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Entry 2023/02/22
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『Winny』映画あらすじ感想と評価考察。実話事件を基に東出昌大×三浦貴大が“社会の黒幕と戦った男たち”を熱演|映画という星空を知るひとよ142

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第142回

2002年、目覚ましい普及を遂げるインターネット業界で、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」が開発されました。画期的な開発でしたが、それを利用して音楽などを違法アップロードするユーザーが出現します。

著作権法違反として彼らは逮捕されますが、そのソフト開発者までもが逮捕に……。著作権法違反幇助の罪に問われた裁判で、ソフト開発者が無罪を勝ち取るという事件が起こりました。

事件の真相と裁判の行方を『天上の花』(2002)や「コンフィデンスマンJP」シリーズの東出昌大を主演に招き、『Noise ノイズ』(2019)『ぜんぶ、ボクのせい』(2022)の松本優作監督が映画化しました。

社会のためなると信じて開発したはずのソフトが悪用されると、天才的ソフト開発者の金子までが悪者扱いに……。金子の潔白を信じる弁護団は、白を黒と言い含めるような権力をかさに着た警察側とどう対決するのでしょう。

現実の事件をリアルに再現した映画『Winny』は、2023年3月10日(金)TOHOシネマズほか全国公開。映画公開に先駆け、『Winny』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『Winny』の作品情報


(C)2023 映画「Winny」製作委員会

【日本公開】
2023年(日本映画)

【原案】
朝日新聞2020年3月8日記事(記者:渡辺淳基)

【監督・脚本】
松本優作

【企画】
古橋智史andpictures

【キャスト】
東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、和田正人、木竜麻生、池田大、金子大地、阿部進之介、渋川清彦、 田村泰二郎、渡辺いっけい、 吉田羊、吹越満、吉岡秀隆

【作品概要】
ネット史上最⼤の事件ともいわれた禁断の実話を映画化した『Winny』。不当逮捕から無罪を勝ち取った天才開発者・⾦⼦勇⽒の7年間の道のりを描きます。

監督は、『Noise ノイズ』(2019)『ぜんぶ、ボクのせい』(2022)の松本優作。ソフト開発者・金子を東出昌大、弁護士を三浦貴大がそれぞれ演じ、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆らベテラン勢も顔を揃えました。

映画『Winny』のあらすじ


(C)2023 映画「Winny」製作委員会

2002年、ソフト開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発。その試用版を「2ちゃんねる」に公開します。

彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていきます。

しかしその裏で、大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、それらをダウンロードする若者も続出。次第にネット犯罪として、社会問題へ発展していきました。

次々に違法アップロードした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまいます。

サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していたのですが、金子の逮捕報道を受け、急遽弁護を引き受けることにしました。

警察の用意した周到な罠に引っかかり、金子はすでに自分に不利な証言をしていました。金子と謁見を重ね、彼の人柄を好ましく思った壇弁護士は弁護団を結成。

その後、壇弁護士は金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張しますが、第一審では有罪判決を下されてしまいました……。

しかし、世界をも揺るがす事件が発覚し、事態は思わぬ方向へと流れます。

映画『Winny』の感想と評価


(C)2023 映画「Winny」製作委員会

取り調べに警察の罠

ファイル共有ソフト「Winny」の名前は、誰もが聞いたことがあるのではないでしょうか。

ユーザー同⼠で直接データのやりとりができ、簡単にファイルの共有が可能になるこのソフトによって、パソコンでの作業がとても簡単になったのは事実です。

ですがその反面、映画や⾳楽、ゲームや写真などが違法にアップロードされ、著作権侵害の温床となり、社会問題になっていきます。

Winnyを利用して違法なアップロードをしていた利用者が逮捕され、開発者である金子も“著作権法違反幇助”の容疑で逮捕されました。

ここで注目したいのは、映画の中でも例えで言われた、「殺人に使われた包丁を作った職人は逮捕されるのか」ということ。

主人公のひとりである壇弁護士は「開発者が逮捕されるわけがない」と言い切りますが、Winny事件では、その開発者が逮捕されてしまいました。

不当逮捕に違いないのですが、天才だけれども世間知らずな金子は、警察側の用意周到に仕掛けた罠にかかります。

ただ犯人をあげればいいという警察の思惑が丸見えのシーンに、これが警察の常とう手段なのかと目を疑います。

実在人物が憑依する


(C)2023 映画「Winny」製作委員会

注目は、金子を演じる東出昌大。金子勇氏の実姉が「勇ちゃんがそこにいる」と言うほどに、映像に残る実際の金子氏の細かい動作や体形、顔つきまでもそっくりに演じています。

ただ演じるだけでなく、役作りとして18キロ増量した東出昌大。金子勇氏のメガネ、腕時計を劇中で身に着けていてその成果はさらにアップ!

壇弁護士を演じる三浦貴大も、意志の強さを携えた、ぬくもりのある庶民的な弁護士を演じ切りました。

実際に起った事件の映像化ですから、主役は当事者に似ているほうがいい。そういう意味においても、実在人物が憑依したかのような、当事者になり切った東出昌大と三浦貴大の名演技は必見です。

本作は、ソフト開発者・金子の不当逮捕から彼の無罪を勝ち取るまでを描いていますが、その年月の間に金子と壇の繋がりは深くなり、そしてWinnyを使ったある事件が起こったことで、彼らの運命は大きく変わります。

Winnyを使ったがために発覚した悪質な事件……これもまた愚かな人間が犯した犯罪です。

コンピューターに組み込まれる不正プログラムなどは恐ろしいけれども、それを利用する人間もまた怖い存在と言えます

まとめ


(C)2023 映画「Winny」製作委員会

映画『Winny』は、天才開ソフト発者・金子による新ソフトが、不当逮捕によって潰されてしまった顛末と、開発者の権利と未来を守るために、国家権⼒やマスコミと戦った男たちの実話を基にしています。

内容としては、ソフトを開発者が‟著作権法違反幇助”の容疑で逮捕された経緯と、彼の弁護団が逮捕に対する不当性を訴えて警察・検察側と全⾯対決した裁判の⾏⽅を描き出しました。

天才的な知識で新しいソフトを開発すれば悪用され、開発者までもが逮捕されるというこの国の現実は、どこかおかしいのではないでしょうか。

そしてそのおかしな社会の中で、本当に逮捕しなければならない悪人は、いつも大きな権力の影に隠れている……

国家や警察の持つ権力に真っ向から戦いを挑んだ開発者とその弁護団の雄姿を、ぜひ劇場でご覧ください。

映画『Winny』は2023年3月10日(金)TOHOシネマズほか全国公開!

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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