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Entry 2020/06/11
Update

ストレンジャー・ザン・パラダイス|ネタバレ感想と考察評価。ジムジャームッシュが東京物語などの競走馬名で“小津へのラブレター”を紡ぐ

  • Writer :
  • 西川ちょり

一世を風靡し、今もその輝きを失わないジム・ジャームッシュの商業映画監督デビュー作。

ハリウッド映画がどんどん大作志向になっていく中、1984年に登場したジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は、無名の俳優を使い、盛り上がる派手なストーリーもなく、淡々と進行する作品にもかからわず(いや、それだからこそ!)世間に大きな衝撃を与えました。

その後のジム・ジャームッシュの活躍はご存知の通り。誰もが作れそうなのに、彼しか作れない、その世界の魅力の秘密に迫ります。

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映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の作品情報


(C)1984 Cinesthesia Productions Inc. 
【公開】
1986年公開(アメリカ・西ドイツ合作映画)

【原題】
Stranger Than Paradise

【監督・脚本】
ジム・ジャームッシュ

【キャスト】
ジョン・ルーリー、エスター・バリント、リチャード・エドソン、セシリア・スターク

【作品概要】
大学の卒業制作である『パーマネント・バケーション』(1980)に続く、ジム・ジャームッシュの長編第二作目。商業映画としては初の監督作品。「The New World」、「One Year Later」、「Paradice」の3部構成をとり、全編モノクロで撮られたオフビートなコメディです。

ジョン・ルーリーは『パーマネント・バケーション』に続き出演。音楽も担当しています。

第37回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞) 、第19回全米映画批評家協会賞 (いずれも1984年)を受賞。

映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』あらすじとネタバレ

‟The New World”

ウィリーは友人のエディと共に、競馬やいかさま賭博で生計をたてている、いわばチンピラ。

そんな彼の元にオハイオ州・クリーブランドに住む叔母から電話がかかってきます。ハンガリーのブダペストからウィリーの従姉妹のエヴァがやってくるという内容です。

「うちに一日泊めればいいんだろう?」とウィリーが尋ねると、叔母は10日ほど入院することになったので、その間、面倒みてやってくれと応え、ウィリーは渋い顔をします。

ブダペストからニューヨークに到着したエヴァは、たくさんの荷物と共に、ウィリーのアパートへ辿り着きました。ウィリーはベッドをひとつ彼女に与えただけで全くもてなす気がありません。

翌日、エディが訪ねてきました。エディは競馬場にエヴァも連れて行こうと言いますが、ウィリーはエディの言葉に耳をかさず、「エヴァにここに残れ、帰ってくるまで外に出るなよ」と命じ、彼女を置いて出かけてしまいました。

数日がたち、エヴァは外出してふらっと戻ってきました。「これはあんたに」とTVディナーを取り出したエヴァ。彼女のポケットからは色んなものが現れて、ウィリーも上機嫌になります。

ウィリーは、エヴァにワンピースを買ってプレゼントしますが、エヴァは自分の好みではないと伝えます。

ウィリーは意に返さず、自分が選んだんだ、着てみなよと催促し、エヴァは仕方無しにワンピースをはおります。

ついに10日が過ぎ、エヴァは別れを告げて部屋を出ていきました。道路の角で立ち止まったエヴァはおもむろにワンピースを脱ぎ、パンツ姿に着替えると、ワンピースを隣のゴミ箱に捨てます。

そこにエディがやって来ます。エヴァは別れを告げると駅に向かって歩きだしました。

ウィリーの部屋にやって来たエディがエヴァにあったと告げると、ウィリーは、彼女が着ていたのは俺がやったものなんだ、似合っていただろ?と得意げに言いました。

エディーは捨てられていたワンピースを思い浮かべながらも、「そうだね」と答えるのでした。

‟One Year Later”

一年が経ち、ウィリーはエヴァに会いたくなり、エディの兄の車を借りて、エディと共にクリーブランドに向かいました。

叔母の家に着くと、エヴァは仕事にいっているらしく不在でした。2人はエヴァの仕事先のファーストフードショップに行き、注文を聞きに来た彼女を驚かせます。彼女は2人が会いに来てくれたことを素直に喜びました。

男友達に映画に誘われたエヴァが外出しようとすると、ウィリーたちも一緒に行くと言って聞きません。男友達とエヴァの間にウィリーとエディが割り込み、4人は並んで映画を觀ました。

別の日、叔母とカード遊びに興じるウィリーとエディ。エヴァは、湖を見せてあげると彼らを誘います。真っ白の雪道を車で進んで着いたのはエリー湖です。

「真っ白できれいだ」と言うエディに「凍っているの」とエヴァは言います。寒さに震えながら、3人は湖の前で佇んでいました。

ウィリーとエディはようやく帰ることにしました。別れを告げ、車を走らせていたウィリーでしたが、急にフロリダに行こうと言い出します。引き返してエヴァも連れて行こうとする2人に叔母はハンガリー語で罵り始めました。

振り切って行ってしまった3人に叔母は「サノバビッチ!」と毒づくのでした。

‟Paradise”

クリーブランドの生活に飽き飽きしていたエヴァはフロリダに行くことに喜びを隠せません。

長い時間かけ、ついにフロリダにやってきた3人は、モーテルに泊まることにしますが、エヴァを裏口から入らせ、2人分だけの料金を支払いました。

誰がどのベッドで眠るか一悶着があったあと、旅の疲れもあり寝入ってしまう3人。翌朝、エヴァが目を覚ますと、ウィリーとエディの姿がありません。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ネタバレ・結末の記載がございます。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)1984 Cinesthesia Productions Inc. 
彼らは自分を置いて、勝手に出かけてしまったようなのです。「信じられない」とエヴァはつぶやきます。

ようやく2人が返ってきました。しかしどうも様子が変です。どうやらエディが提案したドッグレースに賭け、ほとんど金をすってしまったらしいのです。

わずかばかりお金が残っているからニューヨークに帰ろうとエディは提案しますが、ウィリーは残りの金を競馬につぎ込もうと言い出し、またまたエヴァを置いて2人で出ていってしまいます。

エヴァは仕方なく、一人でモーテルの周辺をうろうろし、つばの大きい帽子を買って、海辺を歩いていると、一人の男性に声をかけられます。

彼は「その帽子が目印だ。次からはちゃんと定期的によこせと伝えておけ」とわけのわからないことを言って、なにかをエヴァに握らせました。みるとそれは恐ろしいほどの大金でした。

あわててその場を離れるエヴァ。そこに大きな帽子をかぶった女が現れますが、お目当ての人物が見当たらないようで目を白黒させています。

モーテルに戻ったエヴァは、いくつかお札を引き抜き、思い出したように2人への手紙を書くと、それらをテーブルの上に残し、部屋を出ていきました。

しばらくして意気揚々と戻ってきたウィリーたち。「だから最初から競馬にしておけばよかったんだ」と上機嫌です。部屋にエヴァがいないことに気づいた2人は、テーブルの上の金と手紙にも気が付きます。「どうしてこんな大金を?」とエディが呟きます。

エヴァは空港に来ていました。数十分後にブタペスト行きの飛行機があると聞き、彼女はしばし熟考します。

あわてて彼女のあとを追って空港にやってきたウィリーたち。係の男に尋ねると、どうやらエヴァはもうすぐ出発するブダペスト行の飛行機に乗ったようです。

エディはウィリーがチケットを持っているのに気が付き、それは何だと尋ねました。「これがないと入れないらしい。とにかく行って、エヴァを連れて返ってくる」と彼は搭乗ゲートに向かいました。「車で待っているよ」と声をかけるエディ。

車のそばでまっていたエディの頭上を飛行機が飛んでいきました。「あぁ、ウィリー」と彼はつぶやきました。

その頃、エヴァは、フロリダの安モーテルに帰っていました。彼女は誰もいない部屋を見渡し、そっとソファに身を沈めました。

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映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の感想と評価

『ニックス・ムービー/水上の稲妻』(1980/ニコラス・レイ、ヴィム・ヴェンダース)で製作助手を務めたジム・ジャームッシュは、その現場でヴェンダースに認められ、『ことの次第』(1982)の40分ほどの余りフィルムを譲り受けます。

そのフィルムで制作したのが、本作の第一部にあたる「New World」です。ロッテルダム映画で国際批評家賞を受賞するなど話題を呼び、その後、第二部「One Year Later」、第三部「Paradice」を制作、一本の長編としてまとまったのが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』です。

1984年のカンヌ国際映画祭でカメラドールを受賞。日本では1986年に公開され、映画ファンのみならず、音楽ファンやスノッブな人々をも巻き込んで大反響を巻き起こしたのは周知の通りです。

モノクロ映像の黒と白の圧倒的な美しさ周到に物語性から逸脱した展開揺るぎのない構図音楽の趣味の良さ(Screamin’ Jay Hawkins!)、絶妙なコメディセンスカッコつけていないのにカッコいいスタイルどう訳したら良いか迷うタイトル(だけど響きがいい!)、といった映画に含まれるあらゆることが人々を魅了したのです。

ワンシーンワンショットで撮られた各章の間に数秒間の黒い画面がはさまれるというユニークな構造も話題を呼びました。

洒落た斬新な映画というイメージが先行しますが、実はオフビートなコメディとしても秀逸です。登場人物たちの気持ちのすれ違いが、絶妙な間で描かれ、可笑しみを醸し出しています。

競馬のレースに出る馬の名前が「出来ごころ」、「晩春」、「東京物語」という小津作品のタイトルなのには思わず吹き出してしまいます。小津安二郎をリスペクトする監督は多いですが、このような形でその気持を表すのはジャームッシュしかないでしょう。

また、なによりもジャームッシュは都市と、都市に住む、あるいは都市を行き交う人間を見つめる作家でもあります。処女長編『パーマンネント・バケーション』は、一人の若い男性がニューヨークの街を歩き回り、最後はパリへと向かう姿を映し出していました。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』では、ニューヨーク、クリーブランド、フロリダという都市が舞台となって、なんてことのない日常の物語が進行します。実際の映像は出てきませんが、ブダペストも重要な役割を担っています。

それらの都市を象徴するランドマークが映されることはほぼありません。クリーブランドではエリー湖を見に出かけますが、スクリーンには雪が降り積もっている他の風景とかわらない真っ白な世界が広がっているだけで、3人が背中を向けて凍えながら言葉少なに佇むショットには思わず笑ってしまいます。

特別な風景ではなくどうってことないどこにでもあるような風景がわざわざ選ばれているのです。それでいて、その土地だけが持つ空気感、そこに住む人々の吐息を映画は確実にとらえています。こうしたスタイルは、エンドクレジットで献辞が捧げられている写真家ロバート・フランクのストリート・フォトグラフの影響があるのかもしれません。

車でクリーブランドからフロリダに行くことをあっさり決定し、それなりに疲労困憊になりながらも実行してしまう軽やかさも作品の魅力のひとつでしょう。

エヴァなどは、公共交通機関だけを使って、ブダペストからニューヨークへ、ニューヨークからクリーブランドへ、あっけらかんと越境していきます。

「あっけらかんと越境」というこの作品のキーワードとでもいうべき「軽やかさ」は、物語の「オチ」にもつながっていきます。

今観てもなお、作品の新鮮さは失われていません。ジム・ジャームッシュはその後も、時にスタイルを変えながら、彼だけにしか撮れないと断言できる個性的な作品を生み出し続けています。

まとめ

(C)1984 Cinesthesia Productions Inc. 
ウィリーを演じるのは、ジム・ジャームッシュの朋友であるジョン・ルーリーです。『パーマンネント・バケーション』でも街角のサックス吹きのミュージシャン役で出演していましたが、本作では主役を演じ、音楽も担当しています。

友人のエディーを演じたのは、リチャード・エドソン。ソニック・ユースやコンクで活躍したミュージシャンでもあります。

また、ハンガリーからやってきた従姉妹・エヴァ役のエスター・バリントも1999年に歌手デビューを果たしています。主役3人は全てミュージシャンというわけです。

エスター・バリントは2020年6月日本公開のジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』で35年ぶりにジャームッシュ映画に復帰しファンを喜ばせました。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で彼女が演じるエヴァは、いつも大切そうに一台のテープレコーダーを持っていて、そこから流れるのはScreamin’ Jay Hawkinsの『I Put a Spell on You』です。1956年に発表されたこの曲は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に使用されたことで再びブレイクします。

ちなみにScreamin’ Jay Hawkinsは、『ミステリー・トレイン』(1989)に、安ホテルのフロント係の役で出演しています。

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