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Entry 2023/10/28
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映画『ゴンドラ』あらすじ感想と評価解説。セリフなしの狭小ロープウェイで繰り広げられる寓話的魅力とは⁈|TIFF東京国際映画祭2023-7

  • Writer :
  • 松平光冬

映画『ゴンドラ』は第36回東京国際映画祭・コンペティション部門で上映!

『ツバル TUVALU』(1999)、『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)などで、セリフを一切使わない作風で知られるファイト・ヘルマー監督の最新作『ゴンドラ』が、第36回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されました。

左からケイティ・カパナゼ、ファイト・ヘルマー、ニニ・ソセリア/撮影:松平光冬

去る10月25日の2回目の公式上映後、ヘルマー監督、主演女優のニニ・ソセリア、そしてアシスタント・ディレクターのケイティ・カパナゼが参加して行われたQ&Aの模様を、作品レビューと併せてレポートします。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら

映画『ゴンドラ』の作品情報

【日本上映】
2023年(ドイツ・ジョージア合作映画)

【原題】
Gondola

【製作・監督・脚本】
ファイト・ヘルマー

【共同製作】
ツィアコ・アベサッゼ、ノシュレ・チハイッゼ

【アシスタントディレクター】
ケイティ・カパナゼ

【編集】
イオーダニス・カライサリディス、モーリッツ・ガイザー、ニコロス・グルア

【キャスト】
マチルデ・イルマン、ニニ・ソセリア

【作品概要】
ジョージアの美しい山の中を運行するロープウェイで働く女性2人の関係を、ファンタジックな映像で描くコメディ。

セリフに頼らない独特のスタイルを貫くファイト・ヘルマー監督が、『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)に次いでジョージアを舞台に撮影を敢行しました。

映画『ゴンドラ』のあらすじ

ジョージアの山岳地帯にある小さな村に帰省してきた女性イヴァ。彼女は山中を運行するゴンドラ(ロープウェイ)のアテンダントに採用されます。

同僚のアテンダントは同じ女性のニノ1人だけで、イヴァは上空ですれ違うごとに彼女と親交を深めていきます。

やがて2人は、手を変え品を変えて互いを喜ばそうとしていき……。

映画『ゴンドラ』の感想と評価

2018年の第31回東京国際映画祭コンペティション部門で上映されたファイト・ヘルマー監督作『ブラ物語』。全編セリフ無しのこのコメディは、後年『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』(2018)と改題し劇場公開されました。

そのヘルマー監督の新作『ゴンドラ』では、ジョージアの長閑な山間を走る2台のゴンドラがメイン舞台となります。

アテンダントを含めて2名が乗れば満員状態となる、古びた狭小のゴンドラはインパクト絶大。

ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)での、アゼルバイジャンの狭い住宅街を貨物列車が通り抜けていくというシチュエーションといい、監督のロケ地選びのセンスには脱帽するしかありません。

セリフがないため、登場人物の因果関係などを把握するのは難しいのでは…と思われがちですが、観続けていくうち、何となくながらも理解できるよう作劇されています。そもそも監督も語るように、本作の主人公はゴンドラ!

最初はゴンドラの乗降口にチェスを置き、交互にプレイしていたアテンダントのイヴァとニノ。

やがて互いを喜ばせようと行動がエスカレートし、まるで着せ替え人形のようにゴンドラを飛行機や船、バス、ロケットに「衣替え」させていく――現実的にはあり得ないツッコミどころ満載なのですが、『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)同様、寓話要素を含んだストーリーとして楽しめる作品に仕上がっています。

映画『ゴンドラ』Q&Aイベントレポート

Q&Aイベントの様子/撮影:松平光冬

10月25日に2回目の公式上映となった『ゴンドラ』。「(23日の)1回目と併せて、この作品を観て頂いた皆さんからとてもポジティブなリアクションを受けました。東京国際映画祭のワールド・プレミアとして上映されてうれしい」という、ファイト・ヘルマー監督の感謝を込めたスピーチでイベントがスタート。

ニノ役のニニ・ソセリア、アシスタント・ディレクターのケイティ・カパナゼは、そろって今回が初来日。

劇中では一言もセリフを喋らなかったニニは「ここ東京で、初めて作品を観ることができてうれしいです」と穏やかな声を披露すれば、ケイティも「観客の皆さんも素晴らしいし、食べ物もおいしい」と東京の好印象を語りました。

セリフのない作品を撮る理由として、「シネマのエッセンスはイメージと映像、音響にあると思っています。会話があると字幕や吹替が必要となり、途端に壁ができてしまう。そうした要素を排除して、イメージに焦点を合わせたかった」と答えた監督。この考えは、サイレント映画にこだわり続けたチャールズ・チャップリンと重なります。

「実はロケ地にゴンドラは1台しかなく、別の街で運航する2台のゴンドラを駆使して撮影しました」(ヘルマー)、「本当は高所恐怖症だったのよ」(ニニ)といった撮影時の苦労をそれぞれ明かした一方で、身振り手振りを交えてスピーチする監督を横から笑顔でスマホ撮影するケイティ。

ヘルマー監督を撮影するケイティ/撮影:松平光冬

そのケイティは、ロケ地のジョージアではLGBTQ+への理解が乏しく、今後現地で公開される際にどう受け取られるか気になるとも。

「愛は愛であり、寛容性をもって受け入れられるべきですし、そのために戦います」と語ったところで、場内で拍手が鳴り響いたのが印象的でした。

まとめ

撮影:松平光冬

前作『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)はジャック・タチ作品を思わせましたが、かたや『ゴンドラ』からはテレビ番組「モンティ・パイソン」のテイストを感じました。

現在は「会話がたくさんある子ども向けの実写映画を製作中」と語るヘルマー監督の動向に注目ですが、観る側としては、『ゴンドラ』が再び陽の目を見る機会があるかどうかが気になるところ。

もっとも、前作『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)が東京国際映画祭での盛況を受けて一般公開が実現したことを鑑みても、『ゴンドラ』にもその可能性は十分あります。

惜しくも今回観られなかった方も、今後に期待しておいて損はないでしょう。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら





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