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Entry 2022/05/14
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【新吹き替え版】ローマの休日|ネタバレ感想解説と結末考察。声優・早見沙織演じるオードリーヘプバーンと重なる“あのキャラ”【映画という星空を知るひとよ100】

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第100回

1953年公開ながら、今なお人々に愛され続ける不朽の名作『ローマの休日』。

某国のアン王女がイタリアのローマを訪れ、身分を隠しながらも新聞記者のジョー・ブラッドレーと、たった一日の“休日”を満喫するというラブコメディです。

映画史上、最高にロマンチックなラブコメの金字塔が、2022年5月テレビで放映されました。

デジタル・ニューマスター版でもリバイバルされた言わずと知れた名作の今回の放映で注目すべきは、新たな吹き替え版が制作され、オリジナルの吹替キャストとして早見沙織、浪川大輔といった人気声優が主役の2人に抜擢されたことです。

主に新作映画作品を紹介している本コラムですが、今回は名作映画『ローマの休日』の新吹き替え版の魅力を解説します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ローマの休日』の作品情報


TM & Copyright (C)1953 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved

【公開】
1953年(アメリカ映画)

【原題】
Roman Holiday

【原案】
ダルトン・トランボ

【監督・製作】
ウィリアム・ワイラー

【脚本】
イアン・マクラレン・ハンター、ジョン・ダイトン

【キャスト】
グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプバーン、エディ・アルバー

【吹き替えキャスト】
浪川大輔、早見沙織

【作品概要】
アメリカ映画初出演となったオードリー・ヘプバーンと名優グレゴリー・ペック共演のロマンティックコメディ。

監督は巨匠ウィリアム・ワイラー。アン王女をオードリー・ヘプバーン、ジョー・ブラッドレーをグレゴリー・ペックがそれぞれ演じています。オードリー・ヘップバーンは、本作でアカデミー主演女優賞を受賞、さらに衣裳デザイン賞や原案賞と合わせ3部門も受賞。

日本では1954年の初公開以降、幾度もリバイバル公開され、2003年には「製作50周年記念デジタル・ニューマスター版」でリバイバル公開されています。

2022年にはテレビ放映のオリジナル日本語吹き替え版として、アン王女役=早見沙織/ジョー・ブラッドレー役=浪川大輔/アーヴィング・ラドビッチ役=関智一が起用されました。

映画『ローマの休日』のあらすじ


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某国王室の王位継承者、アン王女(オードリー・ヘプバーン)は、欧州親善旅行中。ローマでは、駐在大使主催の歓迎舞踏会に出席しました。

元気に任務をこなしている王女ですが、内心では分刻みのスケジュールと、堅苦しいセレモニーにいささかうんざり気味です。就寝の時間になると、侍従たちを前に軽いヒステリーを起こします。

主治医に鎮静剤を注射されますがなかなか寝つけません。窓の外の賑やかさに誘われ、宿舎である宮殿をひそかに脱出します。

夜のローマの街をぶらぶら歩いていた彼女は、やがて先ほど打たれた鎮静剤が効いてきて、道ばたのベンチに身体をぐったりと横たえました。

そこへ、アメリカ人の新聞記者ジョー・ブラドリー(グレゴリー・ペック)が偶然通りかかります。若い娘がベンチに寝ているのを見て、何とか家に帰そうとしますが、アンの意識は朦朧としていて埒があきません。

彼女をそのまま放っておくこともできず、ジョーはアンを自分のアパートへ連れて帰り、一晩の宿を提供しました。

翌朝、うっかり寝過ごしたジョーは、まだ眠っているアンを部屋に残したまま、新聞社へ向かいます。

支局長から「アン王女は急病で、記者会見は中止」と聞き、アン王女の写真を見たジョーは、そこではじめて昨晩の娘が、実はアン王女だったことに気づきました。

王女には自分が彼女の身分を知ったことを明かさず、ローマの街を連れ歩いて、その行動を記事にできたら大スクープになります。

スクープを狙うジョーは、家へ帰ると言うアン王女の後をつけ、ローマの街へ繰り出しました。

ローマの街での2人の休日が始まります……。

映画『ローマの休日』の感想と評価


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アン王女は元祖‟キャリアウーマン”

王位継承者であるアン王女。美しい容姿で笑顔をふりまき人々を魅了しますが、公務のスケジュールにしばられた生活の中で、息がつまりそうな思いを抱えていました。そんな毎日から飛び出したい願望を押し殺していますが、とうとう王女の願望が放たれます。

宮殿を飛び出し、一夜の宿を借りたジョーの家を出たアン王女が一番にしたのは、美容院で髪を切ること

何か気分を変えたい時には髪を切る、あるいは休日に美容院に行くという女性の心理が表現された場面です。あくまで自由を満喫しようとするアン王女の行動力に拍手をしたくなります。

最終的にアン王女は宮殿に帰りました。窮屈な宮廷での生活が待っているのですが、それも自分の任務と思う決意に満ちた態度で、記者会見場に現れたジョーに挨拶をします。

ありきたりな短い挨拶の言葉の中に万感の思いをこめて見つめ合う2人。2人の表情と視線だけで、お互いへの想いや信頼感が、痛いほど伝わってきます。

今にも涙が零れ落ちそうなジョーに比べ、王女は目を潤ませながらも毅然とした笑顔を見せて会見場を去りました

ほのかな恋心を心の奥に押し込め職務に戻る毅然としたアン王女は、キャリアウーマンの走りとも言えます。

魅力的なオリジナル吹き替えキャスト陣


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オードリー・ヘプバーンが演じたアン王女は、「パジャマを着て寝てみたい」と側近にわがままを言ったりするちょっと甘ったれた王女様でしたが、大冒険の後には職務に準ずる覚悟がつき、堂々としたキャリアウーマンぶりを見せます。

一日だけの恋を満喫するラブストーリーとして愛されている『ローマの休日』。

オリジナル新吹き替え版のキャストとして、アン王女を担当したのは、鬼滅の刃』の胡蝶しのぶ役や『聲の形』(2016)の西宮硝子役を務めた早見沙織

ジョー・ブラッドレーは、『君に届け』(2009)の風早翔太役や『ルパン三世』(1977)の石川五ェ門役をはじめ、劇場版ヴァイオレットガーデン』(2020)などでお馴染みの浪川大輔。また、カメラマンのアービング役は『ドラえもん』(2005)のスネ夫役の関智一が務めました。

人気声優の集結であらたに生まれかわったような『ローマの休日』でしたが、注目はやはり、アン王女!

ジョーの部屋で初めて彼と会った時の狼狽えぶり、なんとか取りすまそうとする言い訳する可愛い一面に反し、「真実の口」ではジョーの悪ふざけに驚かされ、恐怖の叫び声を上げます。喜怒哀楽のはっきりしたうぶな王女の一挙一動に、早見沙織の包み込むような優しさを持った声が添えられました。

そして極めつけは、王女が宮殿に帰り、従者たちに「王女宣言」をする場面です。アン王女は威厳を持って、「王女という職務を理解していなければ今夜ここには戻らなかった、あるいは二度と」と言いました。今までとは違うアン王女の態度に従者たちは絶句。

何があっても動じない、毅然としたオードリー・ヘップバーンの演技に加え、早見沙織の持ち味の意志の強さが伝わる声が流れます。このあたり、早見沙織が担当した『鬼滅の刃』の鬼滅隊の柱の一人‟胡蝶しのぶ”とダブります。

優しさの中に物凄い強さを秘めた‟胡蝶しのぶ”を担当する早見沙織は、アン王女の魅力をさらに引き出したと言えるでしょう。

まとめ


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本作でアン王女を演じ、はつらつとした美貌をふりまき、人々を魅了したオードリー・ヘプバーン。白シャツにフレアスカート、太ベルトにスカーフといったオードリーのファッションもまた皆に愛され、今でも色あせることのない永遠の定番アイテムになりました。

公務を果たしながらも、自由に行動したかったアン王女。髪を切り、街を歩き、ジェラートを食べ、遺跡を観光。そしてミニバイクに乗って大はしゃぎ。短いバカンスを楽しんだ後は、ひとときの恋とお別れし、涙をかくして王女に戻りました。

オードリー・ヘプバーンの代表作と言われ、女性が憧れるようなラブストーリーを描いた名作が、現代の人気声優によって、オリジナル新吹き替え版でロードショーされました。

新しい声のアン王女も‟美しく強い女性”のイメージで、現在も変わらぬ女性の成長を描いた『ローマの休日』は、見どころいっぱい! 何度でも愛らしい王女に会いたくなることでしょう。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。





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