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Entry 2022/04/06
Update

【ネタバレ】女子高生に殺されたい|感想解説と結末あらすじ考察。原作漫画から田中圭演じる主人公の“欲望のディテール”をより鮮明に炙り出す

  • Writer :
  • 岩野陽花

僕はただ、女子高生に殺されたいだけなんだ。

田中圭が主演を務めた映画『女子高生に殺されたい』。

「女子高生に殺されたい」という欲望に取り憑かれた高校教師が、「自己暗殺」のために前代未聞の完全犯罪に挑んだ末路を描いたサスペンス作品です。

『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』などで知られる漫画家・古屋兎丸による同名コミックを、『性の劇薬』『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督が大胆に脚色し映画化した本作。

本記事では、映画『女子高生に殺されたい』をあらすじネタバレありで紹介いたします。

映画『女子高生に殺されたい』の作品情報


(C)2022 日活
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
古屋兎丸『女子高生に殺されたい』(新潮社バンチコミックス)
【監督・脚本】
城定秀夫
【キャスト】
田中圭、南沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太、大島優子
【作品概要】
『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』などで知られる漫画家・古屋兎丸による同名コミックを、『性の劇薬』『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督が映画化。城定監督自らが原作を大胆にアレンジした上で脚本を書き上げ、「女子高生に殺されたい」という欲望を抱える高校教師が企てた「自分殺害計画」の顛末を描く。

主人公・東山春人を演じるのは『スマホを落としただけなのに』『劇場版 おっさんずラブ』『哀愁しんでれら』『あなたの番です 劇場版』の田中圭。

春人が計画に組み込んだ生徒たちを『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』南沙良、『ちょっと思い出しただけ』河合優実、『牛首村』莉子『青くて痛くて脆い』茅島みずきを演じるほか、春人の過去を知る元恋人・五月役で『生きちゃった』の大島優子が共演。

映画『女子高生に殺されたい』のあらすじとネタバレ


(C)2022 日活

春。新年度を迎えた進学校・二鷹高校に、日本史担当の教師として東山春人(田中圭)が赴任してきました。

生徒と関係を持ったことが発覚したために高校を去った前任者の後釜ではあったものの、その優れた容姿と誠実さと気さくさを併せ持った性格から、たちまち春人は生徒に人気の教師となります。

やがて春人は自身が顧問となって「遺跡研究部」を新設。彼に憧れる女生徒の一人・真帆(南沙良)は、幼なじみで親友のあおい(河合優実)を誘って入部します。

「生き物の“声”や“匂いではない匂い”を感知できる能力」「地震や生き物の死を予知できる能力」を幼少のころから持っていたあおいは、真帆とともに入部はしたものの、顧問である春人のことをなぜか恐れていました。

実は春人が二鷹高校へ赴任してきたのは、偶然ではありませんでした。彼は前任者のスキャンダルを調査して自ら匿名で告発し、「キャサリン」と再会し「ある目的」を実現するために席の空いた二鷹高校へ転任してきたのです。

その目的とは、「女子高生に殺されたい」という欲望の実現でした。

「出産の際、自分はへその緒が首に絡まって生死の境をさまよったと聞かされた」「幼い頃の自分は、母親に愛されていると感じられなかった」……そう語る春人は、高校二年生の頃から可愛い女の子を見るたびに「殺されたい」という感情を抱くようになりました。

のちに春人は自身の欲望が「オートアサシノフィリア(自己暗殺性愛:自分が殺されることへ興奮を覚える嗜好)」というパラフィリアであると知り、それを機に臨床心理士を志すように。そして自身の欲望が正確には「女子高生に殺されたい」であると突き止めたのです。

春人が考える「自己暗殺」の絶対条件は、自身を殺す少女を法から守るために「完全犯罪」であるということ、そして「全力で抵抗した上で殺されたい」ということ。それらの条件も相まって、春人は自身の欲望の実現は不可能と考えていました。

しかし、インターン時代に偶然にも少女キャサリンと出会ったことで、彼女がいれば諦めていた自己暗殺は実現可能と確信した春人は、彼が「最後の“少女”の季節」と捉えている「17歳の女子高生」へとキャサリンが成長するのを待つことに。

そしてそれまでの9年間を、キャサリンに殺されるための計画を練ることに費やし、ついに17歳の女子高生となったキャサリンと再会するために、彼女が通う二鷹高校に転任してきたのです。

二鷹高校で文化祭が催される11月8日に、キャサリンに殺されるべく、計画を進行する春人。そのために多くの生徒たちの心を操り、彼にとっては「一生涯の大事業」ともいうべき自己暗殺の舞台を作り上げていきます。

自身を慕っていると察していた真帆には、遺跡研究部での活動を通じて彼女の恋心をより明確に意識させていきます。

文化祭で披露するクラス演劇の台本作りに悩んでいた京子(莉子)には、『エミリーの恋人』という戯曲を演じてはと勧めます。そして彼女がその勧めに応じるよう、春人はわざと京子に気があるような振る舞いをします。

また京子との台本確認の際に、とある場面のエミリーを彼女に演じさせ、『エミリーの恋人』劇中でエミリーが叫ぶ「キャサリン」を呼ぶ声を録音します。

やがてある日の晩、春人はキャサリンを呼び出します。そして長い間訓練を続けていた飼い犬にキャサリンを襲わせ、録音した「キャサリン」を呼ぶ声をその場で流します。

キャサリンは尋常ではない怪力によって犬を絞め殺しました。キャサリンが今も「大の男を容易に殺せる力」を有していると知れた春人は喜びますが、別の女生徒が現場に現れたことでその場を後にします。

ところが翌朝、彼が担任を受け持つクラスの教室にて、教卓の上に例の犬の亡骸が遺棄されていました。春人も犬を遺棄していったのはキャサリンなのか別の女生徒なのか、そもそも何故こんなことをしたのかと困惑します。

犬の一件によって学校が騒然とする中、春人のクラスの生徒で柔道部員の愛佳(茅島みずき)が事件後から手首に包帯を巻いていたことで、「犬殺し」と揶揄されるように。

「あの噂本当?」と尋ねてきた京子が噂を広めていると感じた愛佳。彼女につかみかかり問題はより大きくなっていきますが、「あの日は公園で一人稽古をしていた」「手首は捻挫」と話す愛佳のアリバイを「稽古する姿を見かけた」と春人が嘘で証明したことで、騒ぎは収束を迎えました。

不測の事態はさらに続きます。新学期に、大学時代の元恋人・五月(大島優子)がスクールカウンセラーとして赴任してきたのです。

大学時代、春人は同じく臨床心理士を目指す学生だった五月と交際していましたが、彼女に対して「殺されたい」という感情が湧くことはありませんでした。

思わぬ再会に驚く春人と五月。五月はかつて恋人だったころ、春人が突然臨床心理士から教師を目指すようになったこと、その後別れを切り出されたことを未だ疑問に思っていました。

また五月は生徒たちの様々な相談を受ける中で、春人が女生徒たちにあえて「気がある振る舞い」をしていること、それによって生徒たちの心を操っていることに気づき始めます。そして「春人を好きな生徒」の中で、真帆だけは異質であることにも。

クラス演劇のキャスト決めで、春人は投票数を誤魔化し真帆をキャサリン役にしました。

一方、キャサリンの恋人ジェームズ役に選ばれなかった雪生(細田佳央太)は保健室にて、自身の真帆への想いを五月に明かします。真帆が春人を好きだと知りつつも、それでも一途に彼女を想い続ける雪生に、五月は「真帆の近くにいてあげて」と助言します。

ある時、恒例となりつつあった真帆とあおい、五月の保健室での昼食に、助言を受けた雪生も加わります。しかし、あおいは突然頭を抱え地震を予知。その言葉通りに大きな地震が起こります。

地震は収まり、怪我もせずに済んだ一同。ところがそこにいたのは、「真帆」ではなく「カオリ」でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『女子高生に殺されたい』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『女子高生に殺されたい』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2022 日活

やがて「カオリ」は消え「真帆」が戻ってきます。実は真帆は、解離性同一性障害、いわゆる多重人格を抱えていたのです。

その後、五月は9年前にマスコミで騒がれた「怪力少女」の記事を調べます。

「9年前の11月8日、公団住宅に住む女性が家に戻ると、見知らぬ男が電源コードで絞殺されていた」「被害者は同じ公団住宅に住む男で、留守番をしていた女性の娘である少女への性的暴行を目的に侵入した」「しかし、何者かに殺された」

「少女の手には、コードを強く引っ張ったことでできた傷と、被害者による抵抗の跡が残っていた」「それらの状況証拠から、被害者は少女に絞殺されたと警察は判断したが、『少女が大の男を組み伏せ絞殺できるのか?』と誰もが困惑した」……。

五月はかつて春人が、インターン先で鑑定を受けているという少女=「怪力少女」の事件に異常なまでに執着していたこと、そして偶然目にした「あるもの」のことを覚えていたのです。

春人は「怪力少女」キャサリン……真帆との出会いを回想します。

精神鑑定を受け、複数の人格を抱えていることが判明した真帆。その中でもカオリは「気の強い性格の16歳の女性」の人格であり、父親に虐待を受けていた真帆が生んだ自衛用の人格でした。また「カオリ」という名は、幼少期の真帆が遊び相手の人形につけていた名前でもありました。

しかし男を絞殺したのは、カオリではありませんでした。「男の力は強くて、自分でもどうにもできなかった」と語るカオリは、「もっと凶暴で動物のような人格」であるキャサリンが男を絞殺したと証言します。

やがて春人は調査を続ける中で、犯行時の現場室内では映画『エミリーの恋人』がテレビで放映されていたこと、その劇中で流れたエミリーの「キャサリン」を呼ぶ声を耳にしたことで、真帆の中で「キャサリン」という新たな人格が覚醒したと推測。そして真帆とキャサリンの存在があれば、自身の欲望を実現できると考えたのです。

一方、五月はあおいから例の犬の事件について聞かされます。

あの日、真帆とあおいは帰りが遅くなったこと。真帆は何者かに呼び出され、自衛の人格カオリに変わったのちどこかへ向かったこと。犬に襲われたカオリはやがてキャサリンへと入れ替わり、犬を絞め殺したこと。あおいが感じ取った「飼い主の場所で死にたい」という犬の声に応えて、犬を春人のクラスの教卓へと運んだこと……。

「あの先生からは今までにない種類の死の匂いがする」「真帆に何かしようとしてる」と語るあおいは、かつていじめを受けていた自分のことを友だちと思ってくれた「天使」の真帆を守るために、彼女のそばで春人を警戒し続けていたのです。

文化祭当日の11月8日。その日付は、9年前に真帆の内でキャサリンが覚醒し、男を殺害した日でもありました。

クラス演劇が催される、体育館の舞台。暗闇の中で緞帳の昇降装置への仕掛けを終えた春人は、やがて五月に呼び出されます。

カウンセリング室で、春人がオートアサシノフィリアであると指摘する五月。そして9年前、様子がおかしくなった春人が浮気をしているのではと疑った際に偶然目にした、USBメモリ内に記録されていた春人の「自己暗殺」の計画書に言及します。

また五月はコーヒーに睡眠薬を入れ、体育館へ向かおうとする春人を止めようとします。しかし春人は隙を突いてコーヒーのカップをすり替え、逆に五月に睡眠薬入りのコーヒーを飲ませます。

意識が遠のく五月に、9年の月日を経て完成した計画書が入ったUSBメモリを渡す春人。そして「計画が失敗し真帆に殺人の嫌疑がかかった際には、この計画書を公表してほしい」と五月に頼むと、春人はその場を去りました。

クラス演劇『エミリーの恋人』の開演時刻となるも、上がらない緞帳。春人は愛佳とともに舞台の天井へ向かい、人力で緞帳を上げます。

『エミリーの恋人』が無事開演される中、事前に細工していた緞帳の昇降装置とつながる配電盤を直す春人。そして放送室の生徒に「カーテンコールの際に昇降装置を作動させ、緞帳を人力で上げた際に緩んでしまった昇降用の紐を元に戻してほしい」と指示します。

それらは全て、人力での昇降時に余った紐でキャサリンに絞殺された後、昇降装置を作動させることで自身の遺体を舞台天井へと吊り上げ「昇降装置の修理・確認中の不幸な事故」へと偽装するための指示でした。

その頃、カウリング室で五月が目を覚まします。体がまだふらつく中、彼女の危機を察知したあおいと雪生が駆けつけます。

クラス演劇で自身が演じるキャサリンの登場場面が終わり、舞台袖へと向かう真帆。そこには、愛佳を抱きしめる春人の姿がありました。

ショックのあまり真帆の人格は姿を消し、代わりに自衛の人格カオリが現れます。春人はこれから起きる殺人を真帆に知られたくない、迷惑をかけたくないがゆえに、あえて強いショックを与えてカオリを呼び出したのです。

カオリとともに舞台の天井に上がった春人は、緞帳の昇降用の紐を自らの首に巻き付けます。そして緞帳の昇降装置を用いた殺人の偽装工作、「女子高生に殺されたい」という長年の欲望を明かすと、カオリの首を絞め始めます。

舞台上では京子演じるエミリーが、「キャサリン」の名を呼び続けます。そのトリガーによって、ついにキャサリンの人格が覚醒。春人をその怪力によって絞め殺そうとします。

「どう生きるのかというのは、どう死ぬかということであり、それを決めるのは君たち自身だということを覚えていてほしい」「いかに望み通りの死を迎えるかで人生の価値が決まり、人はそのために生きていかなくてはならない」「すべての人間の死因が生まれてきたことだと考えるのなら、生は死の証明であり、その人間の完成だ」

「君達も幸せな死を迎えるために、これからの人生を誠意いっぱい生きて欲しい」「それが命を与えられし者の宿命だから」……USBメモリ内に同じく書き遺した「教師」としての言葉を春人が思い出す中、あおいはその能力によって春人らが体育館の舞台の天井にいると気づきます。

天井に上がり「真帆!」と叫ぶあおい。その声を聞いた瞬間、真帆の内に幼少期のあおいとの記憶が蘇ったことで、表層に現れていたキャサリンの人格に揺らぎが生じました。

あと一歩のところで殺され損なった春人は真帆を追おうとしますが、同じく天井へ駆けつけた雪生に取り押さえられます。

一方で、真帆はまだ危機を脱していませんでした。彼女は現在「カオリの人格とキャサリンの人格が同時に現れる」という状態に陥っており、もしその二人格が統合された場合、真帆自身の人格が消えてしまう可能性があるのです。

「2人とも消えて」「真帆には私がいるじゃない」「私が真帆を守る」「私が真帆を愛してる」「私より真帆を愛せないなら消えて」……あおいは泣き叫びながら、カオリとキャサリンに呼びかけます。その結果、二人格は姿を消して真帆が無事戻ってきました。

雪生の制止を振り切り「キャサリン」の名を呼び続ける春人。しかし彼の前に立ちふさがったあおいが「お前も消えろ」と告げた瞬間、天井の床板が抜け、春人は誤って転落してしまいます。

首にかかったままだった昇降用の紐によって、転落した春人は天井から吊られた状態に。突如首を吊られた姿で現れた春人に、舞台上も客席もパニックに陥りました。

春人は一命を取り留めましたが、「女子高生に殺されたい」という自身の欲望をはじめ、ほとんどの記憶を失っていました。

春人の病室に訪れた五月は、かつて学生時代の実習内で彼をカウンセリングした際の記録映像を観せ、それを繰り返し観ることで記憶を思い出してみてほしいと春人に告げます。春人の治療は五月にとって、彼のオートアサシノフィリアゆえの苦悩に長らく気づけなかった自身の贖罪でもありました。

春人が言われた通り記録映像を見続ける中、真帆が見舞いに訪れます。

「私、先生のこと好きでした」と告白したのち病室を去った真帆、彼女に付き添っていたあおいと雪生が帰る様子を、病室の窓から見送る春人。

「そうだ、僕は」「僕は……」

何かを思い出した春人の目には、ベッドに眠る春人の首を絞める女子高生の幻影が映し出されていました。

映画『女子高生に殺されたい』の感想と評価


(C)2022 日活

映画版は「欲望の変質の過程」にクローズアップ

『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』などで知られカルト的人気を誇る漫画家・古屋兎丸が描いた同名コミックを映画化した『女子高生に殺されたい』。

映画化にあたって、本作の脚本も手がけた城定秀夫監督は原作を大胆に脚色。
莉子演じる演劇部の京子、茅島みずき演じる柔道部の愛佳といった映画オリジナルキャラクターはもちろん、「舞台天井から誤って転落し首を吊られる」という自身が望む形ではない死を迎えそうになり、挙句の果てに記憶喪失に陥るという春人の顛末など、映画オリジナルの描写・演出が多数取り入れられています。

その中でも特にこだわって脚色されていたのは、春人が「女子高生に殺されたい」という欲望を抱くようなった経緯の「ディテール(細部)」です。

原作漫画でも、幼少期の春人が両親に干渉されず放任主義的に育てられたこと、時には構ってもらいたくて駄々をこねることもあったが、両親は構わず春人を置いていったことがあるなど、両親からの愛を感じられなかった過去について言及しています。しかし、それが「殺されたい」という欲望へ変質していった過程、変質の根源的な原因については詳細には描かれていません
映画ではその変質の過程と根源的な原因を、春人が抱く欲望の「ディテール(細部)」としてクローズアップ。それを象徴するオリジナル描写・演出として用いたイメージが「出産の際、自分はへその緒が首に絡まって生死の境をさまよった“と聞かされた”」という春人の記憶でした。

「へその緒」が欲望と想像のディテールを掻き立てる


(C)2022 日活

自分自身では覚えておらず、あくまで他者から聞かされただけの記憶。しかし「母親との根元的なつながりの象徴である“へその緒”で殺されかけたらしい」というその記憶は、母親に冷たくされたという幼少期の実体験に基づく記憶と結びつきもはや強迫観念的な記憶と化してしまったことで、春人の心に焼き付けられてしまった。

春人が「紐状の凶器での絞殺」を自己暗殺の結末に選んだのも、その強迫観念に基づいているといえます。

「子である自分を無条件で愛してくれるはずの母親に、愛されていないと感じさせられたどころか、自分がその事実に気づく前に殺されそうになった」「殺され損なったせいで、“自分は愛されていない”と気づいてしまった

これ以上、愛情の飢餓を自覚したまま生き長らえたくない」「殺され損なったことで愛されていないと自覚する状態が生まれたのなら、殺され切ることでその状態は消え去るはずだ」

「だが、“自分を愛してくれない存在”などに殺されたくない」「殺されるなら、“そうではない存在”に殺されたい」「では、“自分を愛してくれない存在”=“母親”とは全く異なる存在とは?」

それは、“少女”だ

「出産時、母親に殺されかけた」という強迫観念的な記憶を新たに描くことで、映画は春人の「女子高生に殺されたい」という欲望のディティールを原作漫画以上に鮮明にし、より観客の妄想を掻き立てる形に描き出しているのです。

まとめ


(C)2022 日活

映画『女子高生に殺されたい』にて、春人の欲望が「出産」という生が生じる瞬間と結びつけられて描かれているのは、生と欲望の切り離すことのできないつながりも深く関わっています。

生きているからこそ、死を望む。生きてなくては、死を望むことはできない。

生なくして欲望はない。では、欲望なくして生はあり得るのか?

映画では、危うく事故死しかけた春人は後遺症により記憶喪失に。その結果、彼は長年抱え続けていたオートアサシノフィリアの存在も忘れ苦悩からも解放されますが、同時にこれまでの自身の記憶も失うことになります。それらの顛末は、春人にとっての「女子高生に殺されたい」という欲望が彼の生そのものであったことを意味しています。

そして映画は、春人が何かを思い出す場面で幕を閉じます。

記憶とともに再び春人の前に現れる「自分を殺そうとする女子高生」の幻影は、生と欲望が同時に蘇る瞬間を、あるいは生と欲望は同一の存在であると証明した瞬間を描き出しているのです。





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