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映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』あらすじ感想と評価解説レビュー。女性の生き方から読み解く現代の“2つの審美眼”

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』は2022年4月8日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!

愛し合う二人の年老いた女性をめぐる物語、『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』。

フランスの街中で密かに愛を育む二人の女性の関係が、とある事故をきっかけに嵐に巻き込まれていくさまを描きます。

本作が長編デビュー作となるイタリア出身のフィリッポ・メネゲッティ監督が作品を手がけました。またドイツのバルバラ・スコヴァ、フランスのマルティーヌ・シュヴァリエらベテラン女優がメインキャストを務め、繊細で印象的な演技で本作のテーマをしっかりとアピールしています。

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』の作品情報


(C) PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS – 2019

【日本公開】
2022年(フランス、ルクセンブルク、ベルギー合作映画)

【原題】
Deux

【監督、共同脚本】
フィリッポ・メネゲッティ

【共同脚本】
マリソン・ボヴォラスミ、フロランス・ヴィニョン

【出演】
バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァレンフラン

【作品概要】

南フランスのとあるアパートで同フロアに住み、長く愛し合っていた二人の女性をめぐり巻き起こる人同士の衝突を描いたドラマ。

短編を中心に製作してきたフィリッポ・メネゲッティ監督が本作を手がけます。またメインキャストには『ハンナ・アーレント』などに出演のバルバラ・スコヴァ、『ぜんぶ、フィデルのせい』などのマルティーヌ・シュヴァリエが名を連ねています。

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』のあらすじ

(C) PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS – 2019

南フランス、モンペリエのアパート。それぞれが向かい合う部屋に暮らすニナ(バルバラ・スコヴァ)とマドレーヌ(マルティーヌ・シュヴァリエ)は、長きにわたり誰にも秘密で愛し合う恋人同士でした。

老後の暮らしを考え、ローマへの移住を計画する二人。しかし周囲からは夫に先立たれ、子供たちも独立して平穏に一人暮らしを送っていると思われているマドレーヌは、ニナのことも合わせて家族にそのことを伝えられずに悩んでいました。

そんな中、ある日マドレーヌは大変な出来事に遭遇します、そして二人は…。

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』の感想と評価

(C) PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS – 2019

本作のテーマには、二つのポイントについて考えさせられるものがあります。

一つ重大なポイントとして「老いる」ということにも言及しているといえるでしょう。物語が若年層における二人の話であれば、あるいは彼女らと家族との関係が違えばなどとさまざまな状況と照らし合わせれば、と物語の主題や展開はまた違ったものになるとも考えられます。

メインキャストの二人を取り巻く状況、乗り越えなければならない壁、そして責任からは、彼女らが十分に老いてしまっていることに対して「死を間際にした人々だからこそ自由にしてあげたい」という気持ち、逆に「社会において老いてもなお、いや老いたからこそ果たさなければならない責任はある」という二つの思想が浮かんできます。

例えば、日本ではかつて人々は60歳が定年、以後は老後という分類に置かれ社会的な扱いも変わったものとなっていました。

ところが現在定年は引き上げられ、その歳を過ぎてもなお働く人々がいるのも珍しくありません。その意味で時代として「老人」というその境目の意識は徐々に薄れている傾向にあります。

こうした状況を踏まえると、普通ではない状況であると認識される作品の冒頭から見えた光景が、エンディングを迎えるころには実に普遍的で自分たちの人生に重なるような要因をはらんでいるのではないか、という認識に変わってくるでしょう。

本作では未だ拭えない「闇の部分」が世にはあり、二人には老いてなお厳しい現実が続くことを示しているようでもあります。

(C) PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS – 2019

また本作のテーマとして重要なもう一つのポイントは、世界的に人々の認識を変えつつある同性愛という関係に関する問題。近年はさまざまな場面で取り上げられ、その関係をはっきりと認めるというケースも多くなってきました。

そういった状況がありながら、本作では未だ根強く残る偏見、あるいはこれからもずっとどこかに残り続けるであろう偏見の視点です。

マドレーヌがニナを愛するに至ったのは理由がありました。しかしそういった事情をすべて家族や周辺には話せず、マドレーヌは今という時を迎えてしまいます。

どちらかというと奔放な人間であるニナに比べマドレーヌはさまざまな社会のしがらみに縛られた人。大きな障害に直面したマドレーヌとの愛を貫くため、ニナは奮闘します。

そのあまりにも過酷な運命のため、時に怒りを爆発させるニナ。その奮闘ぶりや取り乱したような素の表情はある意味男女の恋愛関係よりもさらに深い愛情を感じさせるものでもあり、本作に描かれた疑問に対して大きく共鳴するものを投げかけているようでもあります。

本作で描いている視点は、例えばLGBTの問題に限らず年を経る、時代が変わるごとにおいて改善し認識が変わったと思われることすべてに対して「それは本当なのか?」と疑いを持たせるようなものでもあります。

まとめ

(C) PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS – 2019

本作の最大の魅力は、バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエという二人の表情といってもよいでしょう。

歳を経た二人が愛を貫く姿、というとなかなか想像も難しいところでもあります。人の表情は歳を経るごとに変化が少なくなるところもあり、演技の上である程度の年齢感を持たせながら豊かな感情を示す表情を見せるのは難易度としては高いものとなります。

その意味で悲しみ、怒り、戸惑い、あきらめ、そして喜びといった感情をこの人物設定の中で深く見せるのは、物語を成立させる最重要点であり、二人はそのミッションに成功しています。

またエンディングへの展開は、製作者側の強い思いが感じられる場面となっています。

二人の女性が抱えた複雑な事情とともにあまりにもいたたまれない結末がありながらも、なおも二人の女性が寄り添いあう姿。そこには混沌としたこの時代で生きる人々に、ポジティブな未来があることを祈っているようでもあります。

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』は2022年4月8日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー



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