Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2023/02/27
Update

映画『GOLDFISH』あらすじ感想と評価解説。アナーキーのギタリスト藤沼伸一が終わらない“パンクな青春”を自叙伝として魅せる!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『GOLDFISH』は2023年3月31日(金)シネマート新宿・心斎橋ほか順次公開

パンクバンド「アナーキー(亜無亜危異)」のギタリスト・藤沼伸一の自伝的作品。自身で撮りあげた映画監督デビュー作『GOLDFISH』が2023年3月31日(金)シネマート新宿・心斎橋ほか順次公開となります。

主演の永瀬正敏をはじめ、北村有起哉、渋川清彦ら個性的な実力派が顔を揃えました。

1980年代に休止に追い込まれた伝説的バンドが、30年の時を経てもう一度派手な花火を打ち上げることを決意します。メンバーたちを待ち受けていたのは思いもかけない未来でした。

終わらない青春の喜びと悲しみを描く本作の魅力についてご紹介します。

スポンサーリンク

映画『GOLDFISH』の作品情報


(C)2023 GOLDFISH製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【監督】
藤沼伸一

【脚本】
港岳彦、朝倉陽子

【編集】
福田浩平

【出演】
永瀬正敏、北村有起哉、渋川清彦、町田康、有森也実、増子直純、松林慎司、篠田諒、成海花音、山村美智、うじきつよし

【作品概要】
デビュー42周年を迎えたパンクバンド“亜無亜危異”のギタリスト、藤沼伸一が自身のすべてをモチーフにした一作。藤沼は監督に加えて音楽も担当しています。

多くのミュージシャンやアーティストに襲いかかる「死の波」を泳ぐ金魚のような者たちの苦悩を描き出しました。

宮本から君へ』(2019)などの港岳彦が脚本に参加しています。

主演は『あん』(15)、『パターソン』(16)、『』(17)でカンヌ国際映画祭に3年連続で公式選出された初のアジア人俳優となった永瀬正敏。

バンドメンバーのハルを北村有起哉、アニマルを渋川清彦が演じるほか、増子直純(怒髪天)、松林慎司、町田康、有森也実らが出演。

映画『GOLDFISH』のあらすじ


(C)2023 GOLDFISH製作委員会

1980年代に社会現象を巻き起こした人気のパンクバンド「ガンズ」は、メンバーのハルが傷害事件を起こして活動休止となります。

30年後、リーダーであるアニマルがイチに電話をかけ、バンドの再結成を呼びかけました。借金に困っていたアニマルは、ガンズで当てることを目論みます。

初めは旧友を相手にしなかったイチでしたが、ひとり娘のニコが言った言葉に影響を受けて再結成に乗り出しました。

イチは参加を渋るハルの説得に向かい、会社がフルメンバーなら出資すると言っていることを話します。

自分が必要とされていることを知ったハルは、音楽に居場所を求めて参加を決めました。恋人の雅美はそんな彼を心配します。

しかし、仲間たちの成長に追いつけず、焦りに追い詰められたハルは、かつてのように酒と女に溺れていき…。

スポンサーリンク

映画『GOLDFISH』の感想と評価

変わらずにいることの悲しみ

パンクバンド“亜無亜危異”のギタリスト、藤沼伸一の自伝的ストーリー『GOLDFISH』。実際にあったことかと思うと胸が締め付けられます。友への鎮魂歌としての側面も持つ一作です。

藤沼監督は実話を色濃く反映させながらも、実際の人物像に近づけることを目的にせず、熱くパンクをしていた若者たちが歳をとってもがきながらもう一度トライする姿を純粋に映し出しました。

1980年代にカリスマ的人気を誇ったバンド「ガンズ」は、メンバーのハルの暴力事件によって空中分解したままでした。30年を経て、元リーダーのアニマルの声かけによって再結成することとなります。

ただひとの現役のミュージシャンである主人公のイチは、最初にアニマルから誘われて断りますが、ひとり娘・ニコの言葉によってもう一度ガンズをやることを決心しました。

永瀬正敏が年齢がいってもカッコいいオヤジ・イチを魅力的に演じています。愛する娘のニコの純粋な言葉に翻弄されるさまが印象的です。

ほかのメンバーたちはそれぞれ別の道を歩んでいましたが、熱心な誘いにこたえて再結成を誓い合いました。情熱が湧いたのは、彼らが不完全燃焼のままガンズをやめなければならなかったため、まだ心残りが火種として残っていたからに違いありません。

一度燃え尽きていたならば、30年の年を重ねた彼らはもう一度走り出すエネルギーを出せなかったのではないでしょうか。

中年オヤジたちの深い絆がぐっと胸に迫ります。演技達者の渋川清彦が、うざいけれどチームにひとりいてほしいムードメーカーの愛されキャラ・アニマルを魅力たっぷりに演じています。

実は一番ガンズの復活を願っていたのは、休止の元凶となったヒロだったのかもしれません。彼は歯が抜け落ち、女のヒモとなって自堕落な人生を送っていました。そんななか、自分が必要とされていることを知った彼は、仲間たちとともにもう一度ステージに立つ道を選びます。

しかし、繊細で傷つきやすいハルは、ずっとプロミュージシャンであり続けたイチへの羨望に打ちのめされてしまいます。

時とともに人はいやでも成長し変わっていきます。変わらずにいることの方が難しい世で、悲しくもハルだけは永遠の少年のままでした。

そんな彼の純粋さを誰より理解していた恋人の雅美の苦悩と愛情を、有森也実が凄みある演技で表現しています。

まとめ


(C)2023 GOLDFISH製作委員会

終わらない青春を追い求めるオヤジ世代のカッコいい男たちを描いた『GOLDFISH』。

それぞれ違う道を選んだはずの彼らが、もう一度愛するバンドを復活させようと奮闘します。

同じ志で一緒の舟に乗り込んだはずのメンバーたち。しかし、彼らが知ったのは、もう昔をそのまま取り戻すことはできないという事実でした。

ほろ苦くも胸を焦がす大人たちの青春映画『GOLDFISH』は2023年3月31日(金)シネマート新宿・心斎橋ほか順次公開です。





関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『凪待ち』あらすじと感想レビュー。“香取慎吾という人物像”が白石和彌監督によって剥き出しになる

映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷はか全国ロードショー! 宮城県石巻市を舞台に、人生につまずき零落れてしまった男の「喪失」と「再生」を描いた白石和彌の映画『凪待ち』 …

ヒューマンドラマ映画

映画デトロイト|あらすじネタバレと感想。モーテル事件と暴動ラスト結末も

1967年7月、アメリカ史上最大級の人種暴動の最中に起きた実際の事件、「アルジェ・モーテル事件」を描く衝撃作。 手掛けるのは『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』といった社会派の力作で知られ …

ヒューマンドラマ映画

Netflix映画『マイ・ハッピー・ファミリー』ネタバレ感想と考察評価。遠い国の家族でありながら“懐かしい”共感を呼ぶ

「誰のための人生?」順風満帆と人は言うけど、私の生き方は私にしか決められない。52歳の誕生日に両親や家族を捨ててまでマナナが選んだ生活とは? 皆さんは“ジョージア”という国をご存じですか? 聞き慣れな …

ヒューマンドラマ映画

映画『クライ・マッチョ』ネタバレ結末感想とラストの意味解説。イーストウッドの新作にして代表作は“強いアメリカ”ではなくアップデートした境地へ

挫折を経験した孤独な男と愛を知らない少年のメキシコ横断の旅 1971年の『恐怖のメロディー』を皮切りに数々の名作を生み出してきたクリント・イーストウッド監督。監督・製作・主演を務めた『クライ・マッチョ …

ヒューマンドラマ映画

『ベルイマン島にて』ネタバレ感想結末と評価あらすじ解説。フォーレ島を舞台にビッキー・クリープスらがひと夏の恋愛物語を演じる

巨匠の面影を身近に感じながら過ごす映画監督カップルのひと夏の物語 20世紀最大の巨匠イングマール・ベルイマンが愛した神秘的な島、フォーレ島を舞台に、映画監督同士のカップルが過ごした夏の日々を繊細なタッ …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学