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Entry 2020/05/30
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映画『いつくしみふかき』感想とレビュー評価。実話を基に渡辺いっけいと遠山雄が引きこもりの青年と父親の関係を演じた人間ドラマ|銀幕の月光遊戯62

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第59回

映画『いつくしみふかき』は2020年2月にロケ地となった長野県、主演の渡辺いっけいの出身地である愛知県で先行公開され、多くのリピーターを生み出しました。2020年6月19日(金)よりテアトル新宿、7月24日(金)よりテアトル梅田ほかにて全国順次ロードショーが予定されています。

『いつくしみふかき』は、劇団チキンハートを主宰する遠山雄の知人とその父親をめぐる実話をもとに生まれた異色のヒューマンドラマです。

モデルとなった知人にあたる引きこもりの青年を遠山雄自身が演じ、その父親を渡辺いっけいが演じています。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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映画『いつくしみふかき』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
大山晃一郎

【キャスト】
渡辺いっけい、遠山雄、平栗あつみ、榎本桜、小林英樹、こいけけいこ、のーでぃ、黒田勇樹、三浦浩一、眞島秀和、塚本高史、金田明夫

【作品概要】
劇団チキンハートを主宰する遠山雄の知人とその父親をめぐる実話をもとに生み出された作品。実際に知人が住んでいた長野県飯田市を舞台に物語が展開する。

中田秀夫、若松節郎等の助監督として数多くの映画に携わってきた大山晃一郎の長編映画監督デビュー作。

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」で、観客賞である「ゆうばりファンタ部門作品賞」を受賞し、カナダの「ファンタジア国際映画祭2019」ではファーストフューチャーコンペティションに入選を果たすなど、国内外の映画祭で高い評価を得た。

映画『いつくしみふかき』のあらすじ

広志は妻の加代子が出産中に、あろうことか妻の実家に盗みに入り、タンスなどを物色しているところを加代子の弟・義孝に発見されます。

「最初から騙すつもりだったんだろ?」と怒りに震える義孝に対して、広志は、台所にあった包丁を手に取り、義孝の右足を刺しました。

決起した村の人々は山に逃げ込んだ広志を探し出し、取り押さえます。義孝は、広志の顔に銃口を突きつけ、今にも引き金を弾く勢いです。そこに現れたのは町の教会の牧師・源一郎でした。彼は義孝に「誰に対してもいつくしみの心を持つように」と言い聞かせ銃を下げさせます。

30年後、加代子が産んだ進一は、なんとか職につかせようとする母親の奮闘も虚しく、引きこもり生活を続けていました。

進 一は、幼いころ、祭りに出かけて拾ったりんご飴を母にプレゼントしようと持ち帰ったところ、「お金もないのに誰にもらったの? 取ったんだね? この悪い血が!」と母にひどく叱られたことを今でも鮮明に覚えていました。

進一は自分には父などいないと考えるようにしていましたが、叔父の義孝は家にやって来るたびに「お前の顔を見ると古傷が痛む」と言って暗に義孝親子を非難するので、いやがおうにも父のことを意識させられるのでした。

ある日、義孝は進一を呼び出し、広志が家にやって来た時の話をして聞かせました。「広志が自殺しかけていたところを村の人が間一髪で助け、加代子の善意で、家に住まわせてもらったところ、広志は加代子を誘惑し、まんまと家に潜り込むことに成功した。それは偶然ではなく最初から企んでいたことだったのだ、お前の父親は“悪魔”だ」と。

その頃、村で空き巣事件が多発し、村人たちは「悪魔の子である進一の犯行にちがいない」と噂します。彼らは加代子も同席させた上で「警察に突き出す前に出ていけ」と言い放つのでした。進一はしぶしぶ家を出ていくことになります。

彼が身を寄せたのは牧師の家でした。そのころ、仲間と一緒に詐欺行為を行っていた広志は、追われる身となって偶然教会にやってきます。広志と進一は互いのことを何もしらないまま教会で同居することになりますが・・・。

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映画『いつくしみふかき』の感想と評価

実話をベースに渡辺いっけい、遠山雄W主演で映画化。

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」で、観客から圧倒的な支持を受け、観客賞である「ゆうばりファンタ部門作品賞」を受賞するなど、国内外の映画祭で高い評価を得てきた作品というだけあって、非常に見応えがあるものに仕上がっています。気の早い話ですが、2020年の映画ベスト10の類に確実に名前を連ねてくるに違いありません。

「劇団チキンハート」主宰の遠山雄の親しい知人とその父親の実話が映画のベースになっています。

遠山雄は、ひきこもりだった知人の父親の葬儀に出席した際、友人が父親をかばいながらも出席者に謝罪をする姿に衝撃を受けたといいます。それがきっかけとなり、実際に知人が住んでいた長野県飯田市を舞台に、「悪魔」と呼ばれる父親、広志と、その息子・進一の物語が生まれることとなりました。

父親・広志役は、意外にも本作が映画初主演となる渡辺いっけいが務めました。広志は弁護のしようもない根っからの犯罪者なのですが、どことなく憎めない軽やかさもあわせ持っていて、渡辺いっけいという俳優の持ち味が十分に生かされています。

一方、進一は、自分で何一つ満足にできない30歳のニートです。遠山雄がまるで水を得た魚のように演じており、映画の最初と最後ではまったく違った表情を見せてくれます。

驚くべき自警団の姿

映画の序盤、義弟の右足を刺して山に逃げ込んだ広志を村の自警団が探し求めるシーンがあります。

自警団が逃げた犯人を追い詰めるまではものものしいながらも理解できる光景なのですが、そのあとの、義孝が広志の顔に銃口を突きつけ、今にも引き金を弾こうとしている光景を同じ格好をした顔がよく見えない人々が囲んで見守っているというショットは、非常にショッキングで、法治国家のそれとは思えない異様な光景です。

牧師が中にわって入って大事には至りませんでしたが、これらはコミュニティーによる一つのリンチであることに間違いはありません。

地方都市の閉鎖的空間における異分子に対する排他性の問題としてこの光景を分析することも可能でしょうが、その光景に込められた大きな憎しみは、広志の命を助け、住まいまで与えたという村の人々の良心が踏みにじられたことに対する悲しみと怒りの現れなのでしょう。

善意を悪意で返されたこと、善意の人々を裏切ったことが人々に大きな憎しみを生み出したのです。

ですから、広志の息子である進一に対する人々の眼差しもまた、“犯罪者の子ども”というよりも“裏切りものの子ども”として向けられているのです。

生まれながらにしてその重荷を背負わされてしまった青年がいかに生きるかということがテーマとなっていますが、遠山雄扮する進一はナイーブでありながらもどこかふてぶてしく、悲劇性とともにそこはかとない喜劇性を身にまとっていて、物語も一筋縄ではいきません。そこがこの作品の大きな魅力となっています。

「悪魔」と呼ばれる父とその息子の間にあるもの

“裏切りものの子ども”と烙印を押された進一は母親には愛され(過ぎ)て育ちましたが、そんな母親も、進一には父親の「悪い血」が流れていると確信しています。

それは幼い子どもにとって非常に残酷なことですし、進一が背負っているものの重さがひしひしと伝わってきますが、映画は、シリアス一辺倒には進まず、ドタバタ的なコメディ要素も詰め込みながら、展開していきます。

金田明夫扮する牧師は、神の教えを進一や広志に語りかけますが、その高貴な言葉はなかなか彼らには届きません。それどころか、教会を舞台にとんでもない悲喜劇が展開する始末です。

金田明夫が、敬虔で誠実にも、生臭坊主的にも見える聖職者を絶妙な按配で演じており、広志を演じる渡辺いっけいと演技の火花を飛ばしあいます。彼らはそれを楽しんでいるようにも見えます。

そんな中、『いつくしみふかき』は、「裏切り」とは相反する概念である「信頼」へと踏み込んでいきます。

ある意味もっとも「信頼」とは程遠い、「悪の血」が取り沙汰されるような世界で、物語が「悪の血」をさらに掘り下げるのではなく、「信頼」という方向に舵をとることを選んだことが、本作を並の「犯罪もの」や「家族もの」とは一線を画す特別なものにしています。映画を観終えた時、どこか清々しささえ感じるのはそれ故でしょう。

まとめ

広志は、犯罪者仲間ともある意味、家族のような関係を築いています。こちらの犯罪仲間の面々も、次第に行動がエスカレートしていく榎本桜や、のーでぃなど個性的な俳優が顔を揃えています。

また、母親役の平栗あつみや、出番は少ないながらも塚本高史、こいけけいこ等が確かな存在感を発揮しています。

監督の大山晃一郎は『リング』の中田秀夫監督や『沈まぬ太陽』の若松節郎監督の下、助監督として数多くの映画の製作現場で活躍してきました。2011年に初監督した短編映画「ほるもん」は2011年度ショートショートフィルムフェスティバルのNEOJAPAN部門に選出され、同団体が運営する「日本人若手監督育成プログラム」にも選ばれました。

本作で長編監督デビューを果たし、いきなりスケールの大きい堂々たる作品を生み出しました。また一人今後の活躍が楽しみな映画監督が誕生したことに歓びを隠せません。

映画『いつくしみふかき』は、2020年6月19日(金)よりテアトル新宿にて、その後もテアトル梅田ほか全国順次ロードショーが予定されています。

次回の銀幕の月光遊戯は…


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2020年7月24日(金)より新宿武蔵野館、シネリーブル梅田他にて全国順次ロードショーされる香港映画『追龍』を予定しています。

お楽しみに。

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