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Entry 2020/08/21
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映画『マーティン・エデン』あらすじと感想考察。ルカマリネッリがベネチア映画祭で男優賞を受賞したジャックロンドンの自伝的小説の映像化

  • Writer :
  • もりのちこ

意識しようがしなかろうが、
僕らみんなのなかにマーティン・エデンは存在する。

アメリカ人作家ジャック・ロンドンの自伝的巨編「マーティン・イーデン」が、映像化となりました。

ジャック・ロンドンの代表作『野性の呼び声』は、クリス・サンダース監督、ハリソンフォード主演で実写映画化され、2020年2月には日本公開となり注目を集めました。

「犬物語」「白い牙」「太古の呼び声」など、短編、海洋小説、ボクシング小説、SF、幻想小説、ルポタージュと多彩な作品を世に残したジャック・ロンドン。彼はいったいどんな人物だったのか。

労働者階級の貧しい暮らし、若き日の破天荒な日々を経て、大作家に至るまで。幾多の障壁と挫折を乗り越え、たどり着いた成功の先に待っていたものとは。

映画『マーティン・エデン』は、2020年9月18日(金)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開です。

映画『マーティン・エデン』の作品情報

(c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

【日本公開】
2020年(イタリア・フランス・ドイツ合作映画)

【原作】
ジャック・ロンドン

【監督】
ピエトロ・マルチェッロ

【キャスト】
ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、ビンチェンツォ・ネモラート、マルコ・レオナルディ、デニーズ・サルディスコ、カルロ・チェッキ、ピエトロ・ラグーザ

【作品概要】
20世紀アメリカ文学の傑作、ジャック・ロンドンの自伝的小説がイタリアを舞台に映画化となりました。

監督は、イタリア、ナポリ出身のドキュメンタリー作品で高い評価を受ける気鋭のフィルムメーカー、ピエトロ・マリチェッロ。

スーパー16mmフィルムを使用し、ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜた手法で、歴史の記録映像を盛り込み、あえて厳密な時代設定を避け時空を超えた物語に仕上げました。

主人公マーティン・エデンを演じるのは、イタリアを代表する俳優のひとり、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』のルカ・マリネッリ。

今作は、2019年ベネチア映画祭のコンペティション部門に出品され、主人公のマーティン・エデンを演じたルカ・マリネッリが男優賞を受賞。

そのほか、イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・デ・ドナテッロ賞では脚色賞を、トロント国際映画祭では、プラットフォーム賞をそれぞれ受賞しています。

映画『マーティン・エデン』のあらすじ

(c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

「そう世界は私より強い。私は身を挺してその力に抗うしかない」。テープに声明を吹き込む男。ひどく疲れ切った形相の彼は、大作家マーティン・エデンです。

暗いトンネルを戻るように時代をさかのぼると、そこには若き日のマーティンの姿がありました。

イタリア、ナポリの労働者地区で生まれ育ったマーティンは、姉夫婦の元に身を寄せ、船の出稼ぎでどうにか食いつなぐ日々を送っていました。

ある日、町に戻ったマーティンは、バーで出会ったマルゲリータとの一夜を楽しんだ後、次の朝、港で絡まれている青年を助けます。

青年はアルトゥーロという、良家の子息でした。お礼にと屋敷へ招待されたマーティンは、そこでアルトゥーロの姉、エレナ・オルシーニと出会います。

美しく教養あるエレナに、マーティンは瞬時に心を奪われます。彼女に近付きたい、自分もブルジョアの世界に身を置きたい。

マーティンは、エレナの影響で読書にのめり込んでいきます。独学で文学を深めていくマーティンは、次第に作家を目指すようになります。

しかしその道は、自分も周りの大事な人たちをも傷つける、険しい道となるのでした。

映画『マーティン・エデン』の感想と評価

(c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

貧困層の暮らしから独学で作家への道を切り開き、アメリカンドリームを手にしたジャック・ロンドン。

そんなジャック・ロンドンの自伝的小説となる「マーティン・イーデン」は、主人公のマーティンが成功を掴むまでの苦悩や焦燥感、そして成功を掴んだ後の人生が実にリアルに描かれています。

ストーリーは、教育を受けられなかった貧しい青年が、ひとりの女性との出会いで文学に目覚め作家を目指すという、実にロマンチックな展開から始まります。

しかし、その道のりは厳しいものでした。貧困は常にマーティンに付きまといます。船の出稼ぎをし、タイプライターを手に入れるために金の工面をし、ようやく書いた原稿はどこにも採用されないという日々が続きます。

おまけに身分違いの恋は、互いを理解するのも大変なうえに、周りからの反対にあいます。大事にしたいのに傷つけ合ってしまう。すれ違いが続きます。

身も心もぼろぼろにし、それでもマーティンは作家の道をあきらめませんでした。

そして、苦悩の末に成功を手にしたマーティン。作家としての顔の他に、革命家としても名をあげます。望んだはずの裕福な暮らし。しかし彼を待っていたのは孤独でした。

映画『マーティン・エデン』で描かれた孤独な作家の最期が、奇しくも原作者ジャック・ロンドンの最期と重なります。

ジャック・ロンドンの代表作、ハリソン・フォード主演で映画化された『野性の呼び声』では、孤独な男ソーントンと大型犬バックの友情、そして人類未踏の地への大冒険を描き出しました。

野性を取り戻していくバックと、自分の居場所を探し続ける老人のたどり着いた場所。ファンタジーのようで、切なくも感動的な精神世界が印象的な作品です。

しかし、彼の自伝的小説の映画化『マーティン・エデン』を観て驚きました。ジャック・ロンドンの作風から、裕福な家庭に育ち、世界を旅しながら小説を書き上げたイメージが強かったからです。

苦悩の中にありながら、冒険ファンタジーを生み出したジャック・ロンドン。彼の原点は社会主義の貧困な暮らしの中にあり、もがき続けた格差社会の中にありました。

映画の中でマーティン・エデンは言います。「作家エデンは存在しない。偶像の産物だ。私は無法者で船乗りのままだ」と。

成功前も後も、何も変わらず船乗りのように自由であり続けることを望んだマーティン・エデン、いやジャック・ロンドンの心理に迫るセリフです。

最後に、マーティン・エデンを演じたルカ・マリネッリが最高にセクシーだったということをお伝えします。

まとめ

(c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

2019年、ハリソン・フォード主演で映画化された『野性の呼び声』の原作者ジャック・ロンドン。彼の自伝的小説の映像化『マーティン・エデン』を紹介しました。

原作は20世紀初頭のアメリカ西海岸オークランドが舞台でしたが、映画ではピエトロ・マルチェッロ監督の生まれ故郷イタリア、ナポリを舞台に映像化されました。

イタリア映画の叙情的な色使いと、歴史ある美しい街並みが、物語をよりドラマチックに演出します。どこまでも刹那的で、艶のある作品にどっぷりはまって下さい。

映画『マーティン・エデン』は、2020年9月18日(金)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開です。

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