Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2021/07/20
Update

【サトウヒロキ インタビュー】映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』役者という楽しくも哀しい仕事で“隣人”を想う意味

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!
2022年1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて上映。

『光関係』(2016)で瀬々敬久・真利子哲也らにその才能を高く評価され、国内各地の映画祭にて注目が高まり続ける映画作家・河内彰の短編映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』(以下『FOMO』)。

SNSスラングを題した本作は、親友を亡くしたとある女性の物語を通じて、人の心に現れる「とり残される怖さ」と悲しみ、その先に見えてくる光景を描き出します。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、『FOMO』作中にて主人公ユジンの亡き友人イ・ソンの夫役を演じたサトウヒロキさんにインタビュー。

役者という仕事が持つ哀しみ、役者としての「役」と自己との向き合い方、完成した映画『FOMO』を観て感じとったものなど、貴重なお話を伺いました。

映画が映し出す「ここにいない人々」


(C)Crashi Films

──完成した映画『FOMO』をご覧になった際のご感想を改めてお聞かせください。

サトウヒロキ(以下、サトウ):イ・ソンの夫という役の目線でも、彼を演じた自分自身の目線でもない、ひとりの観客として映画を観た時、そこには「イ・ソンの夫がいた」あるいは「サトウヒロキがいた」という出来事が映っていました。

そして物語上ではすでに亡くなっている登場人物たち、何より登場人物たちを演じ、カメラによって撮影された役者たち全員が「ここにはいない人々」なのだと改めて実感した時、映画というものが持つ寂しさを非常に感じられました。

──完成した『FOMO』を通じて、「誰かの記憶の断片群」としての映画の在り様を再認識されたということでしょうか。

サトウ:そもそも僕たちは「役者」という仕事を通じて、「ここ」に存在しないストーリーを演じてゆく過程を……「ここ」にいない人たちが生きたり死んだりする、「ここ」ではない世界を断片的に切り取り、作品という形にしてゆく過程を続けています。

たとえその世界が、僕たちが生きる現実で実際に起きた出来事に基づいていたとしても、それはあくまでも演じる僕たちの想像の範囲の中で描かれる世界でしかない。だからこそ、その世界を自己を通して伝えることには責任が生じるし、真剣に誠意を持って取り組まなくてはいけないと考えているんです。

楽しくもあり、哀しくもある職業


photo by 田中舘裕介

──「映画」という作品として描かれる以上、モデルとなった出来事や人物の実在・非実在を問わず「現実」=「ここ」にはいない人間たちを演じる役者は、映画という装置にその姿が記録されることによって、役者自身もまた「ここ」にいない人間となる仕事というわけですね。

サトウ:そう考えてみると、役者は楽しいことをしている職業でもあり、ものすごく哀しいことをしている職業でもあるのかもしれません。

たとえば昨年の2020年、とある短編映画を3日間というスケジュールで撮影した時も、芝居と撮影現場という2つの空間を通じて作品の世界を形作っていく中で、僕は自身の演じた役が相手役に対して抱いていた本当の「好き」という想いを、その3日間で確かに抱いていたんです。ですがその世界は「ここ」にある世界ではないので、撮影期間中に抱いていた本当の感情も、クランクアップを迎えた瞬間にたちまち消えて、最終的には完成した映画の中にしか残らない。

ただ、いくら映画が完成して劇場で上映されたとしても、あの時あの瞬間に存在していた感情の残滓は、どうしても残ってしまうんです。特に僕はあまり気持ちを器用に切り替えることができなくて、映画を撮り終えた後にいわば「ロス」の時間が生じてしまう。そういうところが、やはり大変な職業だとは思っています。

無論器用な方はきちんと心の切り替えができますし、器用になろうと努めれば十分にできることだとは感じていますが、それでも自分自身の戻ってくる場所を作っておかないと、精神的に危ない部分もあることには変わりません。

実は自分は、心の切り替えがむしろ器用にできるタイプだと考えていました。ですが2020年を経て、「役を入れる」「役を抜く」という作業の真の意味をようやく知ることができた。「ああ、役者という仕事は本当に楽しいけれど、本当に哀しい作業も同時にしているんだ」と、役者という仕事の難しさ、フィクションを形作ることの難しさを実感しました。

──「役を抜く」という作業にあたって、サトウさんご自身は具体的にどのようなことをされるのでしょうか?

サトウ:まだ「これだ」という正解は出ていないんですが、自分自身の世界、自分自身の生活に戻るためのルーティーンのようなものは必要と感じています。

それは役者という職業に限らず人それぞれにあるとは思いますが、例えば行きつけの銭湯に行ったり、地元へ帰ったり、役者活動を始める前から仲の良かった方と会うなど、そうした自分自身に戻るための「スイッチ」になるものを作っておくべきだと考えています。

「個」があって「みんな」が生じる映画制作


photo by 田中舘裕介

──そもそもサトウさんはどのような経緯を経て、役者という仕事を始められたのでしょうか?

サトウ:僕は20代の初めごろ地元に住んでいたんですが、やりたいものが何もなくて、それでもその中で「好きな人と仕事をする」という目標を……誰かが立ち上げたものや作っているものに手助けをすることが、一番の幸福だと思い至ったんです。

そうした想いを胸に様々な仕事に携わっていったんですが、やがて自分自分の心身一つで、自分自身の行動一つ一つを通じての他者への表現をしたい、一人の人間としての「個」の表現をしたいと感じるようになり、最終的に地元を離れ東京へ行くことにしました。

実際に東京に来てみたら、結局世界中のどんなものも「みんな」が形作るものなんだと気付かされましたが、自立した「個」が集う中で「みんな」が生まれるもの作りと、最初から「チーム」によって進められるもの作りは異なることも知りました。そして映画の現場はまさに「個」ありきで「みんな」があるもの作りであったため、「役者として仕事を始めてよかった」「ここに来てよかった」と常に感じています。

「隣人」を想う時間


photo by 田中舘裕介

──2020年に役者という仕事の難しさを真に実感されたサトウさんの、2021年現在における役者としての目標は何でしょうか?

サトウ:自分自身のテーマとして今現在意識しているのは、役者として現場に入る時間、バイトや掃除などの生活の時間、家族と会う時間など、どの時間も平等に見つめて接するということです。

「役者の仕事だけを本気でやる」「バイトだけを本気でやる」のではなく、全ての時間を平等に見つめることで、自分が他者と接する時間をどれも大切にする。

役者はやはり、「良い作品に出演したい」「自分の演技力を発揮して売れたい」というエゴが強まり過ぎて、色んなことを見失ってしまうことが決して少なくありません。だからこそ自分は他者との時間を、隣にいる誰かとの時間をまず何よりも大切にしたいですし、そうすることで役者という仕事を続ける自分自身を見失わないようにしたいと考えています。

──サトウさんがおっしゃる「隣人」を想う時間を大切にするという考え方は、映画『FOMO』作中で描かれる「誰かの風景」の考え方と深くリンクしているといえます。

サトウ:『FOMO』という映画で凄くいいと思ったのは、「ここ」からいなくなった人々を想う時間には終わりがないということが、丁寧に描かれている点です。

どれだけその人を想い続けても、それはあくまでも想像の範疇でしかない。そして「ここ」からいなくなりもう会えなくなった時点で、その時何があったのか、何を感じていたのかを聞くことはできないし、「ここ」にはただ事実しか残らない。それを河内監督は映画を通じて丁寧に表現されているのが嬉しかったというか、素敵だと思いました。

そして『FOMO』を観終えた時には、映画が持つ寂しさだけでなく「後に思い返せる物語のようなものを、自分と好きな人たちの間でどれだけ多く残せるのだろうか」「自分は『ここ』にいるうちに、『ここ』にいる大切な人たちの本心を聞けるのだろうか」と何よりも感じられました。

2020年、2021年とどうしても人と直接には会いづらい状況が続いているものの、それでも「ここ」で会えて話せるうちに、少し照れくさくても会いに行きたい。それが、この映画を観て一番に思ったことですね。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

サトウヒロキ プロフィール

北海道札幌市出身。Evergreen Entertainment所属。

映像作品を中心に活動中。一昨年行われたMOOSICLAB2019では『旧題 ゆうなぎ』(常間地裕監督)、『追い風』(安楽涼監督)に出演し、男優賞を受賞。主な出演作に『なみぎわ』(常間地裕監督)、TVO/BSフジ『名建築で昼食を』、グッナイ小形『きみはぼくの東京だった』がある。

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』の作品情報

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本・編集・撮影】
河内彰

【キャスト】
Yujin Lee、高石昂、小島彩乃、スニョン、サトウヒロキ、レベッカ、藤岡真衣、横尾宏美、安楽涼、鏑木悠利、三田村龍伸

【作品概要】
『光関係』(2016)で瀬々敬久・真利子哲也らにその才能を高く評価され、国内映画祭にて注目が高まり続ける新鋭・河内彰による短編作品。

2020年のうえだ城下町映画祭自主制作映画コンテストでの審査員賞(大林千茱萸賞)をはじめ、第42回ぴあフイルムフェスティバルPFFアワード2020入選、ふくおかインディペンデント映画祭2020入選を果たした。

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』のあらすじ


(C)Crashi Films

親友のイ・ソンを亡くしたユジンは、彼女の残したボイスレコードを発見する。

ここにいない友と通じ触れながら、ユジンは思い出と現在の時空を行き交い始める。

街のネオン、夜のとばり、彼女の車が向かう先は……。

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!




関連記事

インタビュー特集

【山谷花純インタビュー】映画『フェイクプラスティックプラネット』女優としての在り方に迷う中で見出した“今”

『フェイクプラスティックプラネット』は2020年2月7日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー公開! 「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」のファンタスティック・オフシアター・コンペ …

インタビュー特集

【橋爪功インタビュー】映画『ウスケボーイズ』成熟したワインのような役者が若き後輩たちに語る思い

桔梗ヶ原メルローを生んだワイン界の巨匠、麻井宇介の思想を受け継ぎ、日本ワインの常識を覆した革命児たちを描いた映画『ウスケボーイズ』。 ワイン造りに生涯をかけ、若者たちにワインを伝播するレジェンド麻井宇 …

インタビュー特集

【上西雄大監督インタビュー:前編】『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』人を“出会わせる力”を持つ島の物語で名優陣が魅せた“見えない力”を伝える力

映画『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』は2024年2月16日(金)なんばパークスシネマにて大阪先行公開、3月1日(金)シネ・リーブル池袋ほかで全国順次公開! 沖縄県・宮古島の小さなヴィラを舞台に、人 …

インタビュー特集

【越川道夫監督インタビュー】映画『夕陽のあと』現代家族の形の中心に子どもを捉えた時、物語は新たな可能性を生み出す

映画『夕陽のあと』越川道夫監督インタビュー 2019年11月8日(金)より全国公開された『夕陽のあと』は、鹿児島の長島町の有志組織「長島大陸映画実行委員会」が立ち上げた企画。 豊かな自然と漁業を中心と …

インタビュー特集

【迫田公介監督インタビュー】映画『君がいる、いた、そんな時。』小島藤子と子役らの姿が“超える”作品をもたらした

映画『君がいる、いた、そんな時。』は2020年5月29日(金)に呉ポポロシアター、6月6日(土)に横川シネマで先行上映、6月13日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次ロードショー! 短編映 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学