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Entry 2021/06/18
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シンエヴァ特典薄い本|内容ネタバレ感想考察。マリの歌“若者たち” ×中身のイラスト×人の造りし流星の意味【終わりとシンの狭間で15】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第15回

1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新劇場版シリーズ。

そのシリーズ最終作にしてエヴァの物語の完結編となる作品が、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァンゲリオン』)です。

本記事では第13回記事第14回記事に引き続き、2021年6月12日(土)より配布された『シン・エヴァンゲリオン』劇場来場者プレゼント・公式謹製36P冊子『EVA-EXTRA-EXTRA』の内容を、同冊子掲載の短編漫画「EVANGELION:3.0(-120min.)」を中心に解説・考察。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前日譚」とされる漫画「EVANGELION:3.0(-120min.)」の終盤での描写を考察するほか、同じく冊子内に掲載された「エヴァ」スタッフ陣の豪華寄稿イラストについても紹介してゆきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作品情報


(C)カラー

【日本公開】
2021年3月8日(日本映画)

【原作・企画・脚本・総監督】
庵野秀明

【監督】
鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏

【総作画監督】
錦織敦史

【音楽】
鷺巣詩郎

【主題歌】
宇多田ヒカル「One Last Kiss」

【作品概要】
2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年の第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2012年の第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に続く新劇場版シリーズ最終作。

庵野秀明が総監督を、鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏が監督を担当する。なおタイトル表記は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の文末に、楽譜で使用される反復(リピート)記号が付くのが正式。

公式謹製36P冊子『EVA-EXTRA-EXTRA』内容解説・考察

【公式】ダイジェスト:これまでの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

マリが口ずさんだ歌「若者たち」

漫画「EVANGELION:3.0(-120min.)」作中にてアスカが『破』で身につけていたプラグスーツへと着替えた後、マリがハナ唄で口ずさんでいた「若者たち」。

1966年制作のテレビドラマ『若者たち』の主題歌として制作されたザ・ブロードサイド・フォーの(黒澤明の息子の黒澤久雄が結成したフォークグループ)の楽曲であり、1970年代での小・中学校向けの音楽の教科書への掲載、2014年のドラマリメイクにあたっての人気シンガーソングライター森山直太朗によるカバーなどから、幅広い世代層に知られている歌でもあります。

マリはなぜ、この曲を「姫」ことアスカの「応援歌」として口ずさんでいたのでしょうか。それは、漫画作中に登場する歌詞の最後の部分「そんなにしてまで」に続く同楽曲の歌詞から、理由をうかがい知ることができます。

「君のあの人は 今はもういない」「だのになぜ なにを探して 君は行くのか」「あてもないのに」……地球から「果てしなく遠い」宇宙へと封印され、生きているのかさえわからない。たとえもし生きていたとしても、自分自身が“大人”へ変わってしまった以上、かつて恋愛感情を抱いていた“あの頃のシンジ”と再会することはもうできない。若者たちの“若者”であるがゆえの悲哀と苦悩をうたったはずのその歌詞は、精神的に“大人”へ変わり、だからこそ“若者”という言葉の重みを理解してしまったアスカのシンジに対する心情と重なります。

しかしその一方で、「君の行く道は 希望へと続く」という一節をはじめ、「あてもないのに」以降の歌詞には悲哀と苦悩を抱えながらも、それでも絶えることのない若者たちにとっての“希望”が描き出されています。

「青春」「長い春」という漫画作中での言葉になぞらえてこの歌を連想したマリ。彼女は成長することのない肉体と共に「長い春」を生きる“若者”たちである自身らへの自虐だけでなく、その先にある“若者”の存在という願いも込めて、応援歌としての「若者たち」を歌ったのでしょう。

“流星”が意味する「吉/凶兆」と「反抗の意志」

Character Promotion Reel:綾波レイ/アヤナミレイ(仮称)

漫画ラストページでは、『Q』で初登場を果たすことになるアヤナミレイ(仮称)の姿が描かれています。

マイティK/マイティQ」によって宇宙へと打ち上げられたエヴァ改2号機β/アスカとエヴァ8号機/マリ。流星のごとく夜空を疾る2機の姿を、荒廃したネルフ本部から見つめるアヤナミ。彼女が流星たちを見て何を感じていたのかは、漫画作中では明確に描かれていません。

しかし流星には、ヨーロッパ文化圏のみならず世界各地において“吉/凶兆”にまつわる伝説・伝承が存在することで知られています。果たして地上から見つめていたアヤナミにとって、二つの流星は吉兆と凶兆のどちらだったのか。それは後の『Q』『シン・エヴァンゲリオン』の物語の中での彼女の変化、そして変化してしまった故に訪れた彼女の死を思うと、映画を観た人それぞれの想像に委ねるしかないのかもしれません。

その一方で、打ち上げられた2機が“流星”のごとく描かれた理由には、流星にまつわるキリスト教文化圏での信仰も関わっていると考えることもできます。

キリスト教文化圏における流星の信仰の中には「神は時折下界を眺める際に天界のドームを開くが、その時に星が流れ落ちてゆく」「その一瞬の中で願い事を唱えると、それは神に届き願いが叶う」というものが存在し、神が願いを叶えてくれる機会として流星を意味づけています。

しかしエヴァ改2号機β/アスカとエヴァ8号機/マリは、ロケット打ち上げという人の力によって飛び立った「天へと向かう流星」であり、信仰の中で描かれている「天から流れ落ちてゆく流星」とは異なります。それはまさしく、ネルフ壊滅と人類補完計画の阻止という「神への反抗」を目的とする組織ヴィレの“意志”を象徴しているといって過言ではないのです。

「あったかもしれない光景」に救われる:書き下ろし寄稿

追告A『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

『EVA-EXTRA-EXTRA』には短編漫画「EVANGELION:3.0(-120min.)」のみならず、スタッフ陣による豪華書き下ろし寄稿も掲載。総作画監督の錦織敦史、作画監督の井関修一・金世俊・浅野直之・田中将賀・新井浩一、CGIアニメーションディレクターの松井祐亮、CGIルックデヴディレクターの岩里昌則、そして監督の鶴巻和哉・前田真宏と錚々たる面々が名を連ねています。

その中でも、作画監督の一人である井関修一が描いた「あったかもしれない光景」の書き下ろしイラストに思わず落涙してしまったという方は多いかもしれません。

特にP.22での「大人の姿をした渚カヲルと綾波レイ、そしてカヲルに肩車された小さな男の子の楽しげな姿」のイラスト、それと対になるかように描かれたP.23「3歳に成長したツバメと、彼女が嬉しそうに抱きしめている綾波レイに似たヌイグルミ」のイラストを見た時、「“綾波レイ/アヤナミレイ”という魂は、少なくとも確かに救われたのだ」と思わなかった方はいないはずです。

第三村での出会いによって、“赤ん坊”同然だったアヤナミに成長と人間としての生をもたらしてくれた、トウジとヒカリの一人娘ツバメ。

そんな彼女が健やかに成長し、記憶として意識しているかは定かでないものの、それでも赤ん坊だった頃に出会ったアヤナミとの記憶を感じさせる光景には、たとえそれが「新世界の創造(ネオン・ジェネシス)後の世界」を描いたものであったとしても、「ツバメとアヤナミの出会い」が決して泡沫の安息などではなかったと信じられる拠り所を見いだせます。

そしてP.22での“家族”のイラストを改めて見た時には、誰もが『シン・エヴァンゲリオン』終盤、アヤナミレイと魂と記憶がつながった綾波レイが大切そうに抱いていた「ツバメ」と名づけられた人形の姿を否応にも思い出させられます。“綾波レイ”だけでなく、シンジにその名をつけられた“アヤナミレイ”の魂もまた、救われていた。そう考えざるを得ない、あるいはそう考えたくなるイラストと受け取れるのです。

まとめ


(C)カラー

2021年6月12日(土)より配布された、『シン・エヴァンゲリオン』劇場来場者プレゼント・公式謹製36P冊子『EVA-EXTRA-EXTRA』。その最後は、総監督の庵野秀明による特別寄稿によって締めくくられています。

そしてそこには、シリーズの原点『新世紀エヴァンゲリオン』のメカニックデザインを担当した山下いくとにデザイン発注をする以前に描かれた、庵野秀明自身によるエヴァ初号機のイメージスケッチが掲載されています。

『新世紀エヴァンゲリオン』放送開始から26年もの年月を持ってついに完結を迎えた「エヴァ」シリーズ。その中で描かれ続けてきた「エヴァの存在する世界」の原点こそが、掲載されたイメージスケッチなのかもしれません。

またイメージスケッチに添えられた庵野秀明の言葉は、「次回作以降もがんばります」というシンプルな決意の一言によって終わっています。2021年内には『シン・ウルトラマン』が、2023年3月には『シン・仮面ライダー』の公開を予定する中、果たして庵野秀明は今後どのような作品を今後描いてゆくのか。

そのいずれもが、多くの観客を魅了する素晴らしい作品となることを願うばかりです。

次回の『終わりとシンの狭間で』もお楽しみに。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら







編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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