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映画『パラダイス/半島』あらすじ感想と評価解説。吉田美月喜×染谷俊之×立川かしめの“奇妙で素敵な楽園”の顛末は|映画という星空を知るひとよ148

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第148回

稲葉雄介監督が主演に染谷俊之、ヒロインに吉田美月喜を迎えて手がけた映画『パラダイス/半島』の2023年7月21日(金)より順次ロードショーが決定されました。

長期休養中だった有名俳優とその姪、逃亡犯として追われる俳優の親友という奇妙な3人組の、世間から少し離れた半島での共同生活を描いた作品です。

世の中から距離を置いた、一軒の家で過ごすひと時。少しの間だけ人生の時間が止まったような不思議な時の流れではあるものの、ずっとそのままでいることはできずに時間は流れていってしまいます。

“パラダイス”ともいえる浮世離れした毎日の中で、3人は何を得るのか。2023年3月25日(土)に浅草・雷5656会館ときわホールで開催された完成披露試写会のトークイベントの模様も交えつつ、本作をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『パラダイス/半島』の作品情報


(C)「パラダイス 半島」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
稲葉雄介

【企画・プロデユーサー】
菅谷英一

【キャスト】
染谷俊之、吉田美月喜、立川かしめ、松村龍之介、西村季里子、谷川愛梨、藤好裕夫、今野しづ子、藤田朋子

【作品概要】
監督・脚本は初監督作『君とママとカウボーイ』(2010)が名匠アピチャッポン・ウィーラセタクンに評価された稲葉雄介。主人公・真英役に舞台や映画など多ジャンルで活躍をする染谷俊之を迎え、『恋するふたり』(2018)以来4年ぶりに染谷とタッグを組みました。

真英の姪・夕起役には『メイヘムガールズ』(2022)などにも出演した注目の若手女優・吉田美月喜。また落語家として活動し本作が映画初挑戦となる立川かしめ、実力派として知られる藤田朋子なども出演しています。

映画『パラダイス/半島』のあらすじ


(C)「パラダイス 半島」製作委員会

有名俳優・真英(染谷俊之)は積年の疲労を癒すため、半島の畑付きの一軒家で長期休養中です。畑の野菜の世話をしながらのんびり過ごす、ゆとりある暮らしのおかげもあって、今では心身ともにだいぶ健康になりました。

事務所の社長も頻繁に訪れ、元気そうな真英の様子に安心します。社長が持ってきた新しい大作映画への出演も決まり、完全復帰も間近です。

そんな彼の元に、突然親友の⻯(立川かしめ)が訪ねて来ました。

実は竜は、とある事件の冤罪で逮捕・勾留されていました。真英の紹介した弁護士と無罪を勝ちとろうと奮闘するも、結局起訴されることとなり、逃げてきたのだと言います。

立場上そんな⻯と関わりたくない真英は、彼を一晩だけ自宅に匿うと追い出しました。そんな竜と入れ違いに、19歳の姪・夕起(吉田美月喜)が真英の家へ滞在しに来ました。

玄関ですれ違った竜と夕起。「あの人だあれ、変な奴」「俺の友だちの竜。覚えてない?」小さい頃に会っていたと、夕起は思い出します。

どこか遠くに逃亡することもせず、行く当てもなく浜でぶらぶらする竜でしたが、そこで散歩中の夕起と再び遭遇。事情を何も知らない彼女は⻯と意気投合すると、「行く所がない」という彼を真英の家に連れ戻してしまいます。

心穏やかに暮らしたい真英の、憂鬱な日々が始まります……。

映画『パラダイス/半島』の感想と評価


(C)「パラダイス 半島」製作委員会

海と山の自然に恵まれた半島で、畑仕事をしながら穏やかな日々を過ごす有名俳優・真英。彼は仕事の疲れをとるため、世間から距離をとった生活をしていました。

積もり積もった長年の疲れも癒えて「そろそろ復帰を」と思っていた矢先、警察に追われる身の親友・竜が真英の家に転がり込みます。

犯罪とは無関係の“パラダイス”のような半島の生活に、降って湧いたような‟問題の種”。真英があまり関わり合いたくないと思うのも当然です。しかし相手は親友ですから、真英は冷たくあしらうこともできずに悩むことに。

「人生」って、もしかするとこのようなことなのかもしれませんせっかく立てた計画がうまく軌道に乗りかけたところに、大きな邪魔が入ったり、不慮の出来事が突っ込んできたりと、運命を呪いたくなるようなことが起こってしまうです。

本作の登場人物たちも、予想もしない出来事に出会い、異空間と思える暮らしの中で息をひそめて一日を過ごします。それが正しいのか悪いのかは誰にも判断はできないでしょうが、その中で過ごす時の流れは、確実に彼らを成長させていたといえます。

今までの人生から一歩退いたところで、自分を見つめ直す俳優・真英は、これまでにも様々な役どころにチャレンジしてきた染谷俊之が演じています。

暇を持て余しているハイティーン・夕起を演じるのは、2023年3月時点で主演映画の公開をいくつか抱えている、今注目の女優・吉田美月喜。そして逃亡犯の竜を、本作が映画初挑戦となる若手落語家・立川かしめが演じます。

こんな3人によって、三者三様の想いが絡み合った一軒家の暮らしが映し出されます。リアルである一方で、刺激のないノッペリとした感触の、だからこそ“親しみ”と“居心地の良さ”を抱かせてくれる日常風景には、多くの方が懐かしさを覚えるはずです。

さて、流れる時間に身を任せ、3人はどんな未来に流れ着くのでしょうか。“パラダイス”の価値観がそれぞれ異なるように、観る者によってはラストの在り方も、何通りもの捉え方があるといえる作品でした。

完成披露試写会トークイベントの模様もお届け!

映画『パラダイス/半島』完成披露試写会トークイベントより


(C)Cinemarche

稲葉雄介監督が4年ぶりに染谷俊之とタッグを組んだ映画『パラダイス/半島』。その劇場公開に先駆けて、2023年3月25日(土)に浅草・雷5656会館ときわホールにて完成披露試写会と、監督をはじめメインキャスト陣によるトークイベントが開催されました。

トークイベント第一部の登壇者は、真英役の染谷俊之、夕起役の吉田美月喜、竜役の立川かしめ、そして稲葉雄介監督(敬称略)。

思い思いのファッショナブルな衣装で登壇された4人ですが、まず吉田美月喜のカラフルかつ大胆な切替しのスカートに話題が集中。おしゃれで明るい吉田美月喜を、染谷俊之と立川かしめが盛り上げる形でトークショーは進みます。

撮影が始まった当初は緊張したが、すぐに緊張も解けていった」と語るキャスト陣。また「ロケ地の畑も一軒家も、全部稲葉雄介監督の持ち物」と明かされ、来場者の方々も驚くことなりました。

さらに立川かしめは、「撮影場所となった一軒家の一室で、本当に寝泊まりしながら撮影に臨んでいた」と告白。それに対する「だって時間に遅れそうな人だもの」という稲葉監督の言葉に、会場は大爆笑に包まれました。

布団もキッチン用品も全て、セットでない実際の家のものだから、より一層生活感のあるリアルな映像が撮影できたともいえる『パラダイス/半島』。

そうまでして「半島」を舞台に映画を撮ることにこだわった理由について、稲葉監督は「この半島のことが、とても好きだから」「東京に近いけれども、少し距離があって、そこだけがまるで切り取られたような別世界。まるでパラダイスのような居心地の良さを感じる」と半島の魅力を語りました。

半島を“パラダイス”に見立ててストーリーが展開されていく本作の撮影では、キャスト陣も「パラダイスにいるかのような、本当に楽しい時間」を過ごせたとのこと。終始笑顔でノリノリのトークイベントは、あっという間に時間が過ぎ無事に幕を閉じました。

まとめ


(C)「パラダイス 半島」製作委員会

半島の隠れ家のような一軒家でのんびり静養していた俳優の元に、警察から逃げている親友が。そこに暇を持て余している俳優の姪も訪れ、奇妙な共同生活が始まる……。

平穏な日常が破られそうになりながらも、友情を保とうとする主人公・真英の日常を綴る映画『パラダイス/半島』

奇妙な3人組は、どんな未来に流れ着くのでしょうか。そして、観る者によっては何通りもの捉え方があるといえる本作の結末とは。

映画『パラダイス/半島』は、2023年7月21日(金)より順次ロードショー。畑と山と海があるありふれた、けれども居心地の良い半島の人間模様をぜひご覧ください。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


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