連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第87回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」。第87回は映画ファン必見の、映画愛が溢れた映画『ゼロヴィル:ハリウッドに憑かれた男』です。
映画を愛し俳優としても、監督としても多才な活躍を見せる男ジェームズ・フランコ。彼が手掛けた本作はその才能と情熱が煮詰められた作品と言えるでしょう。
しかし、なぜか2019年のラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)に、ワースト監督・主演男優・助演男優賞3部門にノミネートされました……。
という事で「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」で紹介されるハメになった本作。この評価で良いものやら、ぜひあなたの目でご確認下さい。
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CONTENTS
映画『ゼロヴィル:ハリウッドに憑かれた男』の作品情報
【製作】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Zeroville
【原作】
スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』
【監督】
ジェームズ・フランコ
【キャスト】
ジェームズ・フランコ、ミーガン・フォックス、セス・ローゲン、ジョーイ・キング、クレイグ・ロビンソン、ジャッキー・ウィーバー、ウィル・フェレル
【作品概要】
“映画自閉症”の青年の恋と人生を、様々な名作映画と歴史的事実とファンタジーを交え描いたスティーヴ・エリクソンの小説を、ジェームズ・フランコが監督・主演を務め描いた作品です。
『ディザスター・アーティスト』(2017)、『プリテンダーズ ふたりの映画ができるまで』(2019)など、映画製作をテーマにした様々な作品を監督しているジェームズ・フランコ。
彼と『スモーキング・ハイ』(2008)や『ソーセージ・パーティー』(2016)、『ディザスター・アーティスト』で共演している盟友セス・ローゲン、『トランスフォーマー』(2007)シリーズや『ローグ』(2020)のミーガン・フォックスが出演。
『ブレット・トレイン』(2022)のジョーイ・キング、『世界にひとつのプレイブック』(2012)や『ステージ・マザー』(2020)のジャッキー・ウィーバー、『俺たちフィギュアスケーター 』(2007)や『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(2010)のウィル・フェレルらが共演しています。
映画『ゼロヴィル:ハリウッドに憑かれた男』のあらすじとネタバレ
問題を抱え公開が危ぶまれる映画を、どうにかしてくれと映画業界の大物ロンデル(ウィル・フェレル)はある男に泣きつきました。その男こそビッカー、正しくはバイカー(ジェームズ・フランコ)でした…。
1969年。自分の頭をスキンヘッドにすると、後頭部に映画『陽のあたる場所』(1951)のモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーの顔のタトゥーを彫ったビッカーは、ロサンゼルスに現れます。
ロスの街のエリザベス・テイラーのサインのレリーフに頬ずりし熱いキスをするビッカー。自分をモンゴメリー・クリフトになぞらえているのでしょうか。
あてもなく街をさまよい、野宿していた彼は警察に捕まります。そしてシャロン・テート殺害事件(1969年8月9日発生)の犯人ではないか、と厳しく取り調べられたビッカー。
解放された彼はハリウッドの映画スタジオの、セット製作現場で働き始めます。ある日スタジオ内の撮影現場を見物していたビッカーは、『陽のあたる場所』のジョージ・スティーヴンス監督と共に働いた経験を持つドティ(ジャッキー・ウィーバー)と知り合いました。
ドティは映画編集者として働く女性でした。彼女はそこに現れたスタジオエグゼクティブ(映画スタジオで製作の金銭面の管理など行う幹部社員)の、通称バイキング・マン(セス・ローゲン)を紹介します。
バイキング・マンから海に行こうと誘われたビッカーは、その日の勤務を終えるとかつてモンゴメリー・クリフトが宿泊した、ルーズベルト・ホテルの928号室に向かいました。
そこに一泊した彼の脳裏に『陽のあたる場所』の様々な場面が浮かびました。翌朝ビッカーはバイキング・マンの車に同乗して海岸に向かいます。
バイキング・マンに『陽のあたる場所』のタトゥーをしている理由を聞かれた彼は、初めて見た映画だからだと答えます。そして『陽のあたる場所』は11ヵ月前に見た、と答えたビッカー。
それまで映画を見た事が無いのかと驚き呆れるバイキング・マンに、フィラデルフィアの神学校に通っていたからと説明するビッカー(ビッカー=Vikarとは、ドイツ語で代理司祭・副牧師の意味)。
ビーチハウスに到着すると俺はハワード・ホークス監督にはなれない、だから俺は第2のジョン・フォード監督に甘んじる(共に西部劇時代から活躍する名匠)と話したバイキング・マンは、ここに集まった女たちは皆映画業界の大物の俺と関係を持ちたがるのだと自慢します。
パーティーに集り騒ぐ人々にバイキング・マンは、ビッカーは“映画自閉症”で映画以外の事は知らない、間違いなく童貞野郎だと紹介しました。
2人は現代のバットマンのようなタクシー運転手の主人公が娼婦を救う話を温めている“マーティ”、アンドロイドが登場する映画を撮り更なるSF映画を作ろうと望む“ジョージ”、サメが人を襲う話のアイデアを持つ“スティーブン”など、70年代に活躍する若手監督たちと談笑します。
SFやロボットのサメを使用して撮る映画の話を聞き、マリファナでハイになりこれからは戦争映画だと拳銃を抜いて怒り出すバイキング・マン。彼の乱暴な振る舞いが“フランシス”に、後に手がける大作戦争映画のアイデアを与えたのかもしれません。
バイキング・マンは飲酒経験の無いビッカーに酒を勧めます。その時ビッカーが目にした女性を、彼はルイス・ブニュエルが認知していない隠し子との噂があるソルダート・パラディン(ミーガン・フォックス)だと教えます。
彼女はミケランジェロ・アントニオーニ監督の『情事』(1960)で失踪する女アンナを演じるはずが、精神的な問題から撮影直前に降板した言葉を続けました(実際の『情事』ではレア・マッサリが演じた役)。
バイキング・マンは彼女の良くない噂話を面白おかしく語りますが、酒瓶を一気に空けた勢いを借り、まだ幼い娘ザジを連れたソルダートに話しかけたビッカー。
女優ですかと声をかけたビッカーに、ヨーロッパの映画に何本か出演しただけだと答えるソルダート。過去に会った事があるかと尋ねたビッカーは、彼女の姿を映画の登場人物に重ねたのでしょうか。酔いが回った彼は直後に倒れます。
酔いつぶれ様々な記憶が交差した彼は、その後帰宅するとアパートのテレビで“三ばか大将”の映画を見ていました。すると部屋に何者かが忍び込もうとしているのに気付きます。ビッカーは侵入してきた男をテレビで殴り倒しました。
気絶した強盗(クレイグ・ロビンソン)が目を覚ますと、椅子に縛り付けられていました。しかしこの強盗はビッカーの頭のタトゥーは『陽のあたる場所』とすぐ気付きます。
そしてテレビでビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(1950)が始まると、強盗はプールに浮かぶ死体が物語を語り出すこの映画が、いかに傑作かを熱く語り始めました。
映画に登場する執事役は映画監督のエリッヒ・フォン・シュトロハイム、主演のグロリア・スワンソンの未完のサイレント映画『クイーン・ケリー』(1929)を手がけた名匠だ、とビッカーの知らない裏話を説明する強盗。
『サンセット大通り』の劇中で、登場人物が『クイーン・ケリー』を見るシーンが登場しました。このシーンを見たビッカーは「映画の中の映画か……」と呟きます。
結局2人は最後まで映画を見て、お互いに『サンセット大通り』を気に入っているのを実感します。そして次に放送される映画はジョン・フォード監督の『荒野の決闘』(1946)でした。
『荒野の決闘』こそフォード監督とジョン・ウェインの最高傑作、と語る強盗がすっかり気に入ったビッカーは、2度と襲うなと約束させ解放します。しかしビッカーを先に寝させて居残り、映画を最後まで鑑賞する強盗。
しかし映画セットの製作スタッフとしては、こだわりが強いビッカーは『ラ・マンチャの男』(1972)の現場でトラブルを起こします(『ラ・マンチャの男』は製作が迷走した大作ミュージカル映画)。
失意の彼は編集室で働くドティを訪ねます。彼女もバイカーがスタジオ内で厄介者扱いされている噂を聞いていました。
ドティは彼のために、編集機で『陽のあたる場所』を見せます。彼女はこの作品の編集作業に関わっていたのです(『陽のあたる場所』を編集したのは、ハリウッドの名編集者で映画業界の幹部でもあるウィリアム・ホーンベック。しかし当時、フィルム編集の実際の現場では多くの女性たちが働いていました)。
彼女はビッカーに編集作業の意味を訊ねた後、あるシーンを見せます。あの素晴らしいモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーのキスシーンは、映画の編集という視点で見れば連続性の点で問題だらけと指摘するドティ。
しかし本作のジョージ・スティーヴンス監督が追求したのは、シーンの連続性より登場人物の親密さや純粋さ、リズムとシンプル性だとこの編集の意味を解説します。
シーンの連続性などクソだ、とドティが口にした言葉を復唱するビッカー。彼が映画の編集作業を教えて欲しいと頼むと、ドディは喜んで引き受けました。
ドディから編集を学んだビッカーは、ある日編集室でソルダート・パラディンが出演した映画『ヴァンピロス・レスボス』のフィルムは見つけます、
(『ヴァンピロス・レスボス』(1971)はジェス・フランコ監督・脚本の、女性を襲う女吸血鬼を描いたカルト的人気を持つホラー映画。主演はスペイン生まれの女優・歌手“ソルダード・ミランダ”で、多数のホラーやコメディ・西部劇映画に出演しますが1970年自動車事故で亡くなりました)
ビッカーがフィルムに映るソルダートを見つめていると、フィリピンの撮影現場にいるバイキング・マンから電話がかかってきました。
戦争映画を撮影中の彼は、ドディから推薦されたと告げフィリピンに来いと言います。ビッカーがハリウッドから離れたくないと答えると、映画を撮影してる場所こそハリウッドだ、ハリウッドでないのはハリウッドだけだと応じるバイキング・マン。
ビッカーは出発前にソルダートと会います。編集者としてのバイカーのキャリアは順調だ、と告げたソルダート自身は仕事に恵まれずにいました。『ロング・グットバイ』(1973年にロバート・アルトマンが監督した映画)のオーディションは受けると語るソルダート。
俺が監督なら全作品に君を出す、と語ったビッカーの手をソルダートは握りしめます。
彼が到着したフィリピンの撮影現場ではセリフを覚えてこない大物俳優“マーロン”に、監督の“フランシス”が怒鳴り声をあげていました。
ビッカーが現像された戦闘シーンをつないで見せると、バイキング・マンは満足げな様子でした。ソルダードを話題にしたビッカーにあの女は問題が多い、お前は有能だから女より仕事に専念しろと告げるバイキング・マン。
フィリピンの現場で働くビッカーに、ニューヨークに来て欲しいとの依頼が舞い込みます。電話の相手は詳しく話せないが、ソルダートが出演する映画に手を貸して欲しいと告げました。
ニューヨークで彼を待っていたのは映画製作会社の社長、冒頭に登場したロンデルでした。トラブルに見舞われ正式な監督が決まらない映画を何とかして欲しい、と依頼します。
編集機を操りソルダートが映るシーンと何度も向き合ったビッカーは、映画館でカール・Th・ドライヤー監督の『裁かるゝジャンヌ』(1928)を見ました。
クローズアップを多用した『裁かるゝジャンヌ』の映像にソルダートの姿が重なります。ホテルの部屋で悪夢を見た彼の元をソルダートが訪ねてきます。私の映画を編集しているのね、と告げたソルダート。
女優がトラブルに遭った『ロング・グットバイ』に出なくて良かった、とソルダートは語ります。踊りたいと告げた彼女をクラブに誘うビッカー。
彼はクラブで音楽に合わせ激しく体を動かします。その後彼女とベットを共にしたビッカーの脳裏に、彼女の様々なイメージが浮かんだのでしょうか。
夜が明けるとドティに電話し、(『陽のあたる場所』の)エリザベス・テイラーを裏切ったと告げるビッカー。それを聞いてドティは笑いました。
ビッカーは彼女に『陽のあたる場所』の編集中に、この作品が傑作になると予想出来たかと尋ねます。出来なかった、多くの映画は上映されればそれで終わりだが、傑作と呼ばれる映画は時を越え生きると語るドディ。
そんな映画は作られる前から存在する。そう話すドティに「映画は全ての時の中にあり、全ての時は映画の中にある」とビッカーは告げます。
しかしある夜、ソルダートと行動を共にしたビッカーは、彼女が隠れて誰かと会っていると気付きます。ビッカーは彼女の映画を編集している時も平静な気分でいられなくなりました。
編集作業は遅れ、苛立ったロンデルは彼をパーティーに呼びつけます。ソルダートと現れた彼に、編集者が女優をものにできるはずが無いと怒鳴るロンデル。
自分が手がけたベットシーンをカットされたと怒り、使えと強要するロンデルに必要ないと抵抗するビッカー、ロンデルの怒りはソルダートの演技にも向けられます。
何事も無かったかのように客と騒ぐロンデルの隣には無表情なソルダートがいます。黙ってパーティー会場を後にするビッカー……。
映画『ゼロヴィル:ハリウッドに憑かれた男』の感想と評価
映画ファンなら誰もが納得する映画への愛、映画の引用とオマージュに満ちた作品です。あらすじネタバレ紹介でも、映画ファンが気になる小ネタ・オマージュなどをできるだけ紹介しました。
1970年代のハリウッドの物語が、映画を巡るファンタジーに変化する構成です。原作がある映画で監督や脚本家だけの力量による展開ではありませんが、林海象監督の『夢みるように眠りたい』(1986)と比較して良い作品かもしれません。
さて、本作は2011年に製作が発表されますが、2014年にようやく製作が開始されます。そして2015~2016年頃に公開される予定でしたが、製作会社の倒産で公開延期となりました。
その間にジェームズ・フランコは『ディザスター・アーティスト』の監督・主演を務め絶賛され、2018年ゴールデングローブ賞でミュージカル・コメディ部門主演男優賞を受賞します。
そしてようやく2019年に、狙ったかのように本作が公開されますが……ラジー賞ノミネートなど散々な評価を獲得します。
映画ファン、特にスターのゴシップ好きな方なら、酷評の理由はお判りでしょう。それでは本作を巡る悲喜劇について、詳しく解説しましょう。
「#MeToo」運動の渦中に劇場公開された『ゼロヴィル』
2017年、ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者がハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ行為行為を告発する記事を発表します。
この記事から勇気を得た女優たちが自らの性被害を告白、やがて「#MeToo」運動と呼ばれる社会を動かすうねりに発展します。この一件は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2023)として映画化されました。
「#MeToo」運動がハリウッドで一大ムーブメントになった事を記憶している方は多いでしょう。ワインスタイン以外にも、様々な人物が告発され過去の被害を清算する動きが活発になります。
勇気ある告発をする被害者を支援する動きも起きました。ジェームズ・フランコも「#MeToo」運動を支持する態度を表明しました。
ところが彼が2018年ゴールデングローブ賞を受賞した時期に、自身が設立した映画学校の女性生徒たちが、彼からセクハラ行為を受けたと告発されます。
彼は釈明しますが世間の反応は厳しく、何よりハリウッドが彼に不適切行為があったと認定します。世界的な運動となった「#MeToo」をリードしたのはハリウッドという自負もあったのか、フランコへの視線は厳しいものでした。
当時俳優や映画監督など、人気絶頂の彼に多くの業界関係者が「接近」していました。彼の才能に信頼を寄せ、映画作りへの愛に共感し、彼の作品への出演は自分のキャリアアップにつながる……多くの人々がそう信じていたのです。
事実『ゼロヴィル』にも、多くの業界関係者……俳優だけではなく映画監督も……小さな役やカメオで多数出演しています。『ディザスター・アーティスト』に出演した顔ぶれを見ても、当時フランコが業界の注目の的であったと理解できるでしょう。
それだけに彼のスキャンダルはハリウッドに衝撃を与えます。この件が明るみになった時期に、彼の支持を表明するなど自滅行為以外の何物でもありません。
本作をご覧の方はお気付きでしょう。『ゼロヴィル』という映画の内容そのものが「#MeToo」運動への挑戦のような内容の、現在の視点では問題が多い1970年代のハリウッド業界人の姿を描いているのですから。
ちなみにハーヴェイ・ワインスタインが大学在学中、弟と映画製作会社「ミラマックス」を設立したのは1979年。最初にプロデュースした映画はスラッシャー映画『バーニング』(1981)、これが『ゼロヴィル』が描いた時代の一面です。
一転業界関係者から忌み嫌われた映画
改めて、本作に登場したシーンを振り返りましょう。バイキング・マンのパーティーに映画業界関係者と美女たちが集まるシーン。ここに現在のハリウッド、いや世界の映画界を代表する巨匠映画監督が登場し、映画ファンならニヤリとするでしょう。
しかしこのシーン、巨匠たちが「#MeToo」運動以前の970年代のハリウッドで……1960年代カウンターカルチャーの余韻で、ドラックやフリーセックスなどがもてはやされた歴史的背景が存在します……いかがわしい一面を持つパーティーの参加者として描かれます。
これは「歴史の一部」かもしれません。しかし『ゼロヴィル』に名前が使用する事を許し、カメオ出演した多数のハリウッド関係者は、誰もが迷惑な事態に巻き込まれたと考えたでしょう。
特にフランコと数多くの映画で共演、公私ともに深い関係を築いていたセス・ローゲンは、このシーンでセクハラそのもののセリフを吐いています。
ともかくハリウッドの関係者たちが世間から、セクハラ問題を起こしたフランコの支持者と思われては、特にセス・ローゲンはフランコの代弁者だと思われてはたまりません。
『ゼロヴィル』は「悪名は無名に勝る」、そんな炎上商法を狙ったのか、この時期を逃すとスキャンダルでもう公開できないと判断したのか不明です。しかし本作の劇場公開を業界全体が黙殺、批評家は総攻撃状態でラジー賞の格好のターゲットにもなりました。
フランコはともかく、セス・ローゲンまで本作でラジー賞最低助演男優賞にノミネートされました。2021年、セクハラ問題発覚以来久々にメディアに登場したフランコは、今はセス・ローゲンと絶縁状態だと明かしています。
まとめ
1970年代のハリウッドを描いた映画への愛が詰まった映画『ゼロヴィル』。映画の価値と不祥事を起こした出演者・スタッフは別だ、と考えるなら応援すべき映画かもしれません。
しかし、主演だけでなく監督まで務めたジェームズ・フランコと本作を重ねると、全てがブラックジョークにしか思えなくなります。
映画は出演者や製作者の人格・生き様と重ねて見られる場合があります。出演者の人生と交差する事で、より深い意味が与えられた作品がある事実を誰も否定しないでしょう。
本作だけなく『ディザスター・アーティスト』や『プリテンダーズ ふたりの映画ができるまで』などフランコが監督した映画を見ると、どうも彼は「共に映画を作った男女が結ばれるのは、実に自然な成り行き」と考えている節があります。
綺麗な表現で紹介しましたが、それを口実に良からぬ行為を正当化していたのであれば大問題です。フランコは教え子であった女性と関係を持った事を認め、「当時、恋愛感情があればこれらの行為は問題無いと考えていた」と釈明しています。
しかし今も、全面的に自分の非を認めた訳ではないようです。全てが明るみになり問題が解決するには、まだまだ時間がかかると思われます。
『ゼロヴィル』と同じ年に公開され、同じく過去のハリウッドを映画愛を込めて描いた作品にクエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)があります。
本作と『ワンス~』、フランコとタランティーノにこれほど大きな差が付いたのか、『ゼロヴィル』も冒頭でシャロン・テート殺害事件を紹介していますから、皮肉と言わざるを得ません。
そんなタランティーノに数多くの映画を撮らせ、巧みなキャンペーンでアカデミー賞とカンヌ国際映画祭で賞を獲得させ、彼を世界的スター監督にした人物こそ「#MeToo」運動のターゲット、ハーヴェイ・ワインスタインでした。
映画界のセクハラ問題の根深さを思うと、思わずため息が漏れてしまいます。ハリウッドではこういった過去を是正しようと様々な動きがあるようですが……さて、日本の映画業界の方はどうでしょうか?
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)