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Entry 2019/03/31
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石野理子映画『ファーストアルバム』あらすじと感想。赤い公園メンバーの新ボーカルの貴重な歌声|ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り2

  • Writer :
  • Cinemarche編集部
  • 河合のび

ちば映画祭2019エントリー・頃安祐良監督作品『ファーストアルバム』が3月31日に上映

「初期衝動」というテーマを掲げ、2019年も数々のインディペンデント映画を上映するちば映画祭。

ここで上映された作品の1つが、2016年4月に「島でぜんぶおーきな祭 第8回沖縄国際映画祭」で上映された後に劇場公開へと至った頃安祐良監督の映画『ファーストアルバム』です。

当時アイドルネッサンスのメンバーだった石野理子が主演に起用され、お笑いコンビ・シソンヌのじろう、長谷川忍が出演したことでも話題になった作品。

母親との関係に悩み続ける歌が好きな少女が、ある出来事をきっかけに更なる葛藤を迎え、その先にある成長へと進んでゆく「小さなきっかけ」の物語です。

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

映画『ファーストアルバム』の作品情報


(C)2016「ファーストアルバム」製作委員会

【公開】
2017年(日本映画)

【脚本・監督】
頃安祐良

【キャスト】
石野理子、じろう、長谷川忍、信國輝彦、宮田亜紀、高橋紗良、西村真二、葛馬史奈、西島大介、松浜心、塩谷正蔵

【作品概要】
自らのしたいことと母親との関係のギャップに悩む歌が好きな少女・樹(いつき)が、ある出来事をきっかけに暮らしている広島の街から一歩を踏み出す様を繊細に描く。

映画『あの娘、早くババアになればいいのに』では、アイドルオタクの父とその娘でアイドルを目指す少女の父娘の関係を描き、乃木坂46やアイドルネッサンスなど、多くのアイドルグループのミュージッククリップも手がけた頃安祐良監督による短編映画です。

2014年から2018年にかけて活動していたアイドルグループ・アイドルネッサンスのメンバーであり、2019年現在はロックバンド・赤い公園のボーカルとして活躍している石野理子が主人公の少女・樹役を務めました。

また人気お笑いコンビ・シソンヌのじろう、長谷川忍が出演。本作は吉本興業が地域活性化を目的とする「地域発信型映画」の一つとして制作されました作品です。

2016年の「島でぜんぶおーきな祭 第8回沖縄国際映画祭」で上映後、劇場公開されました。

映画『ファーストアルバム』のあらすじ


(C)2016「ファーストアルバム」製作委員会

歌うことが好きな15歳の少女・樹。

彼女は地元のテレビ局が主宰する歌唱力コンテストに出場したかったものの、コンテスト当日が親戚の結婚式が重なってしまったために母親に止められてしまいます。

一方、コンテストを手がけているテレビ局のディレクター・藤井。

彼はプロデューサーの矢川の命令により、コンテストの出場者を探すために広島市内を歩き回っていました。

コンテスト当日。樹は結婚式を抜け出します。

そしてある偶然の出会いによって、樹は大きな変化を迎えることになります。

頃安祐良監督のプロフィール

1984年、岡山県生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業。

2008年、監督作『シュナイダー』(2008)が東京学生映画祭・グランプリを始め、ぴあフィルムフェスティバル、水戸短編映像祭など数多くの映画祭に入選。

2014年には、アイドルオタクの父親とアイドルを目指す娘の関係を描いたアイドル映画『あの娘、早くババアになればいいのに』をテアトル新宿にて劇場公開。当時のレイトショーの動員記録を更新するなど、大きな話題を集めました。

また自身の作品を制作する傍ら、トクマルシューゴ「Parachute」、埋火「溺れる魚」のMVなどを手がけ、 その後も乃木坂46のCD特典映像や、アイドルネッサンスのMV、でんぱ組.incの夢眠ねむが出演する料理番組や、スペースシャワーTVにて放送されたでんぱ組.incのドキュメンタリー特番のディレクターなど、アイドルに関わる仕事を数多く手がけています。

2017年には、監督を務めたけやき坂46主演ドラマ『Re:Mind』がNetflixにて配信されました(7・8話を担当)。

映画『ファーストアルバム』の感想と評価

映画『ファーストアルバム』上映後には、樹の両親役をそれぞれ務められた俳優の信國輝彦さんと女優の宮田亜紀さん、本作の音楽を担当された今村左悶さんをゲストを迎えてのトークショーが行われました。

その中で、今回は残念ながら御登壇が叶わなかった主演の石野理子さんについての話題が多々上がりました。

映画の作曲を担当した今村左悶さんと樹の母京子役の女優・宮田亜紀さん


©︎Cinemarche

宮田さんは石野さんの第一印象について、「とてもおとなしい、賢そうな子」に見えたものの、歌う際には「豹変した」と語られました。

本作の終盤で描かれる樹の歌う場面では、石野さんが台詞に合わせ、語りかけるように綴られてゆく美しい歌声を聴くことができます。

それはかつてアイドルネッサンスのメンバーを務めてきた、そして2019年現在は赤い公園のボーカルを務めている石野さんだからこそ生み出せる歌声であり、観客たちにとって感動を抑えることのできない歌声であることは間違いないでしょう。

樹と京子の母娘関係を見守る父俊夫役の信國輝彦さん


©︎Cinemarche

また信國さんは、石野さんの卓越した演技力についても触れられました。

映画『ファーストアルバム』が制作された当時、石野さんはご自身が演じられた本作の主人公・樹と同じ15歳でした。

また映画の出演経験についても、以前頃安監督が制作された作品に一度だけ出演したことがあったものの、二度目の映画出演においていきなり主演を務めるという、多少の不安要素を抱えた中で映画は制作されました。

しかしながら、ラストシーンでの演技を始め、映画出演二度目とは到底思えない石野さんの演技力に、非常に驚いたと信國さんは語られました。

かつて母親から贈られた言葉を心の内に抱え、現在の母親との関係に悩みながらも、自らを好きな歌によって懸命に変えてゆこうとする少女の姿。

難しい役にも関わらず、石野さんは最後まで全力で演じ続け、主人公・樹を「生きた人間」へと形作りました。

それは彼女の演技力があったから、そして主人公と同じく多感な15歳だったからこそ、成し遂げられたのです。

全編を通じて発揮される、卓越した演技力。物語を感動へと導く、美しい歌声。

アイドル・石野理子、バンドボーカル・石野理子とも異なる、女優としての石野理子。

その姿を捉えた頃安監督の手腕、そして映画『ファーストアルバム』の価値は、確かなものだということを疑う余地はありません。

まとめ

今村さんは映画『ファーストアルバム』について、頃安監督とは「10年20年経っても『撮って良かったね』と言える映画したい」という意識の中で制作したとも語られました。

そして『ファーストアルバム』というタイトルには、本作を主演を務めた15歳の石野さんにとっての「ファーストアルバム」にしたいという意味があったと。

制作されてから3年後、ちば映画祭という舞台において、映画『ファーストアルバム』は上映されました。

そこには、『ファーストアルバム』という名に相応しい、幼さに近い若さと、それ故に持ちうる美しさを放つ石野理子さんの姿がありました。

【連載コラム】『ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り』記事一覧はこちら

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