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Entry 2019/12/27
Update

LGBT映画『his』あらすじと感想レビュー。宮沢氷魚演じる同性愛者の人を想う“愛しい痛み”を先入観を持たずに見てほしい

  • Writer :
  • 三島穂乃佳

映画『his』は2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!

これまで様々な恋愛のかたちを切り取り、恋愛映画の旗手と呼ばれる今泉力哉監督が初めて男性同士の恋愛を描いたヒューマンドラマ。

キャストの宮沢氷魚が主人公の井川迅役を演じ、同性カップルが親権獲得や周りの人々への理解を求めて奮闘しながら、自分たちの生き方を模索していく物語です。

男性同士のラブストーリーに加え、LGBTQの人々と古くから根付いている共同体の共存への希望、親権を争う法廷劇、シングルマザーが直面する現状、変化しつつある家族の形なども描かれています。

連続ドラマ「偽装不倫」で杏の相手役を演じ、センセーションを巻き起こした宮沢氷魚が初主演を務めることでも注目を集める本作の魅力をご紹介します。

映画『his』の作品情報


(C)2020映画「his」製作委員会

【日本公開】
2020年1月24日(日本映画)

【企画・脚本】
アサダアツシ

【監督】
今泉力哉

【音楽】
渡邊崇

【配給・宣伝】
ファントム・フィルム

【キャスト】
宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香、外村紗玖良、中村久美、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子

【作品概要】
2019年に公開された監督作『愛がなんだ』が、若い女性から絶大な支持を受けた今泉力哉監督。本作は、恋愛映画の旗手と言われる今泉監督が、男性同士のカップルが親権獲得や周囲の人々への理解を求めて奮闘する姿を描いたドラマ。

主人公・井川迅を演じるのは、『映画 賭ケグルイ』などに出演し、2019年夏にオンエアされた日テレ系ドラマ「偽装不倫」で話題を集めた宮沢氷魚。宮沢が持つ繊細さや品の良さが、迅の純粋さにマッチするとして主役に抜擢され、本作で映画初主演を果たしました。

一方、迅を振り回す日比野渚役は、『ケンとカズ』『沈黙-サイレンス-』などに出演し、2019年U-NEXTオリジナル配信ドラマ「すじぼり」で連続ドラマ初主演を務めた、藤原季節。今までエッジの立った作品で爪痕を残してきたが、本作ではゲイであることを隠しながら女性と結婚し、夫・父親・迅を想う一人の男として葛藤する姿を見事に演じています。

そのほかの共演者には、渚の妻・玲奈を松本若菜、迅に恋する美里を松本穂香、迅と渚を優しく見守る近所の人々を鈴木慶一、根岸季衣、親権を争う裁判を担当する弁護士役に堀部圭亮、戸田恵子らが名を連ねている注目作です。

映画『his』のあらすじ


(C)2020映画「his」製作委員会

2010年。ベッドで眠る井川迅(宮沢氷魚)の隣には、日比野渚(藤原季節)。渚は迅の耳に息を吹きかけ、迅は笑顔をこぼし、二人は仲睦まじくじゃれあっています。そんな中、渚は穏やかな口調で「別れよっか」と迅に告げたのです。渚からの突然のひと言に迅は何も言い返せず――。

渚との別れから8年後の2018年。30歳になった迅は、ゲイであることを周りに知られないように、東京の会社を辞めて岐阜県白川町に移住し、畑を耕しながら自給自足の生活を送っています。友人はおらず、孤独な日々を送っていますが、近所に暮らす猟師の緒方(鈴木慶一)はそれとなく迅を気にかけており、迅も緒方を慕っていました。

そんなある日、迅の前に、かつての恋人・渚が現れます。しかも6歳の娘・空(外村紗玖良)を連れて。

渚は、迅と別れた後、玲奈(松本若菜)という女性と出会い結婚。一児の父として家事や育児に専念してきたものの、玲奈とは離婚前提で別居中だといいます。迅は戸惑いを隠せませんが、渚を拒めず、空を含めた三人の共同生活が始めることに。

しかし、渚と玲奈は、空の親権をめぐって意見が対立しており、離婚調停は上手くいきません。

また迅も、急に去って急に現れた渚の真意が分からず、「俺はどういう立場で子育てするわけ?俺をあてにしてるなら無理だから」と渚を突き放してしまいます。その一方で迅は、空のことを可愛く思う気持ちも芽生え、空も迅や地元のコミュニティに馴染み心を開きはじめていました。


(C)2020映画「his」製作委員会

三人での生活にも慣れてきたある日、親権を主張する玲奈が空を東京に連れ戻しにやってきます。玲奈を連れて行かれ、なすすべのない迅と渚。その晩、二人はこれまで押し殺していた感情をぶつけ合い、お互いの想いを確認するのでした。

そして、「渚と空ちゃんと三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える迅。しかし、離婚調停が進んでいく中で、迅たちは、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになり…。

映画『his』の感想と評価


(C)2020映画「his」製作委員会

好きだけではどうしようもない

本作品『his』のポスターには、頭をくっつけ合う迅と渚の姿と共に、「好きだけではどうしようもない」という一言が添えられています。作品を観る前は、このコピーが迅と渚の2人の間にある「好き」を表したものだろうと思っていました。

しかし、この作品で描かれている純粋な「好き」という気持ちは、決して恋愛感情に限ったものではないような気がします。

迅や渚がお互いを「好き」でありながらも、ゲイであるが故に2人で生きていくことに躊躇いを感じ、すれ違ってしまったり。

そんな渚は妻として玲奈のことが「好き」ではあるけれど、恋愛感情ではないと気が付いてしまったり。

そして親としての渚と玲奈は、娘が大切で「好き」なことに間違いはないものの、仕事や恋愛など自分の人生においての「好き」を捨てきれなかったり。

募っていくと、時に誰かを傷つけてしまうもの。

作品を観た後に「好きだけではどうしようもない」というコピーを見ると、「好き」に向き合った彼らの苦しく愛おしい葛藤がぐっと迫りくるようでした。

同性愛をどう描くのか


(C)2020映画「his」製作委員会

近年、LGBTQを描いた作品は多くありますが、社会的な認知が広まったこともあり、あくまでも一個人の「特徴」として描かれることが増えています。

LGBTQを特別視せずフラットな視点で描くことが、さらに彼らへの偏見を取り除くという一種の相乗効果をもたらしているのかもしれません。

その中で本作は、フラットな視点を持ちつつも、当事者たちが抱えている心の葛藤や周りからの視線といった問題にしっかりとフォーカスを当てています。

制作者やキャストも「LGBTQの方たちのことを知っているつもりだったが、まだまだ知らないことがたくさんあった」と語っているように、当事者の気持ちや置かれている立場を理解しきれていない部分も多く残っているでしょう。

本作は決して、社会的な問題を真っ向からぶつけるための映画ではありません。

しかし、2時間の中で迅や渚の心の揺らぎを丁寧に映し出すことで、マイノリティとして何かしらの傷を負っている人の気持ちを少しでも癒すことができる映画なのではないかと感じます。


(C)2020映画「his」製作委員会

そしてまた、「ゲイという自分たちの個性に素直になったとき、人を傷つけてしまった」という点を真摯に描くことで、ゲイである迅や渚だけでなく、その事実を簡単には受け入れられなかった玲奈、対して二人を受け入れた町の人々、すべてに寄り添っているのです。

お互いの素直な感情が入り乱れて、「好きだけではどうしようもない」関係性の中でもがく人々を通して、私達は新しい気付きを得ることができるのかもしれません。

だからこそ、「同性愛を描いた映画」という先入観を持たずに穏やかな気持ちでこの映画を観てほしい作品です。

みな、揺れながら生きていく


(C)2020映画「his」製作委員会

本作に登場する人物はみな、自分の気持ちと向き合い、他人を想い、葛藤し続けていました。それら心の揺らぎを体現するキャスト陣の演技には、惹きつけられずにはいられません。

ゲイだからと色々なことを諦めてきた迅を演じる宮沢氷魚は、本作が映画初主演。孤独を感じさせる佇まいと、思い出さずにはいられない渚への恋心が滲む表情は、観る者の心を掴みます。

渚の娘である空や、松本穂香扮する町役場職員・美聖、鈴木慶一演じる猟師の緒方をはじめとした周囲の人々との関わりを通じて、人に対して作ってきた壁を壊そうとする心の揺らぎを見事に表現していました。

また、渚と玲奈が抱えている「子供の幸せを想う気持ち」と、「自分が子供と一緒に時間を共にしたいという気持ち」。

親であれば当たり前の感情に、親ではなく一人の人間として、自らの人生を生きたいという気持ちが絡み合い、渚と玲奈は対立してしまいます。

藤原季節演じる渚と松本若菜演じる玲奈が対峙する東京での法廷シーンでは、すれ違ったお互いの想いが怒りや悲しみとなって、キャストの目に浮かびあがり、喉元を締め付けるような裁判が繰り広げられていました。


(C)2020映画「his」製作委員会

その結末としての渚の選択は、心に熱を帯びた衝撃を与えてくれます。

そして、父親である渚と母親である玲奈との間で、娘の空もまた、小さな身体の中で揺れ動く気持ちを感じているはずです。オーディションで選ばれたという子役・外村紗玖良の演技は本作に欠かせないもので、本当に見事でした。

それぞれの登場人物が揺らぎながらも、大切なもののために、どのような生き方を選択するのか。結末に正解はありませんが、彼らが出した答えはきっと観る者の心をぎゅっと暖かくしてくれるはずです。

まとめ


(C)2020映画「his」製作委員会

主演の宮沢氷魚は、「この作品に出演して、LGBTQについて知らないことがたくさんあることに気づかされました。この作品が一人でも多くの方に届き、考えるきっかけになってくれれば嬉しいです」と。

渚を演じた藤原季節は「たまに、思い出してください。この映画のことを。迅と渚と空のことを。そしたら少し切なくなるけど心が暖かくなるかもしれません。それって豊かなことですよね」と語っています。

本作は、演じた二人が語るように、男性同士の恋愛を描いている作品ではありますが、当事者であってもそうでなくても、恋愛・家族・人生について共感できる部分がある、誰にとっても優しい作品です。

マイノリティの方々について考えさせられるシーンもありながら、まるで自分も恋をしているような暖かい胸の締め付けを感じられます。

恋愛映画の旗手と言われる今泉力哉監督が切り取る、迅と渚と、二人の周りにいる暖かい人々の切なく愛おしい人生の瞬間を映した映画『his』は、2020年1月24日(金)公開です。



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