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Entry 2021/01/31
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シンウルトラマン予告考察|ガボラ・ネロンガ×本“野生の思考”×巨大人型生物【光の国からシンは来る?2】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『光の国からシンは来る?』第2回

2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組んで制作した新たな「シン」映画。

それが、1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)を基に描いた「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』です。


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

本記事では連載コラム第1回記事に引き続き、2021年1月29日に公開された『シン・ウルトラマン』特報予告を考察・解説。ついに姿を現した「ウルトラ怪獣」や主演・斎藤工が手にしていた本の詳細などに言及します。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

映画『シン・ウルトラマン』の作品情報


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督】
樋口真嗣

【企画・脚本】
庵野秀明

【製作】
塚越隆行、市川南

【音楽】
鷺巣詩郎

【キャスト】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏

映画『シン・ウルトラマン』特報予告の考察・解説

『シン・ウルトラマン』特報予告・第1弾

斎藤工が手にしていた本『野生の思考』

特報予告の00分08秒、無数の本が壁中に敷き詰められた書庫と思われる空間で、斎藤工が読み進めている本。それは表紙の文面から、1962年にフランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースが発表した『野生の思考』だと分かります。

「構造主義の生みの親」と称されるレヴィ=ストロースの代表的な著作『野生の思考』。当時のヨーロッパ圏における自民族・西洋中心主義への自己批判とともに、同じく当時のヨーロッパ圏では「未開人」と称されていた人々から見出された普遍的な思考「野生の思考」の存在を提唱した書籍として知られています。

その「野生の思考」とは、効率性や概念に重きを置くヨーロッパ圏における「科学的思考」とは別に独立した形で存在し、人類の普遍的思考として捉えられています。そしてトーテミズム(人間集団がある特定の動植物=トーテムと特別な関係を持つと捉える信仰)にも見受けられるように、「野生の思考」とは自己と他者/自然物との「関係」を具体的な「記号」を用い「象徴」として表現することで現象/事物を認識しようとする思考を指しています。


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

テレビドラマ『ウルトラマン』をはじめ、ウルトラシリーズを観てきた多くの人々は、ウルトラマンという「記号」を用いて作り手たちが描いてきた「象徴」の物語から、当時の社会の在り方や人間の在り方を学んできました。

それは『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」、『ウルトラセブン』第42話「ノンマルトの使者」、『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」などなど、ウルトラシリーズに秘められた「社会批判」という一面が証明しています。

つまり「ウルトラマン」という存在は、「科学的思考」に囚われがちな人々に「野生の思考」を呼び起こさせ、自身が身を置く社会や状況への注意を促す存在という一面を備えているのです。

そして「野生の思考」が「科学的思考」とは別に独立して存在してはいるものの、決して非合理的・非科学的ではないことからも、「科学特捜隊」という名称にも含まれている「科学」と「野生」という二つの思考はあくまでも「異なる認識の形」に過ぎず、その二つの思考をあわせ持つのは可能=「空想」と「科学」の共存は可能でもあります。

斎藤工が手にしていたレヴィ=ストロースの『野生の思考』。そこには、「ウルトラマン」という記号が象徴してきた物語が人々にもたらしたものとその関係性、「科学」と「空想」の共存を意味していると考察できます。

そして、当時のヨーロッパ圏の人々にとっての「未開人」という存在を取り上げている『野生の思考』。そのような本を登場させた理由には、「異星人」であり「超人」であるウルトラマンにとっての「未開人」が「地球人」であること、その上でウルトラマンが彼らの思考や価値、共存の道を探ろうとしていることを示唆するためだったのかもしれません。

「巨大人型生物/ウルトラマン(仮称)調査報告書」

特報予告00分11秒に登場する資料の「巨大人型生物/ウルトラマン(仮称)調査報告書」というタイトルを見て、『シン・ゴジラ』作中で用いられていた「巨大不明生物」を思い出した方は多いはずです。

そして何より重要なのは、この資料のタイトルからも分かる通り、仮称ではありながらすでに「ウルトラマン」という「巨大人型生物」に対する名称が用いられているということです。

「ウルトラマン」という名称は作中にてどのように命名されたのか。『シン・ゴジラ』における「呉爾羅」同様に何らかの伝説・伝承に由来するのか、もしくは『シン・ウルトラマン』におけるウルトラマンは「人類の延長線上に位置する上位存在」=「超人類」として扱われているのか。その答えは映像のみでは判断できませんが、空想は決して尽きません。

「ウルトラ怪獣」ネロンガ・ガボラの出現

特報予告00分16秒に登場した「透明怪獣」ことネロンガと、00分21秒に登場した「ウラン怪獣」ことガボラ。ついにその姿を披露した『ウルトラマン』の怪獣たちの「出現」には、特報予告を観た誰もが胸の高鳴りを抑えられなかったことでしょう。

2体の怪獣は先んじて公開されたウルトラマン同様にフルCGで表現されている他、そジュアルデザインは各怪獣の特徴はしっかりと残しつつも大幅にリファインされています。

その新たなビジュアルに、企画・脚本を務める庵野秀明の代表作である「エヴァンゲリオン」シリーズに登場する「使徒」を想起した方も決して少なくはないはずです。

ネロンガは「透明」になった状態と電気を帯びた角を、ガボラは頭部を覆う6本のヒレを開く姿をと、ウルトラシリーズファン垂涎の各怪獣の「最大の特徴」も映し出されている特報予告。果たしてこの2体は、映画本編ではどのような活躍を見せるのでしょうか。

まとめ

斎藤工が読んでいたレヴィ=ストロースの著作『野生の思考』から垣間見える、「ウルトラマン」という記号が象徴する物語が意味するもの、そして人々の「関係」への再考。そうした製作陣の姿勢は、『ゴジラ』(1954)が戦後日本社会に提示した「象徴」を3.11を経た現代日本社会のもとで再考しようとした『シン・ゴジラ』と重なります。

一方でついに出現した、『ウルトラマン』を代表する怪獣たち。その活躍を期待する反面、『ウルトラマン』における「最初の怪獣」をはじめ、他にも多数の怪獣・宇宙人も出現する可能性への期待も捨て切れません。

2021年1月29日に前触れもなく公開された『シン・ウルトラマン』特報予告。その濃厚過ぎる情報量によって、人々の「空想」という名の内容予想・考察はさらに拡大してゆくでしょう。

次回の『光の国からシンは来る?』は……

次回の連載コラム『光の国からシンは来る?』は、引き続き『シン・ウルトラマン』特報予告内の映像を基に考察・解説。

ウルトラマンへの「変身」シーンと思われる場面やウルトラマンの「動く」姿などから、『シン・ウルトラマン』での活躍を予想していきます。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介






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