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Entry 2023/05/12
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『オレンジ・ランプ』あらすじ感想と評価解説。実話から和田正人と貫地谷しほりで描く‟認知症と共に生きる”軌跡|映画という星空を知るひとよ153

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第153回

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんご本人と、家族の9年間の軌跡の実話を映画化した『オレンジ・ランプ』。

若年性アルツハイマー型認知症と診断された夫が、妻と2人の娘を抱え不安に押し潰されそうになる厳しい現実に直面しますが、ある出会いによって人生を再生していくという人間ドラマです。

映画では妻の真央役を貫地谷しほり、夫・晃一役を和田正人がそれぞれ演じ、伊嵜充則、山田雅人、赤間麻里子、赤井英和、中尾ミエらといった個性豊かな顔ぶれが脇を固めます。

介護の世界を描いた「ケアニン」シリーズのスタッフ陣が製作を手がけ、『あしたになれば。』(2015)の三原光尋監督が取りまとめました。

実話を元に描くある夫婦の希望と再生の物語『オレンジ・ランプ』は、2023年6月30日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて公開。公開に先駆けて『オレンジ・ランプ』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『オレンジ・ランプ』の作品情報


(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【原作】
山国秀幸:『オレンジ・ランプ』(幻冬舎文庫) 

【監督】
三原光尋

【企画・脚本・プロデュース】
山国秀幸

【脚本】
金杉弘子

【音楽】
宮﨑道

【出演】
貫地谷しほり、和田正人、伊嵜充則、山田雅人、赤間麻里子、赤井英和、中尾ミエ

【作品概要】
映画『オレンジ・ランプ』は、若年性アルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さんの実話を元に描く、人生の希望と再生の物語です。

介護の世界を描いた「ケアニン」シリーズのスタッフ陣が製作を手がけ、監督は『あしたになれば。』(2015)の三原光尋監督。

夫と共に前を向く妻・真央役に、『夕陽のあと』(2019)の貫地谷しほり。認知症を患う夫・晃一は、『Winny』(2023)にも出演している和田正人がそれぞれ演じます。伊嵜充則、山田雅人、赤間麻里子、赤井英和、中尾ミエというベテラン勢も顔を揃えました。

映画『オレンジ・ランプ』のあらすじ


(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

只野家の居間で只野夫婦に「認知症を患った夫とその妻」というテーマでマスコミが取材をしています。

「ご家族に認知症患者がいてどんなところが大変だったでしょうか」と聞かれ、夫婦は笑顔で「いや、大変というほどのものではないです」と答えます。

予想外の答えに困り気味のマスコミ陣を見て、妻・真央は9年前の夫が発病した頃のことを思い出します。

9年前、当時39歳の只野晃一は、妻の真央と2人の娘の4人家族で、カーディーラーのトップ営業マン。充実した毎日を過ごしていました。

そんな彼ですが、ある時から、顧客の名前を忘れたり、愛車の洗車を一日に何度もしたりなどの異変が訪れます。

不安になって病院へ行き、下された診断は「若年性アルツハイマー型認知症」。驚き、戸惑い、不安に押しつぶされていく晃一は、好きな営業の仕事も無理だと思い、とうとう退社の決意をします。

心配のあまり夫に何でもしてあげようとする真央もまた、同じように苦しみ、行き場のない悲しみを背負います。

ですが、ある出会いがきっかけで「人生を諦めなくていい」と気づいた2人。彼ら夫婦を取り巻く世界が変わっていきます。

映画『オレンジ・ランプ』の感想と評価


(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

仕事もバリバリできて、家庭では朗らかな妻と可愛い2人の娘がいる優しいパパ。こんな幸せな毎日を過ごしている男性が、ある日物忘れがひどくなり、病院へ行くと「若年性アルツハイマー型認知症」の宣告を受けます。

映画『オレンジ・ランプ』はそんな宣告を受けた只野夫婦の絶望から希望の日々へ這い上がる軌跡を描きだしました

忘れてならないのは、この作品は実話を元にしているということ。39歳の一家の大黒柱が認知症なのも事実なら、現在前向きに明るく日々を過ごされているのも事実なのです

今自分が何をしていたのかも分からなくなったり、普段通い慣れた道なのに急に自宅までの道を忘れてしまうなど、少し前のことを覚えられない認知症独特の症状が描かれ、当事者ならずとも背筋が凍るような怖さを覚えます。

日常生活で普通にしていることが難しくなっていく病気……。これが「認知症」なのですが、病気と真正面から向き合うことで主人公にも笑顔が戻ってきました

夫の両親への配慮、娘たちへの告白。夫・晃一の一番身近な存在である妻・真央は、何とか夫の役にたちたいと頑張ります。仕事も辞めようと思っている夫を献身的に支える真央が、もしかすると夫以上に辛い試練を味わっているのかも知れません。

そして、1人で抱えなくてもいいのだと気が付いた晃一と真央。自分たちの今の現状をカミングアウトする勇気は、やがて人生の再生への道を切り開くことなりました

認知症は治らない病気です。けれども、只野夫婦はその苦しみを乗り越え、‟認知症と共に生きる”方法を見つけました。彼らのはじけるような笑顔に、同じような病気で苦しんでいる人たちは生きる希望を見出すことでしょう

まとめ


(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

実話を元にした『オレンジ・ランプ』では、「認知症と共に生きる」生き方を描いています

物事を覚えられなくなり、記憶がなくなることへの恐怖を主人公の只野夫婦はどう乗り切っていったのでしょうか。また、周囲の人々の病気への理解をどう得ていったのでしょう。

映画を観た人は、高齢化が進む社会において、身近な問題となりつつある認知症や介護問題も踏まえ、病気と真摯に向き合って生きるヒントを本作から得るに違いありません

本作での病気の夫を支える家族や周囲の人々との繋がりは、ランプの明るい灯のように暖かく心に沁み込んできます。また主人公の娘たちの「あかね」「ほのか」という灯を連想させる名前も、作品内容にあったものと言えます。

病気という災いは、いつ自分の身にも降りかかってくるかわかりません。自分が同じ立場になった時のことを思って鑑賞し、これからの社会医療や病気と向き合う姿勢をじっくりと考える価値ある作品です。

映画『オレンジ・ランプ』は、2023年6月30日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて公開されます! 

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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