連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第44回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第44回は、2024年5月31日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開の『FARANG/ファラン』。
『ヒットマン』(2007)で世界にその名を知らしめた、“ジャンル映画界の申し子”ザヴィエ・ジャン監督が贈る、限界突破ハードゴア・アクションの魅力に迫ります。
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映画『FARANG/ファラン』の作品情報
【日本公開】
2024年(フランス映画)
【原題】
Farang
【監督・原案・脚本】
ザヴィエ・ジャン
【共同脚本】
ギョーム・ルマン、ステファーヌ・カベル
【撮影】
ジル・ポルト
【音楽】
ジャン=ピエール・タイエブ
【アクション・コーディネイター】
ジュード・ポイヤー
【キャスト】
ナシム・リエス、ヴィタヤ・パンスリンガム、オリヴィエ・グルメ、ロラン・ヌネ
【作品概要】
『ヒットマン』、『ディヴァイド』(2012)などのジャンル映画を多数手がけてきたザヴィエ・ジャン監督による、妻子を殺された男サムが復讐の狼煙を上げるバイオレンス・アクション。
サムを演じるのは、キックボクシングの大会で優勝経験もあるフランスの新星ナシム・リエス。ほかには、『オンリー・ゴッド』(2013)、『暁に祈れ』(2018)のヴィタヤ・パンスリンガム、『息子のまなざし』(2002)でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞したオリヴィエ・グルメらが共演。
アクション・コーディネイターを、香港でスタントマンとしてキャリアを積み、『キングスマン』(2015)や過去のザヴィエ監督作にも参加したジュード・ポイヤーが務めます。
映画『FARANG/ファラン』のあらすじ
フランスの裏社会から逃れ、タイの美しいビーチへとたどり着いたサムは、現地で出会った妻ミア、娘のダラと仲睦まじく暮らしていました。
高級ホテルのポーターとして働く一方で、ムエタイのファイターとして八百長試合に出場するサム。その理由は、いつか自分の店を持ちたいというミアの夢を叶えるためでした。
しかし、「ファラン(よそ者、外国人)」ゆえに思うような資金繰りができず焦るあまり、同じフランス人の男ナロンからある闇ビジネスを引き受けます。
成功すれば全てがうまくいくはずだった――だがサムを待ち受けていたのは、想像もしなかった運命でした……。
ジャンル映画界の申し子が放つリベンジ・アクション
国外脱出を計る若者たちが謎の宿で遭遇する惨劇『フロンティア』(2008)で長編映画デビューして以降、闇組織エージェントの活躍をガンアクション満載で綴った『ヒットマン』、荒廃世界での核シェルター内で繰り広げられるサバイバル劇『ディヴァイド』と、フィルモグラフィ上で見事にジャンル映画が並ぶザヴィエ・ジャン監督。
最新作のNetflix映画『セーヌ川の水面の下に』(2024)では、かねてからの念願だったという巨大ザメのパニックを描くなど、ファンの期待を裏切らない、まさに“ジャンル映画の申し子”とでも評すべきザヴィエ。本作『FARANG/ファラン』は、ジャンル映画の王道とも言えるリベンジ・アクションとなっています。
フランスからタイに渡り、現地で出会った妻ミアとの間にもうけた娘ダラと暮らしていたサム。彼はホテルのポーターとして働く一方、ムエタイの八百長試合にも出場し、妻の願いであるバーの出店費用を稼いでいました。
『フロンティア』やプロデューサーを務めた『パピチャ 未来へのランウェイ』(2020)など、これまでにフランスに移民してきた若者が主人公の作品をいくつか手がけてきたザヴィエですが(『パピチャ』の監督ムニア・メドゥールはザヴィエの妻にしてアルジェリア出身)、本作のサムもまた、アルジェリアからフランスへと移り住んできた過去を持つ者。
移民ゆえに満足な職に就けず、不法労働に手を染めるしかなかったサムの立場は、移民大国フランスが抱える現実問題とリンクしているといえます。
セカンドチャンスの地タイで平穏に暮らしたいのに、そこでもやはり「ファラン(よそ者、外国人)」として不当な扱いを受けるサム。やむなく大金目当てに危険な闇ビジネスに協力することにした彼に待ち受けるのは、愛する家族を失うというあまりにも惨い現実でした。
妥協なきバイオレンスでハードゴアな描写
サムを演じるナシム・リエスは、キックボクシング大会で優勝経験を持つアルジェリア系フランス人。極限まで鍛え上げられた肉体は説得力抜群で、ザヴィエ監督の次作『セーヌ川の水面の下に』でも主要キャストに名を連ねる、アクション映画のニューカマーです。
作品冒頭でのムエタイ試合のシーンでは、本物のムエタイファイターとリアルに殴り合いを行ったというナシム。アクションのお手本としたスターとしてスティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンらの名を挙げる中、自身が元キックボクサーだけあってか、とりわけジャン=クロード・ヴァン・ダムのそれを彷彿とさせます。
「リアルで、素晴らしく、人々に愛されるフランスのアクション映画で、海外の作品に負けないほどに悪趣味で不気味な映画」と本作のコンセプトについて語るザヴィエ。その言葉どおり、アクションシーンはバイオレンスかつハードゴアの極致。
銃や刀、身の回りにある物だけでなく、体のあらゆる箇所を使って敵の息の根を止める――その妥協なき人体損壊描写は、まさにザヴィエの真骨頂。特にクライマックスで繰り広げられる密室での死闘は、近年のアクション映画においても屈指の凄まじさでしょう。
加えて、復讐を決意したサムをサポートする友人ハンサの活躍にも注目。演じるのは『オンリー・ゴッド』で強烈な存在感を見せつけたヴィタヤ・パンスリンガムで、『オンリー・ゴッド』でも披露した鮮やかな剣術を再び炸裂してくれます。
「家族を救うためなら何でもする真のヒーローを描きたかった」と、本作のコンセプトを補足するザヴィエ。愛する者のために敵を殲滅する哀しみの男が行き着く先に見るものとは?
今後の夢として、「『イコライザー』のようなデンゼル・ワシントン映画やジェイソン・ステイサム映画に出演すること」と語るナシム・リエス。『FARANG/ファラン』がその夢を叶える大きなきっかけとなるやもしれません。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)