連載コラム『光の国からシンは来る?』第4回
2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組んで制作した新たな「シン」映画。
それが、1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)を基に描いた「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』です。
本記事では、連載コラム第1回〜第3回で扱った特報予告と併せて公開された『シン・ウルトラマン』特別ビジュアルについて考察・解説。
特別ビジュアルに映し出されている「3つのアイテム」や「ある言葉」の意味や配置のされ方などから、『シン・ウルトラマン』におけるウルトラマンの在り方、そして作品の全貌を探っていきます。
CONTENTS
映画『シン・ウルトラマン』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督】
樋口真嗣
【企画・脚本】
庵野秀明
【製作】
塚越隆行、市川南
【音楽】
鷺巣詩郎
【キャスト】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏
映画『シン・ウルトラマン』ポスタービジュアルの考察・解説
リファインされた流星バッジとベーターカプセル
上記の特別ビジュアルに描かれている、同じく2021年1月29日に公開された『シン・ウルトラマン』特報予告内でもそれぞれ映し出されていた「科特隊の流星バッジ」「ベーターカプセル」「認識票(ドッグタグ)」という三つのアイテム。
それらがどのように映画本編にて描かれるにせよ、これら三つのアイテムは「三種の神器」のごとく、『シン・ウルトラマン』の物語を象徴する重要なものであることは間違いないでしょう。
『ウルトラマン』作中にて主人公ハヤタが所属し、ウルトラマンとともに出現する怪獣・宇宙人に立ち向かい続けた組織「科学特捜隊」こと科特隊の隊員が必ず身に付ける流星バッジ。そして『ウルトラマン』の設定では「ハヤタがウルトラマンへ変身するために使用する機器「変身には不可欠なアイテム」であるベーターカプセル。
二つともにそのデザインはリファインされ、よりスタイリッシュなものへと変更されています。その変更されたデザインからは、の作品と評しても過言ではない『ウルトラマン』とウルトラマンを現代日本で描こうとした製作陣の「シン」への決意を感じさせます。
認識票(ドッグタグ)の「カミナガ・シンジ」は何者?
また三つのアイテムの中で最も謎を秘めているのは、認識票(ドッグタグ)。連載コラム第1回記事での特報予告考察でも紹介したように、「主に軍隊内での個人識別(氏名・生年月日・所属・識別番号・血液型など)に用いられる鑑札」である認識票ですが、プレートの一部には以下のような文字が刻まれています。
JAPAN DPA SSSP
SHINJI KAMINAGA
1986.7.17
まず「SSSP」は、『ウルトラマン』における科特隊の英語表記である「SSSP(Science Special Search Party/通称:スリーエスピー)」であることは明らかでしょう。そして「JAPAN」と記載されていることから、この認識票で識別されている人物「カミナガ・シンジ」が『ウルトラマン』の主人公ハヤタ同様に「科特隊・日本支部」に所属している可能性が推察できます。
その一方で浮かび上がってくる、そもそも「カミナガ・シンジ」は何者なのかという疑問。『ウルトラマン』の登場人物名・メインキャスト及び各話キャスト名・スタッフ名一覧を参照しても、そのような名前の人物やその由来と思われる名前の人物は見当たりません。
そして最も注目されているのは、「1986.7.17」という年月日。認識票の形式を沿えば「カミナガ・シンジの生年月日」である可能性が高いですが、実は「7.17」という日付は、『ウルトラマン』第1話「ウルトラ作戦第一号」のテレビ放送日、『ウルトラマン』という伝説が始まった日である「1966.7.17」と一致しています。
その年月日の一致が、一体何を意味しているのか。『ウルトラマン』と同じ日付に誕生した「カミナガ・シンジ」とは、一体何者なのか。「カミナガ・シンジこそが、斎藤工演じる主人公ではないか?」「カミナガ・シンジこそが、魂が一体化しウルトラマンへと変身できるようになった主人公ではないか?」と空想は尽きません。
「そんなに地球人が好きになったのか、ウルトラマン。」
特別ビジュアルに映る三つのアイテムに添えられるように記載されている、「ウルトラマン。そんなに地球人が好きになったのか。」という一文。多くのウルトラシリーズファンは、それが『ウルトラマン』第39話にして最終回「さらばウルトラマン」に登場したゾフィーが、ウルトラマンに対して告げた言葉であるとすぐに察したはずです。
「さらばウルトラマン」作中にてゼットン星人が放った「宇宙恐竜」ゼットンに圧倒され、カラータイマーへの一撃でもって致命的な敗北を喫したウルトラマン。科特隊の新兵器によってゼットンは倒されたものの、以前瀕死のまま大地に倒れ続けているウルトラマンの元に、空の彼方から「M78星雲の宇宙警備隊員」であるゾフィーが現れます。
ともに光の国へ帰るよう促すゾフィーの言葉を「私の体は、私だけの物ではない。私が帰ったら、一人の地球人が死んでしまう。」「ハヤタは立派な人間だ。犠牲にはできない。私は地球に残る。」と拒むウルトラマンに、あくまでも「地球の平和は、人間の手で掴みとることに価値があるのだ。」とゾフィーは諭します。
そして、「私の命をハヤタにあげて地球を去りたい。」「私はもう二万年も生きたのだ。地球人の命は非常に短い。それに、ハヤタはまだ若い。彼を犠牲にできない。」と願うウルトラマンに、ゾフィーは「ウルトラマン。そんなに地球人が好きになったのか。」「よし、私は命を二つ持って来た。その一つをハヤタにやろう。」と申し出たのち、ウルトラマンとハヤタの双方を復活させたのです。
地球人/ウルトラマンの「境界線」はベーターカプセル
特報予告内に登場したレヴィ=ストロースの著作『野生の思考』からも、ウルトラマンという記号と象徴について、ウルトラマンと人間の関わりについても描いた作品でもあると予想される『シン・ウルトラマン』。「そんなに地球人が好きになったのか、ウルトラマン。」という一文も、そうしたウルトラマンと人間の関わりを端的に表した言葉と捉えることが可能です。
また画像からも分かる通り、その一文はベーターカプセルを挟んで「そんなに地球人が好きになったのか、」と「ウルトラマン。」に分けられて記載されています。
その意図的な配置からは、「地球人」と「ウルトラマン」がベーターカプセルという「境界線」によって隔てられていること、ベーターカプセルが「地球人がウルトラマンへと変身するためのアイテム」=「地球人にとっての“超人(ULTRAMAN)”という行為を担うアイテム」であることを示唆しているのではと考察できます。
そして「配置」に関していえば、ベーターカプセルを挟んで分けられた「そんなに地球人が好きになったのか、」側には「流星バッジ」が、「ウルトラマン。」側には「カミナガ・シンジの認識票」がそれぞれ置かれていることも見逃せません。
『ウルトラマン』では「地球人」によって創設された組織として描かれている科特隊と、その組織を象徴する流星バッジ。もし流星バッジを「地球人/地球人側の象徴」として解釈するならば、ベーターカプセルという境界線を隔てて反対側に配置されている認識票は、「ウルトラマン/ウルトラマン側の象徴」と読み取れるのです。
まとめ
『シン・ウルトラマン』特報予告とともに公開された特別ビジュアル。そこからは地球人とウルトラマンの間に確かに存在する「境界線」の存在、「超人(ULTRAMAN)」の行為としてのウルトラマンへの変身という、製作陣の考えるウルトラマンの在り方の一部が垣間見えてきました。
また『ウルトラマン』最終回にて登場したゾフィーのセリフが記載されていることから、『シン・ウルトラマン』には特報予告内に登場した怪獣ネロンガやガボラ以外にも、同じく最終回に登場したゼットンやゼットン星人が出現するのではないか。
或いは、例えゼットンやゼットン星人が出現しなかったとしても、最終回にて描かれた「ウルトラマンと地球人の訣別」が『シン・ウルトラマン』本編での描かれるのではないかという可能性も浮上してきました。
果たして『シン・ウルトラマン』では、ウルトラマンと地球人のコンタクト、そしてその後の「関わり」をどのように描くのでしょうか。製作陣の考えるウルトラマンの在り方の一部が読み取れたことで、作品の謎自体はより一層深まり続けます。
次回の『光の国からシンは来る?』は……
次回の連載コラム『光の国からシンは来る?』は、『シン・ウルトラマン』特報予告内にも登場し、本編での活躍への期待がさらに高まり続けているキャストの一人・長澤まさみをピックアップ。
科特隊の流星バッジを身に付けた姿を披露した彼女は『シン・ウルトラマン』にてどのような役柄を演じるのか、その可能性を考察・解説していきます。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。
2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。