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Entry 2018/12/03
Update

『暁に祈れ』あらすじと感想レビュー。実話の映画化に実際の囚人と本当の刑務所で撮影した徹底的なリアリズム

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

映画『暁に祈れ』は12月8日(土)より、ヒューマントラスト渋谷&有楽町、シネマート新宿ほか、全国順次公開。

犯罪と不正が渦巻き、「地獄」とも呼ばれるタイの刑務所で、ムエタイを武器にのし上がった、イギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの苦悩と成長を描く映画『暁に祈れ』。

実話をベースにした、本作の魅力をご紹介します。

映画『暁に祈れ』の作品情報


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS

【公開】
2018年(イギリス・フランス映画合作)

【監督】
ジャン=ステファーヌ・ソベール

【製作総指揮】
ジェームズ・シェイマス

【キャスト】
ジョー・コール、ポンチャノック・マブラン、ビタヤ・パンスリンガム、ソムラック・カムシン

【作品概要】
実在するイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの実体験をベースにした、ベストセラー自伝小説を『ジョニー・マッド・ドッグ』(2010年)のジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督が映画化。

主演はイギリス出身の若手注目俳優、ジョーコール。

映画『暁に祈れ』あらすじ


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS
人生の再スタートを目指し、タイにやって来たイギリス人ボクサーの、ビリー・ムーア。

しかし、ビリーは当初の目標を見失い、ヘロインと、タイで出回っているドラッグのヤーバー中毒となり、麻薬のお金を稼ぐ目的で、闇社会の試合に参加するようになります。

ある日、タイ警察の家宅捜索を受けたビリーは逮捕され、チェンマイの刑務所に送られます。

そこでは、囚人が溢れかえっており、床で重なるように眠り、言葉の分からないタイの看守に、ビリーは動物のように扱われます。

苛立ちを募らせたビリーは、他の囚人と喧嘩を起こし、独房に監禁されます。

その後、ビリーが移送された場所は、凶悪な囚人のみが集まる大部屋のような場所でした。

弱い者は標的にされてしまい、ビリーは自殺を選ぶ囚人の姿を目の当たりにします。

恐怖に心を支配されながらも、1日を確実に生き抜こうとするビリーですが、今度は看守にヘロインを与えられ、再び麻薬中毒に陥ります。

ヘロインと引き換えに、看守が目障りに感じている囚人のリンチを請け負うようになったビリーは、自己嫌悪に陥り、精神状態が不安定になります。

何気なく窓から外の景色を眺めていたビリーは、ランニングをしている集団を目にします。

それは刑務所の「ムエタイチーム」に所属する囚人達でした。

ボクシングをバックボーンに持つビリーは、自分を変えるチャンスを求め、「ムエタイチーム」への加入を希望しますが、コーチに追い返されてしまいます。

暴力と汚職に支配された刑務所の中で、ビリーが生き抜く手段は、もはやムエタイのみ。

諦める訳にはいかないビリーの、人生を変える為の戦いが始まります。

ムエタイは「立ち技最強の格闘技」


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS
本作でビリーがトレーニングを積むムエタイは、muay=格闘技、thai=タイと呼ばれる通り、タイの国技になっている格闘技で、13世紀に、軍隊の実戦格闘技としてすでに取り入れられていたという、古い歴史を持っています。

パンチや肘打ち、キックに加え、首相撲と呼ばれる投げ技が融合されており「立ち技世界最強格闘技」とも呼ばれています。

タイでは多くの若者が、貧しい状況を打破する為に、ムエタイ選手を目指していますが、その選手生命は短いと言われる程、激しい格闘技です。

実際の囚人が出演!本物の刑務所で撮影!!」


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS

監督のジャン=ステファーヌ・ソベールは、本作ではリアリティにこだわり、本物の元囚人を使い、タイで本物の刑務所を使用し撮影を行いました。

また、ビリー役のジョー・コールは、実際にタイのボクシングジムでトレーニングを積んで撮影に挑んでいます。

刑務所のシーンでは、ジョー・コール以外は、ほとんどが実際の元囚人とボクシングチャンピオンです。

元囚人は殺人や麻薬など、重罪を犯した者ばかりで、中には刑期を終えた直後の者もいました。

そんな状況に放り出されて、撮影を行う形となったジョー・コールは、鍛え抜いた自らの肉体を頼りに、元囚人達と渡り合う必要がありました。

それは、実際にタイ人の囚人と戦ってきた、ビリーの状況とリンクし、ドキュメントに近いリアリティが生まれています。

映画『暁に祈れ』感想と評価


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS
本作の特徴は、ビリーに密着した独特のカメラワークにあります。

手持ちカメラを使用し、長回しで撮影した映像を編集で分割する方法で、出演者たちを自由にし、演技ではなく、その空間を生きる様子を撮影しました。

ここでもジャン=ステファーヌ・ソベール監督の、リアリティへのこだわりを感じます。

また、このカメラワークで「ビリーの心情」を表現しているようにも感じ、ビリーの心が荒れている時は、手持ちカメラでの乱暴な印象を受けるカメラワークになっていますが、ビリーの心が落ち着きを取り戻している時は、固定されたカメラでの、美しい映像になっています。

このカメラワークは、ムエタイの試合のシーンでも活用されており、アップを多用した長回しの撮影で、ある理由から絶対に負けられない戦いに挑む、ビリーの覚悟と緊張感が、観客に伝わる演出となっています。

また、タイ人の囚人同士の会話は、意図的に字幕が出されておらず、囚人たちが何を話して、何をしようとしているのかが、全く分からない状況となっており、ビリーの孤独と、いつ標的にされてもおかしくない恐怖を、観客も共有する事になります。

この演出により、ムエタイに活路を見出そうとするビリーに、心から同情し応援するようになります。

本作は、リアリティにこだわった演出の数々で、映画を観賞するというより、ビリーの人生を体験している感覚に陥る作品です。

まとめ


(C)2017 – Meridian Entertainment – Senorita Films SAS
本作は、ビリー・ムーアの自伝小説をベースにしています。

実際の、ビリーの経歴を少しご紹介すると、ビリーは若い頃から不良で、16歳から麻薬を覚えて、犯罪に手を染めるようになり、17歳で初めて刑務所に入れられます。

その後も犯罪を繰り返し、22か所の刑務所で、15年間を過ごしています。

ビリーはリハビリプログラムを受けて、麻薬を1度断ち切り、スタントマンやボクサーを目指す為にタイに渡りました。

本作では、その後の出来事を描いています。

映画製作においても、ビリーは脚本執筆段階で参加しており、自身の体験をアドバイスし、映画のラストに登場するなど、深く関わっています。

実話をベースにしている為、ビリーが「ムエタイチーム」に参加する経緯や、戦う動機などは、他のスポーツ映画のような、ドラマティックで美しい話ではありません。

これまでの経緯を考えると、ビリーは罪深く「どうしようもない奴」と呼べますが、それでも人生にしがみつくビリーの姿は、見苦しくもカッコよく、パワフルに感じます。

どんなに苦しい状況でも、心が死なない限り、いくらでもチャンスは生まれ、戦い続ける事ができる。

そんな事を感じる、緊張感とパワーに溢れた作品、映画『暁に祈れ』は12月8日(土)より、ヒューマントラスト渋谷&有楽町、シネマート新宿ほか、全国順次公開です。

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