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Entry 2023/01/23
Update

【映画ネタバレ】イチケイのカラス|感想解説とラスト結末あらすじ評価考察。ドラマ最終回続編が黒木華/千鶴の決意によって描く“誰もが持つカラスの心”という真実

  • Writer :
  • 河合のび

今度は、国を怒らせちゃった?
令和の人気“裁判官”ドラマがついに映画化!

「イチケイ」こと東京地方裁判所・第3支部第1刑事部を舞台に、どこまでも自由で型破りな裁判官・入間みちおの活躍を描いた連続ドラマ『イチケイのカラス』。

2021年に放映され人気を博した同作は、スペシャルドラマ、スピンオフドラマを経てついに劇場版が製作・公開されました。

竹野内豊、黒木華といったシリーズのレギュラーキャストの他、劇場版キャストとして斎藤工、向井理など豪華な顔ぶれが出演した本作。

本記事では映画『イチケイのカラス』のネタバレ有りあらすじとともに、本作で描かれた二つの事件の“自衛”という共通点、特例判事補・坂間千鶴が“カラス”でなくなった理由から見えてくる、シリーズが最後に伝えようとした“真実”などを考察・解説していきます。

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映画『イチケイのカラス』の作品情報


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
浅見理都『イチケイのカラス』(講談社・モーニングKC刊)

【監督】
田中亮

【脚本】
浜田秀哉

【主題歌】
Superfly「Farewell」

【キャスト】
竹野内豊、黒木華、斎藤工、山崎育三郎、柄本時生、西野七瀬、田中みな実、桜井ユキ、水谷果穂、平山祐介、津田健次郎、八木勇征、尾上菊之助、宮藤官九郎、吉田羊、向井理、小日向文世、庵野秀明

【作品概要】
浅見理都の同名漫画を原作に、2021年に連続ドラマが、2023年にスペシャルドラマとスピンオフドラマが放映された人気シリーズ『イチケイのカラス』の劇場版作品。ドラマ版にて演出を担当した田中亮、脚本を担当した浜田秀哉が、本作の監督と脚本をそれぞれ手がけた。

型破りな裁判官・入間みちお役の竹野内豊、堅物で真面目な判事補であり本作は“弁護士”として活動する坂間千鶴役の黒木華の他、山崎育三郎、桜井ユキ、水谷果穂、小日向文世とシリーズのレギュラーキャストが出演。

そして千鶴が出会う弁護士・月本信吾役の斎藤工、若き防衛大臣・鵜城英二役の向井理をはじめ、吉田羊、宮藤官九郎、尾上菊之助、平山祐介、八木優征、津田健次郎、田中みな実が劇場版キャストとして参加。

また『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』で竹野内豊、斎藤工と深い関わりを持つ映画・アニメーション監督の庵野秀明も友情出演を果たしている。

映画『イチケイのカラス』のあらすじとネタバレ


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

どこまでも真実を追い続ける型破りな裁判官・入間みちお(竹野内豊)が、「イチケイ」を離れてから2年。みちおは熊本地方裁判所・第2支部から岡山地方裁判所・秋名支部へと異動し、同支部の部長裁判官を務めていました。

また、彼と「イチケイ」で仕事をともにした特例判事補・坂間千鶴(黒木華)も、「他職経験制度」により弁護士として活動を開始。奇しくも現在は、秋名支部がある秋名市の隣町・日尾美町に配属され、町役場職員・輝夫(宮藤官九郎)と妻・悦子(吉田羊)の協力を得ながら日々を送っていました。

その頃秋名市では、海上自衛隊のイージス艦と民間貨物船の衝突事故が発生。のちに、亡くなった船長・島谷(津田健次郎)の墓参りに訪れた“史上最年少”防衛大臣・鵜城英二(向井理)に対して、船長の妻・加奈子(田中みな実)が傷害事件を起こしました。

加奈子の起こした傷害事件の裁判を担当することになったみちお。

事故当日、貨物船は法に基づく通常の運航ルートを外れていた可能性が高く、「事故の責任はあくまでも貨物船の方にある」とすでに結論付けられていましたが、貨物船のGPS記録は船の沈没により消失し、イージス艦側の運航記録は“紛失”してしまっていました。

慎重な性格で、操船技術も高かった夫が事故を起こしたとはどうしても信じられない加奈子。みちおは彼女に真実を伝え、全てに納得した上で自身が犯した罪と向き合ってもらうためにも“職権”を発動”。傷害事件の背景にある衝突事故の再調査を宣言します。

一方の千鶴は、シキハマ株式会社・日尾美工場の社員がトラック運搬中に落とした荷物が、老婦人・トメが運転する後続車の前に土埃を起こし交通事故を誘発した事件を通じて、事務所に所属せず、各地を渡りながら依頼を引き受け続けている弁護士・月本信吾(斎藤工)と出会います。

トメの計らいによって二人は同事件の弁護をともに担当することになり、無事にシキハマ・日尾美工場との栽培に勝訴しました。

やがて月本は、日尾美工場では社員の急な配属替えや退職が度々あること、そうした社員たちは皆病院で長期治療を受けていることから、工場内で“健康被害”が発生している可能性を指摘。その調査への協力を千鶴に頼みます。

工場内へ不法侵入し、工業排水を採取するなどの強引な手段をとりながらも、社会正義を貫こうとする月本の姿に、千鶴は次第に惹かれていました。

衝突事故の調査を進めようとするみちおの元には、例の防衛大臣・鵜城が姿を現しました。

事故発生時、貨物船の船員たちは船長を含め頭痛・吐き気などの体調不良に陥っていたが、それは事故発生日の前日に行われた船内での酒盛りが原因である可能性が高く、船長の名誉を守るためにもその情報を伏せていたと語る鵜城。

そして、「あなたのこれからを応援しています」とだけ言い残した鵜城との面会を終えたみちおは、加奈子の傷害事件の担当から外されてしまいました。

対して、工場から採取した排水から、基準値を超える量の有毒な有機フッ素化合物が検出されたと分かった千鶴と月本は、公民館を借りて日尾美町の住民に向けた説明会を行っていました。

しかし説明会の途中、日尾美工場の工場長・木村(平山祐介)率いる社員たちとシキハマの顧問弁護士・三田村(尾上菊之助)が乱入。三田村に排水の入手ルートの不明瞭さを指摘され、シキハマ側が準備した別のデータを提示されてしまったことで、説明会は無駄に終わりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『イチケイのカラス』のネタバレ・結末の記載がございます。『イチケイのカラス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

後日、千鶴は港の廃棄物集積場で、月本が工場長・木村から大金を受け取る姿を目撃しました。

月本は、日尾美工場の環境汚染と健康被害を解決する気はなく、環境保護団体に情報をリークし事態を大きくした上で、最終的には「環境汚染はない」と住民にアピールし、日尾美工場から謝礼金兼口止め料を得ることを画策していたのです。

月本がそのような行動をとったからこそ、環境汚染は確実に存在すると理解する千鶴。その後、自身の息子が環境汚染による健康被害を受けているラーメン屋店主・松原から依頼を受けた彼女は、“民事裁判”として日尾美工場への健康被害訴訟を起こしました。

その訴訟の裁判長を担当することになったみちお。原告・松原の弁護士を千鶴が、被告・シキハマの弁護士を三田村が務める中、みちおは例の排水の入手ルートが不明瞭であると改めて指摘し、工場周辺の土を徹底的に検査するよう千鶴に命じました。

訴訟裁判が始まった途端、松原の営むラーメン屋のガラス戸が投石で割られるなど、悪質な嫌がらせが始まります。

日尾美町の経済には欠かせない大企業・シキハマに楯突くことに不安を隠せない松原を千鶴は励ましますが、彼女の暮らすアパートも何者かに放火されました。

千鶴と火事の現場で遭遇した月本は、訴訟を取り止めるよう忠告した上で「真実の追求を依頼人のためではなく、正義感という我欲のためにやっているのでは?」「正義を振りかざした代償を払えるのか」と指摘しました。

月本は7年前、「自身の勤めている建設会社が耐震偽装をしている」と妹から聞かされた際に「自分が弁護を務め、必ず守るから」と内部告発を促しました。しかし会社は隠蔽を続け、同僚たちから執拗な嫌がらせを受け続けた結果、彼の妹は自ら命を絶ちました。

会社は最終的に耐震偽装を認めたものの、月本の妹を自殺へと追い込んだ一件について罪に問われることはありませんでした。その時に月本は“法の不完全さ”を痛感し、以来自らが抱いていた社会正義を否定するようになったのです。

千鶴はそれでも、真実を追い続けることを誓います。そして月本に「“真実”から目を背け続け、“暗闇”のままでいることが怖くないのか?」と訴えました。

家を失くし、日尾美町の商店街内にある事務所にも泊まれない千鶴は、秋名市にあるみちおの家へと向かい、一晩泊まらせてもらうことに。

眠りにつこうとする中、千鶴は月本に指摘された正義感について弱音を吐きますが、みちおは「悩んで悩んで悩み抜くことでしか、いい答えは見つからない」「もっと悩め」と答えました。

後日、みちおは月本を呼び出します。

「シキハマから金を巻き上げたにも関わらず日尾美町に残り続けているのは、日尾美工場の環境汚染の“新たな情報”を入手したから」と考えていたみちおは、千鶴がシキハマからの和解提案を断り、最後まで訴訟を闘い抜こうとしていることを告げました。

月本は密かに、“新たな情報”が入った封筒をみちおに渡します。その封筒の中には、5人の子どもたちと工場の社員たちが映った、古びた写真が入っていました。

その後、月本は神社の階段から何者かに突き落とされ、命を落とします。報せを聞き、雨に濡れながらも警察の遺体安置所に駆けつけた千鶴は、月本の亡骸を前に涙を抑えられませんでした。

後日、千鶴は港の波止場で、釣り人姿のみちおと会います。

工場周辺の土壌汚染が確認できたこと、シキハマ側は「長年の工場稼働で長期間にわたり有害物質が蓄積されただけで、健康被害とは関係ない」と弁明したが、工場は隠蔽のため“汚染土の入れ替え”を行っていた可能性が高いことを報告する千鶴。

彼女の報告を聞いたみちおには、“真実”が見えつつありました。

千鶴は今回の裁判の右陪席・土井(柄本時生)と左陪席・赤城(西野七瀬)とともに、例の日尾美工場のトラックが誘発した交通事故の被害者・トメの車を調査します。そして、車に残っていた土埃を採取し分析した結果、それは汚染土だと判明しました。

一方、みちおは都内開催のイベントに出席していた防衛大臣・鵜城と会います。

みちおは「沈んだ貨物船を引き揚げれば“真実”はすぐに明らかになる」と提案しますが、鵜城はそれを拒否。「鵜城が今回の裁判に対し過剰に反応する真の理由」に思いを巡らせながらも、みちおは釣り人や漁師と交流する中で、事故の目撃証言を集められたと明かしました。

裁判と調査が続く中で、千鶴のアパートを放火した犯人も警察に逮捕されました。その正体は、日尾美町商店街にある和菓子屋の息子で、千鶴とも親しくしていた幸太郎(八木勇征)でした。


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

健康被害訴訟の第4回公判。裁判を進めるにあたって、みちおは“異例の証人尋問”として傷害事件の加害者・加奈子を証言台に立たせます。

貨物船とイージス艦の衝突事故の“真実”を伝えるみちお。

事故現場付近の無人島に設置されていた監視カメラの映像により、貨物船はイージス艦側の証言通り、通常の運航ルートを外れていたのが確認できたこと。

事故当日、日尾美工場から運搬された汚染土が積まれていた貨物船は、汚染土の隠蔽のために無人島へ土を運ぼうとしていたこと。

衝突事故発生の前日、例のシキハマのトラックが誘発した交通事故での「土埃が起こった」という証言からも、トラックが密かに運搬していた汚染土を密閉した容器が、事故の際に破損したこと。

密閉されないまま汚染土を貨物船に積んでしまった故に、船員たちは体調不良に陥り、最終的に事故を引き起こしたこと……。

夫が日尾美工場の環境汚染の隠蔽に加担していた……「日尾美町で生まれ育ち、町のことを愛していたのに」とショックを受ける加奈子。

千鶴は続けて、健康被害に遭った工場社員たちの治療費が町役場から“緑地造成費”として補償されていたことを指摘した上で、日尾美町の住民を長年診てきた医者であり、日尾美工場の産業医も務めている悦子に証言を求めました。

悦子は、日尾美工場の環境汚染を隠蔽し続けてきたのはシキハマではなく“日尾美町の人間”と告白した上で、町が隠し続けてきた真実を語ります。

100年以上も町の経済を支えてきた日尾美工場でしたが、今から5年前、工場稼働時に排出される有害物質の国際基準に法改正がなされたことで、シキハマ本社から「工場負担での有害物質の処理設備の導入」を要請されました。

設備を導入できるような金は工場にはない。一方で工場がなくなれば、社員たちやその親族はおろか、社員たちがいたから成り立っていた近隣企業・商店街も立ちゆかなくなる……結果、“環境汚染の隠蔽”を日尾美工場に関わる人々は選んでしまったのです。

「法律は“こぼれ落ちた人間”を守ってくれない」「工場もかけがえのない“故郷”だった」「あなたが、日尾美に来なければよかった」……日尾美町に生きる人々が傍聴席で涙を堪えられない中、自身も健康被害を受けていた悦子は“真実”を追い続けた千鶴を責めます。

みちおは「あなたたちの町は病気です」「町は、すでに壊れていたのでは」と諭し始めます。

「法律は確かに万能ではないが、法律があるから、人間が生きるための権利は守られる」「壊れたのなら、壊れたところから始めるしかない」「それが、大切な故郷があるべき姿に戻るための1歩目となる」……。


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

みちおの「判決を即決で決めたい」という提案に応じる千鶴と三田村。判決は、原告であるラーメン屋店主・松原の勝訴となり、被告・シキハマは日尾美工場での環境汚染を認めた上で、原告側へ慰謝料を払うことになりました。

裁判後、港のそばを歩いていたみちおの前に鵜城が現れます。

事故の目撃証言の中には「イージス艦に鵜城大臣が乗っていた」という証言があったこと、その事実を公にできなかったが故にイージス艦側は航海記録を“紛失”させ、鵜城も過剰に反応したことを指摘するみちお。

鵜城は事故当日、イージス艦では新開発の対艦ミサイルを搭載しての極秘訓練が行われていたこと、その事実を国民に知られたら、国防に数十年単位で遅れが出たであろうことを語ります。

“真実”を隠し通す覚悟があるのかと問うみちおに「私は私なりのやり方で国を守る」と答え、その場を去った鵜城。やがて彼は会見を開くと、イージス艦航海記録の管理責任をとる形での防衛大臣の辞任、そして一政治家としての再スタートを表明しました。

裁判を経て工場が閉鎖された後、日尾美町商店街はかつての活気を失っていました。“真実”を追った代償を痛感しながらも、千鶴は月島が亡くなった神社の階段へ訪れ、花束を供えました。

そこに姿を現したみちお。そして千鶴に、月本から渡された例の写真を見せました。

写真に映っていた子どもたちは、小学校時代の悦子、輝夫、木村、島谷でした。かつて学校の課題研究を通じて「工場もまた自分たちの“故郷”なのだ」と知った子どもたちは、成長し大人となっても、それぞれの立場で工場を守ろうとしていたのです。

また月本は亡くなる直前、悦子、輝夫、木村と神社で会っていました。

隠蔽に耐えかねていた輝夫が、環境汚染を究明してもらうべく、千鶴へトメの交通事故や松原のことを紹介していたのが明らかになる中、月本は「町の悲しみを、自分も弁護士として受けとめる」と4人に裁判で証言をするよう説得しました。

しかし月本は、「工場を守る」とかつて約束した子どもたちの“もう一人”……データの改竄を行い、本社への虚偽報告を担っていたシキハマの顧問弁護士・三田村に階段から突き落とされ、命を落としたのでした。

悦子と輝夫によると、階段から突き落とされた直後も意識がかすかにあったという月本。彼が最期に遺した千鶴への言葉をみちおから聞かされ、千鶴はその場で泣き崩れました。

月本を殺してしまった三田村も含め、隠蔽に加担した日尾美町の住民一人一人と弁護士として向き合うことを決意する千鶴。その決意を聞き届けたのち、「坂間さんと絡むのは、もうごめんだ」と言うみちおに、千鶴も「それは私も同じです」と答えました。

三田村の月本殺害事件の初公判。千鶴が弁護士として法廷に出席する中、裁判長を務めるみちおは「全員が納得する答えを見つけましょう」という言葉とともに裁判を開廷しました……。

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映画『イチケイのカラス』の感想と評価


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

事件の共通点は「“自衛”の果ての犠牲」

イージス艦と貨物船の衝突事故と、地元大企業による環境汚染の隠蔽。一見無関係のように見えた二つの事件をつなげていたのは、故郷を守ろうとする住民の想いであったことが明かされていった映画の結末。

作中、悦子は「法律は“こぼれ落ちた人間”を守ってくれない」と法律に基づいて事件の真実を追い続けた千鶴を責めました。彼女のその言葉は、悦子や4人の仲間たち、そして日尾美町の住民が“こぼれ落ちた人間”である自分たちを自らの手で守ろうとしていたことも意味しています。

しかし「自縄自縛」という言葉もある通り、日尾美町の住民は自分たちに課した「町を守らなくてはならない」という暗黙の掟に縛られ、その掟の名のもと同じ日尾美町の住民に犠牲を強いるという最悪の事態に陥っていました。


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

“自衛”の果てに生まれる犠牲……それは、“自衛”の名を冠した組織「自衛隊」による国防を思案し続け、国防を何より優先すべきと「“真実”の隠蔽」を行なったことで、自身が守る“国民”の一人であるはずの加奈子の心を踏みにじってしまった防衛大臣・鵜城の姿とも重なります。

規模や形に違いはあれども、“自衛”のために作られたはずの法に携わる人々が、その法に翻弄され、果てには法が守るはずの“自身の一部”すらも傷つけてしまう。

本作で描かれた二つの事件は、「“自衛”のために生まれた法も、人間の手で作られたものである以上“不完全”なものであり、それが“自身の一部”を傷つけてしまうこともある」という真実を象徴する事件でもあったのです。

千鶴が“カラス”でなくなった理由は?


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

シリーズタイトル『イチケイのカラス』における「カラス」は、宣伝ポスターなどにおける“三本足のカラス”のデザインからも察せる通り、日本神話に登場する“導き”の神・八咫烏(ヤタガラス)に由来しています。

そして「罪を裁き、人を導くために不可欠な公正さ」を象徴する“黒一色”で彩られた裁判官の法服に、同じく“黒衣”をまとった“導き”の神の姿を重ねたからこそ、「カラス」の名がタイトルに用いられているのです。

一方、スペシャルドラマ版でもその進路が描かれていた通り、「イチケイ」で特例判事補として活躍していた千鶴は、劇場版の本作では「他職経験制度」により“弁護士”として活動。結末でも、日尾美町の住民一人一人と向き合うべく、弁護士として働き続けることを決意しました。


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

“法の不完全さ”に志を折られた弁護士・月本との出会いにより、真実を追い続ける自身の内にある“正義感という名の我欲”に直面した千鶴。一方で彼女は「“法の不完全さ”を理解した上で、それでも“こぼれ落ちた人々”の人生と向き合い続ける」という覚悟も彼から教えられました。

裁判官という“人を導く者”としてではなく、弁護士という“人と向き合う者”として、傷ついた人々の心が納得できる真実を見つけ出していく……

それが、連続ドラマ・スペシャルドラマ・劇場版を経て人間・坂間千鶴が選んだ“歩み始めるべき未来”であり、原作漫画を基に始まった本シリーズが最後に描き出した「“カラス”だけではなく、“カラス”の心を持つ人間ならば誰もが、人々の心を救う真実の見つけ出せる」という真実なのです。

まとめ/“人を導くカラス”として生き続ける決意


(C)浅見理都/講談社(C)2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

神社の階段にて、新たな未来へと歩み始めることを決意した千鶴を、冗談を交えながらも激励し、彼女が選んだ未来へと送り出したみちお。

その場面は同時に、別の道へと進む千鶴を送り出すことで、みちお自身も「裁判官という“人を導く者”の仕事を全うし続ける」と改めて決意した場面とも受けとれます。

未だ成長半ばの千鶴をはじめ、真実を知ろうとし罪を犯した被告・加奈子、故郷を自らの手で守るために誤った選択をした日尾美町の住民たち、“法の不完全さ”に一度は屈した弁護士・月本、そして国防のため暗躍する若き防衛大臣・鵜城まで、劇場版でも多くの人々を導いたみちお。

ただ、連続ドラマ版の作中で明かされた弁護士時代の過去からも窺える通り、彼もまた「法とは、正義とは何か?」という問いに悩み続ける一人であり、裁判官という仕事についても「“苦悩する者”が、“人を導く者”になれるのか?」と幾度となく悩んだはずです。

だからこそ、映画後半で千鶴を励ました際に彼が語った「悩んで悩んで悩み抜くことでしか、いい答えは見つからない」という言葉の説得力、彼が裁判官としての業務の効率を下げてでも、裁判に関わった人々が納得できる“真実”を追い続ける理由を理解できるのです。

ちなみに、八咫烏は“導き”の神であると同時に、“太陽”の化身でもあるとされています。

水辺に生息する鳥“鵜”と領土を守るための“城”をその名に冠し、“太陽”を象った旗を持つ国・日本を守ろうと躍起になっていた鵜城と“人を導くカラス”として生きるみちおが出会ったのは、ある意味では必然だったのかもしれません。

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。


photo by 田中舘裕介




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