映画『猫は逃げた』は2022年3月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
映画『猫は逃げた』は、『街の上で』(2020)の今泉力哉による監督で、『アルプススタンドのはしの方』(2020)の城定秀夫監督が脚本を務めたヒューマンドラマです。
城定秀夫と今泉力哉が互いの脚本を提供し合い、R15+のラブストーリー2本を制作するプロジェクトL/R15による映画で、『愛なのに』に続く第2作目の作品です。
飼い猫が逃げたことによって巻き起こる一組の夫婦とその浮気相手4人の人間模様を、ユーモアを交えて丁寧に描いた一作。
山本奈衣瑠、毎熊克哉が離婚直前の夫婦を演じ、それぞれの浮気相手役を手島実優、井之脇海が務め、それぞれ魅力的なキャラクターを好演しています。
迷える4人と1匹の猫の物語は、不思議と心がほぐれる人間ドラマとなっています。その魅力について解説していきます。
映画『猫は逃げた』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
今泉力哉
【脚本】
城定秀夫
【キャスト】
山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井之脇海、伊藤俊介(オズワルド)、中村久美、オセロ(猫)
【作品情報】
本作の監督である今泉力哉は、『たまの映画』(2010)で商業映画デビューを果たし、『愛がなんだ』(2019)が大ヒット。その後も続々と話題作を制作しています。
脚本を務めた城定秀夫は、Vシネマやピンク映画など100タイトルもの作品をまとめあげ 『アルプススタンドのはしの方』(2020)やコミックの映画化『性の劇薬』(2020)を手がけました。
そんな現代の日本映画界を牽引する2人が、互いの脚本を提供し合いR15+のラブストーリー映画を制作する企画L/R15(えるあーるじゅうご)が出来、2022年2月に公開された『愛なのに』に続く第2作目となるのが本作です。
亜子役を演じたのは、本作が長編映画初主演となる山本奈衣瑠。モデル業を経て、雑誌やCMに出演。中村真夕監督の『親密な他人』が公開予定。
広重役を務めたのは、毎熊克哉。『ケンとカズ』(2016)で毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、高崎映画祭にて最優秀新進男優賞などを受賞しています。他『AI崩壊』(2020)、『生きちゃった』(2020)などに出演しています。
真実子役の手島実優は、舞台やCMのほか映画作品に幅広く活躍中。『カランコエの花』(2018)、『かく恋慕』(2019)、『フタリノセカイ』(2022)に出演しています。
松山役の井之脇海は黒沢清監督の『トウキョウソナタ』で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞を受賞。監督・脚本・主演を務めた『3Words 言葉のいらない愛』(2018)がカンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナー部門に入選しています。
映画『猫は逃げた』のあらすじ
漫画家の亜子(山本奈衣瑠)と、夫で週間記者の広重(毎熊克哉)は離婚の話し合いをしていましが、飼い猫のカンタをどちらが引き取るか決められず、離婚に踏み切れずにいました。
亜子は編集者の松山(井之脇海)と、広重は職場の同僚の真実子(手島実優)とそれぞれ浮気しており、夫婦仲は冷めきっていました。
そんな中、カンタが突然姿を消してしまい、亜子と広重は行方を探しますが…。
映画『猫は逃げた』感想と評価
夫婦それぞれが浮気をしているという設定なので、泥沼メロドラマ的展開が繰り広げられるのかと思いきや、鑑賞後に不思議と心がほっとする映画となっています。
不器用で人間臭い魅力的な4人
本作は、4人の登場人物それぞれの純粋な好きという想いや迷いが、繊細に描かれています。
その人物描写と俳優陣の演技が、本作の魅力であり見どころのひとつだと言えます。
まずは、漫画家の亜子ですが、彼女は夫の広重に対して言いたいことを率直に話しているようで素直になりきれない女性です。
彼女を演じた山本奈衣瑠の自然体な演技が印象的で、冷静でいようとしながらも思いがこみ上げる演技は特に胸に迫るものがありました。
亜子の夫の広重は、不器用で煮え切らない男性です。亜子との離婚に迷いながら浮気相手にも優しくしてしまうダメな男ですが、不思議と憎めない。
そんな絶妙な人物像を毎熊克哉が見事に演じています。この嫌みのなさが不倫の泥沼感を薄めているように感じられます。
広重の同僚で浮気相手の真実子は、広重への純粋な恋心をもつ女性です。
真実子を演じた手島実優が、小悪魔的可愛さが暴走する危険な一面や、ジェンダー論や結婚観について語る彼女の芯の通った一面を演じており、その演技力の多彩さが光っています。
既婚者の浮気相手というポジションに留まらない彼女の人物像は、この映画の鍵を握っていると言っても間違いではありません。
そして最後に、亜子と体の関係をもつ編集者の松山は、まさに年下の可愛い男の子といった雰囲気です。ただ彼には、とても優しく繊細な感性があり、4人の登場人物の中では1番大人といえるかもしれません。
彼を演じた井之脇海の魅力にノックダウンされる観客はきっと少なくないでしょう。
そんな、不器用さや人間臭さがある4人だからこそ、彼らがそれぞれ好きという想いに振り回されたり迷ったりする姿に、引きこまれるのです。
猫映画の新たな定番
先に紹介した4人と同じくらい本作にとって重要なキャラクターといえば、猫のカンタです。
タイトルの通り、カンタがいなくなったことから4人の登場人物たちの関係が動き始めるからです。
亜子と広重にとってカンタが一体どういう存在だったのか、そして居なくなったことでどう変化していくのかが見どころとなっています。
また、本作はR15+作品ということで、アダルトな場面もあるのですが、猫の可愛さをあらゆる角度から捉えるショットもふんだんにあります。
この絶妙なバランスがまたこの映画の独特のあたたかさと優しさを感じさせる要素となっているのです。
まとめ
本作は、城定秀夫と今泉力哉が互いの脚本を提供し合い、R15+のラブストーリー2本を制作するプロジェクトL/R15による映画で、2022年2月25日に公開された『愛なのに』に続く第2作目の作品です。
人間ドラマの面白さは、1つにとどまらない側面を持つキャラクターたちが絡み合うことによって、アクシデントや関係の変化が起きることだといえます。
L/R15の両作品ともにこの人間ドラマの面白さがふんだんに盛り込まれた作品となっています。
人間ドラマをそれぞれの切り口から繊細に描くことができる城定秀夫、今泉力哉それぞれの特色もあり、過去作のファンにはたまらないでしょう。
そして、これまで両者の作品を観たことがない人にとっても、優しさとユーモアにあふれたこの作品を楽しむことができるはずです。
また、『愛なのに』との繋がりを見つけることも本作の楽しみ方のひとつなので、そちらにも注目して観てみてはいかかでしょうか。
『猫は逃げた』は2022年3月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開。