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映画『バリーリンドン』ネタバレあらすじと感想。戦列歩兵が得る金と愛を描くキューブリックの隠れた名作|電影19XX年への旅4

  • Writer :
  • 中西翼

連載コラム「電影19XX年への旅」第4回

歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。

第4回は、『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリック監督が、上流貴族を志した農家の生まれの男の半生を描いた映画『バリー・リンドン』。

18世紀のアイルランドを舞台に、金を求める男と愛に飢えた女が織りなす歴史映画。

アカデミー賞作品賞含めた7部門にノミネートされ、撮影、衣装デザイン、美術監督、編曲の4部門を受賞しています。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら

映画『バリー・リンドン』の作品情報


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

【公開】
1976年(イギリス・アメリカ合作映画)

【原題】
The Luck of Barry Lyndon

【監督・脚本・制作】
スタンリー・キューブリック

【キャスト】
ライアン・オニール、マリサ・ベレンスン、ゲイ・ハミルトン、レオナルド・ロッシーター、アーサー・オサリヴァン、ゴッドフリー・クイグリー、ハーディ・クリューガー、パトリック・マギー、レオン・ヴィタリ、デイビット・モーリー、マイケル・ホーダーン

【作品概要】
監督を務めるのは『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)のスタンリー・キューブリック。野心に燃える農家の生まれのバリーの半生を描いた歴史映画です。

『ある愛の詩』(1970)や『ペーパー・ムーン』(1973)のライアン・オニールが主演のバリー・リンドンを、そして彼の恋するレディー・リンドンを『ベニスに死す』(1971)のマリサ・ベレンスンが演じています。

映画『バリー・リンドン』のあらすじとネタバレ


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

アイルランドに生まれたレドモンド・バリーは、従姉妹のノーラに恋い焦がれていました。

ノーラは、身体に隠したリボンを見つければ差し出すと言います。勇気の出ないバリーの手をノーラが取り、胸に手を当てさせます。リボンを見つけると二人は口づけを交わします。

英国兵士の行進。その勇ましさは、バリーに憧れを抱かせました。しかし、ノーラがクイン大意と踊り始めると、バリーは妬ましそうに二人を見つめます。

クイン大尉に比べると、バリーは何もないただの農民でした。クイン大尉がノーラに愛を語ると、ノーラもそれに応じます。二人は禁断のロマンスに包まれます。

バリーは、クインの目の前でリボンを返します。しかしノーラは、バリーとの仲を無かったことにし、クインと結婚します。

バリーは祝いの場で、クイン大尉にグラスを投げつけ、愛するノーラのため、決闘を申しこみます。

緊張で固まるクイン大尉。バリーはクイン大尉を打ち抜きます。しかしそのせいで、警察から逃げなければならない生活が始まりました。

こうして、バリーは故郷のアイルランドを去ることに。大金を持って出る旅に心躍らせますが、旅路で追い剥ぎに遭います。

母が懸命に働いて集めた大金でしたが、馬と共に全て盗まれてしまいました。仕方なく歩いて町に辿り着いたバリーは、兵の募集の現場に居合わせ、志願します。

訓練の休息中、バリーは喧嘩を始めました。軽い身のこなしで相手を翻弄し、見事勝利します。

決闘の場に居合わせたグローガン大尉は、バリーと再会します。そこで、決闘で死んだと思われたクイン大尉が実は生きていたことを知らされます。決闘に使われていたのは、麻弾でした。

バリーの初陣は、フランス軍との小さな戦闘でした。グローガン大意は最後に、バリーにキスを請い、命を落とします。

バリーは戦争の真の姿を目の当たりにし、脱出を図るようになりました。そんな中、偶然にも愛し合う二人の男が別れを惜しんでいる場に遭遇します。それも衣服を脱ぎ、湖で手を握り合っているところでした。

バリーは服と馬を盗み、偽装して兵士としての人生から逃亡します。その途中、戦争で中々帰らない夫を持った寂しくも美しい婦人、リシェンと出会います。

数日の間、リシェンの家に泊まり愛し合った後バリーは去り、ブレーメンへと向かいました。

道中バリーは、オーストリアのプロシア軍のポツドルフ大尉に身分を聞かれます。

作り話で乗り切ろうとするバリーでしたが、嘘を見破られてしまいました。ポツドルフ大尉から、逮捕を見逃す代わりに、プロシア軍の兵士になるよう、指示をされました。

バリーは、イギリス軍よりも過酷なプロシア軍での訓練と戦争の日々を耐え抜きます。そして、戦争で生命の危機に瀕したポツドルフを救助したバリーは、その名誉を称えられ、警察の地位を与えられます。

そして、アイルランド人のシュバリエ・ド・バリバリというスパイの疑いのあるギャンブラーの調査を求められました。

バリーはしかし、同郷を持つシュバリエの優雅な生活に心奪われました。調査のために出向いたのですが、その任務を全て告白します。バリーとシュバリエは協力をしあうことにしました。

トランプゲームの場でバリーは、英語が分からぬ振りをして、シュバリエに相手の手札を知らせていました。報告ではそれを隠し、正当な勝負だったと語ります。

公爵を相手に大勝ちしたシュバリエは、いかさまを疑われて、決闘を申しこまれました。

ポツドルフ達は、シュバリエを国外追放を強行しようとします。朝の散策を狙うとシュバリエは、ポツドルフに国境まで連れられました。

しかしそれは、シュバリエに扮したバリーでした。情報を聞きつけたシュバリエは、夜の間に国外へ逃げていました。

シュバリエとバリーはヨーロッパを駆け巡り、イカサマギャンブルで金を稼ぎます。金を出し渋る貴族には、バリーが剣の実力を見せつけます。

バリーは次第に金と名誉のある女性を求めるようになりました。そして、理想通りの女性と出会います。

その名はレディー・リンドン。さらにバリーにとっては都合の良いことに、レディー・リンドンの夫は衰弱し、今にも亡くなってしまいそうでした。

賭け事の場で、バリーはレディー・リンドンを熱く見つめます。言葉を交わさぬやり取りに、レディー・リンドンは心を奪われていきます。

そしてついに、レディー・リンドンとの逢瀬が、夫であるチャールズにバレてしまいました。声を荒げて、バリーを脅すチャールズでしたが、その後、宮殿で急死を遂げます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『バリー・リンドン』ネタバレ・結末の記載がございます。『バリー・リンドン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

一年後、バリーはレディー・リンドンと結婚します。バリーはついに上流貴族の座を手にし、バリー・リンドンとして名乗ります。

バリーの財産目当ては、チャールズとの息子であるブリンドンには見抜かれていました。レディー・リンドンはそうとも気付かず、バリーとの間に、息子のブライアンを授かりました。

もとより愛のなかったバリーは、レディー・リンドンと息子たちとは別々に暮らすようになりました。

バリーが若い女と口づけしているところを、レディー・リンドンは目撃します。嫉妬と憎しみの混ざった瞳でバリーを睨みますが、ブリンドンに手を引かれ、その場を去ります。

以来、レディー・リンドンは、精神が蝕まれているような、虚ろな瞳を浮かべるようになりました。バリーが謝罪をすると、二人は唇を重ねます。悲しいほどに、レディー・リンドンはバリーの虜でした。

ある日ブリンドンがバリーへの挨拶のキスを拒否します。ブリンドンは、バリーからむち打ちに遭います。

数年後、ブリンドンが成長しても敵意は消えませんでした。バリーは実の息子であるブライアンだけを愛します。

バリーには、一つ不安なことがありました。あらゆる手続きに妻の署名が必要であるバリーは、このままレディー・リンドンが亡くなってしまうと、権利は全て、ブリンドンに移ってしまいます。

バリーは正式に貴族の座を手にするため、リンドン家の金を散財しています。

ブライアンとブリンドンは部屋で勉強をします。騒ぐブライアンに暴力を振るわんとしたとき、バリーがブリンドンを止めます。

罰として、ブリンドンを鞭打ちにします。ブリンドンは反抗的にバリーを睨むと、今度罰を与えたら殺すと言い放ちます。

ブリンドンは、リンドン家に寄生するバリーから離れることを決めます。多くの人の前でバリーを成り上がり者だと挑発すると、リンドンではなく、レドモンドの名で呼びます。

バリーは怒りに身を任せブリンドンを殴ります。ブリンドンは血流するほどボコボコにされました。

しかしそれは、バリーの悪名を高めることになりました。バリーはあらゆる人から避けられるようになり、負債にも追われます。

しかしバリーは、息子を愛する気持ちだけは純粋なものでした。誕生日プレゼントでポニーではなく馬が欲しいというわがままにも、応えてやろうとします。

ブライアンは、本当に馬を飼ってくれたのかと、心を躍らせます。誕生日まで楽しみにしてくれとバリー。

しかしブライアンは、いいつけを聞かずに、一人で馬のいる場所に向かいました。調教も終えていない馬に、またがったブライアンは落馬し、負傷しました。

あらゆる治療を施そうとするバリーでしたが、もはや絶命は免れませんでした。

両親に見守られながら、死んだら天国に行けるかと尋ねるブライアン。バリーは涙ながらに、死にはしないと言い聞かせます。

しかしブライアンは亡くなりました。バリーは悲しみに暮れ、酒に入り浸ります。レディー・リンドンは錯乱したと思えるほど祈りを捧げ、悲しみを忘れようとしました。

バリーの母が、リンドン家の経営を任されます。そんな中、レディー・リンドンが毒殺を図ります。少量だったため命は助かりましたが、重傷でした。

ブリンドンは、家を去りバリーの暴虐を見逃してきたことを悔やみます。再びバリーの前に現れると、決闘を申しこみます。

緊張で硬くなるブリンドン。コイントスで、先に発砲するのはブリンドンに決まります。しかし誤って弾が暴発します。

それが最初の射撃と認められると、バリーが発砲する番になります。生命の危機に、思わずゲロを吐いてしまうブリンドン。

バリーは地面に弾を撃ちます。見逃すことで恩を売ろうとするバリーにも構わず、ブリンドンは敗北を認めません。震える手でバリーの足を撃ちました。

瀕死の状態で病院に運ばれるバリー。銃弾を受けた足を切断しなければ命を失うと言われました。バリーは、レディー・リンドンと二度と会わないことを条件に、年金を渡すことを約束されます。

バリーは情けなくイングランドを去り、年金をもらって生活をする人生を選びました。

残されたレディー・リンドンは、バリーに年金を渡すサインをします。その表情は重く虚ろで、愛する人を失った得もいえぬ悲しみが現れていました。

これはジョージ3世の治世。その時に生き争った人々の物語。美しい者も醜い者も今は同じ、すべてあの世。こうして、物語は幕を閉じました。

映画『バリー・リンドン』の感想と評価


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

美しく緻密な美術や衣装だけでなく、ロウソクの灯で撮影をしてまで18世紀の完全な再現を試みたキューブリックの完璧主義が反映された映画『バリー・リンドン』。

18世紀の再現はそれ自体が目的なのではではなく、バリー・リンドンという人物をとことんリアルに描くために必要でした。

キューブリックは、人間の性質を浮き彫りにするため、バリー・リンドンという男にスポットを当てました。

バリー・リンドンは、何を大事にし何を切り捨てたのか。それはつまり、人間という生き物は、何を選び何を切り捨てるのか、ということです。

愛を捨て、金を追い求めたバリーでしたが、結果的には年金500ドルを得て生活をしています。ギャンブルに身を投じていたとしても、それはリンドンの名を名乗っていた頃から変わりません。

バリーはむしろ金のためだけに生き、リンドンと会わないことを条件にそれを手にすることができたのですから、虚しくも幸せだったのではないでしょうか。

一方愛を求めたレディー・リンドンやその息子ブリンドンは、最後まで一方通行のまま。

ラストの場面、レディー・リンドンの表情は、愛するバリーを失った、とても一言では言い表すことのできない悲しみに暮れていました。ブリンドンもまた、母の愛を授かることはできませんでした。

テーマにすると、愛と金はどちらが幸福か追い求めたくなるものですが、キューブリックの恐ろしいさは、そのどちらも同列に不幸だとも幸福だとも定義しないこと。

ただ渇望する人間の営みを、ひたすら淡々と描いています。

神の視点が宿っていると称されるキューブリックの映画作品ですが、ことさら『バリー・リンドン』では、それが徹底されていたのです。

まとめ


(c) Warner Bros. Entertainment Inc.

ブリンドンを演じたレオン・ヴィタリは、キューブリックの鬼才ぶりに魅せられ、その後もキューブリックと共に仕事をするようになりました。

それほど、キューブリックは非凡なものを感じさせる監督だったといえます。

3時間を超えることや興行収入では成功しなかったことから、美術館の中にいるようだと批評された本作品。

どの場面を切り取っても、一枚の絵として完成するような美しさが評価され、アカデミー賞の撮影賞や歌曲賞などを受賞しました。

しかし『バリー・リンドン』の魅力は、撮影技術や芸術的観点だけでなく、キューブリックらしい皮肉全開の物語にもあります。

この世は金ではなく愛だという幻想を謳う映画とは違い、金を持つ側ばかりが勝利していき苦汁をなめさせられたバリーは、金と愛、ひいては人間の持つ空しさを浮き彫りにしているのです。

次回の『電影19XX年への旅』は…


(C)1980 BROOKSFILMS

2020年7月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開される、デイヴィッド・リンチ監督自らも監修し蘇った映画『エレファント・マン 4K修復版』をお送りします。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら



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