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Entry 2021/10/04
Update

映画『夜を越える旅』ネタバレ結末あらすじの感想評価。萱野孝幸監督の佐賀を舞台にしたロードムービー

  • Writer :
  • 大塚まき

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門にて優秀作品賞、観客賞をW受賞

『夜を越える旅』は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門にノミネートし、優秀作品賞、観客賞を受賞作品。

福岡県内でオールロケが行われた『カランデイバ』(2018)、『電気海月のインシデント』(2019)に続き、本作でも九州出身の俳優を数多く起用し、地方からの発信にこだわりを持つ萱野孝幸が監督と脚本を務めました。

佐賀を舞台にした展開の見えないロードムービー『夜を越える旅』のあらすじと作品解説をご紹介いたします。

映画『夜を越える旅』の作品情報

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
萱野孝幸

【キャスト】
高橋佳成、中村祐美子、青山貴史、AYAKA、桜木洋平、井崎藍子、荒木民雄

【作品概要】
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門にて入選し、優秀作品賞、観客賞を受賞。

佐賀を舞台に、展開の見えないロードムービーを作ったのは、福岡を中心に映像制作を行っている萱野孝幸監督。

福岡県内でオールロケが行われた『カランデイバ』(2018)、『電気海月のインシデント』(2019)に続き、本作でも九州出身の俳優を数多く起用しています。

萱野孝幸監督作品に毎回登場するほど、監督からの信頼は厚い高橋佳成が主演の春利を務めます。物語の鍵となる小夜役には、映画、ドラマ、ラジオと幅広く活躍する中村祐美子が怪演を披露。

映画『夜を越える旅』あらすじとネタバレ


(C)夜を越える旅フィルムパートナーズ

バイトをしながら漫画家を志している春利は、毎年ゼミ旅行をしていた大学時代のメンバーで、社会人になってから3年ぶりの旅行に出かけようとしていました。

持ち金がない春利は、同居中の彼女にお金を借りて家を出ようとします。

彼女にバイトを増やしたらと言われますが、漫画賞の結果待ちをしている春利は、彼女の気遣いの無さに不満を覚えます。

待ち合わせ場所の駐車場に春利とサトミ先輩、少し遅れてがツツダが集まります。

車で合流するはずだったケントは、友人と朝まで飲んでいて後部座席で寝ていました。代わりにユリが運転してやってきました。

待っていた3人でジャンケンをして、負けた春利はユリの運転を代わります。

道中にお昼ごはんを食べたり、休憩をしながら、宿泊先のバンガローに向かう5人。途中で誰が運転をするかジャンケンで決めますが、貧乏くじを引くのは春利でした。

運転をしながら、大学の頃思いを寄せていた小夜のことが頭をよぎる春利。

助手席に座っていたサトミ先輩から描いている漫画のジャンルを聞かれ、不条理ファンタジーと答えます。大学時代から書き進めてまだ未完成の漫画をサトミ先輩に見せますが、反応は今一つでした。

スピリチュアルやオカルト系の雑誌の編集をしているケントから、オンライン版に載せる作画の仕事をしないかと誘われますが、漫画賞の結果待ちをしている春利は、もし賞を取っていた場合のことを考えて断ります。

ケントがしている仕事で風水のことを、信じているのかと聞く春利。

ケントはそのことについて、実際のメカニズムより、信じることで人の行動を変えることができることを語ります。

バンガローで飲んで語って夜が更けていく仲間との様子を写真に収めていく春利。

そんな中、携帯電話に彼女からの着信がありました。渋々取ると、漫画賞の一次審査が落選していたことを伝える彼女。

春利は、せっかく旅行に来ているのに、わざわざ落ちた結果を伝える彼女の無神経さに腹立たしさを感じて電話を切ります。

自暴自棄になった春利は、バンガローの窓から持ってきた漫画のコピーを投げ捨てました。

お風呂の湯船に浸かっていると、小夜との記憶が思い起こされます。他の4人は、大学の頃の写真を見返していました。そこには、小夜の姿も。

お風呂から上がった春利は、梨を食べながらうとうとと睡魔におそわれます。突然部屋の電気が消えたかと思うと、またパッと電気がつき、玄関に小夜が立っていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『夜を越える旅』ネタバレ・結末の記載がございます。『夜を越える旅』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

その拍子に春利も起き上がり、仲間たちと話す小夜の姿を見ていました。一人になった小夜にちょっと散歩しないと声をかけた春利。

懐中電灯を手にバンガローを出て、暗い道を話しながら歩く2人は、小さな公園に行きます。

小夜は、春利が描いた漫画をじっくりと読み、やっぱり才能あるよ、漫画はどこにいても描けるんだから自分のところに来ればいいのにと誘います。

遠すぎるよと断る春利に、小夜は自分のことを好きだった春利なら一緒に来てくれると思ってたと言います。バンガローに戻ると、みんなはすでに寝ていました。

帰ろうとする小夜にみんなを起そうかと春利が聞きますが、小夜はそのまま帰ると言うので駅まで送ることに。

空が白む頃、駅の待合室で小夜が春利と話せて良かったと伝えました。始発の列車が来るアナウンスが流れ、春利は思わず小夜にすぐにでもそっちに行くと言って別れます。

ふと目を覚ました春利は、顔を洗い、起きてきたツツダに小夜がこっそり帰ってごめんと言っていたと伝言を伝えると、不謹慎なことを言うなと咎められます。

夢だったことにはっとした春利は、急に後ろから何者かに頭を捕まえられ、部屋から姿を消していました。

いつの間にか遊園地の列車に揺られている春利。その前に座る小夜は、夢の中で話をした小夜とは違って得体の知れない不気味さを持っていました。

迫ってくる不気味さから逃げようとする春利でしたが、異様な雰囲気の建物内の椅子に座らせられて体が動きません。

死にたくないと懇願する春利に小夜は、日付が変わる今日の夜までにケントを代わりに差し出したら命は助けてあげると言います。春利は頷くしかありませんでした。

バンガローの外の竹藪に倒れていた春利をツツダが見つけます。5人はバンガローを後にして、観光しながら海に出かけます。

波立つ断崖で写真を撮っているケントの後姿を見つけた春利は思わず背中に手をかけようとしますが、ケントが振り向きざまに「小夜? お前も見たの小夜の夢?」と言われます。

ケントはご飯屋でみんなに小夜の夢を見たりするか聞いてみますが、重たい空気が流れます。春利は、小夜と一緒に散歩をしたり話したりした夢のことを話しました。

駅でみんなと解散した春利は、ケントの車に残り小夜の夢について話すことに。

ケントは小夜に一緒に行こうと言われたけど、断ったと言います。春利は、つい一緒に行くと言ってしまったこと、ケントを殺せば助けてやると言われたことを打ち明けます。

ケントは選択肢が3つあると言います。ただの夢と偶然で何もしないか、お互い信じて殺し合うか、どうにかするかの3つと。

そこで春利とケントは霊媒師の2人組に会いに行きますが、春利が小夜と約束(契約)したことで、手に負えなくなり、除霊もできないと言われます。

ただ一つだけ助かる方法があり、それは小夜のことを考えないこと。一瞬でも忘れることができれば小夜は手出しできなく、意識したり考えなければ大丈夫だと言います。最後に気休めだけどと言って、カラオケの割引券を渡されました。

春利とケントは、カラオケボックスで歌いまくったり、いろいろと気がまぎれることを試してみます。

しかし、意識しないようにするにも難しく、気を揉む春利に死なない程度に石で頭を殴るぐらいしないと言うケントに便乗して、頭を殴られる春利。

鈍い衝撃とともに倒れた春利は、視界に小夜の亡霊が見えて恐怖でうずくまります。日も沈み暗くなった道を車で走り、大物霊媒師のところに行きます。

春利とケントは部屋に通されると額にお札のようなものを被せられました。霊媒師の女から、助かりたければ小夜への一切の情念を捨てなさいと言われます。

そして、小刀を持ち奇妙な舞いとともに奇声をあげた除霊が始まりました。

しばらくすると近くにいた男2人が血を流して倒れ、悲鳴を上げた霊媒師もまた倒れ、横にいたケントも倒れ込みます。

春利はただならぬ気配に慄きますが、倒れていたケントが笑いながら起き上がり、霊媒師の女もつられて笑い出します。どうやらケントが、ドッキリを仕掛けたようでした。

また、暗い夜道を春利の運転で走る中、隣りに座っていたケントが「あと3時間、どっちか決まった? 約束」と小夜の声で、話しかけてきます。

急ブレーキかけたその衝撃で我に返ったようなケントに、春利はどこまで覚えてる?と聞くと、ケントは霊媒師の女のところに行ってから、記憶が途絶えていたと言います。

車のフロントガラスに、得体の知れない大きな物体が突如襲い掛かります。

車のエンジンがかからず混乱状態になる春利とケント。不穏な空気が流れ、ケントは春利の首に手をかけ襲い掛かり、春利は万年筆のペン先をケントに向けました。

車から転げ出るように、もみ合いになる2人。どちらが死ぬかをもうジャンケンで決めようと言うケントに春利も承諾します。

一回勝負でジャンケンをすると、勝ったのは春利でした。しかし、目をつぶっていた春利は、自分が勝ったことを知らない間にケントに出した手を変えられて、負けたことに。

ケントがその場を去ってから、橋の上から飛び降りようとする春利でしたが、遺書を書くために車に戻ります。体験したすべてを書き残そうとペンを走らせる春利。

3年前に自殺した小夜が停電とともに現れたことを書き綴っていきます。

彼女の死を乗り越えていたつもりでいたが、夢の中の彼女がとても魅力的で引き込まれ、そして恐ろしい何かに付きまとわれ、考え、怯え、狂い、現生を地獄へと変えてしまったことを文字に絵に描き出していきます。

どうしようもなく小夜に会いたいという春利の想いが、色褪せぬ頃の小夜との記憶を思い起こさせていました。

最期の言葉を書き綴った春利の隣りには小夜の姿が。そして、春利は口から血を流し、車の回りにこの世のものではないものが集まります。それは、春利が無心になって漫画として描き下ろされたものでした。

車の窓を警官が叩き、その音に我に返った春利は、今時間かを聞きます。

警官は、12時25分と告げました。警官になんでこんなところにいるのか聞かれた春利は、漫画を書くためのシナリオハンティングだと答えます。

壁一面に小夜のイラストが張り巡らせたマンションの一室でむくっと起き上がった春利は、そのまま机に向かってコツコツとペンを走らせ続けます。

映画『夜を越える旅』感想と評価


(C)夜を越える旅フィルムパートナーズ

本作はあらすじや予告から想像する作品のジャンルを気持ちよく裏切ってくれました。

冒頭から映される社会人になった大学時代の仲間との再会、車中やごはん屋でのやりとりでは、気心知れた間柄の和やかな雰囲気が流れ、緩いロードムービーの心地よさに包まれます。

あらすじから推測した観る側は、春利が大学の頃に思いを寄せていた小夜が遅れて現れ、どんな修羅場とやらになるのだろうと想像していきます。

先回りして、仲間との間でなにやら騒ぎ?揉め事?争い?が起こっていく展開があるのだろうと待っていると、まさか夢だったことにはっとした春利のシーンから、作品のテイストがガラリと一変します。

急にゾクッと寒気が走る感覚を覚え、不意をつかれた展開だからこそ、リアルな恐怖に落とし込まれていきます。

そして、終点がわからない列車に乗せられた気分の観客は、ここから本当の夜を越える旅に誘われます。

春利の記憶の中の小夜、写真の中に収められた小夜、夢の中の小夜といった実体のないはずの小夜は強い存在感を持って現れます。

記憶の中で思いとどめている情念ほど、人を惑わすものなのでしょう。

その執着を手放しきれずにいた春利は、記憶の中で鮮明に生き続ける小夜を生み出し、狂気の沙汰に見舞われます。

漫画という世界に描き起こすことで救われた春利でしたが、漫画の中で描き止める小夜の絵が所狭しと張り巡らされたマンションの一室は、さらなる狂気を漂わせるエンディングでした。

まとめ


(C)夜を越える旅フィルムパートナーズ

物語の途中からテイストが一転し不穏感に引き込まれるという巧妙な脚本に魅了される『夜を越える旅』。

登場人物の様相も些細な会話やシーンで巧みに描かれます。

目をつぶってジャンケンをする春利は、勝っているはずなのに皆より少し長く目を閉じている間にずるをされ、負けてしまうところや、玉ねぎが嫌いなのに野菜炒めや焼きそばを頼んでしまうなど、お人好しで、要領が悪いが上に貧乏くじを引くタイプであることが伺えます。

そんな間の抜けた緩さがある春利の人となりが垣間見れるからこそ、在りもしない奇妙な出来事に信憑性を帯びてきます。

そして高嶺の花である小夜が奇怪な雰囲気へと一変する様も異色を放ちます。

気心知れた仲間とのロードムービーと観ていけば、癒される風景でもあるものが、ストーリーが一転することによって、観ていた風景さえも変えてしまう面白さ

それは自分が見ているものが、こんなにも見方によって一変するのだということを観客も映像を通して味わいます。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021にて萱野孝幸監督は、想像力の素晴らしさと厄介さを描いたロードムービーというメッセージを送っていますが、まさしく観客の想像力をも搔き立てられ、時間を越えた世界観に引き込めれることでしょう。

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