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Entry 2021/06/07
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映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』あらすじ感想とレビュー解説。結末の表現によって“亡き親友への想い”を問う|銀幕の月光遊戯 77

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第77回

『光関係』、『幸福の目』で知られる映画作家・河内彰の『フィア・オブ・ミッシング・アウト』が2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて公開、2022年1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて上映されます。

亡き友の残したボイスレコーダーを発見した女性は、友人の声に導かれるように、夜通し車を走らせます。懐かしい思い出の光景を胸に、彼女がたどりついた先は!?

「2020年うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテスト」にて審査員賞(大林千茱萸賞)を受賞したのを始め、「第42回ぴあフイルムフェスティバルPFFアワード2020」、「2020年ふくおかインディペンデント映画祭」で入選を果たし、全国の映画祭で高い評価を受けている注目の作品です。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』の作品情報


(C)Crashi Films

【公開】
2021年公開(日本映画)

【監督・脚本・編集・撮影】
河内彰

【キャスト】
Yujin Lee、高石昂、小島彩乃、スニョン、サトウヒロキ、レベッカ、藤岡真衣、横尾宏美、安楽涼、鏑木悠利、三田村龍伸

【作品概要】
瀬々敬久、真利子哲也がその才能を認め、国内映画祭が注目する新鋭・河内彰監督による短編作品。

2020年うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテストで審査員賞(大林千茱萸賞)を受賞したのをはじめ、第42回ぴあフイルムフェスティバルPFFアワード2020入選、2020年ふくおかインディペンデント映画祭入選を果たすなど、高い評価を受けています。

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』のあらすじ


(C)Crashi Films

友人のイ・ソンを亡くしたユジンは、イ・ソンが生前、声を吹き込んだボイスレコーダーを発見します。彼女は自殺した夫の後を追うように自らも自殺したのでした。

彼女が亡くなって半年が過ぎた頃、ユジンは友人の男性と共に、深夜、車を走らせていました。思い出すのは、イ・ソンと共に早朝の学校の体育館に忍び込んで戯れたあの日のこと。

パーキングエリアで休憩をとりながら、夜の街を進むユジンたち。しらじらと夜が明けるころ、ユジンたちはある場所にたどり着きます。

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映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』の解説と感想


(C)Crashi Films

真っ暗な画面に衣擦れの音が重なり、やがて光がこぼれ落ちてきます。どうやらこの空間は体育館らしく、画面の隅に2人の少女が現れます。

体育館シューズを履かず靴下で上がりこんだ彼女たちは、まるでスケートをしているかのように床を滑りながらバスケットボールをパスしあいます。まだほの暗い室内の光の中で振り返る一人の少女。呼びかける声。

そんな印象的なファーストシーンののち、映画は夜へと突入していきます。河内彰監督はCHOFU SHORT FILM COMPETITION 19th(2017)でグランプリを受賞した短編映画『光関係』でも、電話を盗聴し聞き入る男女の一夜の姿を、煌めくビルの夜景と共存するように描いていましたが、本作でも、たとえようもない美しい夜のショットがいくつも重ねられています。

ひっきりなしに車が行き交う高速ジャンクションや橋梁を俯瞰で撮ったショットは、ショット自体はそれほど珍しいものではありませんが、そのあまりの美しい光景には言葉を失うほどです。そこにはまさに神の視点とでもいうべき崇高ささえ漂っています。

夜のパーキングエリアや滑り台のシーンでは、思わぬ場所の思わぬ光景が展開し、観る者に驚くべき視覚的体験をもたらすでしょう。

光と闇が織りなす豊潤な映像が煌めく様に、思わず河内監督を「映像の魔術師」と呼んでみたいという衝動に駆られますが、そうした圧巻の映像体験の中に見えてくるのは、人間の存在の寄る辺なさです。

車の男女はどういう関係なのだろう。信頼しあっているのは確かだけれど、どこかよそよそしくもある。特に男性は女性の心の中を覗き込むことに遠慮があるようにも見える。冒頭の体育館の少女の一人がこの女性で、女性の亡くなった友人がもうひとりの少女のようだけれど、2人は親友と呼べる関係だったのだろうか、最近は疎遠になっていたのだろうかーー。

登場人物の人となりや人間関係などが、徐々に立ち上がっていく長編映画とは違い、短編映画は大胆な省略を伴いながら、一つの未知の世界をつきつけてくるので、自ずと観るものは不明な点を埋め合わせようと想像力をたくましくすることになります。

しかし、本作ではむしろそのあやふやさが、映画の主題を際立たせています。

親しいと思っている人のことをどれほどわかっているのか、あるいはわかっていないのか、他者の心の奥底に、どこまで踏み込むことができるのか、自分は他者からどのように思われているのか。

そのような人間ならではの迷いや恐れが、スクリーンのすみずみにまで染み渡り、豊かな寡黙さで綴られています。

まとめ


(C)Crashi Films

タイトルにある“fear of missing out”という言葉は、もともとは「自分が居ない間に何か楽しいことがあったのではないか」、「何か貴重なことを見逃したのではないか」という不安を表すSNSスラングです。本作では、親友を亡くしたとある女性の物語を通じて、人の心に現れる「とり残される怖さ」を表現しています。

主演のユジン役を演じたのはなんと本作が初演技だというYujin Lee。『誰もいない部屋』の小島彩乃、『なみぎわ』のサトウヒロキらと共に、感情の機微を繊細に表現しています。

河内彰監督は、泣いている人の顔を映さず意外な場所へカメラを向け、観る者を戸惑わせたり、人物の斜め後方にカメラを置いて、誰もが見たいと感じる人間の表情をあえて見せない上に、リアクションが起きる直前に画面を切ってみせ、観る者にも「取り残された」かのような感覚を呼び起こします。

精密さと大胆さがあわさった河内彰の世界は、大きなスクリーンでこそ観られるべきでしょう。是非この機会に河内彰の世界をスクリーンで体感してみてください。

本作と同時上映となるのは、河内彰監督による短編映画『IMAGINATION DRAGON』です。

東京都による、コロナ禍における映像企画として採択され制作されたショートフィルムで、休館を余儀なくされたアート施設を舞台に、創造・想像に対する願いをこどもたちの純粋な行動に託した作品です。子どもたちによる密やかな冒険が想像力豊かに立ち上がっていく様子がみずみずしく描かれています。

『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は、短編映画『IMAGINATION DRAGON』と共に、2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開されます。

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