえば、“ジャズ”の町。斧男はジャズをこよなく愛していて、無差別に殺人を起こしていましたが、ジャズがかかっていると見逃したという噂もあります。
街全体がこの“斧男”に取り憑かれ、恐怖に陥っていました。その後、この“斧男”は犯罪声明のような手紙を警察に送り、「私は人間じゃない、地獄から来た悪魔か幽霊だ」と綴っています。
チャーリーに取り憑いていた悪魔を祓うことができたとしたら、その際には悪魔の名前を呼んでいたはずです。「その名は“アックス”ではないか?」……そんな想像をすることもできます。
まとめ
『スレイヤー 7日目の煉獄』は、「不良神父と新米神父が悪魔に立ち向かう映画?」……と思い観始めると、まんまと騙され、最後のどんでん返しに“エクソシスト作品”の新しい展開をみました。
悪魔に支配されているピーターは、その苦しみから「助けろ」と言っています。最後にとどめを刺されて達成されますが、彼には煉獄は用意されず、本当の地獄が待っていることでしょう。
心次第で悪魔に支配されるか、神に依存するか……どちらも人として生まれた以上、人らしくあるためには、バランスが大切なのだと感じさせた作品でした。
善き行いをしているようでも、心にやましさや弱さがあればすぐに悪に転じます。悪に手を染めても真心で人は救われます。そのことをこの映画では見出すことができるでしょう。
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