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Entry 2021/04/19
Update

ネタバレ考察で中村珍『羣青』とNetflix『彼女』の映画と原作の違いを最後の終わり方まで比較解説!

  • Writer :
  • タキザワレオ

映画『彼女』はNetflixにて配信。

日本発のNetflix映画、2021年第一弾として配信された廣木隆一監督作品『彼女』が2021年4月15日からNetflixで配信されています。

「キラキラ映画の三巨匠」として、これまで数多くの少女漫画原作作品を手掛けてきた廣木隆一監督が、中村珍の原作コミック『羣青』を水原希子、さとうほなみ主演で実写化した本作。

高校時代から片思いをしていた七恵が夫から壮絶なDVを受けていることを知り、その夫を殺害したレイ。

映画ではふたりの逃避行を中心に描いていましたが、全3巻に及ぶ原作コミックでは、彼女たちとその家族との繋がりの物語を描いていました。

原作と映画との違いを、ネタバレ込みで解説していきます。

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映画『彼女』の作品情報


⒞ 2021 Netflix Worldwide Entertainment, LLC.

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
中村珍『羣青』(小学館刊)

【監督】
廣木隆一

【キャスト】
水原希子、さとうほなみ、新納慎也、田中俊介、鳥丸せつこ、南沙良、鈴木杏、田中哲司、真木よう子

【作品概要】
中村珍のコミック『羣青』を原作に、『軽蔑』(2011)『ここは退屈迎えに来て』(2018)などで知られる廣木隆一監督が、水原希子、さとうほなみW主演で映画化。テーマ曲とキーアートを細野晴臣が手掛けています。

また主演の水原希子の提案により、本作はインティマシー・コーディネイターが採用された革新的な日本映画となりました。

インティマシー・コーディネイターとは、性的な描写の撮影において俳優を守り、その負担を軽減するために制作側と俳優とを仲介する相談役のことで、撮影体制の健全化に一役買っています。

映画『彼女』のあらすじ


⒞ 2021 Netflix Worldwide Entertainment, LLC.

自分に好意を寄せていた高校時代の同級生レイと10年ぶりに再会した七恵。

結婚した旦那からDVを受けていることを告白した七恵は
「旦那を殺して」とレイに頼みました。

次の日レイは自身の犯行であると分からせるために、わざと証拠を残した上で、七恵の夫、篠田を殺害しました。

レイを心配した七恵は彼女を連れて車での逃避行に出かけます。
「もう誰もあんたのこと、蹴らない、殴らない」ふたりは人生を終わらせる場所を求めてさまよいます。

殺されかけたことを打ち明けたレイに対し、七恵は
「刺し違えてあんたも死ねば、丸く収まったのにね」と冷たい態度をとります。

わざとらしい七恵の突き放し方も、レイは理解していました。

その夜レイは明日自首することを七恵に告げました。
警官に呼び止められ咄嗟に走り出してしまったため、ふたりの逃亡は困難を極めていきます。

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行き止まりのあみだくじ


⒞ 2021 Netflix Worldwide Entertainment, LLC.

原作コミック『羣青』は、2007年から連載開始された漫画作品。自分を慕うレズビアンに夫を殺させた“わたし”と、好きな女に頼まれて殺人を犯したレズビアンの“あーし”のふたりの逃避行を、全34話にわたり描きました。

1話目よりも先に決まっていたという、人生をやり直す結末にたどり着くまで、ふたりは互いの境遇を妬み、否定し合い、憐れみ合いながら、自分自身に向き合うことを知ります。

映画版では、七恵が“わたし”にあたり、レイが“あーし”にあたる人物です。

映画ではネガティブな小ネタとしてのみ登場していた、どれを選んでも同じ結果にたどり着く「行き止まりのあみだくじ」も、原作では2度登場することで、ふたりが関係性を構築した先に何を見ているかの比較になっています。

この比較が象徴するように、映画版は34話分の睦み合いを2時間尺に凝縮したものではありません。

劇中のキーアイテムやポイントは、原作読者への目配せとして配置し、ダイジェストとしてまとめられないから、プロットを順番に当てはめたロードムービーに変えた映画版は、結果的に良い収まり方をしていました。

映画版のふたりが構築する関係性は、同性愛者が異性愛者を巻き込んで結ばれるというようなラブストーリーをなぞる、原作とは異なる結末に至りました。

原作も、同性愛の受容のされ方や社会的認知に一石を投じるような作品ではありませんでしたが、『羣青』を映画化できる地盤が十分に築かれていなかったため、映画版『彼女』は、ラブストーリーとしてパッケージングする必要があったのではないでしょうか。

ヘテロセクシャルによるラブロマンスとLGBT映画とがジャンル分けされていることがそれを物語ってしまっています。

加えて、映画版は原作にはなかった、男性側の視線を感じさせます。廣木隆一監督が映画を手がけることにより、自然と男性の視線が介在しているのかもしれません。

しかし映画も原作も、性的マイノリティへの理解を深めるための教材となり得ることを目的としていませんし、これらは展開される物語の本質とはずれますので、今回は原作との比較に焦点を当てていきます。

殺させた責任と殺した責任が対等になる物語

殺人教唆を犯した逃避行の結末は、ふたりの到達点を選ぶか、相手への到達点を選ぶかで分岐しています。

原作コミック『羣青』は、苦悶する表情のまま口づけをするふたりが描かれたカバーアートが語るように、他人と台頭に向き合う上で、乗り越えたり、引きずり続けなければならない障壁や、自分を肯定するまでの大変なプロセスに細かいデティールが注がれた作品でした。

少ない登場人物たちに物語上の使命や属性を背負わせ過ぎた結果、実在感が無いように感じたり、会話の応酬が現実離れしているように見えます。

これは人物でなく、結論に至るプロセスやそれぞれの流動的な感情に物語の焦点をあわせたことによる弊害というよりも、『羣青』の作風が魅せる意図的な演出でしょう。

中巻の序盤。雨の中、お互い凍えて寒いのに身を寄せ合うふたり。どっちも冷たい手を「冷たいのがうつるだけ」であっても、握り合うのは相手の苦悩を共有する意思表示であることを象徴したシーンですが、それは別の世界に生きる他人だからこそできたことで、独りよがりな相手への同情が結果的にお互いを浄化していったのです。

相手のためにすることで、自分が報われるという帰結は原作、映画ともに共通していますが、ふたりの関係が対等に至るのに欠かせない“あーし”の元カノの存在は、諦めさせないという結末含めて原作と大きく異なっています。

映画版では、10年前に割り勘した550円を七恵が大事にとっていたということにレイが気付くというのが直接のきっかけになり対等な関係が生まれますが、原作では相手への憐みの繰り返しが対等という立場を徐々に形成していくというより複雑な段階を踏んでいます。

“あーし”は“わたし”の誰からも愛されなかった人生を憐れみ、“わたし”は“あーし”が女性であることを憐れみますが、そこには彼女たちが助けを求めた男性が関係しています。

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身内という呪い

持ち合わせの金も身を寄せる家屋もないふたりが、逃亡中頼ることになったのは“あーし”の兄夫婦でした。

この兄夫婦は、物語にとっては自首を勧める役割を担っており、ふたりとの関係性としては、世間一般の代表としてふたりに重圧をかける存在として機能します。

具合の悪い“わたし”を抱きかかえて運ぶ兄の姿を見て、なんとも言えない表情を浮かべる“あーし”。そんな彼女を見て思わず、「可哀相」という口をつぐむ“わたし”。

“あーし”が謝りながらも吐露した「男にしかこなせない役割に対して、女でいることの不便を感じる」ことに同情したからです。

“あーし”と“わたし”は他人同士だったからこそ同情することが可能でした。それがこの兄には通用しません。

兄は“あーし”にとって1番の不理解者だからです。彼は、身内という踏み込んだ関係性が既にあるからこそ、妹を理解なく差別することができ、「同性愛を認めたい」と言ってはばからないほど傲慢な姿勢を崩しません。

彼の強引な理解とは、悪気ない不理解に他ならないのです。

傍から見たら不自然な“あーし”と“わたし”の関係性を深堀していく兄嫁と彼女たちとの会話の中で、彼は常に蚊帳の外にいます。

それは一家の大黒柱という立場にある彼から漏れ出る有害な男らしさが、彼に無意識のミソジニズムを植え付けているからではないでしょうか。

彼には「女子供に手を挙げない」という信念を「非力な女」の前で堂々と宣言することが、独善的に見えやしないか、という客観性がありません。

同時に“わたし”に語り掛ける「生きていればいいことがある」「家族がいることというささやかな幸せに感謝」という言説を、彼は世間一般と共有しています。

それは彼自身経験に基づいた発言という自信があるのでしょうが、それがどんな他者にも通用すると誤解しているのが、独善的な価値観の押し付けであり、世間一般の哀れさでもあります。

世間一般を代表する存在である兄夫婦が、夫婦としての体を保てているのは、不理解な兄に対するバランスを兄嫁がとっているからでしょう。

感情的な兄と理性的な兄嫁。お互い弟、妹を持つ者同士、雑に家族をまとめようとする兄と、義理姉妹を他人として区切る兄嫁とが夫婦という型にはまっているため、共倒れしないよう耐震性を備えているのです。

突発的に動く兄を抑制する役割の兄嫁は、「姉さん女房」の典型のようですが、自身の許容範囲を理解している(あーしのことは理解できないと言い切る)あたり、彼女も理想化された都合のいい配偶者にとどまってはいません。

よって傍から見たら兄夫婦の関係性は、上手くいっている“ように見える”のではないでしょうか。

原作において中盤以降は、この兄嫁が、ストーリーの語り口においてもバランサーとなるので、人生への未練、ウェットな会話劇の応酬など、人情話の方向に舵が切られていきます。

映画では、兄嫁の家族観、人情が、浪花節として唐突に炸裂するため、七恵とレイの雰囲気もそれに釣られてブレたように感じます。が、これによりレイは、原作の“あーし”のキャラクターに近づいたのだと解釈することも可能です。

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まとめ

原作を読んでから映画を観ると、原作からのセリフの引用につい釣られて、同じ物語を観ているという錯覚に陥りますが、実際に比較して観ると、コンセプトからして方向性の異なる作品であることが分かります。

兄夫婦の役割も、両作とも出頭させるのが目的で、最後にふたりでいることを選ばせるきっかけとなるのですが、原作ではさらに理想化された夫婦像として互いを補完し合うだけでなく、兄嫁の“あーし”との向き合い方など、関係性がさらに掘り下げられています。

お互いの汚れた人格を浄化し合い、落とし前をつけた原作のラストと比較すると、出頭する決意を隠したまま、ひとり公衆電話へ向かうレイと小屋の前で彼女を待つ七恵が、すれ違ったまま、鏡像関係をみせる映画版のラストは、理解まで一歩届かないという悲劇的なエンディングでした。

別れることで一緒になる事を選んだ原作と、最後まで矢印の向きが合わない悲劇的な映画。カタルシスをあえて殺したことで、原作にはないラブロマンスとしての訴求力を映画は手に入れることが出来たのでしょう。

映画『彼女』は2021年4月15日より、Netflixにて配信しています。







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