Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2023/02/09
Update

『Single8』あらすじ感想と評価解説。映画を愛する高校生たちが8ミリでSF作品に挑む小中和哉監督の自叙伝!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

青春映画『Single8』は2023年3月18日(土)ユーロスペースほかで全国順次公開!

映画製作に情熱を傾ける高校生を描いた青春映画『Single8』が2023年3月18日(土)ユーロスペースほかで全国順次公開されます。

平成ウルトラシリーズを手掛けてきた小中和哉監督が、自身の青春時代を題材に生み出しました。1978年の日本を舞台に、公開されたばかりの『スター・ウォーズ』に感激した主人公たちが8ミリ映画作りに没頭するさまを熱く描きます。

主人公・広志を『許された子どもたち』(2020)の上村侑が演じるほか、ダンス&ボーカルグループ「WATWING」の福澤希空と桑山隆太、『ベイビーわるきゅーれ』の高石あかりが出演します。

映画制作に励む高校生たちの情熱と成長がまぶしい感動の一作をご紹介します。

スポンサーリンク

映画『Single8』の作品情報


(C)「Single8」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
小中和哉

【編集】
松本朗

【キャスト】
上村侑、髙石あかり、福澤希空(WATWING)、桑山隆太(WATWING)、川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol)、有森也実

【作品概要】
監督は『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(1999)など、人気の平成ウルトラシリーズを手掛けてきた小中和哉。自身の青春時代をテーマに本作の脚本を書き下ろしました。

主演映画『許された子どもたち』(2020)で第75回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞した上村侑が主演を務めます。

マドンナ・夏美役の『ベイビーわるきゅーれ』(2021)の髙石あかりや、ホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループ「WATWING」で活躍する福澤希空と桑山隆太らフレッシュな若手俳優たちが出演。

さらに川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol-エルオーエル-)、有森也実と小中組と縁のある個性派が顔を揃えます。

映画『Single8』のあらすじ


(C)「Single8」製作委員会

1978年の夏。公開された『スター・ウォーズ』に夢中になった高校生の広志は、友人の喜男と一緒に宇宙船のミニチュアを作って8ミリカメラで撮影し始めました。

最初は宇宙船を撮ることだけを考えていた広志でしたが、クラスでの文化祭の出し物についての話し合いで、勢いで映画制作を提案してしまいます。お化け屋敷を提案した生徒から概要を教えるように迫られた広志たちは、次回のホームルームでストーリーを発表することとなりました。

広志は思いを寄せている夏美にヒロイン役を依頼しますが、あっさり断られてしまいます。

彼女とクラスメイトたちを説得するために、広志は喜男や映画マニアの佐々木と一緒にシナリオ作りに取り掛かりました。

フィルムを逆に回すリバーズ撮影機能を知ったことから、宇宙人が地球の時間を逆転して人類の進化をやり直させようとする「タイム・リバース」という物語が生まれます。

完成脚本を夏美に渡し、クラスメイトたちに熱く映画のストーリーを説明する広志。夏美はヒロインをやると返事をし……。

スポンサーリンク

映画『Single8』の感想と評価


(C)「Single8」製作委員会

映画への情熱に夢を見る

少年たちの純粋な情熱に、たまらないワクワク感と郷愁を感じさせられる『Single8』。彼らが懸命に映画を作る姿を観ているとどこかに置き忘れてきた大切な気持ちを思い出し、涙がじんわり染み出てくる……そんな作品です。

小中和哉が映画作りの面白さを共感してもらいたいという思いで、自身の高校時代の思い出をもとに生み出しました。「映画ごっこ」から「映画」作りへと脱皮した自身の経験が、映し出されています。

主人公の広志を演じるのは、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞した演技派の上村侑です。普段は朴訥とした少年ですが、映画の話になると熱くなる純粋な情熱を持つ広志を魅力的に演じています。

主人公の広志たち3人の少年は、まだあどけなさの残る高校3年生です。「宇宙船をかっこよく撮りたい!」と思いついた彼らは、模型を作って撮影を始めます。臨場感あるアングルを見つけて喜ぶ彼らのキラキラした笑顔は、青春期の宝そのものといえるでしょう。

しかし、彼らにはその先のビジョンはまったく無く、ストーリーもシチュエーションも人物像もなにひとつ考えていませんでした。そのため、周囲からは「え?そこが大事だろ」と何度もつっこまれるはめになります。

それでも、広志たちの情熱は本物でした。少年たちはそのたびに立ち止まってはアイデアをひねり出し、作品はどんどん面白く進化していきます。

彼らがシナリオ作りに懸命に取り組んだのは、マドンナ的存在の夏美にヒロイン役を引き受けてもらいたいという切実な思いも関係していました。

髙石あかり演じる夏美はとても魅力的な少女です。はっきりした性格で、最初に広志からヒロイン役を頼まれたときはあっさりと断ります。しかし、その後渡された脚本と広志のプレゼンに心ひかれた彼女は、すぐに出演を了承するのです。

表情が豊かで、どこかツンとした小悪魔的な魅力を持つ夏美は、広志たちの心を虜にしていきます。甘酸っぱい胸キュンな思いや、青春のほろ苦さも見どころです。

どんどんアイデアが湧き、次第に形となっていくワクワク感、さらにヒートアップしていく情熱が観ていてとても心地よく、若さの持つ無限のパワーを感じさせてくれます。物語の核となるテーマを考え付いたときの少年たちのキラキラと輝く表情は最高です。

できないことや知らないことを理由に諦めてしまうことなく、常に挑戦あるのみという姿勢の大切さに胸打たれることでしょう。モノ作りの楽しさを実感して、思わず自分もなにか作ってみたくなるかもしれません。

まとめ


(C)「Single8」製作委員会

協力し合って何かを創造していく素晴らしさが伝わってくる『Single8』。青春時代の青い純粋な気持ちを思い出させてくれる、たまらなく楽しい作品です。

心にモヤモヤを抱えている方でも、本作を観終えた後は霧が晴れたように明るい気持ちになれるかもしれません。

ただひたすらひとつのものに打ち込む少年たちの姿に魅了されるとともに、映画の創成期かのようなストーリーに心引き込まれます。

フィルムを切ってはつなぎ、別撮りした映像と音声を組み合わせ、そのひとつひとつの手作り作業から初期の映画が作られただろうことを思い、感動をおぼえる映画ファンの方も多いのではないでしょうか。

小中和哉監督は本作を制作したことで自分の原点に立ち返り、ここからが新たな始まりだと感じていると語っています。本作を観た方々も、同じ感覚を味わえるかもしれません。

高校生たちの純粋な情熱に胸打たれる秀作『Single8』は2023年3月18日(土)ユーロスペースほかで全国順次公開です。





関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ちいさな独裁者』あらすじネタバレと感想。ラストまで実話の出世物語として描き同調した観客の本心の姿とは⁈

映画『ちいさな独裁者』は、偶然にもナチス将校の軍服を手に入れた名もなき一兵卒が、瞬く間にヒトラーをも想起させる怪物という“独裁者”になり、変貌を遂げていく姿を描き出した実話映画です。 『RED レッド …

ヒューマンドラマ映画

映画『泣く子はいねぇが』ネタバレ解説と内容考察。なまはげという秋田の伝統文化で描いた“たすくの葛藤と成長”

娘が産まれても、大人になりきれない男の心の葛藤と成長を描いた、映画『泣く子はいねぇが』。 監督、脚本、編集を担当した佐藤快磨が、5年の時間を費やして完成させた本作は、仲野太賀や吉岡里帆など、若手の注目 …

ヒューマンドラマ映画

映画『おかあさんの被爆ピアノ』あらすじ感想と考察評価。武藤十夢が平和へのメッセージを若者に向けた新たな視点で熱演

映画『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年7月17日(金)より広島・八丁座にて先行公開、8月8日(土)より東京・K’s cinemaほか全国順次ロードショー! 被爆75周年を迎えた今日にお …

ヒューマンドラマ映画

映画『アニエスによるヴァルダ』感想あらすじと考察評価。特集上映の過去作紹介も【アニエス・ヴァルダを知るための3本の映画】

特集上映『アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画』は2019年12月21日(土)から公開。 2019年3月29日、“ヌーヴェル・ヴァーグの祖母”と称された映画製作者がこの世を去りました。 アニ …

ヒューマンドラマ映画

ふたりの旅路あらすじとキャスト!上映劇場や映画公開日も

映画『ふたりの旅路』が6月24日から東京渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開。 日本とラトビアの初共同の製作映画となる『ふたりの旅路』は、ある出来事をきっかけに、自分の殻に閉じこもってしまうケイコを …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学