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Entry 2021/09/30
Update

『ある男』映画原作ネタバレあらすじと結末感想の評価。本格ミステリーで謎多き男のなりすまし人生とは?

  • Writer :
  • 星野しげみ

平野啓一郎の小説『ある男』が2022年に映画化されます。

読売文学賞を受賞し、累計19万部を超える平野啓一郎の最高傑作『ある男』が、『蜜蜂と遠雷』や『愚行録』をとりまとめた石川慶監督によって映画化決定。

夫が死亡し、未亡人となった里枝が歩む奇妙で不憫な物語。夫が戸籍上の別人であることが判明し、里枝は弁護士に死んだ夫の身元調査を依頼します。


(C)2022「ある男」製作委員会

映画では弁護士・城戸を妻夫木聡、未亡人・里枝を安藤サクラ、里枝の亡き夫・大祐を窪田正孝が演じます。

死によって暴かれる夫であった男の偽りの過去。いったいこの男はいったい誰? 過去を変えて生きる男が最後に得たのは何だったのでしょう。

ラストまで男と里枝の愛の行方が気になるヒューマンミステリー『ある男』をご紹介します。

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小説『ある男』の主な登場人物

【城戸章良】
弁護士。谷口里枝から死んだ夫の身元調査を頼まれる。

【谷口大祐(X)】
林業で働く青年。町で知り合った里枝と結婚するが、ある秘密をもっていました。

【谷口里枝】
谷口大祐(X)の妻。大祐の死後、彼が戸籍上の谷口大祐と全くの別人とわかり、城戸弁護士に相談します。

小説『ある男』のあらすじとネタバレ


『ある男』書影

作者がイベント帰りに立ち寄ったバーで知り合った、弁護士の城戸さん。彼は最初、作者に偽名を使っていましたが、ある時、本名を教えてくれました。

本当に彼は「城戸」だったのでしょうか、疑念を抱きながらも、作者は城戸さんから聞いたある女性の酷く奇妙で不憫な出来事を物語にしたのです。

宮崎県で文房具店を営む、谷口里枝は2011年9月に夫である大祐に先立たれました。

林業をしていた大祐は、仕事中に自分の伐採した木の下敷きとなって亡くなりました。39歳でした。

里枝は大祐の前に別の男と25歳の時に結婚をしていました。その男との間に長男の悠人、次男の遼という2人の子どもがいました。

しかし、次男の遼は2歳の時に脳腫瘍と診断され、亡くなります。

里枝は遼の治療を巡って夫と対立したことがきっかけとなり、遼の死後に夫に離婚を申し出ました。離婚調停は長引きながらも、弁護士・城戸章良の力もあり、里枝が親権を得て離婚成立しました。

その後まもなく里枝の父親が急逝し、里枝は長男の悠人を連れて宮崎の実家へ帰りました。

里枝は母の代わりに、実家の文具屋を切り盛りすることになり、そこに客として訪れた谷口大祐と出会います。

大祐はいつもスケッチブックと絵具を買って行き、里枝はそのうちに大祐が趣味で絵を描くことを知ります。話すようになってから、2人の関係は徐々に近づき、里枝は大祐と再婚。

大祐は里枝の連れ子の悠人をとても可愛がってくれました。やがて、里枝と大祐の間には女の子も生まれ、花と名付けられます。それから3年ほど家族4人幸せに暮らしていました。

大祐は、里枝に実家と関わらないでほしいと言っていました。親兄妹とそりがあわず、絶縁状態だというのです。里枝は知り合うまでの大祐のことは、彼の口からでしか聞いていません。

そんなある日、大祐は事故により突然亡くなります。里枝は大祐の言いつけを護り、大祐の実家へ死亡の連絡をしませんでした。

里枝はそのまま大祐の一周忌まで黙っていましたが、一周忌を終えて納骨の問題もあるので大祐の実家へ手紙を書きます。大祐の兄である谷口恭一は、大祐の訃報を知ると宮崎までやってきました。

しかし、里枝の家で大祐の写真を見た恭一は、写真に写っている大祐は、自分の弟ではない、別人だと言います。

誰かが、「谷口大祐」になりすましていた……。

大きな謎に突当り、困り果てた里枝は、かつて離婚の際に世話になった弁護士・城戸章良に相談します。

「谷口大祐」はただの偽名ではなく戸籍上存在していること、「X」と城戸は呼ぶことにした「谷口大祐」を名乗っていた男には、免許証も保険証もあったこと、「X」が語った過去は、大祐本人の過去と一致しているらしいこと。

話を聞くだけでも、一体何故こんなことが起きているのか? と不思議に思い、里枝の依頼を受けた城戸は調査を始めました。

谷口大祐は家族と縁を切りたいと考えていたようでした。

過去を捨て、別の人間として生きたいと望んだのかもしれない。そして「X」も過去を切り離して、別の人間として生きようとしていたのか?

彼が別の人生を歩もうとしていたのかと思い当たった城戸は、調査を進める中で戸籍交換を仲介するブローカーの存在を知ります。

そして別の事件で服役中のブローカー・小見浦に会いました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ある男』ネタバレ・結末の記載がございます。『ある男』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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小見浦は明言はしませんが、大祐の戸籍交換に関わっていたことを匂わせます。小見浦は言いました。

「交換じゃなくて、身元のロンダリングですよ。汚いお金と同じで、過去を洗浄したい人はいっぱいいるでしょ?」

城戸は小見浦からは「曽根崎義彦」という新たな人物のヒントを得ました。

「X」が曽根崎義彦なのでしょうか? しかし、調べていくと曽根崎義彦は「X」ではありませんでした。

今曽根崎義彦として生きているのは谷口大祐だったのです。

城戸は調査を続けてはいますが、真相は見えてきません。そんな時、偶然にある絵を目にしました。

それは、里枝に見せてもらった「X」の描いた絵に酷似していました。その絵は死刑囚・小林謙吉の描いた絵でした。小林謙吉の顔写真も「X」に似ています。

小林謙吉は殺人事件を起こし、すでに死刑が執行されこの世にはいません。けれども、小林謙吉には誠という一人の息子がいました。

彼は小林と母の離婚後は、母方の「原」姓を名乗り「原誠」として暮らしていたそうです。誠は一時児童養護施設にいましたが、その後行方をくらましたといいます。

原誠こそが、「X」だったのです。

誠は殺人犯の子どもとして過酷な人生を歩んでいました。自分に父親と同じ血が流れていることにずっと苦しみ、自殺未遂もしています。

誠はそんな自分の過去を捨てるために、1度目に曽根崎義彦と、2度目に谷口大祐と戸籍を交換していたのです。そして誠は谷口大祐として、里枝に出会いました。

城戸は調査したことを里枝に告げます。大祐の死によって、名字が2回、3回と変わったことに対して複雑な想いを抱く子供の悠人に、どこまで話せばいいのか、里枝は迷いました。

悠人に「あの人がなぜ、名前を変えて生活しなければならないかわかったの。」と告げます。

「悪いことしていたの?」「そうじゃないけど、ここに全部書いてあるの」

里枝が城戸のまとめた資料を差し出すと、悠人は「じゃ、読む」と分厚い資料を持って自分の部屋にこもりました。

悠人が読んでいる間、里枝はこれまでのことを思います。「谷口大祐」と名乗っていた「原誠」という人物の境遇を、可哀想だと感じました。

一方、彼の子供である花にも殺人者の血は流れているのは事実ですが、それを気味悪がるわけではありませんが、いつかその事実をしれば本人は悩むかもしれません。

その点は、彼と血の繋がらない悠人は違っていますが、はたしてあの報告書を読んでどう思うのでしょう。

自問自答する里枝ですが、彼のついた嘘のおかげで、愛し合って花という子どもを授かったのは事実です。

城戸からの報告の中で里枝の心を最も揺さぶったのは、「亡くなられた原誠さんは、里枝さんと一緒に過ごした3年9カ月の間に、初めて幸福を知ったのだと思います」という言葉でした。

やがて悠人が部屋から出てきました。「お父さん、自分が父親にしてほしかったことを僕にしてたんだと思う」。ポツンとつぶやくと14歳の少年は泣き出しました。

里枝は悠人に声をかけます。「お父さんの骨は、遼とおじいちゃんのお墓にはいってもらおうか」。

「その方がいいよ、みんな寂しくなくて」と悠人は優しい言葉を残し、部屋に戻りました。

里枝は自分にとっても、あの3年9カ月は幸福だったとつくづく思います。

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小説『ある男』の感想と評価

小説『ある男』は、過去がわからない不思議な男「谷口大祐」と再婚した里枝が、「谷口大祐」と名乗る男が死んだ後、彼の身元調査を弁護士城戸に依頼するところから始まります。

結果はもちろん、「谷口大祐」と名乗って里枝と結婚した男はニセモノでした。その男の本名は「原誠」。戸籍交換を仕事とするブローカーによって、自分の過去を抹消し、全くの別人になりすましていたのです。

別の人になりすますことも悪いのでしょうが、なぜ過去を消したかったのでしょう。原誠の父親は殺人犯でした。刑に伏してもうこの世にはいませんが、それでも原誠の身体には、そのDNAは受け継がれています。

自分も罪を犯すのではないかという恐怖と闘う原誠に、世間の目も冷たく、「殺人犯の子供」という色眼鏡でみられました。彼は結局、身の置き所もなく、あちこち彷徨ったあげくに戸籍交換で別人になりすますことになったのです。

自分の過去は決して変えられるものではありません。ですが、戸籍を交換して別人になれば、この世界で生きていく上で最低限度の生活は保障されるのです。

実際にこんなことがあるのかも知れません。しかし、これでは本当の自分というものが分からなくなります。

里枝が一番困ったのもその点でした。自分が愛した人が「谷口大祐」ではないのなら、自分は誰を愛していたのか。

「原誠」という名前を聞いてもピンとこず、頭に浮かぶのは「谷口大祐」という顔をした「原誠」なのです。

ですが、城戸弁護士は、「原誠」が里枝を本当に愛していて、里枝と過ごした3年が幸せなものだったのだろうと言いました。

城戸弁護士から一部始終を聞いて、里枝は胸を揺さぶられました。「原誠」に騙されていたわけではなく、あの愛は本物だったということが分かったからです。

里枝と出会って愛しあえたという事実には、過去の思い出も経歴も関係ありません。里枝との結婚は、不幸な人生を過ごしてきた「原誠」の最高の幸せだったのでしょう。

今の自分は果たして本物かとか、目の前のあの人は本当に自分の知っている人なのかとか、猜疑心が沸き起こるような物語ですが、最後に辿り着くのは、愛だけが真実だという、究極のラブストーリーと言えます。

映画『ある男』の見どころ

小説『ある男』を映画化するのは、『蜜蜂と遠雷』(2019)や『愚行録』(2016)の石川慶監督。

平野啓一郎の小説の映画化といえば、福山雅治が主演を務めた『マチネの終わりに』(2019)がありますが、本作も紛れもなく愛のカタチを追究するラブストーリーです。

『マチネの終わりに』は、たった3度会っただけで、運命の恋に落ちる大人のプラトニックラブを描いていますが、本作はニセモノの人生を歩もうとした男が出会う真実の愛の物語です。

映画では、主人公ともいうべき城戸弁護士に妻夫木聡。谷口里枝に安藤サクラ、そして過去を塗り替えて「谷口大祐」になった男に窪田正孝が扮します。

新たな人生を歩もうとする里枝に襲い掛かる衝撃の事実。里枝の悩みをベテラン安藤がどう演じるのでしょう。また、最後まで自分の秘密を語らないニセモノ谷口大祐の心の動きを表現する窪田正孝にも注目です。

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映画『ある男』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
平野啓一郎

【脚本】
向井康介

【監督】
石川慶

【キャスト】
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、仲野太賀、真木よう子、柄本明

まとめ

戸籍のすり替えをした男とその妻の半生を描いた小説『ある男』。

自分の夫がそれまで名乗っていた人物と全く別の人だとしたら、名前や経歴はもちろん、それまで語られていた思い出や現在の仕事など、全てが嘘偽りと思えるのではないでしょうか。そして、肝心の愛は本物なのでしょうか。

過去は消せないけれども、法律上変えることができる。こんなある意味怖ろしいことで残りの人生を歩もうとする人は、はたして幸せになれるのでしょうか。

多くの疑問点が頭に残りますが、たった一つの希望は、本作のその男は別人になりすましたから、里枝という愛する女性と巡り合えたということ。

こんな愛もあるんだと思う反面、過去を恥じることも未来に恐怖を抱くこともなく、何事もなく生きていけることを幸せに思える作品です。

映画ではベテラン俳優陣によって、奇妙な愛のカタチが原作以上にインパクトのあるものとなることを期待します。






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