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Entry 2019/02/20
Update

『歯まん』感想と考察。キワモノホラーか恋愛映画なのか?岡部哲也監督は化物よりも恐ろしいモノを描いた|SF恐怖映画という名の観覧車37

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile037

映画の発展と共にスーパーヒーロー映画が乱立し、今もなお高い人気を保ち続けています。

「自分にもあんな能力があれば…」と思わず羨望してしまう「ヒーロー」の能力。

しかし、与えられるものが「自分が望むもの」であるとは限らないのが世の中の常。

今回は、身体の一部分が「異形」と化してしまったがために、大きな「罪」を抱え生きることになった1人の少女を描いた映画『歯まん』(2019)をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『歯まん』の作品情報


(C)2015「歯まん」

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
岡部哲也

【キャスト】
馬場野々香、小島祐輔、水井真希、中村無何有、宇野祥平

映画『歯まん』のあらすじ


(C)2015「歯まん」

高校に通う普通の少女、遥香(馬場野々香)は彼氏との初めての性行為の最中に自身の女性器に生えた歯によって男性器を食いちぎり、殺害してしまいます。

パニックを起こし逃走した彼女は、警察の捜査から逃れることに成功しますが、日ごとに罪悪感と悪夢にうなされるようになり…。

価値観を考え直させる物語


(C)2015「歯まん」

女性器に歯が生え、「性行為」を行った相手の局部を噛み千切る。

鮮烈すぎるプロットが「コンドームが男性器を喰らう」と言ったドイツのカルトホラー『キラーコンドーム』(1999)であったり、肛門から出た化物が人を襲ったりする『バッド・マイロ!』(2014)のようなホラー&コメディな印象を与え、キワモノ映画だと感じる方も少なくないかと思います。

しかし、本作は意外にも「ホラー」要素も「コメディ」要素もほとんどなく、むしろ性行為に真摯に向き合うことで「愛」について考えさせられる「ヒューマンドラマ」色が強く、心打たれる映画でした。

真の愛情とは?


(C)2015「歯まん」

身体的、精神的な事情で「性行為」を行うことの出来ない人は多くいます。

本作の主人公である遥香も、大枠で言えばそれに当てはまる少女。

思春期に好きな人が出来て恋人になったとしても、その後いくら相手に求められても性行為に及ぶことが出来ません。

必然的に子供を作ると言った未来も期待することが出来ず、彼女は「恋愛」に対し後ろ向きな感情を抱き始めます。

そんな深い悲しみを背負った遥香を中心に描いたこの作品で訴えかけているのは、本当の意味での「愛」について。

愛の延長線上にあるはずの性行為。

ですが愛とはかけ離れた性行為の在り方を劇中で表現することにより、「人間」と言う生物にとってその行為に何の意味があるのかを再度考え直す機会を与えています。

恐ろしいのは「化物」か?


(C)2015「歯まん」

主人公の遥香は、見た目も性格も年相応の少女と何ら変わりがありません。

しかし、彼女の女性器が「異形」と化したことで「性行為」がほぼ必ず相手の「死」を意味するものとなり、そのことで少女は自らを「化物」と感じ全てに絶望してしまいます。

ですが、劇中に彼女以上の本当の化物が何人も登場することによって、本作のメッセージ性が見え始めて来ます。

「化物」となった彼女を襲う「人間」


(C)2015「歯まん」

肉食動物が草食動物を襲い喰い殺すことは、「異常」と言える現象ではありません。

その行動はあくまでも「本能的」行為であり、生きるために必要不可欠な行動であるからです。

いわば、「性行為」もその本能的行為に当たるものであり、遥香の犯した最初の罪は異常と言えるものではありませんでした。

生まれた国や育った場所によりその価値観が変わるため、「異常」や「正常」をはっきりと線引きすることは非常に難しく、議論の余地が残ることは間違いありません。

しかし、本作にはもはや誰の目から見ても本能的行為を逸脱した登場人物が何人も登場し、それぞれの歪な「欲望」から遥香と接点を持つことになります。

「化物」よりも恐ろしい「人間」


(C)2015「歯まん」

以前のコラムで「非常時における人間ほど怖いものはない」と言った人間の「裏」の部分について「ゾンビ」映画を使いお話しをさせていただきました。

非常時における一部の人間の暴走は、ゾンビと言う化物よりも怖い。

この考えは以前とは変わりないものの、本作を鑑賞するうちに通常時から既に化物よりも恐ろしい人間が存在することを思い知らされました。

人間に備わった「欲望」と言う概念も「本能」であると言えます。

ですが、劇中で遥香に関わる一部の人間たちの欲望は、明らかに「生物」としての「正常なライン」の範疇を越えた行為。

殺人と言う罪を背負い自身の「業」に向き合う化物の遥香と、他人を自分の「欲望」の赴くままに使おうとする人間。

果たして本当に恐ろしいのはどちらなのかと言うメッセージ性を内包し、サイコスリラーな一面も持ちあわせた作品です。

まとめ


(C)2015「歯まん」

キワモノホラー映画のようでありながら、「性行為」や「人間」の「業」に真摯に向き合った作品である『歯まん』。

女性相撲を描き様々な映画賞を受賞した映画『菊とギロチン』(2018)など話題の映画から大作にまで出演する宇野祥平が脇を固め、主演の馬場野々香の鬼気迫る演技も魅力的な俳優陣。

血しぶきやレイプと言った暴力的なシーンこそ多くあれど、現代を生きる男女がもう一度考えるべき問題を訴えかける本作は、2019年3月2日(土)からアップリンク渋谷など、全国で順次公開。

岡部哲也の初監督作品となる挑戦作『歯まん』をぜひ劇場でご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile038では、ついにサービスが開始したホラー専門映像配信サービス「OSOREZONE」の配信作品のラインナップから注目のホラー作品をご紹介致します。

2月27日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


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