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Entry 2019/09/12
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【今泉力哉監督インタビュー】映画『アイネクライネナハトムジーク』キャスト・スタッフと作り上げた生き続ける登場人物

  • Writer :
  • 河合のび

映画『アイネクライネナハトムジーク』が2019年9月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!

大人気ベストセラー作家・伊坂幸太郎の初にして唯一の恋愛小説集の映画化作品にして、人々の思いがけない〈出会い〉と絆の連鎖が生み出してゆく奇跡と幸福、そして愛の物語。

それが、2019年9月20日に公開される映画『アイネクライネナハトムジーク』です。


(C)Cinemarche

このたび本作の劇場公開を記念し、“恋愛映画の名手”とも称される気鋭の映画監督にして、原作者・伊坂本人から指名を受けたことで本作を手がけた今泉力哉監督にインタビューを行いました。

本作で描こうとした原作小説の魅力や映画としての主題、キャスト陣との対話で形作っていったお芝居など、貴重なお話を伺いました。

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その後と今の大切さ


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

──作家・伊坂幸太郎さんの同名小説を映画化するにあたって、原作におけるどのような主題や魅力を映画として描こうとされましたか。

今泉:劇的な出会いより、その後出会った相手と長い時間をともに過ごしていく中で「出会った相手がこの人でよかった」と思えるかどうか。相手との出会い方や意味についてあれこれ悩むのではなく、出会った後に相手のことをどう思えるのか。

それが大事なんだと短編連作集である原作の第一作『アイネクライネ』などには書かれていますし、僕はそれこそが原作全体における重要な主題の一つだと感じられました。

その一方で、僕の頭の中には「“その後”という時間は、いつのことなんだろうか?」という疑問が浮かんでいました。決して離れることのなかったその疑問について考え、自分なりの答えを見出したくなったためにも、映画では“その後”の時間を描く、つまり10年後の登場人物たちを描くことにしたんです。


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

また僕のそうした思いは、原作の一編『ルックスライク』の物語にあたり、佐藤の友人である織田の成長した娘・美緒をはじめとする高校生たちのエピソードのピックアップとも深く関わっています。

例えば、恋愛に悩み生きる高校生たちに「出会い方よりも“その後”における捉え方が一番大事なんだよ」と諭しても、まだまだ若いですから「“その後”っていつですか?」「そんなの分かんないじゃん」と言われてしまう。

そもそも諭した側である自分たちも、“その後”がいつなのかなんて結局は分かりません。

そう考えていった時、出会いという過去の出来事や“その後”という未来ではなく、最終的には今の気持ちや今そのものが一番大事になっていくんじゃないかと思えました。そしてその思いを映画にも反映させていったんです。

高校生たちは若さゆえに、今という時間を大事にし、今という時間で抱いた気持ちに従うことしかできない。けれども、それは若い彼ら彼女らだけでなく、大人であってもそうならざるを得ない、そうしなくてはいけないことを主人公・佐藤に気づかせるために、高校生たちのエピソードを大きく取り挙げたんです。

“みんな”だから作っていける映画


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

──今泉監督は映画におけるお芝居をキャストとの対話の中で形作るようにしているとお聞きしました。本作ではキャストとのどのような対話を経てお芝居が形作られていったのでしょうか。

今泉:映画監督って、大雑把に分類すると二つのタイプが存在すると思っているんです。

一つは、頭の中に映画の完成形がすでに存在していて、その完成形を具現化するためにスタッフ・キャストと制作を進めてゆくタイプ。

そしてもう一つは、「自分ひとりで考えられることなんて、たかが知れている」を大前提とし、スタッフ・キャストを含めたみんながアイデアを出し合うことで映画をもっと面白くしたい、もっと作品としての変化を生み出したいと考えるタイプです。

映画監督としての僕は断然後者のタイプであるため、お芝居に関しても、まずキャストさんに「じゃあ、一度動いてもらっていいですか」とお願いし、自由にその場面を演じてもらうようにしています。

すると、俳優さんが自分のまったく想定していなかったお芝居をされることが多々あるんです。

想定外のお芝居に驚き戸惑いつつも、俳優さんたちにそう演じた理由などを尋ねてみる。そして俳優さんと話し合いを続ける中で場面ごとでのお芝居を決めてゆくことで、自分が想定していなかった、けれどより面白いお芝居を映画にのせられるんです。


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

例えば劇中終盤、佐藤が紗季に向けて笑顔を見せる場面でも、佐藤役である三浦春馬さんのお芝居を初めて見た時には「この場面で、佐藤はそんな笑顔を見せるか?」と疑問を抱いてしまいました。

僕は三浦さんにその疑問を投げかけたんですが、彼は「佐藤ならきっとこんな笑顔をしますよ」と答えました。僕は彼の言葉に納得しOKを出しましたが、本作の編集中に改めてその笑顔を見た時に「間違いなく、佐藤はこの笑顔しかないんだ」と改めて納得することができました。

そうした登場人物に対する認識の誤りに気づけるのはもちろん、監督としてどう演出すべきか悩んでいる部分を解決するためにも、スタッフ・キャストと一緒に演出やお芝居を考えるようにしていました。

ですから僕にとっては、なるべくみんなのアイデアや考えを取り込める状況を作っていくこともまた現場作りの一つであると言えます。

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“やってほしくない演技”というルール


(C)Cinemarche

──そのような対話と過程を経たことによって、本作のキャスト陣はみな一様に素晴らしい演技を見せているわけですが、今泉監督がキャストにやってほしい演技、素晴らしいと思える演技などはあるのでしょうか。

今泉:「やってほしい」「素晴らしい」と思える演技などが明確にあるわけではないんですが、逆に「キャストさんにやってほしくない」と考えている演技が自分の中には複数存在します。

例えば、相手の体へ安易に触ること。僕自身が相手に触らないという理由もあるんですが、「触る」って、演技においてとても分かりやすい動作なんです。

例えば喧嘩の場面においても、「相手に近づいて詰め寄る」という動作で描けたはずの感情が、相手に触れてしまった瞬間、単純な別物になってしまうんです。

また細かいことではありますが、視線についても“やってほしくない演技”があります。

登場人物は視線によってお互いの姿や顔を見ているわけですが、嘘を吐いたり誤魔化したりする場面で視線を上げようとするのはやめてほしいと感じています。様々な映画や舞台作品はもちろん、現実でもよく見受けられる動作ではあるものの、それをした瞬間にお芝居っぽさ、嘘っぽさが強まってしまうからです。

視線を動かすにしても、横にずらす、或いは下げてほしい。視線を上げると、どうしても分かりやす過ぎる演技になってしまうんです。「触る」という動作なども含め、そうした分かりやす過ぎる演技は避けるようにしています。

ですが、そのせいでキャストさんのお芝居の可能性を狭めることだけはしたくないので、基本的にはキャストさんにお任せする形でお芝居を固めています。

オール仙台・宮城ロケだから描けるもの


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

──本作のロケ撮影は、そのすべてが原作小説の舞台である仙台および宮城にて行われていますね。

今泉:本作の原作小説は、執筆当時から仙台で暮らしていた伊坂さんが、自分自身で感じ取った場所の空気や風景に基づいて原作小説を書き上げています。

今回オール仙台・宮城ロケでの撮影にこだわったのは、実在する場所を映像として収めることはもちろん、伊坂さんが小説内で描かれた仙台、つまり“伊坂さんの感じとった仙台”を映し出すというそれ以上の意義があったと感じています。

また多くの先輩方が仙台で映画を撮っていることもあり、せんだい・宮城フィルムコミッションさんや地元の方々が撮影にとても協力的だったことはありがたかったです。

これはフィルムコミッションの方が触れていたことなんですが、映画撮影の受け入れに慣れていない地域で撮影協力をお願いすると、その地域の美しい景色や名所を紹介されることがどうしても多いんだそうです。

それは地域の美しい風景を映し出すこともコンセプトに含まれる映画であれば何の問題もないんですが、本作は仙台で暮らす普通の人々の物語であるため、何気ない仙台の街並みなど、仙台に暮らす人々にとっての日常の風景を僕は描きたかったんです。

そう思いつつも撮影協力をお願いしたわけですが、フィルムコミッションさんはその意図を理解してくださり、きちんと映画に向き合った上で、“仙台に暮らす人々にとっての日常の風景”という“そこでしか撮れない風景”の撮影に協力してくださいました。

その点に関して言えば、今回の撮影は非常に恵まれていました。

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震災を敢えて描かないという選択


(C)Cinemarche

──今回撮影された仙台・宮城の風景は、同時に東日本大震災を経た後の仙台・宮城の風景でもあります。今泉監督は本作の制作にあたって震災については意識されていましたか。

今泉:本作に関しては、あまり意識はせずに制作を進めました。

原作小説は震災以前に執筆された作品でもあるため、もし震災について触れようと試みた時、果たしてそれが映画の魅力としてプラスとなるのか、映画で描かれる主題などの軸がぶれてしまわないかを第一に考えました。

そうして映画を通じて描きたいことや伝えたいことを改めて考え、本作をより良い映画にしたいと感じたからこそ、「敢えて無理には触れない」或いは「触れもせず、無視もせず」という選択をしたわけです。

震災は映画をはじめ表現作品の大きな主題となる出来事であり、それについて僅かでも描こうとすればどうしても映画全体の主題が変化してしまいます。それに作品や物語の性質について深く考えずに震災について無理に触れようとすれば、作り物っぽさが生まれてしまい、作品にとっての蛇足となりかねませんから。

ですが、震災を経た後の仙台・宮城で撮影をしている以上、観る人間によって震災に触れている、或いは触れていないと意見が分かれるのは当然のことと言えます。

生き続ける登場人物たち


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

──最後に、本作がどのような映画となったのかを改めて教えていただけないでしょうか。

今泉:伊坂幸太郎さんと斎藤和義さんの交流によって始まった物語に多くの方々が関わってゆき、自分も後乗りではありますが、映画という形でその物語に関わることができました。

そして、作品を観終わった後に「登場人物たちは“その後”どうなったんだろう?」と想像を巡らせられる映画にすることができました。

世の中には作品内のあらゆる問題が最終的には全部解決されてハッピーエンドを迎える映画が存在しますが、自分はそういったタイプの映画にあまり興味を持てないんです。

むしろ、観終わった後も「登場人物たちはその後どうなったんだろう」と想像できる映画、観客の想像力によって劇中の登場人物たちが生き続けられる映画が僕は好きなんです。


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

映画を観終えた方々が登場人物の“その後”を想像することで、登場人物はただの作り物ではなく、生き物になっていく。登場人物たちの時間、或いは人生が、例え映画自体が終わっても観客それぞれの想像の中で続くんです。

また本作は、観終えた者同士で登場人物たちの“その後”の想像について語り合える作品であると同時に、“その後”の想像や登場人物への印象、映画そのものに対する感想などが様々に分かれる作品でもあります。例えば好きな場面を5人それぞれが挙げた時、5人全員が違う場面を挙げるだろうと僕自身は思っているんです。

そのぐらい不思議な魅力を持った映画となったので、誰かと一緒に観た後、作品について語り合ってもらえると嬉しいです。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識

今泉力哉監督のプロフィール


(C)Cinemarche

1981年生まれ、福島県出身。

2010年に『たまの映画』で長編監督デビュー。2012年は恋愛群像劇『こっぴどい猫』を発表し、第12回トランシルヴァニア国際映画祭にて最優秀監督賞を受賞しました。

2013年には『サッドティー』を東京国際映画祭に出品。それを機に、今泉監督は東京国際映画祭に5度ほど参加しています。

その他の監督作には、2016年の『知らない、ふたり』、2017年の『退屈な日々にさようならを』、2018年の『パンとバスと2度目のハツコイ』など。また短編作品はもちろん、テレビドラマの演出や人気アイドルグループ「乃木坂46」のMVやメンバーPVの制作も手がけており、その活動は多岐に渡ります。

そして2019年4月に公開された映画『愛がなんだ』はSNS上にて大きな話題となり、インディーズ系映画としては異例のロングランヒットを記録しました。

映画『アイネクライネナハトムジーク』の作品情報

【公開】
2019年9月20日(日本映画)

【原作】
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)

【監督】
今泉力哉

【脚本】
鈴木謙一

【音楽・主題歌】
斉藤和義

【キャスト】
三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造

【作品概要】
『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』『ゴールデンスランバー』など数々の著作がこれまで映画化されてきたベストセラー作家・伊坂幸太郎の同名小説を、『パンとバスと2度目のハツコイ』『愛がなんだ』などで知られ、伊坂本人から指名を受けた今泉力哉監督が映画化。

主演の三浦春馬と多部未華子に加え、原田泰造、貫地谷しほり、矢本悠馬、森絵梨佳ら豪華キャストが集結。さらに音楽・主題歌を、原作小説が生まれるきっかけとなったシンガーソングライター・斉藤和義が担当しています。

映画『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじ


(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

宮城県・仙台駅前。大型ビジョンを望むペデストリアンデッキでは、プロボクサー・ウィンストン小野の日本人初の世界ヘビー級王座を賭けたタイトルマッチに人々が沸いていました。

そんな中、街頭アンケートに立つ会社員・佐藤。ギターの弾き語りに聴き入る本間紗季と目が合い、思い切って声をかけます。

快くアンケートに応えてくれた彼女の手には手書きで「シャンプー」の文字。思わず「シャンプー」と声に出す佐藤に、紗季は微笑みます。

元々劇的な〈出会い〉を待つだけだった佐藤に、大学時代からの友人・織田は〈出会い〉について語ります。彼は同級生の由美と結婚し、2人の子供たちと幸せな家庭を築いていました。

佐藤は職場の上司・藤間にも〈出会い〉について相談してみますが、藤間は愛する妻と娘に出て行かれたばかりで、途方に暮れていました。

一方、佐藤と同じく〈出会い〉のない毎日を送っていた由美の友人・美奈子もまた、美容室の常連客・香澄から紹介された、声しか知らない男に恋心を抱き始めていました。

10年後。織田家の長女・美緒は高校生になり、同級生の和人や亜美子と共に日常を送っています。そして佐藤は、付き合い始めて10年が経った紗季に、意を決してプロポーズをしますが…。




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