連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第69回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第68回は、『ドラッグ・チェイサー』(2019)のご紹介です。
本作はハリウッドスターのニコラス・ケイジ主演のクライムアクションドラマです。監督・脚本を、元ネイビーシールズ隊員という異色の経歴を持つジェイソン・カベルが務めます。
ローレンス・フィッシュバーン、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグら豪華キャストも参戦。
10億ドルという巨額を巡り殺しや汚職などの悪がはびこる様をスリリングに描き、息もつかせぬストーリー展開で観る者を危険な世界へと誘います。
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CONTENTS
映画『ドラッグ・チェイサー』の作品情報
【原題】
Running with the Devil
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【監督・脚本】
ジェイソン・カベル
【編集】
ジョーダン・ゴールドマン
【出演】
ニコラス・ケイジ、ローレンス・フィッシュバーン、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグ、レスリー・ビブ、クリフトン・コリンズ・Jr.、コール・ハウザー
【作品概要】
『ザ・ロック』(1996)のニコラス・ケイジ主演の手に汗握るクライム・アクション。元ネイビーシールズ隊員だった異色の経歴の持ち主であるジェイソン・カベル監督が映像化しました。
麻薬カルテルとアメリカ麻薬取締局との攻防を通して、人間の危険な側面をあぶり出す作品です。
ケイジが密輸される麻薬の盗難防止と品質を保証する闇の仕事人という、一風変わった役どころに挑みます。
「マトリックス」シリーズのローレンス・フィッシュバーン、『グリーンマイル』(2000)のバリー・ペッパー、『プライベート・ライアン』(1998)のアダム・ゴールドバーグらをはじめ、レスリー・ビブ、クリフトン・コリンズ・Jr.、コール・ハウザーら豪華キャストが共演。
映画『ドラッグ・チェイサー』のあらすじとネタバレ
頭に袋をかけられ裸で便器脇に拘束された男。外に連れ出された彼をガソリンをかけられた木材が取り囲み、火が勢いよく燃え上がります。
麻薬組織のボスは、カナダに拠点を置く組織のベテラン運び屋のザ・クックに、ドラッグの量が減って不純物が混ざっているものもあったことを伝え、犯人を突き止めるようにと強く命じます。
コロンビアの農園で作られたドラッグが、何人もの血を流しながら麻薬組織へと運ばれていきます。
ヤクでハイになって女と盛り上がるクックの相棒の男。彼をサングラスの若者が訪ねてきてドラッグを試します。そのまま隣室の女たちのもとへ行ったところ、女のひとりが死んでいたため大さわぎに。
ドラッグに不純物を混ぜこんでいた相棒は若者に女たちを託して、娘のピアノの発表会へ向かいます。間に合わなかった彼に妻は激怒し、渡された金をはねつけるのでした。
若者はしかたなく女たちを車に乗せて街へ出ますが、ドラッグを吸っているところを警官にみつかってしまいます。
映画『ドラッグ・チェイサー』の感想と評価
名を持たない登場人物たち
新鋭ジェイソン・カベル監督が、麻薬カルテルとアメリカのDEA(麻薬取締局)との攻防を通して、人間の危険な側面をあぶり出した本作『ドラッグ・チェイサー』。
元ネイビーシールズ隊員という異色の経歴を持つカベル監督が、巨額のドラッグを巡って繰り広げられるあらゆる悪をスリリングに描き出します。
主人公の運び屋ザ・クックを演じる、悲哀を帯びた瞳が印象的なハリウッドスターのニコラス・ケイジが、さすがの演技で魅了します。
登場人物の中で名前を持つのはこのザ・クックだけです。この名前さえ、おそらくは料理人(=クック)という意味しか持っていません。
主要キャストは、ザ・クックの相棒、その手下的存在の若者、麻薬組織のボス、美人女性捜査官と何人も登場しますが、その誰もが名前で呼ばれることがないのです。
麻薬をめぐる汚職や殺し、裏切りに大金といった事柄は、悪い意味で普遍的に存在します。
登場人物たちも、この世界にはよくいるタイプの人たちでしかありません。いつでもどこにでもいる彼らのような人物は、この世界にいる限り名前は必要ないーそんな監督の思いがダイレクトに伝わってきます。
最後に女性捜査官が言ったひと言は強烈な印象を残します。
「いくら戦っても、何も変わらない。」
終わりのない追いかけっこ、憎しみ、裏切りへのやるせなさがこの言葉に凝縮されているように思えてなりません。
大スケールのドラッグ運び屋の旅
驚くべきは、運び屋たちの旅の厳しさです。思わず言葉を失うほどの大スケールに圧倒されます。
重いリュックサックを背負って、雪山でも切り立った崖でも果敢に乗り越えていく運び屋たち。
襲ってくる敵はもちろん、検問に引っかかれば躊躇なく警察官でも撃ち殺します。
セスナからパラシュートで舞い降りてくる運び屋の姿は圧巻です。
しかし、その根本にあるのは大金への執着と、組織への恐怖です。
雪山で川に落ちて凍えそうな相棒に、ザ・クックは叫びます。
「ブツが先だ!なくしたら殺される!」
どんな理由があっても、彼らが組織から抜けることは許されないことでしょう。
命がけで組織のために働くことでしか、自分が生き延びる道はないのです。
命がかかっているからこそ、毎回命がけの壮大な旅が繰り広げられていることを思い、ただ切なくなります。
まとめ
ニコラス・ケイジ演じる巨額のドラッグの運び屋が、粗悪品を扱う裏切り者を探し出しながら任務を全うする姿を描くクライム・サスペンス『ドラッグ・チェイサー』。
麻薬組織と、彼らを追う捜査官との攻防、そしてそれぞれが抱く怒りや悲しみがひしひしと伝わってきます。
いつまでたっても、どこまでいってもなくならない麻薬問題へのやりきれなさがくっきりと映し出された一作です。
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