Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/10/11
Update

『99%、いつも曇り』あらすじ感想と評価解説。瑚海みどり監督主演作が描く“発達障害の妻”と夫の“生”を巡る物語|TIFF東京国際映画祭2023-4

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『99%、いつも曇り』が東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門に正式出品!

アスペルガー傾向(発達障害グレーゾーン)にある女性の生きざまを描く映画『99%、いつも曇り』が東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門に正式出品されます。

瑚海みどりが初の長編監督を務め、自身も感じている発達障害の人が生きる難しさと、他者と共に生きることのメッセージを届けようとする本作は、瑚海自らが主演を務めるほか、二階堂智、永楠あゆ美が出演しました。

同映画祭では角川シネマ有楽町にて10月26日(木)10:20、及び丸の内ピカデリー2にて10月31日(火)21:05より上映され、12月15日(金)からはアップリンク吉祥寺にて劇場公開を迎える『99%、いつも曇り』

発達障害を持つ人の生きづらさとともに、周囲の人たちとの温かなつながりを丁寧に描いた一作です。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら

映画『99%、いつも曇り』の作品情報


(C)35 Films Parks

【上映】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
瑚海みどり

【出演】
瑚海みどり、二階堂智、永楠あゆ美、Ami Ide、KOTA、曽我部洋士、亀田祥子

【作品概要】
短編映画『橋の下で』で数々の映画賞を受賞した瑚海みどりによる初長編監督作品。自身と同じアスペルガーのヒロインが、子どもを持つことをめぐって社会との関わり方を模索する姿を描きます。

瑚海監督自身が主人公・一葉を、その夫・大地役を二階堂智が演じます。濃密なふたり芝居から目が離せません。

映画『99%、いつも曇り』のあらすじ


(C)35 Films Parks

母親の一周忌で会った叔父から「子どもはもう作らないのか」と声をかけられ、心大きく揺れる楠木一葉。生理も来なくなったので子どもは作れないと、彼女は興奮して言い放ちます。

一葉は夫の大地が子どもを欲しがっていることを知っていましたが、流産した経験もあることから子作りに前向きになれずにいました。自分がアスペルガー傾向にあることにも悩んでいます。

里親になることを居酒屋のママから薦められ、一葉はすぐに乗り気になります。しかし、子どものことをきっかけに、一葉と大地の気持ちは次第にズレていき……。

映画『99%、いつも曇り』の感想と評価


(C)35 Films Parks

自身もアスペルガー傾向がある瑚海みどり監督が、同じ症状を持つヒロイン・一葉を主人公に描いたヒューマンドラマです。

初っ端からせかせかとせわしなくマイペースで話し、動き回る一葉周囲からの視線やかけられる言葉から、彼女の“生きづらさ”がヒリヒリと伝わってきます

「普通」という言葉に敏感で、自分が「普通」ではないことに傷つく妻に、夫の大地は寄り添ってきました。肉親を亡くし、家族は一葉ひとりきりである大地は、難しい性格の妻を大切にしています。

一葉は相手の言葉の裏を読み取ることができず、はっきり言ってもらわないと理解できません。そのために人と衝突を繰り返してきました。また、ひとつのことに気持ちがいくと、それまでしていたことをすっかり忘れてしまうので、蛇口の水は出しっぱなし、掃除機のスイッチは入れっぱなしになります。

いつも物事に一心に付き進む一葉の後には、さまざまなものがなぎ倒されたままになっていきます。さながら台風が通り過ぎた後かのようです。

子どもを欲しがっている夫の気持ちを思った一葉は、自分で生めないなら里親になろうと直情的に考えてしまいます。当然、大地はその嵐のような思考についていくことはできません。

大地は妻とのジェットコースターのような日々を心から愛していましたが、子どもを持つことをめぐってふたりの心はすれ違っていきます。

自分がアスペルガーであるが故に苦しむ一葉の姿には、同じく発達障害を持つ珊瑚海監督自身の気持ちが投影されており、胸が締め付けられます。

一方で、一葉はたまらなくチャーミングに描かれています。さっぱりとした明るい気性に、厚い人情。いつも一生懸命な彼女からは、生きるエネルギーと喜びが絶え間なく発せられており、大地が彼女を愛さずにはいられない気持ちがよく伝わってきます

夫婦がどのような結論にたどり着くのか、どうぞ最後まで見届けて下さい。

まとめ


(C)35 Films Parks

発達障害を持つ主人公・一葉と、そんな妻を見守る夫・大地の夫婦の姿を描いた『99%、いつも曇り』。

普通の人とは違う予想外の行動をとってしまう一葉の生きづらさと共に、彼女とつながる人々の温かさを丁寧に映し出します

「みんな違っていいのだ」という強いメッセージを感じる一作です。

映画『99%、いつも曇り』は第36回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門にて上映後、2023年12月15日(金)よりアップリンク吉祥寺にて劇場公開!

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら





関連記事

連載コラム

『生まれてよかった』あらすじ感想評価と内容解説。韓国映画が大阪アジアン映画祭にて受賞“来るべき才能賞”の快挙!|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録5

第16回大阪アジアン映画祭「来るべき才能賞」受賞作 『生まれてよかった』 2021年3月14日(日)、第16回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。グランプリと観客賞をダブル受賞した …

連載コラム

シネマルシェの連載コラムとライターのご紹介【編集なかじきり】

本日は「編集なかじきり」として、連載コラムについてお話をさせていただきます。 Cinemarcheの新たなアウトプットして、連載コラムをスタートさせたのは6月12日。早いもので、この企画もそろそろ1ヶ …

連載コラム

映画『ムイト・プラゼール』あらすじ感想と評価解説。在留外国人の立場を言葉や表情で描き“未来へ”と綴る|銀幕の月光遊戯 78

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第78回 ブラジル人学校を訪問することになった国際交流部の部員たち。しかし、彼らを迎えたブラジル人学校の生徒たちの反応は思いもよらないものでした。 在留外国人と日本人の間に …

連載コラム

韓国映画『アワ・ボディ』あらすじと感想レビュー。キャストのチェ・ヒソが全身で表現するヒロインの共感力|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録4

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第4回 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で14回目となります。 2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間に渡ってアジア全域 …

連載コラム

映画監督ジョン・キャメロン・ミッチェルのインタビュー【パーティーで女の子に話しかけるには】FILMINK-vol.14

FILMINK-vol.14 John Cameron Mitchell: Vive Le Punk オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学