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Entry 2022/01/24
Update

映画『ザ・ビーチ(2022)』ネタバレ感想とあらすじ結末の解説評価。世紀末と未知なる生物のコズミックホラーをジェフリー・A・ブラウンが描く|未体験ゾーンの映画たち2022見破録4

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第4回

映画ファン毎年恒例のイベント、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。

傑作・珍作に怪作、低予算ホラー映画など、様々な作品を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破し紹介して、古今東西から集結した映画を応援させていただきます。

第4回で紹介するのは人を変質させる恐怖を描くホラー映画『ザ・ビーチ』

美しい海。突然海に霧が立ち込め、それが陸に流れてきました。この霧の中には、一体何が潜んでいるのでしょうか。

海辺を舞台にしたホラー映画に登場する霧……お馴染みの設定です。しかし今回ご紹介する作品には、想像を絶する恐怖が潜んでいました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら

映画『ザ・ビーチ』の作品情報


(C)2019 Bad Oyster LLC All Right Reserved.

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
The Beach House

【監督・脚本】
ジェフリー・A・ブラウン

【キャスト】
リアナ・リベラト、ノア・ル・グロス、ジェイク・ウェバー、マリアン・ナゲル、マイケル・ブラムフィールド

【作品概要】
浜辺に建つビーチハウス。そこを訪れた人々に、海から何かが忍び寄ります。それは人体に恐ろしい影響を与えるものでした。極限状態でのサバイバルを描くSFホラー。

監督・脚本は長らくロケーションマネージャーとして、映画業界で活躍しているジェフリー・A・ブラウン。彼の長編初監督作品です。

主演は『チャット 罠に堕ちた美少女』(2010)や『ハッピーエンドが書けるまで』(2015)、『クローズド・ガーデン』(2017)に『心のカルテ』(2017)のリアナ・リベラト、その相手役に『ラスト・パニッシャー』(2019)のノア・ル・グロス。

『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で印象的な最期を迎える人物を演じ、『ミッドウェイ』(2019)や『モンタナの目撃者』(2021)に出演のジェイク・ウェバー、『ディナー・イン・アメリカ』(2020)のマリアン・ナゲルが共演した作品です。

映画『ザ・ビーチ』のあらすじとネタバレ


(C)2019 Bad Oyster LLC All Right Reserved.

穏やかな青い海。その海底から何かが噴き上がっていました…。

美しい浜辺に、まばらに民家やビーチハウスが立ち並ぶ場所に車が現れました。中には若い男女が乗っています。

運転するランドル(ノア・ル・グロス)は、恋人のエミリー(リアナ・リベラト)を乗せた車を1軒の家の前に停めます。ここは彼の父が所有し、今は使用していないビーチハウスでした。

まだ海水浴のシーズンの前で、辺りは静かでした。久々に再会した2人は家の玄関でキスを交わし、そのまま2階の寝室に向かいます。

共にひと時を過ごした2人。彼らは愛し合っていましたが、大学院に進み研究を続けたいエミリーの願いを、ランドルは望んでいないようでした。

1階に降りトイレを使用したエミリーは、誰もいない家にしては生活感があると気付きます。洗面台には大量の薬と、それを整理する専用のピルケースがあります。

キッチンの冷蔵庫には開封済みの食品があり、居間には組み立て途中のジクソーパズルがあります。家に誰かが入ってくると、慌てて身を隠したエミリー。

彼女が様子を伺うと、1人の老婦人が座っていました。エミリーは気付かれぬよう2階の寝室に戻ります。

ランドルを起こし、下に誰かいると告げるエミリー。2人は衣服を身に付け1階に降りました。現れた老婦人に、ここは私の父親の持ち家だと説明するランドル。

老婦人は少し混乱しましたが、彼が誰なのか気付き「ランディ」と呼びかけました。そこに買い物から戻った彼女の夫が現れます。

2人はミッチ(ジェイク・ウェバー)とジェーン(マリアン・ナゲル)のターナー夫妻で、医師であるランドルの父の友人であり、幼い頃のランドルを知る人物でした。家族と疎遠だったランドルは、父がこのビーチハウスをターナー夫妻に貸していると知らずにやって来たのです。

ランドルが誤解と非礼を詫びると「失礼してホテルに泊まります」と告げるエミリー。しかしターナー夫妻は若い2人を気に入ったようで「夕食を共にしてここに泊まれば良い」と言いました。エミリーは戸惑いますが、ランドルは申し出を受け入れました。

車に荷物を取りに行くと告げ、家の外のウッドデッキに座りタバコを吸うエミリー。海から現れたのでしょうか、彼女は近くに小さなナマコのような生物が、うごめいていると気付きました。そこにランドルが現れます。

彼は2人だけで過ごせなくなったと詫びますが、彼女はそれよりも一方的なメッセージを残し、大学から姿を消したランドルの行動を責めます。時間をかけて、これから2人の関係を修復しようと語るランドル。

ジェーンが処理し、ミッチが調理した牡蛎料理などが並ぶ料理を囲んだ4人は、すぐに打ち解けて会話が弾みました。エミリーに対し大学で何を学んでいるのか、とジェーンは質問します。

自分は有機化学を学んでいる。大学院に進学できれば宇宙生物学を学びたいと語るエミリー。

化学は生命の創造を研究する生物学でもある。生命は塵やガスが集まり、奇跡的な偶然と何十億年という時間をかけて進化した。何かが1つ欠けても我々は誕生しなかった。その事実に畏敬を覚えるとエミリーは語ります。

博学なエミリーに驚いたミッチは、ランドルにも同じ質問をしました。実は卒業して平凡に生きる人生に疑問を感じ、大学を飛び出したと打ち明けるランドル。

そんな風に人生を悩む時間があることに、深く感謝すべきだと静かに語るジェーン。彼女は健康を損ねており、残された時間をこの浜辺で過ごしているようでした。

重くなった話題を変えようと、ランドルとミッチは酒を出そうとしますが、もう残りはありません。飲酒した身では車で買い出しには出れない中、ランドルがある物を取り出します。

それはマリファナ入りのチョコレートでした。エミリーは薬を服用しているジェーンには不適切だと指摘し、ターナー夫妻もどうしたものか迷っている様子でした。

結局彼らは大麻チョコを4等分して服用し、音楽を流し効果が現れるのを待ちます。先程の話に興味を抱き、エミリーに宇宙生物学の解説を求めるジェーン。

宇宙生物学とは、事実上地球の生命の起源を研究するものだ。それは海の底の地核の熱の影響を受ける場所で、怖ろしく長い時間をかけて進行した。そこに宇宙から飛来した何かが加わり、生命の誕生に至る変化が起きた。

そう説明したエミリーは、私はダイバーの資格があるので、深海の研究もできると言葉を続けます。人を寄せ付けない過酷な環境に、他の惑星にいるような生き物がいる…。

エミリーが生命を誕生させる、複雑で混沌とした環境を意識した時に、大麻が効き始めたのかもしれません。そして、海の底からは何かが舞い上がり始めていました。

もうろうとしたエミリーが意識を取り戻すと、3人は外に出て海を眺めていました。見ると夜の海に霧が立ち込めています。

それは光輝き、陸の方に流れて来ます。誰も見た事のない幻想的な光景に驚く4人。霧の中に自ら発光する微生物か、そういった生物が放出した何かが混ざっているのでしょうか。

普段より体の調子が良いと語ったジェーンは、夫のミッチに霧が立ち込める林の中に入りたいと言いました。ランドルはレコードをかけに部屋に戻ります。

エミリーと2人になるとミッチは、自分の知る世界と現在子どもたちが生きる世界が、あまりにも違って怖い、世界の変化の速さについていけないと言いました。

2人は何か異臭がすると気付きました。今は容態の悪い妻ジェーンを、何かと気にかけて暮らしている、と打ち明けたミッチを気遣うエミリー。

林の中に入ったジェーンは、木の枝に発光する何かが付着し、たれ下がっていると気付きます。美しく光るそれに触れた彼女はせき込み始め、助けを求めて夫の名を叫びました。

眠っていたランドルを起こし、ジェーンの行方を尋ねるエミリー。ジェーンが外に出たと知り、ミッチは探しに行きました。

後を追おうとしたエミリーは、異臭がますます強まっていると気付きます。扉を閉じると、家の外は深い霧に包まれていました。大麻の幻覚なのか、別の原因なのか意識がもうろうとして倒れるエミリー。

彼女が目覚めた時はまだ深夜でした。ジェーンのせき込む声を聞き、何事かとエミリーは洗面所に向かいます。しかし彼女に気付いたミッチが、何も言わずに洗面所の扉を閉めました。

彼女はランドルと共に2階の寝室に向かい、ベットに横たわりました。部屋の中にも霧のような、細かい何かが舞っています。

エミリーが悪夢から目覚めた時には、もう正午を過ぎていました。大麻の影響なのか疲れた様子のランドルは、ベッドから出ようとしません。

外は明るく晴れ霧は消えていました。しかしエミリーは、窓ガラスに白い粉のようなものが、びっしりと付着している事に気付きます。

「昨晩ターナー夫妻は混乱し、ジェーンは吐いていた」と大麻を出したランドルに告げるエミリー。彼女が1階に降りると、そこにイスに座り海を見つめるジェーンがいました。

エミリーが声をかけても、近寄ってもジェーンは反応しません。力なく立ち上がり、黙ったままランドルの横を通り過ぎ、2階の自室にこもるジェーン。

彼女の異様な様子を見た2人はミッチを探します。家の外で大声で名を叫んでも反応はなく、彼を探しに浜辺に降りて行きました。

シーズンオフとはいえ、美しい砂浜には誰の姿もありません。ミッチが体の悪い妻を置いてどこかに行くのは不自然ですが、近くにいるはずと考える2人。

日差しは温かく、2人は並んで砂浜で横になりました。しかし腹部の異様な音に気付いたランドルは、エミリーを残してビーチハウスに戻ります。

砂浜で寝ていたエミリーは、近くに座わるミッチに気付きました。「私たち夫婦はこの場所に来るのが好きだ」とつぶやくミッチ。

家に戻りトイレから出たランドルは、洗面台の蛇口から流れる水に、何か異様なものが含まれていると気付きます。そして彼は、2階から聞こえる物音に気付きました。

「この美しい環境で、やがて最期を迎える妻に快適な時間を過ごしてほしかった」とエミリーに語りかけるミッチ。彼は今日は素晴らしい日だと告げ立ち上がります。

穏やかな口調の彼に何か不安を覚え、大丈夫ですかと声をかけるエミリー。問題無いと告げたミッチは、そのまま海に向かって歩いて行きました。

彼は誰もいない海に入り、そのまま歩いて行きます。深みへと進んで行くミッチに大声で呼びかけるエミリー。

その言葉に反応を示さず、さらに沖へと進むミッチ。見えるのは頭だけになり、やがて彼の姿は波間に消えました。

目の前の光景が信じられず、エミリーは砂浜に立って大声で彼の名を叫びます。しかしそこには、誰もいない海だけが広がっていました…。

以下、『ザ・ビーチ』のネタバレ・結末の記載がございます。『ザ・ビーチ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 Bad Oyster LLC All Right Reserved.

同じ頃ビーチハウスでは、音の正体を確かめようと2階に上がったランドルが、ジェーンの部屋からうめき声がすると気付きます。声をかけてから部屋に入るランドル。

姿を消したミッチの名を叫び、波打ち際へ駆け寄ろうとしたエミリーは何かを踏みます。見たこともない大きさのホヤか、あるいは海洋生物の卵のような物体が砂浜にありました。そしてそこから細く大量に伸びたる、粘液とゼリー状の何かにまみれたものに足が埋まっています。

突然痛みに襲われ彼女は倒れます。見ると異様な何かを踏み粘液まみれの足の裏に、皮膚を喰い破って入り込んだ、太くて長い線虫が潜んでいます。

エミリーが顔を上げると、波打ち際には同じような物体がずらりと並んでいました。苦痛に耐えかね、ランドルの名を叫ぶエミリー。

誰も助けに現れず、彼女は砂浜から延びる階段を這って上り、ビーチハウスに戻ります。叫んでもランドルは現れません。

彼女は台所まで這って行くと酢で傷口を洗いました。痛みに耐えつつトングとナイフを使い、肉を喰い破って潜む長い線虫を傷口から引き出します。

2階で薬箱を見つけたエミリーは、傷口に包帯を巻きました。応急手当を終えた時、ランドルが這って進んでいると気付いたエミリー。

口から何か吐き、苦しそうに進むランドルにエミリーは駆け寄ります。そしてランドルを追うように這って現れたジェーンに気付きます。

ジェーンの皮膚は変色し、見開かれた目は真っ白で、彼女はうめきながら進んできます。彼女がランドルと1階に逃げると、ジェーンが階段を滑り落ちてきました。

痛む足を引きずりながら、ランドルを支えて家の外に逃れたエミリー。追ってきたジェーンはガラスを突き破って外に出ます。車で逃げようにもキーがありません。

ともかく彼女から逃げろと叫ぶランドル。エミリーは隣家に助けを求めますが応答はありません。不調を訴え、病院が必要だとつぶやくランドル。

彼は苦しむジェーンを助けようと試みましたが、その後何があったか思い出せずにいました。周囲に霧が流れてきます。この家の住人でしょうか、ジェーンのような状態の男が現れ、慌てて逃げ出した2人。

夜が訪れ霧が深くなる中を、エミリーはランドルを連れて逃げていました。息ができないと訴えるランドルに、エミリーは点滅する光が見えると言い励まします。

光の正体は乗り捨てられたパトカーでした。霧には呼吸を困難にする何かが含まれているようで、エミリーはせき込みながらパトカーに乗り込みます。

車にキーは付いていませんが、無線機が生きていました。マイクを掴んで助けを求めて叫ぶエミリー。

すると応答がありました。無線の相手は彼女が海の近くにいると知ると「危険なものに晒され、皆が汚染された」「すぐに屋内に入り、窓を密閉し深く呼吸するな」と指示してきます。

「汚染」という言葉の意味が判らず、霧が危険なのかと尋ねたエミリーに、相手は「それは霧ではない」と告げました。そして無線は途切れます。

エミリーはランドルと共に近くの家に向かいますが、助けを求めても返事はありません。彼女も異常な腹痛を感じていました。

やむなく窓ガラスを破り、ランドルと共に家の中に入るエミリー。屋内に電気は通じていましたが、水道は使えず電話は使用できません。そして外にあった車のキーも見つかりません。

絶望して悪態をついたランドルに、エミリーは海に有害なアオコが発生し、危険なガスか化学物質が大量に発生したのだろうと告げます。

霧が少ない居間に逃れ、保存容器に入った水を飲み一息つくと、エミリーはテレビを点けます。全ての局に同じ非常放送の画面とメッセージが流れていました。

ラジオをつけると途切れ途切れに、岩石に潜むバクテリアが解放され、海で何かが起きたと語る声が聞こえます。

声の主は「海洋研究所」と名乗り、その位置の座標を伝えます。エミリーは「できることは窓を封印し、朝を待つだけだ」とランドルに告げました。

「力なく自分は多くの時間を無駄にして生きていた」「今はただ恐ろしい」とつぶやくランドル。

室内にあったガムテープでドアに目張りするエミリー。ランドルがラジオのつまみを回すと、またメッセージが流れます。

地球の生物、炭素系生命を構成するものが、何か別のものに変わった。地球上に生息する全ての複雑な生命体に、大量絶滅の危機が訪れた……。

エミリーはこの家の地下室で、ダイビング用の酸素ボンベを見つけました。この酸素を使えば霧の中を移動し、脱出できるかもしれません。

しかしラジオの前のランドルは嘔吐し苦しみます。自分の手のひらの皮膚の下で、何かがうごめいていると気付きます。

そして彼は倒れました。動きを止めた後に、真っ白になった目を見開くランドル。

ボンベを準備していたエミリーは、奇妙な物音に気付きます。地下室の奥に何かがいます。電気をつけると、それは人間の死体にのしかかる、かつて人間だった、溶けて崩れたものでした。

地下室から逃れて扉に鍵をかけるエミリー。彼女はここからすぐに逃げよう、とランドルに叫びます。しかし現れたのは、自我を失った白い目のランドルでした。

かつての恋人の頭を酸素ボンベで殴るエミリー。ランドルは動かなくなり、エミリーは泣き崩れます。そして彼女は床に落ちていた車のキーを見つけました。

彼女は車に乗り込みます。酸素ボンベから伸びるマウスピースを咥え、生命を汚染する霧の中、車を走らせます。

しかし霧に包まれた夜の闇の中で、車を走らせるのは困難でした。エミリーは運転を誤り、車は木に衝突してしまいます。

意識を取り戻した彼女は車から出ます。エミリーの体は霧に包まれ、這って逃れようとした彼女は水の中に入りました。

苦痛と同時に異様な感覚に襲われるエミリー。彼女の体にも変異が始まったのでしょうか。

翌朝。明るくなったビーチの波打ち際に、仰向けに横たわるエミリーの体がありました。

彼女の両目は白くなっていました。「怖がらないで下さい」と何度もつぶやくエミリー。

波に呑まれた彼女の体は消え去ります。後には誰もいない、静かなビーチが広がっていました……。

映画『ザ・ビーチ』の感想と評価


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ヌルヌル、グチョグチョした何かに注目が集まる本作。この映画の主要出演者は4名。あとは声のみ登場する人か、這って現われた人だけ(!)という大胆さ。

これだけの登場人物と限られたロケ地で、異様な雰囲気を漂わせつつ見事に人類滅亡(?)を描いた、低予算ホラー映画が好きな人なら愛おしくてたまらない作品の『ザ・ビーチ』。

長年映画製作現場で働いた、ジェフリー・A・ブラウンの初長編映画である本作。熱心なホラー映画ファンである彼の、趣味と経験が詰まった作品です。

彼は本作に影響を与えた作品に『原子人間』(1955)、『ボディ・スナッチャー 恐怖の街』(1956)、『デビッド・クローネンバーグのシーバース』(1975)、『エイリアン』(1979)、意外にも恋愛映画『今日、キミに会えたら』(2011)を挙げています。

「自分のホラー映画愛は父の影響だ」と語るブラウン監督。彼はまだ3歳か4歳の頃に、父に観せられた『エイリアン』のオープニングクレジットを大いに怖がったそうです。

なぜ父が幼い自分に『エイリアン』を見せたのか理由は不明。しかしその時の怖がりっぷりは、我が家の伝説になったと思い出を語る監督。

どうですか。ホラー映画を愛する人なら、ブラウン監督に親近感を覚えませんか?

H・P・ラヴクラフトのコズミック・ホラーを意識した作品


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低予算で作ることを目標に製作された本作。4人の登場人物、一風変わった人里離れた場所、短い時間で展開する物語……アイデアはたくさんあったが、本作製作の5年程前から脚本を書き始めたと監督は話しています。

製作費をかけずに済む設定を求めて誕生した物語は、脚本を手直しするうちに心理的恐怖を描く作品から、コズミック・ホラー的要素を持つものに「変異」していきました。

「『ザ・ビーチ』の脚本執筆中、現代版コズミック・ホラーの良作と呼べるものに出会えなかった」「だからそれを作りたかった」とインタビューで語るブラウン監督。

そこでH・P・ラヴクラフトのホラー小説と、現代科学ノンフィクションを読みあさります。本作鑑賞前には、単純な「肉体変容系」ホラー映画を予想していた私は、この言葉を聞いて納得しました。

目の前の怪奇現象の背後に、宇宙的スケールの何かが起きたと感じさせる物語。ラヴクラフトが好んで描写した、グロテスクな海産物系クリーチャーの登場。

低予算で直接描写はないのに、確かにクトゥルフ神話的な雰囲気が感じられる映画です。そして「自分はこの映画の怪奇現象、人々を汚染し変容させる霧の正体の、明確な答えを持っている」と説明する監督。

「しかし私は自由に解釈できる映画が好きだ」「映画の中に多くの手がかりを残したので、観客は自身でそれをつなぎ合わせ、自分なりに霧の正体を考えることが重要だと思う」と彼は語っています。

低予算映画ならではの創意工夫に注目


(C)2019 CJ CGV Co., Ltd., B.A. Entertainment All Rights Reserved

ロケ地を探すスカウト、そしてロケーションマネージャーとして働いた監督は、撮影に適した場所を求め、利用されていない場所を数多く訪れた経験の持ち主です。

誰もいない時に、普段賑やかなビーチコミュニティを訪れると不気味さ、不安感や違和感を与えることが可能な場所か考慮した結果、マサチューセッツ州のケープコッドのビーチを、監督はロケ地に選びました。

そして惨劇の舞台となる、登場人物ランドルの父が所有するビーチハウス。実際は本作のプロデューサーの1人、アンドリュー・コーキンの父親が所有する邸宅です。

製作費が少なく主要な4人の出演者の中で、ロケを開始する前に会えたのは、ランドル役のノア・ル・グロスだけ。それも撮影の1週間前のことでした。他の3人は撮影直前まで出演が決まらなかったそうです。

それでもB級・ホラー映画ファンなら、ツボを押さえた俳優が出演していると感じるでしょう。ミッチ役で出演のジェイク・ウェバーはプロデューサーのアンドリュー・コーキンの友人で、彼に頼まれ出演を承諾しました。

短い撮影期間の最初は天候に恵まれず、開始から3日間は夜のシーンしか撮れなかった。そして撮影前のリハーサルもほとんど行えなかった、と監督は振り返っています。

実に厳しく、過酷な条件の撮影現場ですが、ドキュメンタリー畑出身の撮影監督オーウェン・レベルの仕事が素晴らしく「文字通り、彼の肩がこの映画を支えた」と語る監督。

「彼は自然光を巧みに使い、室内シーンは被写体を狙う照明は設計せず、部屋そのものを照らし撮影してくれた」「そのおかげで照明を変えることなく、何時間も撮影を続けることが可能になった」と説明しています。

撮影監督が本作で確立させた照明の枠組みが、『ザ・ビーチ』に実に自然なホラー映画の雰囲気を与えてくれた。監督は自作の魅力をこのように解説してくれました。

まとめ


(C)2019 Bad Oyster LLC All Right Reserved.

出演者の少なさ、用意されたシチュエーションからも、本作が低予算映画だと教えてくれる『ザ・ビーチ』。しかし鑑賞すると、お手軽に作った映画感はありません。

それは適切な撮影場所の選択、現場での工夫、そして長い時間をかけ監督が練り上げたストーリーと設定が生み出しました。

ジェフリー・A・ブラウン監督は、かつてケープコッドへの旅が、当時付き合っていた女性との関係が終わる結果となった、過去の経験を脚本に反映させたと語っています。

本作の主人公は最後まで生き延びようとする、そしてSF的設定の解説者でもあるエミリーです。しかし実は監督の分身でもある、思い入れが深い登場人物はノア・ル・グロス演じるランドルです。

劇中で人生への迷いと、それに対する後悔を口にしたランドル。ブラウン監督、若き日に何があったんでしょうか。

たかが低予算ホラー映画と言うなかれ。製作者が実に多くの物を盛り込んで完成させた逸品、それが『ザ・ビーチ』です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…


(C)WEEWANT PICTURES @2020

次回の第5回は孫悟空VS孫悟空!あの西遊記の世界を、大胆にアレンジしたSFX伝奇映画『超 西遊記』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら






増田健(映画屋のジョン)プロフィール

1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。

今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn

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